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ニューヨーク・アートシーン-ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで (感想前編)【埼玉県立近代美術館】

先週の土曜日に埼玉県立近代美術館で「ニューヨーク・アートシーン-ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで -滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ニューヨーク・アートシーン-ロスコ、ウォーホルから草間彌生、バスキアまで
 -滋賀県立近代美術館コレクションを中心に

【公式サイト】
 http://www.pref.spec.ed.jp/momas/?page_id=415

【会場】埼玉県立近代美術館
【最寄】北浦和駅

【会期】2019年11月14日 (木) ~2020年1月19日 (日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は第二次世界大戦以降のニューヨークのアートシーンの流れを国内のコレクションと共に追っていくという内容となっています。タイトルに「滋賀県立近代美術館コレクションを中心に」とありますが、他にも国立国際美術館、高松市美術館、和歌山県立近代美術館など西日本の美術館のコレクションが多く、時代を代表する著名な作家の作品ばかりです。展覧会は6章構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<1章 新しいアメリカ絵画-抽象表現主義>
まずは抽象表現主義のコーナーです。1940年代はキュビスムとシュルレアリスムをいかに乗り越えるか模索していた時代で、1940年代後半に2つの手法を使った独自の表現が生まれました。1つは「アクション」と呼ばれる激しい身振りを伴うもので、ジャクソン・ポロックやヴィレム・デ・クーニングが代表されます。もう1つは色面を使った表現で、ジップと呼ばれる垂直線が貫入するバーネット・ニューマンや 巨大な画面のマーク・ロスコなどが代表されます。これらは抽象表現主義と総称されるものの 必ずしも適切ではなく、ニューヨークスクールという呼称が用いられることがことが多いようです。ここではそうした時代の作品が並んでいました。

1 アーシル・ゴーキー 「無題(バージニア風景)」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターの1つとなっている作品で、白っぽい地に細い輪郭で有機的な形を散らした抽象画です。軽やかな色彩となっていて、タイトルは風景っぽい名前ですが何処となく花を思わせるかな。柔らかくリズミカルな印象を受けて、独特の感性に思えました。

4 マーク・ロスコ 「ボトル・グリーンと深い赤」
こちらは縦長の画面の上から順に 暗い赤、黒、赤茶色といった言った感じで3つの色面に分かれ、周りは枠のように囲まれている抽象画です。色面と言っても微妙に滲みがあって、遺跡や廃墟を思わせるような重厚な色彩となっています。静かで瞑想的な雰囲気があり、近くで見ると堂々たる印象を受けました。

この近くには「ナンバー28」というロスコの油彩や、水彩などもありました。ロスコは川村美術館で見慣れてるかなw
 参考記事:マーク・ロスコ 瞑想する絵画 (川村記念美術館)

19 バーネット・ニューマン 「夜の女王1」
こちらは非常に縦長で真っ黒の画面で、左側に細い線が上から下へと引かれている抽象画です。画家はこの線をジップと呼んでいたらしく、よく観るとやや歪んだ線になっていて手描きなのかな?? 離れて観るとオベリスクのように突き立って見上げるような感じで、漠然とした崇高さが感じられました。この画家の作品はめちゃくちゃシンプルな絵が多いように思えます。

26 アド・ラインハート 「無題」
こちらは一見すると真っ黒な正方形ですが、よく観ると3×3の升目状(正確には真ん中の段は縦線が無い)を微妙な色調の違いで表現しています。隣に同じような作品があり、それは割とハッキリと色が違うので分かりやすいかな。シンプルだけど発想が面白い作品でした。

この近くにはジャクソン・ポロックの版画がいくつかありました。グニャグニャした人間を思わせるドローイングで、シュルレアリスムから影響を受けたと思われる作品群でした。
 参考記事:
  生誕100年 ジャクソン・ポロック展 感想前編(東京国立近代美術館)
  生誕100年 ジャクソン・ポロック展 感想後編(東京国立近代美術館)

28 ヴィレム・デ・クーニング 「水」
こちらは赤・白・黄色・水色・黒などの絵の具を縦横に波状に引き伸ばしたような抽象画です。水と言われたらそうかも知れませんが、観ただけでは何を描いているかちょっと分からないw 絵の具がかすれていたり厚塗りされたりとまちまちで 筆の動きを感じる躍動的な画面でした。

この近くにはデ・クーニングによる人物の頭部を表した彫刻もありました。こちらもグニャグニャと歪んでいて絵と通じるものがありました。


<2章 デュシャンとその末裔-ネオ・ダダとフルクサス>
続いてはネオ・ダダとフルクサスに関するコーナーです。既製品を用いた「レディ・メイド」などで美術界を騒然とさせたマルセル・デュシャンは1915年に渡米し、ニューヨーク・ダダの中心的な存在として活動しました。若い作家と直接接触する機会は稀だったようですが、その精神は抽象表現主義に続く表現を模索する作家たちを鼓舞したようです。彼らは抽象表現主義の画家たちはあまりにも真剣で悲壮感すら帯びたが、美術はもっと楽観的で日常や生活と関わるべきではないかと疑問を抱いていました。そしてジャスパー・ジョーンズやロバート・ラウシェンバーグは卑俗な物体やイメージを作品に取り込んで新しい表現を模索していきます。彼らはダダイスムの焼き直しという批判を込めて「ネオ・ダダ」と揶揄されましたが、芸術と生活を等価と見なす態度は後続の美術に決定的な影響を与えました。また、デュシャンは前衛作曲家のジョン・ケージとも親交があったそうで、「フルクサス」と呼ばれる作家に影響を与えたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

3 マルセル・デュシャン 「泉」
こちらは「R.Mutt」の偽名のサインのある男性用の小便器で、デュシャンと言えばこの作品というくらい有名です。既製品にタイトルをつけただけの品を美術品と呼ぶのか?と大いに論争を巻き起こし、これが現代アートの始まりと言っても良いかも。近くには同じく既製品の「瓶乾燥機」や雪かきシャベルの「折れた腕の前に」などもあり、デュシャンの考えを端的に表す品々となっていました。
 参考記事:マルセル・デュシャンと日本美術 (東京国立博物館 平成館)

5 ジャスパー・ジョーンズ 「旗」
こちらは鉛で出来た長方形の作品です。塗り固められていてるけど何となく横線が並んでいるのが分かり、実はアメリカの国旗を表しているようです。灰色で死を連想させるような…。身の回りのものをモチーフにしているけど、ちょっと皮肉も効いているような作品でした。

この近くには半抽象的なリトグラフもありました。

13 ロバート・ラウシェンバーグ 「カードバード・ドア」
こちらはダンボールで出来たドアで、タイトルはダンボール(カードボード)と鳥(バード)の合成語となっています。ドアノブを鳥の目、ラッチボルトをくちばしに見立てると、上下に翼を広げた鳥に見えるかな。全体的には確かにドアっぽいけどダンボールを貼り付けたような感じで、安っぽく見えます。拾ってきたダンボールを貼り付けているのか?と思えますが、実はダンボールに書かれている文字はすべて版画によるフェイクとのことで、意外な所で手が込んでいるようですw これも既製品のような雰囲気があるのでデュシャンの精神を引き継いでいるように思えました。

この近くには「フルクサス」が出版していた新聞などがありました。フルクサスにはオノ・ヨーコ氏も参加していたようです。

16 ジョン・ケージ 「Dereau #19」
こちらはエッチングの版画で、赤い台形や円が描かれ、結び目のようなものなどが軽やかに配置されています。モチーフ的に日本の料紙なんかを彷彿とさせるかな。解説によると、これは易経に基づいて様々な配置や色彩を決定しているそうで、チャンス・オペレーションという技法のようです。作曲家だけあって絵も音楽的なリズムが感じられました。


<3章 パクス・アメリカーナの夢-ポップ・アートとスーパー・リアリズム>
続いてはポップアートとスーパー・リアリズムに関するコーナーです。1960年代にアメリカは自由主義陣営の盟主として存在感を増し、大量生産・大量消費を原理とする独特の物質文化が生まれました。そしてニューヨークの大衆文化と密接な関係を持ったポップアートは大量生産のメタファーとしてイメージの反復的な転写を可能とするシルクスクリーンの技法を多用しました。また、同じ時期に迫真的な描写のスーパー・リアリズムという動向も生まれ、写真を元に精密に描き込み 逆に一種の非現実感を引き起こしました。一方でこのような社会を批判的に表象する負のポップアートの存在もあったようで、人間疎外や人種差別、ベトナム戦争などのパクス・アメリカーナの影の部分をテーマにしたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

4 ロイ・リキテンスタイン 「スイート・ドリームス、ベイビー!」 ★こちらで観られます
こちらは「Sweet Dreams Baby!」というセリフと共に男の頭をPOW!と殴る右手が描かれた漫画風の作品です。顔や腕には赤い水玉模様(網点)が使われ、漫画のトーンを拡大したような感じです。黄色地に赤のPOWがパワフルで、ちょっと可笑しみもあります。漫画とアートを融合させた まさにポップな作風で、解説によると 写真製版に用いる網点を強調させベンディドット技法を取り込むことで、オリジナルとしてのイメージが既に複製されたものであると明示しているとのことです。大量生産・消費される漫画と芸術作品としての絵画の関係性も示しているのだとか。

1 トム・ウェッセルマン 「グレート・アメリカン・ヌード #6」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターの1つで、マティスの「バラ色の裸婦」を思わせる裸婦が横たわり、背景にはモディリアーニの「ロロット」の複製や子猫の写真、バラの壁紙などがコラージュされています。明らかに合成ですが、配置が面白くてこういう絵のように思えてきます。大量生産・コピーといったポップアートらしさと古いアートの両面が感じられる作品でした。

6 アンディ・ウォーホル 「マリリン」
こちらは大女優のマリリン・モンローの顔が写った正方形の写真を色違いで3×3+1で10枚並べて展示したものです。無機的にパターン化された感じで、色はいずれも派手で激しい対比です。もうマリリン・モンローというよりは物的な側面が強くて、ゲシュタルト崩壊を起こしそうw コピーしすぎると本来の意味もよく分からなくなってくるのが面白い作品です。
 参考記事:
  アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 感想前編(森美術館)
  アンディ・ウォーホル展:永遠の15分 感想後編(森美術館)

この近くには10個のキャンベルスープの作品もありました。毎日食べ続けたので作品にしたそうですが、それぞれ味の違うスープをコピーしていますw

9 ジム・ダイン 「自画像」
こちらは自画像と言っても腰に手を当てるようなポーズのバスローブが描かれた作品です。カラフルな色面で構成されていて、緑・オレンジ・黄色・青・茶色など派手な色彩です。こちらも工業製品を描くことによって没個性的な人間の姿を表現しているようですが、こんなバスローブを着てる人がいたら超個性的な人かもw これも大量生産からの発想の作品でした。

10 チャック・クロース 「ジョー」
こちらはかなり巨大な画面の人物像で、メガネを描けたオッサンのほぼ顔だけが描かれています。毛穴や細かいヒビなどまで描き込まれていて、凄くリアルだけど写真ではなく正真正銘の絵です。元のイメージを分割して部分毎に色位や明暗を還元して描いているそうで、かなり近くで観ると割と大胆に描かれているのに驚きます。この近くにはグリッド状に分けて色の階調を分析している作品もあり、制作過程を伺うこともできました。そちらはモコモコした画面で、離れて観ると人の顔に見えるのが不思議でした。


ということで長くなってきたので今日はここまでにしておこうと思います。前半は抽象表現主義やポップアートなど現代アートを代表する流れを観ることができて満足度高めでした。後半は日本人の作家の作品などもありましたので、次回は残りの4~6章についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら


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