関東近辺の美術館めぐり ~美術・美景・美味を楽しむブログ~

坂田一男 捲土重来 【東京ステーションギャラリー】

先日ご紹介したインターメディアテクに行く前に、東京駅にある東京ステーションギャラリーで「坂田一男 捲土重来」を観てきました。

DSC02944.jpg

【展覧名】
 坂田一男 捲土重来

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201912_sakata.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2019年12月7日(土)~2020年1月26日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_4_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は1920年代にパリで最新鋭の芸術潮流で活動した坂田一男という画家の個展となっています。出身地の岡山以外では大きく紹介されることがなかった知る人ぞ知るといった画家(私も知らなかったw)ですが、当時は世界的に高い次元に到達していたようです。フェルナン・レジェに師事しキュビスム~ピュリスム辺りの画風から独自の道へと進んで行ったようで、全般的に抽象画が多かったように思います。展示は活動時期ごとに章分けされていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、展示順と章が合わないところがありますが、観た順で書いて参ります。


<I 滞欧期まで 事物の探求 ― 事物に保管されたもの/空間として補完されたもの>
まずは初期のコーナーです。坂田一男の画家としての出発は1921年の渡仏後と見なす事ができるそうで、渡仏して数年でフェルナン・レジェに師事しました。レジェやオザンファンら同世代の仕事に接近し、その革新を理解して行動を共にするようになっていったそうで、ここではそうした時代の作品が並んでいました。

1-9 坂田一男 「コンポジション(顔と壺)」
こちらは幾重にも四角や長方形の色面が並び、そこにコックらしき人物の顔と壺が縦半分だけ描かれている半具象・半抽象の作品です。キュビスム的でレジェにも似た作風となっていて、落ち着いた色彩で静かな印象を受けます。中央に青い柱のようなものがあるのが大胆で、幾何学的な構成が巧みな作品でした。

この辺は同様のキュビスム的な作品が並んでいました。レジェほどは有機的な感じがせず、より平面的に思えます。

1-4 坂田一男 「キュビスム的人物像」 ★こちらで観られます
こちらは円錐形を無数に組み合わせた人物像で、パッと観た時に東郷青児の初期作品と似た印象を受けました。淡く明るめの色で意外と優しい印象を受けますが、マリオネット的な無機質さがあるかな。この作品では陰影が付けられていて立体的な感じも出ていました。

このへんは円形や円錐を組み合わせた人物像が並んでいました。それぞれ作風が違っていたりして試行錯誤の様子が伺えます。


<II 帰国後の展開 戦中期 カタストロフと抵抗 ― 手榴弾>
続いては帰国後のコーナーです。1933年にフランスから帰国し、戦時中においてもブレることなく一貫して抽象的思考を持続していたようです。この時期、手榴弾の主題が登場し柄のついた手投げ弾がコンポジションの中に現れるようになったようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

2-1 坂田一男 「コンポジション」 ★こちらで観られます
こちらは平坦な色面を組み合わせたキュビスム~ピュリスムのような作品です。中央に柄のついた白い逆三角形の物体が大きく描かれていて、これが件の手投げ弾のようです。一見すると電気ランプのような…w 大きく存在感があるものの、手投げ弾にしては明るい印象を受けました。

この隣ににも似たような2枚の作品がありました。素描にも手投げ弾のコンポジションがあったけど、静かな雰囲気で爆発しそうには観えなかったw

2-56 坂田一男 「端午」
こちらは黒い四角の中に赤い鯉のぼりが上向きになっている様子が描かれた半具象・半抽象の作品です。近くに赤・青・白のポールやロープらしきものも描かれています。黒地に赤白なので色の対比が強く非常に目を引きます。しかし画面は以前よりもざらついたマチエールになっているように思えました。

この近くには多くのデッサンが並んでいました。デッサンもキュビスム風で、中には鯉のぼりを描いたものもあります。また、銃を持つ兵士を描いた作品もいくつかあり、時代を感じさせました。

1-26 ル・コルビュジエ 「ニレ」
こちらはル・コルビュジエによるスケッチです。建築家で名高いル・コルビュジエですが、ピュリスムの画家としても活動していて このスケッチでは円やモコモコした感じの謎の静物を描いています。ニレなのかはちょっと分からないw 手を思わせるものなどもあるかな。解説が無いので坂田一男と直接関係があったのかは定かではないですが、これを観ても坂田一男はキュビスムよりはピュリスムに近いものがあるように思えました。

この近くにはニコラ・ド・スタールやモランディの作品もありました。モランディにも似ている部分があるかも。上階はこの辺までで、続いて下階の内容となります。

2-35 坂田一男 「コンポジション」
こちらは平面的な四角を背景に壺と工業製品が半分ずつ縦にくっついたような謎の静物画です。直線と円を組み合わせていて、色面でも錆のようなものを感じさせる描写もあります。背景には窓のような規則正しい格子があるなど、リズム感ある画面となっていました。


<II 帰国後の展開 戦中期 カタストロフと抵抗 ― 冠水>
引き続き帰国後の戦中~戦後のコーナーで、手榴弾と同じくこの時期の重要なモチーフとして冠水が挙げられるようです。1949年に瀬戸内海に面したアトリエが高潮の被害にあい、多くの絵画が冠水してしまいました。しかし坂田一男は冠水の影響を画面の構造として取り組んだ作品(画面が剥落してそこに別の絵画が浮上するような)を製作するようになったようです。ここにはそうした作品などが並んでいました。

2-67 坂田一男 「静物Ⅱ」
こちらは機械のようなものと中央に黒い壺型のものが描かれた作品です。キャンバスのあちこちがひび割れて剥落しているのが特徴で、まるで遺跡から出土したような風合いとなっています。これが冠水を逆手に取った作品だと思いますが、隣にそっくりの絵があり、比べてみると両方とも剥落している所があるので意図してやっているようにも思えました。ちょっとこの辺は何処までが偶然なのか分からないですが、風化した味わいが出ていて面白い独自性です。

近くには同様に剥落したような作品が並んでいました。


<III-1 戦後1 スリット絵画 ― 積層される時空 ― 海/金魚鉢>
続いては戦後のコーナーです。戦後の最も特徴的なスタイルはスリット状の形が横縞模様のように配置された縦位置の絵画だそうで、このシリーズの始まりではガラスの器の断面が重なったような透明な奥行きが示されたようです。時には金魚が描かれた金魚鉢も登場したようですが、やがて重なりの効果は後退して船の形が現れたようです。これはアトリエのある瀬戸内海をモチーフにしたと考えられるようで、ここにはそうした題材の作品が並んでいました。

4-1-11 坂田一男 「象岩」
こちらは赤い背景に象の横顔に見えるシルエットが描かれた作品です。シンプルな造形になって描かれていますが、実際にこの形の岩が瀬戸内海にあるらしく、隣りにあった写真と比べるとよく特徴が現れています。抽象的な表現ではあるけど具象的な特徴を捉えているのが面白い作品でした。

3-1-19 坂田一男 「金魚」
こちらは黄色を背景に横線が無数に描かれ、下の方は金魚鉢となっていて金魚が泳いでいるのが描かれています。かなりタッチが粗めで今までと異なる印象を受けるかな。隣にも金魚鉢を描いた作品がありましたが、そちらは白地に輪郭線のみで描いていて同じモチーフでも受ける印象はだいぶ違います。またここに来て画風を模索している様子が伺えました。

この辺はアンフォルメルのようなざらついたマチエールの作品が並んでいました。時期的にも近いので欧米の先端を取り入れたのかな?

3-1-14 坂田一男 「エスキース・コンポジション」
こちらはピンクがかった白地に横線と横帯が並ぶコンポジションです。下の方にはコマのような形の輪郭線があり、その下に薄い水色の横帯があるので瀬戸内海に浮かぶ船を思わせます。こちらも絵肌はざらついて風化したような質感になっていて、この時期の特徴のように思えました。

この近くにはこの作品と似た構図の絵がいくつかありました。明らかに船っぽい形の作品もあります。


<III-2 坂田一男のパラダイム>
こちらは同時代の作家との比較の章で、上階などにも点在して展示されています。坂田一男が当時の画家と同様の問題(課題)を共有し事物の探求をしている様子が伺える内容となっていました。

3-2-8 ジャスパー・ジョーンズ  「国旗」
こちらは裏返しになったアメリカの国旗で、落書きのようにグチャグチャな筆致となっています。その作品の下に坂田一男の「コンポジション」が並んで展示されていて、風化したような質感を出しています。画面に別の層を生み出すという点において両者は共通しているようで、お互いに革新的なアプローチの試行が伺えました。


<IV-1 戦後2 残された資料 時間の攪乱=アナーキーなアーカイブ>
続いて資料に関するコーナーです。坂田一男の作品は製作年が書かれていないので確定は難しいようですが、1944年と1954年の2度の冠水被害以降にアナクロリズム すなわち正常な時間の流れを失効させ異なる時間を並列に混ぜ合わせ・重ね合わせ・入れ替えることが重要な革新となったようです。ここはそうした時間の撹乱をテーマにした内容となっていました。

4-1-4 坂田一男 「上巳」
こちらは両手を広げた人物と その傍らに立つ小さめの人物をマネキンのように描いた作品です。桃の節句の雛人形らしく、平坦でシンプルな構図で背景の薄いオレンジに浮き上がるような色合いとなっています。この辺は人物を思わせる作品が並んでいて絵柄は似ていますが、マチエールが違っていたりして印象の違いを比較することができました。

近くには大量のデッサンが並んでいました。機械やマネキンを思わせるモチーフが多いように思います。


<IV-2 戦後3 黙示録=捲土重来>
最後は晩年のコーナーです。この頃には黒を基調とした作品やキリストの復活を思わせる図像の作品があるようで、捲土重来(巻回されうる時空の可能性)は坂田一男が終生 追求した画題で その果てに改めて聖書にたどり着いたようです。

ここはデッサンが大量にあり、確かに被昇天図や最後の晩餐を思わせる群像的な作品がありました。しかし形はハッキリせず沸き立つ黒い岩のようにも思えるのが独特で、指摘がなければ聖書主題には観えなかったかもw 最後まで謎めいた画家でした。


ということで、画風が変わり続けて中々とっつきづらい画家のように思えますが、こんな個性派がいた事を知ることが出来て満足できました。普段から洋画をよく観ている方にも目新しい展示だと思います。

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