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上村松園と美人画の世界 【山種美術館】

前回ご紹介したカフェに行く前に山種美術館で「山種美術館 広尾開館10周年記念特別展 上村松園と美人画の世界」を観てきました。

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【展覧名】
 【山種美術館 広尾開館10周年記念特別展】
 上村松園と美人画の世界 

【公式サイト】
 http://www.yamatane-museum.jp/exh/2020/uemurashoen.html

【会場】山種美術館
【最寄】恵比寿駅

【会期】2020年1月3日(金)~3月1日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
多くのお客さんで賑わっていましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は清廉な美人画で人気の上村松園をはじめ、鏑木清方や伊東深水といった美人画の名手たちの作品が集まる展示となっています。全60点程度なので大半は上村松園以外の画家の作品ですが、山種美術館が所蔵する上村松園の作品18点が一挙に公開される機会は3年ぶりとなっていて、久々に観た作品もありました。展示は3つの章と特集から成る構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 上村松園―珠玉の美>
まずは早速 上村松園のコーナーです。上村松園については今までも何度も記事にしていますので詳しくはそちらを参照頂けばと思いますが、観ていて清らかな気分になるような美人画を目指し、特に女性の髪型・着物・風習の時代考証を徹底した作風となっています。ここには代表的な作品を含めて15点が並んでいました。
 参考記事:
  上村松園と鏑木清方展 (平塚市美術館)
  和のよそおい -松園・清方・深水- (山種美術館)
  上村松園展 (東京国立近代美術館)
  上村松園 素描、下絵と本画 (川村記念美術館)
  没後60年記念上村松園/美人画の粋(すい) (山種美術館)
  上村松園-美人画の精華- (山種美術館)


13 上村松園 「牡丹雪」 ★こちらで観られます
こちらは前屈みで傘をさす2人の着物の女性が描かれた作品です。画面には白い雪が舞い、傘に雪が積もっています。2人はやけに画面の左下の辺りに描かれていて画面の大半は空白となっているのが大胆な構図に思えるかな。2人は色白で気品があり、口紅の赤が艶やかでした。

2 上村松園 「新蛍」 ★こちらで観られます
こちらは簾を開けて足元辺りのホタルを観る立ち姿の女性を描いた作品です。団扇を持って口元を隠し、視線を下に向けているのが何とも涼し気な雰囲気です。簾越しの表現も見事で、女性のやや反った背中のラインと簾の紐のラインが緩やかな曲線を描いている構図も優美でした。

隣によく似た「夕べ」もありました。こちらはホタルはいませんが、簾やホタルは上村松園の好みのモチーフだったようです。

5 上村松園 「春のよそをひ」 ★こちらで観られます
こちらは今回のポスターの作品で、簪をつまんで俯いている水色の着物の女性を描いた作品です。視線を簪に向けていて、やや微笑んでいるように見えるかな。顔や指先はほんのり赤みがかっていて、柔らかい色彩に思えます。解説によるとこの女性の髪型は島田髷と呼ばれるそうで、上村松園の日本髪への愛着が反映されています。また、簪をつまむ仕草は喜多川歌麿の「あらはるる恋」に影響が指摘されるようです。指先の動きが特に優美さを感じさせました。
 参考記事:大浮世絵展―歌麿、写楽、北斎、広重、国芳 夢の競演 感想前編(江戸東京博物館)

3 上村松園 「盆踊り」
こちらは簡潔な素描のような感じで、色紙くらいの大きさの作品です。月の下で盆踊りしている2人の人物が描かれ、手付きや身振りに動きを感じます。ささっと描いたような筆致と共に軽やかな雰囲気となっていました。

8 上村松園 「折鶴」
こちらは折り鶴の両翼を摘んでいる薄い緑の着物の女性を描いた作品です。その傍らでは着物の女の子が床に紙を置いて折り紙をしているようです。女性は折り鶴を観て微笑んでいて、楽しげで穏やかな光景となっていました。

14 上村松園 「庭の雪」 ★こちらで観られます
こちらは上村松園が女性初の文化勲章受章者となった年の作品です。水色の着物の女性が雪が舞う中、胸前で腕を交差させて身を縮めるように寒がっています。解説によるとこの女性の髪型はお染髷という江戸時代後半から明治にかけて上方で流行したものらしく、襟の部分には「襟袈裟」と呼ばれるピンク色の布が掛けられています。これは髷の油が着物に付くのを防ぐものだそうで、まるでその時代の女性を観てきたかのような非常に入念な時代考証を行っていることが伺えます。着物や帯の色なども可憐で、襟の部分の花模様など表現も繊細さを感じさせました。

この近くには上村松園が描いた髷の種類の解説ボードもありました。小さな頃から友達の髷を結ったりしていたそうで、髷に深い興味を持っていたエピソードも紹介されていました。


<第2章 美人画の精華>
続いては上村松園と共に美人画を盛り上げた近現代の画家のコーナーです。

20 上村松園 「蛍」 ★こちらで観られます
こちらは蚊帳をセットしている青い浴衣の良家の娘を描いた作品です。足元にホタルがいて、それを微笑みながら観ている表情に慈しみを感じます。女性の浴衣や蚊帳など夏に相応しい爽やかさで、浴衣の縦に流れる白い線が流水のようにも見えました。

24 鏑木清方 「伽羅」
こちらは小袖を布団のようにして寝ている女性を描いた作品です。伽羅枕があり、これで髪に香を炊きしめているようです。ややぼんやりした表情でまだ夢見心地といった感じかな。解説によると女性の小袖の模様は花菖蒲なので伊勢物語(の東下り)、伽羅枕は組香の初音(源氏物語の各帖の名前がついている)を思わせるそうで、春・夏・秋の季節が描かれているとのことでした。

この隣には池田輝方の「夕立」もありました。夕立の雨宿りの様子を描いた群像が面白い作品です。

21 伊藤小坡 「虫売り」
こちらは市松模様の屋根のある屋台で虫を売る 紫色の頬かむりをした着物の女性を描いた作品です。近くには虫籠を持って喜ぶ幼い姉弟もいて何とも可愛らしい。女性の顔は見えませんが、色白でしなやかな指をしていて気品があります。どこか懐かしいような光景でした。

33 伊東深水 「春」
こちらはピンクの着物の女性に何か耳打ちをして楽しげな表情の女性を描いた作品です。幾何学文様のようなモダンなデザインの着物で、髪も単純な輪郭線を使った表現でキュビスムなどからの影響を感じさせます。華やかさと革新的な雰囲気のある作品でした。

43 青山亘幹 「舞妓四題のうち 正月」
こちらは黒を基調に波・鶴・宝尽くし等の派手な柄が描かれた着物の舞妓を描いた作品です。立ち姿で四角いコンパクトみたいなので簪を直しているようです。背景は金、床は赤と言った感じで色が対比的で、明るい色彩に思えます。女性も凛とした雰囲気が漂っていて存在感がありました。
この隣には同じく「舞妓四題のうち 11月」もありました。こちらは何か祈っているような静かな感じの舞妓です。


<第3章 物語と歴史を彩った女性たち>
続いては謡曲や古典、歴史ものを題材にした作品のコーナーです。

45 上村松園 「砧」 ★こちらで観られます
こちらは中国の古典を元にした謡曲を題材にした作品です。武家の娘らしき女性が外(の月)を観て、夫の無事を祈りながら砧を打つという場面のようです。しかしこの絵では砧を叩いておらず、立ち姿で遠くを観るような顔つきとなっているかな。やや口を開いて語りかけるようで、少し不安げな感じです。打ち掛けには金・銀で枯れ葉模様が描かれていて、季節を示しているようでした。

56 守屋多々志 「葛の葉」
こちらは陰陽師として有名な安倍晴明の母が狐だったという伝説に基づく人形浄瑠璃の演目『芦屋道満大内鑑』に取材した作品です。安倍晴明の父が狐を助けたところ、許嫁に変身して子供までもうけたのですが 許嫁本人が現れて正体を知られ森に帰るという話のようです。ここでは大きな笠を被った裸婦が薄野で膝をついて天を仰ぐというかなり変わった構図で描かれていて、悲しげな顔をしていました。ちょっと異様で寂しげな作品です。


<特集>
最後の第二会場は特集コーナーとなっていました。

62 京都絵美 「ゆめうつつ」
こちらは現代の画家による2016年の作品です。何かに持たれかかって虚ろな目つきで夢想している現代女性が描かれ、ペイズリー柄の黒い服を来ています。周りは黒いモヤのようなものに包まれていて、写実的ながらも幻想的な雰囲気となっています。まだ夢の中にいるようなちょっと妖しい魅力がありました。

他に村上華岳の「裸婦図」(★こちらで観られます)や和田英作の「黄衣の少女」などこの美術館の珠玉の名品が並んでいました。


ということで、上村松園の作品と共に様々な美人画を楽しむことができました。同じ趣旨の展示は定期的に開催されているようにも思いますが、18点一挙公開は見ごたえがあると思います。特に日本画の美人が好きな方には楽しい展示だと思います。

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