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ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年 (感想前編)【国立新美術館】

10日ほど前に乃木坂の国立新美術館で「日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年」を観てきました。見どころの多い内容でメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 日本・ハンガリー外交関係開設150周年記念
 ブダペスト国立西洋美術館 & ハンガリー・ナショナル・ギャラリー所蔵
 ブダペスト―ヨーロッパとハンガリーの美術400年

【公式サイト】
 https://budapest.exhn.jp/
 https://www.nact.jp/exhibition_special/2019/budapest2019/

【会場】国立新美術館
【最寄】乃木坂駅・六本木駅

【会期】2019年12月4日(水)~2020年3月16日(月)→2020年3月29日(日) ※2月29日から臨時休館。再開日未定
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
意外と空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は日本とハンガリーの外交関係開設150周年を記念したもので、ハンガリーのブダペスト国立西洋美術館とハンガリー・ナショナル・ギャラリーの所蔵品が130点も観られる内容となっています。両館は2000年の時代に渡り合わせて24万点もの美術品を所蔵していて、ブダペスト国立西洋美術館は中世から18世紀までのコレクション、 ハンガリー・ナショナル・ギャラリーは19世紀以降の作品を扱っているようです。その中から選ばれただけに名品ばかりで、これだけまとめて観られるのは25年ぶりとのことです。2章構成で、それぞれ時代や様式ごとに細かい節に分かれていて、ルネサンス以降の美術品からハンガリーの近代画家まで様々な品が並んでいました。詳しくは各章・各節ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<I ルネサンスから18世紀まで>
1章はルネサンスから18世紀までの作品が並んでいました。ほぼ絵画作品で8節目だけ彫刻となっています。

[1.ドイツとネーデルラントの絵画]
1節は北方ヨーロッパの絵画と素描のコーナーです。

1 ルカス・クラーナハ(父) 「不釣り合いなカップル 老人と若い女」 ★こちらで観られます
こちらは歯の欠けた赤い帽子の老人が若い女性の肩に手を回し、もう一方の手で胸の当たりを触っている様子が描かれています。ニヤニヤしたやらしい顔つきで如何にもセクハラオヤジみたいなw 一方の女性は視線を合わせず やや冷ややかに微笑んでいて、老人の腰にある袋に手を入れて財布を探っているようです。解説によると、美と若さを誇る女性と それに惑わされる好色な男性の描写は、人間の愚かさを滑稽に風刺したもので、こうした主題は広く人気を博したようです。クラーナハの巧みな人物描写によって一層にそれが際立っているように観え、一種の可笑しみすら感じられました。駄目な奴らを見せることで 人のふり見て我がふり直せってことでしょうかねw
隣には同じくクラーナハによる老女と若い男のカップルの絵もあり、哀しいほどに人間の愚かさを顕にしていました。

その先には磔刑図や羊飼いの礼拝などキリスト教に関する作品が並んでいました。

7 ヨーゼフ・ハインツ(父) 「アリストテレスとフィリス」
こちらは老人が四つん這いになってその上に裸婦が鞭をふるって乗っている様子が描かれた作品です。一見するとあれなプレイにしか思えませんが、この老人はアレクサンドロス大王の家庭教師でもあったアリストテレスで、女性は大王の侍女のフィリスです。アリストテレスは大王がフィリスに恋したことを憂い 遠ざけるようにしたところ、それを知ったフィリスは仕返しとしてアリストテレスを誘惑し、背中に乗せて欲しいと頼んだ結果、このシーンとなったようです。かの有名なアリストテレスが欲望に負けて言いなりになっている姿は情けなく、エロティックで滑稽な光景となっていました。解説読まなかったらアリストテレス=ドM のイメージがつきそうw

[2.イタリア絵画 聖母子]
続いては18世紀までのイタリア絵画のコーナーです。ここは更に3つに分かれていて、まずは聖母子の主題を集めた内容となっていました。

10 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「聖母子と聖パウロ」 ★こちらで観られます
こちらは赤ん坊姿の幼子イエスを抱く 赤い服に白いベールの聖母マリアを描いた作品で、手前には本と剣を持った古代ローマの服装をした聖パウロ(12使徒の1人)が2人を見上げる姿勢で描かれています。解説によると、剣と本は伝統的にパウロの持ち物(アトリビュート)ですが、容貌は個性的なので注文主をモデルにしていると考えられるそうです。いずれの人物も血色が良く、色鮮やかで生命感があります。また、光が当たったような明るさで、特に赤が目を引きました。マリアの表情は慈愛と気品に溢れていて、かなりの傑作です。

[2.イタリア絵画 聖書の主題]
続いてもイタリア絵画で、ここは聖書の主題のコーナーです。

17 ジョヴァンニ・バッティスタ・ランゲッティ 「監獄でファラオの料理長と給仕長の夢を解釈するヨセフ」
こちらは3人の人物が描かれていて、中央に上半身裸の中高年姿のヨセフ、右に顎髭の料理長、左に若い給仕頭といった感じで並んでいます。3人はファラオに牢に入れられたらしく、両脇の2人が見た夢についてヨセフがその解釈をしているところのようです。中央の体をひねるヨセフに光が当たっているような表現で、筋肉隆々で力強い印象を受けます。色も劇的でカラヴァッジョからの影響を感じさせました。なお、夢判断の結果は給仕長は牢から出られる、料理長は処刑される というもので、3日後にその通りになったそうです。その結果を聞いた為か料理長はショックを受けているような顔に観えました。また、絵の左上の辺りにはじっと3人の様子を観ている老人もいて、その目が怖くて不吉な予感を漂わせていました。

[2.イタリア絵画 ヴェネツィア共和国の絵画]
続いてもイタリア絵画で、ヴェネツィア派の作品などが並んでいました。

19 20 ボニファーチョ・ヴェロネーゼ(本名:ボニファーチョ・デ・ピターティ)と工房 「春」「秋」
こちらは四季の4点の連作のうちの2点で、左に春、右に秋が並んで展示されていました。春は花の冠を被った緑の衣の女性とプットーらしき子供たち、秋はブドウの樽を持つ赤い服の男性と周りで手伝うプットーらしき子供たち が描かれています。両方とも色鮮やかな所がヴェネツィア絵画らしさを感じるかな。元は天井画だったそうで、秋の男性は雲を踏み出すような構図となっていて、絵から飛び出すような騙し絵的な要素がありました。


[3.黄金時代のオランダ絵画]
続いては17世紀のオランダ絵画のコーナーです。プロテスタントが大多数を占めた国で、教訓的な主題が好まれました。

31 ヤン・ステーン 「田舎の結婚式」
こちらは部屋の中で行われる結婚式の宴を描いた作品で、笛を吹いたり 楽器を弾いたり 女性に抱きついたり 輪になって踊ったり…と賑やかな様相となっています。右上には窓の中に新郎新婦の姿もあるのですが、新婦はあまり楽しく無さそうな…。どうやら訳ありの結婚のようで、周りばかりが馬鹿騒ぎしているのかもしれません。解説によると、右下で弓のようなもので楽器を奏でているのがステーン自身と言われているようです。何か教訓や皮肉が込められていそうな作品でした。

この辺は意外と宗教画が多めとなっていました。


[4.スペイン絵画-黄金時代からゴヤまで]
続いてはスペインの16~19世紀初頭のコレクションのコーナーで、厳選の6枚が並んでいました。

33 エル・グレコ(本名:ドメニコス・テオトコプーロス) 「聖小ヤコブ(男性の頭部の習作)」 ★こちらで観られます
こちらはやや右側を向く面長の男性の肖像で、緑と赤の衣を着ていて背景は青空のように観えます。尖った耳やくぼんだ目など特徴的な顔つきで、以前は自画像と考えられていたものの 今では聖小ヤコブを描いたものと考えられ、12使徒の連作の習作と推測されているようです。ややくすんだ色彩がエル・グレコっぽさを感じるかな。素早く大胆な後期のタッチとなっているようです。解説によると、16世紀以降 12使徒のテーマが人気だったそうで、聖書の人物も写実的に描く当時の風潮を反映しているとのことでした。

38 フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス 「カバリューロ侯ホセ・アントニオの肖像」
こちらは暗い闇を背景に椅子に座る当時の政治家を描いた肖像です。赤い服の上に黒い服を着て、いずれも金の刺繍が施されていて豪華な服装です。胸には勲章をつけ、こちらを観る目は強く自信に満ちているように観えます。しかしこの人物は狡猾でゴヤも嫌っていたようで、やや冷淡な雰囲気も漂わせていました。ゴヤのシニカルさが垣間見える作品でした。


[5.ネーデルラントとイタリアの静物画]
続いては17世紀ころのオランダ・フランドルとイタリアの静物画のコーナーです。

39 アブラハム・ファン・ベイエレン 「果物、魚介、高価な食器のある静物」
こちらはブドウ、桃、ロブスター、剥かれたレモン、カニ、ゴブレット、ガラス器など豪華な食卓を描いた静物画です。オランダ語でプロンクスティルレーフェン(見せびらかしの静物画)というジャンルで、作者はこうした作品で成功をおさめた画家のようです。まさに見せびらかすように所狭しと物が密集していますが、中央辺りには懐中時計(時間)があり、周りには枯れた葉っぱがあるなど この世の儚さを示すヴァニタス(虚栄)となっているようです。リアルさを追求しつつ教訓も込める この時期ならではの静物画のように思えました。


[6.17~18世紀のヨーロッパの都市と風景]
続いてはオランダやイタリアなどの風景のコーナーです。この頃、ヨーロッパ各国の貴族はイタリア旅行(グランドツアー)に出かけるようになり、その旅の土産としてヴェネツィアやローマの名所を描いたヴェドゥータ(都市景観図)を買い求め、爆発的に流行したようです。また、古代遺跡や廃墟の架空の情景を描いたカプリッチョ(奇想画)も人気だったようで、ここにはそうした作品が並んでいます。

44 フランソワ・ド・ノメ 「架空のゴシック教会の内部」
こちらは架空のゴシック教会の内部を描いたもので、アーチ状の巨大な天井となっています。さらにその先には部屋の中に建つゴシック風の建物も描かれていて、まさに奇想の光景です。しかし、周りの柱や壁には細かい聖人像の彫刻なども描かれていて、リアリティも感じさせます。明暗が劇的なのと、教会内の人々の小ささによって圧倒的な迫力を生んでいるように思えました。

46 ヤン・アブラハムスゾーン・ファン・ベールストラーテン 「冬のニューコープ村」
こちらは川の周りの風景を描いた作品で、川辺には教会が建ち その脇を沢山の人達が行列を組んでいます。一方、川ではスケートをしている人やソリで遊ぶ人などの姿があり、のどかで楽しげに観えます。こうした光景を観るとブリューゲルの鳥罠のように何か落とし穴があるのではないか?と勘ぐってしまいますが…w 遠近感があって奥行きがあり、空はどんよりしているなど 当時の様子をそのまま伝えているような作品でした。

近くにはロイスダールの作品などもありました。

50 アポッローニオ・ドメニキーニ 「ローマ、パンテオンとロトンダ広場」
こちらは中央にドーム状の建物が描かれ、入口は円柱の並ぶ三角屋根の建物となっています。また、手前は広場で、人々が集まってのんびりした雰囲気です。かなり写実的で如何にも観光名所の絵といった感じかな。しかし建物の近くでは商売をしたり 布を干そうとしている人がいて、生活感もあって生き生きしていました。


[7.17~18世紀のハンガリー王国の絵画芸術]
続いては17~18世紀に活躍したハンガリー画家のコーナーです。ハンガリー王国は1541年以降に3分割され、北部・西部はハプスブルク家、東部トランシルヴァニアはオスマン帝国の属国、中部・南部はオスマン帝国の直轄地となったそうです。それは150年続き、17世紀末以降にはオーストリアの支配下に入っていきました。ここにはそうした時代の作品が3点並んでいました。

53 マーニョキ・アーダーム 「化粧台の傍らに立つ若い女性」
こちらは化粧台の前に立つ胸元が大きく開いた赤いドレスの女性を描いた作品です。右手で真珠のアクセサリーをつまむポーズで、ドレスは金の糸によって複雑で華麗な文様となっています。タイトルでは若い女性となっていますが、顔がたるみ気味で割と老けて見えるかなw しかし色鮮やかで気品ある姿となっていました。解説によると、このポーズはプロイセンの宮廷画で観ることができるそうで、それを真似て描いたようです。この画家はドイツで画家として活動し、トランシルヴァニア侯国の宮廷画家になったそうで、ザクセンなどの中央ヨーロッパで高い評価を受けたのだとか。


[8.彫刻]
1章の最後は彫刻のコーナーです。15~18世紀のイタリアと北ヨーロッパの品が11点並んでいました。

62 レオンハルト・ケルン 「三美神」
こちらはお互いに肩を組む3柱の裸体の女神たちの像です。1柱は後ろ姿で中央の女性と顔を見合わせて話しかけているように観えます。踏み出す仕草で、3者ともに体のフォルムが流れるような美しさです。頭は小さめな一方でボリューム感ある体つきとなっていて、特にお腹とお尻がそう感じさせました。また、木製なので柔らかみも感じて、特に気に入りました。

65 フランツ・クサーヴァー・メッサーシュミット 「性格表現の頭像 あくびをする人」
こちらは禿げた男が大きく口をあけてアクビする様子を表した頭部像です。かなりリアルで皺や歯までしっかりと表現されています。解説によると、この作者はウィーンで美術アカデミーの教授を務めていたのですが、次第に精神を病んで現在のブラチスラヴァに移住したようです。そこで自分をモデルに様々な表情の奇妙な頭部像の制作に没頭したようで、その理由として自分を苦しめる妄想を治療しようとしたのではないか?とも考えられるようです。しかし人間の性格や気質を表すことは美術アカデミーの学習課題でもあるので、あながち狂気だけが理由ではないのかもしれません。いずれにせよ面白い表情の頭部像です。私は以前この作者の作品を観たことがあり、一瞬で思い出しましたw 強烈なインパクトで記憶に残ります。
この隣にも「子供じみた泣き顔」(★こちらで観られます)という感情むき出しの頭部像がありました。


ということで、今日は1章の内容までにしておこうと思います。流石にハンガリーを代表するコレクションだけあって見事で、観たことが無い傑作ばかりでした。後半はさらにハンガリーならではの作家の作品もありましたので、次回は2章についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら

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