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未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命--人は明日どう生きるのか (感想後編)【森美術館】

今日は前回に引き続き森美術館の「未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命--人は明日どう生きるのか 豊かさとは何か、人間とは何か、生命とは何か」についてです。前編は3章の途中まででしたが、後編は残りの5章までについてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

【展覧名】
 未来と芸術展:AI、ロボット、都市、生命--人は明日どう生きるのか
 豊かさとは何か、人間とは何か、生命とは何か

【公式サイト】
 https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/future_art/index.html

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅

【会期】2019年11月19日(火)~ 2020年3月29日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半も混むことなく快適に鑑賞することができました。引き続き各章ごとに気に入った作品の写真と共にご紹介していこうと思います。


<ライフスタイルとデザインの革新>
前編で途中までご紹介しましたが、この章では最先端のテクノロジーで新しいライフスタイルを提示する作品が並んでいました。

Archiphiliaプロジェクト・チーム(竹中工務店) 「Archiphilia-建築に生命が宿る-」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらは家全体がIoTとAIの技術が使われた模型で、鑑賞者の動きをセンサが捉えて反応する仕組みとなっています。手をかざすと家の中が明るくなり、壁や屋根の模様が周囲に映されていました。AIを使ってより快適な暮らしができるというコンセプトのようですが、過去に話題になったユビキタスなどは既に死語になってるので何時になったら実現するんだろうか?という疑問もw 

所属:GROOVE X(東京) 「LOVOT(らぼっと)」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらは「役に立たない、でも愛着がある」というコンセプトで作られた愛玩ロボット。ペンギンみたいな動きをして目が動くのが可愛い奴です。充電中は目を閉じて寝ているようで、人間の言動に反応したりもするようです。この子たちは可愛らしいロボットのペットですが、逆に人間がAIのペットになる未来もあり得るかも知れませんね…。

OPEN MEALS 「SUSHI SINGULARITY」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらはソルティ・スィート・サワー・ビターの味の四元素をデータ化し、米粉・寒天・大豆・海藻などを原材料にして3Dプリンタでレシピを再現するというロボット。プロのレシピをネット上で手に入れて、3Dプリンタでしか出来ない食感(網目や城の形など)も再現できるようです。原材料が単純過ぎるようにも思えますが、イノシン酸やグルタミン酸といった旨味が化学調味料になっていることを考えれば、一層に複雑な味も作れそうに思えます。これは実際に出来たら流行るかも??


<身体の拡張と倫理>
続いてはロボット工学やバイオ技術を使った身体能力の拡張に関するコーナーです。ここには倫理的な問題を引き起こす可能性と共に未来の明暗の両面が紹介されていました。

パトリック・トレセ 「ヒューマン・スタディ #1,5 RNP」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらはロボットアームが観客の顔を模写するという作品。ハイテクだけど学校の机のような所に設置されていて手書きのように描いてくのはちょっとアナログ感が漂いますw

パトリック・トレセ 「ヒューマン・スタディ #1,5 RNP」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらが描かれたデッサンの一部。まだまだ上手く描ける訳ではなさそうw 顔の輪郭は分かっても目鼻立ちの認識に課題ありと言った感じでした。

この先はバイオ・アトリエという怪しい実験室のような暗い部屋となっていました。

エイミー・カール 「エンメッシュメント(生命と愛のもつれ)」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらは3Dプリンタで出来た心臓です。単なる再現ではなく従来の心臓の機能を改善するデザインとなっているようで、人間に利点もある一方で倫理的な問題が懸念されると思います。何処まで改変して良いのか?線引きする判断基準が主観的になりがちなだけに 近い未来に難しい論点になりそうに思えました。

ディムート・シュトレーベ 「シュガーベイブ」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらはフィンセント・ファン・ゴッホが切り落とした左耳を生きた状態で再現したタンパク質による彫刻。ゴッホの親戚の末裔の方の軟骨細胞を元にしているそうで、母系からも唾液サンプルを使って本人に近づけようとしているようです。クローンの一種のような感じで再生医療にも応用できそうですが、死んだ人間を蘇らせるような技術に思えるかな。こうした技術が現実になってくると期待と不気味さが入り混じったものを感じます。

リー・シャン(李山) 「再構造案8」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらは昆虫を大きく写した写真… と言いたいところですが、よく観ると複眼が人の唇になっています。このキメラ的な不気味さが美術の通念から乖離していると論争を巻き起こしたようですが、新しいバイオ技術の影の部分を象徴しているようにも思えます。科学は哲学・宗教とどう折り合いつけていくのかこれからの課題でしょうね。


<変容する社会と人間>
最後はテクノロジーがもたらす社会制度や考え方の刷新についてです。これまで想定されなかった事象が起きた場合、それに対して社会はどう向き合うのか?という難しい問いかけをしてくるような作品が並んでいました。

マイク・タイカ 「私たちと彼ら」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらはAIによって作られた架空の人物たちの肖像とツイートを組み合わせたインスタレーションで、垂れ下がっている紙に延々とツイートが印刷されています。この作品は2016年の米国大統領選挙でトランプ氏を支持するツイートBOTに着想を得ているようで、アメリカの政治に関するツイートを機械学習で作っているようです。肖像もフリッカー上の人物像をAIで合成しているらしいので、一種のディープフェイクみたいな感じ。割と単純なツイートばかりなので これはBOT臭いなと感じるものもあるけど、精度が上がれば見分けがつかなくなりそうです。チューリングテストを突破するAIも生まれたら何を以て真偽を見極めるのか? これまた技術の負の側面と脅威を感じさせる作品でした。

ANOTHER FARM 「Boundaries」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらは尾崎ヒロミ(スプツニ子!)氏と串野真也 氏から成るユニットの作品で、遺伝子組み換えで光るシルクを使った能衣裳となっています。見た目は非常に綺麗で幻想的ですが、綺麗で有益なら遺伝子組み換えはOKなのか?という疑問も湧きます。遺伝子組み換え関連は特に議論が必要な分野なのは確かでしょうね…。

近くには実在する遺伝子的に3人の親を持つ子供について取り上げ、家族の定義や子育てのあり方、治療とデザインベイビーの線引などを問う作品もありました。

諸星大二郎 「夢みる機械」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらは1974年の短編漫画で、人間は理想の夢の中で生きて、代わりに本人そっくりのロボットが生活を送るという内容となっています。マトリックスの先駆けのような感じかな。作者は日本のSFや漫画に大きな影響を与えた鬼才で、科学技術への皮肉や問題提起を早くから盛り込んでいました。この作品は実際には読んだことがないので、いずれ読んでみたい…。

メモ・アクテン 「深い瞑想:60分で見る、ほとんど「すべて」の略史」
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この写真/動画は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。
こちらはフリッカー上で「everything」とタグ付けされた写真を機械学習させ、それを元に自動生成した画像です。建物や風景、人物を思わせるモチーフが並びますが、ぐにゃぐにゃして何とも不気味w イヴ・タンギーの絵みたいなシュールさを感じました。


ということで、後半は技術進歩の危うさを感じさせる品もあって一層に興味深い内容となっていました。私はSF(特にディストピアもの)が好きなので、かなり満足できました。先進技術や近未来予測に興味がある方にオススメの展示です。

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