今日は前回に引き続き三菱一号館美術館の「印象派からその先へ-世界に誇る吉野石膏コレクション展」についてです。前編は1章の印象派の前後についてご紹介しましたが、今日はそれ以降のフォーヴやエコール・ド・パリの時代の章についてです。まずは概要のおさらいです。
→ 前編は
こちら
【展覧名】
印象派からその先へ-世界に誇る吉野石膏コレクション展
【公式サイト】
https://mimt.jp/ygc/【会場】三菱一号館美術館
【最寄】東京駅/有楽町駅
【会期】2019年10月30日(水)~2020年1月20日(月)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
2時間30分程度
【混み具合・混雑状況】
混雑_1_2_③_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_④_5_充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3_④_5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3_④_5_満足
【感想】
後半も引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
<2章 フォーヴから抽象へ ~モダン・アートの諸相~>2章は色彩が野獣のようだと言われたフォーヴィスム、幾何学的で多面的な作風のキュビスム、平坦な色面などを用いる総合主義、既存の美術に囚われない素朴派など印象派以降の作品が並んでいました。こちらも有名な画家の作品ばかりとなっています。
41
アンリ・マティス 「緑と白のストライプのブラウスを着た読書する若い女」 ★こちらで観られますこちらは緑と白のストライプの服の女性が額に手を当てて肘をついて読書をしている様子が描かれた作品です。全体的に色鮮やかで、全体的に単純化され背景に装飾的なカーテンが見えています。解説によるとこれはマティスのニース時代の作品のようで、フォーヴィスムを始めた頃に比べて色がぶつかりあうような強さではなく、調和の取れた色彩になっているように思えました。この頃のマティスの作品は本当に素晴らしい。
マティスは他にも「静物、花とコーヒーカップ」という静物(これもニース時代)などもありました。他にフォーヴィスムと交流があったけど穏やかな作風のマルケなども並んでいます。
49
アンリ・ルソー 「工場のある町」 ★こちらで観られますこちらは煙突のある工場と、その周りの風景を描いた作品です。何故か煙突は手前の木に隠れ気味となっていて、手前は畑が広がり所々に人影らしきものが描かれています。人々はやけに小さくて、家や道ともサイズが合っていないのがルソーらしい素朴さですw 穏やかな光景だけどどこか超現実的な雰囲気を感じる作品でした。
この近くにはボナールの「靴下をはく若い女」もありました。後の妻のマルトを描いた作品です。
51
ジョアン・ミロ 「シウラナ村」こちらは抽象画で有名なミロが初個展を開いた時の風景画で、当時はフォーヴやセザンヌ的な作風となっていたようです。病気療養したカタルーニャの風景で、家々・丘陵・木々などをちょっとぐにゃぐにゃした感じで強い色彩で描いています。ミロのこうした作風の時代は中々見る機会がないので、これは目新しく感じられました。
39
ジョルジュ・ルオー 「ジョルジュ・ルオー」こちらは帽子にバラの髪飾りを付け、真珠のネックレスを身につけた目の大きな女性を描いた作品です。太い輪郭で描かれ、パッチリした目が印象的な美人で、唇とバラの赤が目を引きました。宗教的な画題が多い画家だけに少し珍しいようにも思えました。
ルオーはこれを入れて3点ほどありました。その先にはピカソやブラックのキュビスム作品もありました。
55
ワシリー・カンディンスキー 「結びつける緑」 ★こちらで観られますこちらは円・楕円・三角・四角・線などの幾何学的なモチーフを組み合わせた抽象画です。組み合った部分の色が重なって見えたり、違う色になっていたりと色彩もリズムとバランスが取れていて、どこか宇宙的なものを感じます。解説によると、これはカンディンスキーがバウハウスで教鞭を摂っていた頃の作品とのことでした。カンディンスキーは音楽が好きだったので、絵にも音楽のような軽やかさが感じられると思います。
46
モーリス・ド・ヴラマンク 「大きな花瓶の花」こちらは花瓶に入った花を描いた縦長の作品です。平坦で大きな筆跡がそのまま残っていて、原色で暗い色と明るい色を使い分けて力強く強烈な色彩となっています。花が迫りくるような雰囲気すらあるかな。まさにフォーヴといった感じの色彩感覚でした。
この辺はヴラマンクの作品があり、「村はずれの橋」という作品ではセザンヌからかなり影響を受けたのがよく分かりました。こうした画風の変遷過程が分かる作品も貴重ですね。
今回は三菱一号館美術館の所蔵品であるルドンの「グラン・ブーケ」も展示されていました。
<3章 エコール・ド・パリ~前衛と伝統のはざまで~>最後の3章はエコール・ド・パリと呼ばれる主に外国からパリに集まった画家たちの作品が並んでいました。エコール・ド・パリは画風が統一された画派ではなく、それぞれが個性的な作風となっています。吉野石膏のコレクションはその中でも特にシャガールが充実しているようでした。
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モーリス・ユトリロ 「モンマルトルのミュレ通り」 ★こちらで観られますこちらはユトリロの中でも特に評価の高い「白の時代」に描かれた作品で、建物の上のほうから通りを見渡すように描いた風景画となっています。長い階段があり、画面上部には白いサクレクール寺院が堂々たる姿で描かれ、当時のモンマルトルの日常風景が目の前に広がるような感じです。どんよりした空がやや寂しく、道の質感などにユトリロの個性が感じられました。解説によると、この通りは今ではユトリロ通りと呼ばれてるようです。
この辺はユトリロの作品が並んでいました。色彩の時代の作品もありました。
59
マリー・ローランサン 「五人の奏者」こちらは5人の女性の群像で、神話の中の人物のような格好でいずれも白く透き通るような肌をしています。淡く優美な色調で、手を挙げたりして動きのあるポーズをしています。ややメルヘンチックな画風で、ローランサンの特徴がよく現れているように思えました。
62
モイーズ・キスリング 「背中を向けた裸婦」こちらは裸婦の背中を描いた肖像で、背景はオレンジ色となっています。頭を布で巻いてこちらをチラッと振り返っていて、妖艶な雰囲気に思えるかな。非常に滑らかな肌で背景の色と相まって、温もりまで伝わってくるような描写となっていました。
この近くにはドンゲンの作品もありました。
63
マルク・シャガール 「パイプを持つ男」こちらはシャガールがパリに出てきた頃の作品で、パイプ(というよりはピストルのように見えるw)を持って首を傾げているような男性像となっています。目の周りが黒かったり割と沈んだ色調で、キュビスム的な印象を受ける画風です。ややぎこちなさも感じられ、荒削りな部分もあるように思えました。
この部屋は10点程度のシャガールの作品が並びます。お馴染みのモチーフが多用され、シャガール独特の世界が広がります。
67
マルク・シャガール 「夢」こちらは第二次世界大戦でアメリカに亡命していた頃に完成させた作品です。テーブルに座る男性と、街の上に浮かぶウェディングドレスの女性が描かれ、空にはバイオリンを弾く馬や人、空飛ぶ絨毯みたいなものも描かれています。解説によると、これを完成させたのは最愛の妻ベラを亡くした直後だったそうで、そのせいか男性は1人ぽつんと佇んでいるようにも思えます。ウェディングドレスの女性は神々しく、恐らくベラの花嫁姿を回想しているのではないかと思えました。寂しくも美しい夢想の世界です。
72
マルク・シャガール 「グランド・パレード」 ★こちらで観られますこちらは92歳頃の作品で、サーカスの舞台と客席が描かれ 周りにはヴァイオリンや笛を演奏する人たち、馬、裸婦、ブランコをする人、花束を持って浮かぶ男などの姿が描かれています。赤・緑・青・紫・オレンジといった色彩がブロックごとに分かれているような感じで、不思議と調和して温かみのある雰囲気です。様々な感情が1枚に表されたような晩年とは思えないほど生命感ある作品でした。
ということで、後半も素晴らしいコレクションの数々を観ることができました。本当に有名な画家の作品が多いので、美術に詳しくない方もこの展示を観れば近代以降の西洋絵画の主要な流れを知ることが出来るのではないかと思います。幅広い層にオススメの展示です。
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