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ハマスホイとデンマーク絵画 (感想前編)【東京都美術館】

先週の日曜日に上野の東京都美術館で「ハマスホイとデンマーク絵画」を観てきました。見どころが多くメモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ハマスホイとデンマーク絵画

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/denmark2020/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_hammershoi.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年1月21日(火)~3月26日(木)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
結構多くのお客さんがいましたが、概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示はデンマークの画家で「北欧のフェルメール」とも称される画家ヴィルヘルム・ハマスホイと、その前後の時代のデンマークの画家たちについて取り上げた内容となっています。2008年9月に国立西洋美術館で「ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情」が開催された際(当時は当ブログはありませんでした)、多くの美術ファンを魅了し その個性が強く記憶に残りました。今回は個展という感じではありませんが、再びその一風変わった作品の数々が観られる機会となっています。展覧会の前半はハマスホイ以前のデンマークの絵画の流れ、最後辺りにハマスホイのコーナーといった構成となっていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。
なお、国立西洋美術館では「ヴィルヘルム・ハンマースホイ」の表記ですが、この展示では「ヴィルヘルム・ハマスホイ」の表記となっています。どちらが現地の発音に近いのか分かりませんが、他の画家も同じような表記の違いがあったりします。


<1 日常礼賛─デンマーク絵画の黄金期>
まずはハマスホイ以前のデンマーク絵画の黄金期についてのコーナーです。1800年~1864年までのデンマーク絵画は黄金期と呼ばれ、特に1820年前後から1850年頃まではかつてないほど多くの芸術家が現れたようです。この時代に活躍したのは1818年に王立美術アカデミーの教授になったクリストファ・ヴィルヘルム・エガスベアの弟子の世代の画家たちで、デンマークの風景に価値観を見出し、肖像画では打ち解けた飾り気のない描写へと移っていったようです。また、注文主も王侯貴族から市民階級へと変わっていったようで、ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

13 クレステン・クプゲ 「フレズレクスボー城の棟─湖と町、森を望む風景」
こちらは正方形に近い形の大型作品です。北欧で最も美しいと言われる城の上から川の対岸を見渡す風景画で、画面の2/3くらいは空が広がっています。変わっているのが下の1/3くらいの画面で、ここには城の屋根と尖塔・煙突が視界を遮るような面白い構図となっています。こういう構図を観ると浮世絵っぽいように思うけど、時代的にはまだジャポニスムって訳でもないかも。色彩は穏やかで、静けさを感じました。

この辺は1830年頃の画家の作品が並んでいました。クレステン・クプゲはデンマーク絵画黄金期を代表する画家で、ハマスホイも敬愛してクプゲの作品をコレクションしていたのだとか。戸外制作した作品や身近な画題の作品が並んでいます。

8 コンスタンティーン・ハンスン 「果物籠を持つ少女」 ★こちらで観られます
こちらは大きな帽子をかぶり果物籠を持つ少女が描かれた作品です。やや上目遣いでこちらを観ていて、可愛いけどちょっと大人びて見えるかな。この作品も落ち着いた色調で色数も少なめとなっているので、デンマーク絵画の特徴なのかもしれません。解説によると、この画家も黄金期の代表的な画家だそうで、ハマスホイも後に作品を所有したそうです。こうして観ていくとハマスホイの作風も突然生まれた訳でなく、デンマーク絵画の系譜に連なっているのが分かる気がしました。

15 ヨハン・トマス・ロンビュー 「シェラン島、ロズスコウの小作地」
こちらはシェイクスピアの『ハムレット』の舞台となった城がある島の風景画です。牛の後ろ姿があり、近くに農家と黄金色に染まる穂が並んでいる長閑な光景となっています。農家の上にはツバメが軽やかに舞っているなど、何処か温かみが感じられます。解説によると、スケッチの段階では牛やツバメはおらず、岩なども追加されているようで 自然のありのままというよりは理想化された光景のようです。全体的に明るく、黄色がかった画面が穏やかで懐かしいような素朴さがありました。

この辺にはこの作品のようにデンマークらしい光景を描いた風景画がいくつかありました。当時ナショナルロマン主義という愛国的な風景画が流行ったのだとか。近代化する前に残したいと思うのは何処も同じかもしれませんね。


<2 スケーイン派と北欧の光>
続いてはデンマークの芸術村とも言えるスケーイン派についてです。(2017~2018年頃に日本とデンマークの外交樹立150周年でいくつか展示が行われた際には「スケーエン派」という表記でした) 1840年代のデンマークではナショナリズムが高まり、美術でもデンマーク固有の風景や伝統的な風習を残す人々の生活を描くのが推奨されたようです。そして1840年代以降 画家たちは未開の地同然のユラン半島へと足を伸ばすようになり、1870年代初頭にユラン半島北端の漁師町スケーインを「発見」しました。画家たちはプリミティブでヒロイックな漁師の労働に魅了され、1880年代には多くの芸術家が国境を超えて集まり、スケーイン派と呼ばれるようになっていったようです。やがて画家たちの関心は徐々にスケーイン特有の光の描写と画家同士の交流へと移って行き、フランスの印象派を始めとした外国の動向を取り入れた革新的なものとなったようです。ここにはそうしたスケーイン派の作品が並んでいました。
 参考記事:
  スケーエン:デンマークの芸術家村 (国立西洋美術館)
  デンマーク・デザイン (横須賀美術館)

23 オスカル・ビュルク 「スケーインの海に漕ぎ出すボート」
こちらは大型作品で、3人の男たちが木製のボートを浜辺で引っ張り、1人がオールで漕いでいる様子が描かれています。明暗が強く非常にドラマチックで力強い雰囲気となっていて、ここまで観てきた穏やかな黄金期の気質とは異なる方向性に思えます。海の飛沫は絵の具が盛り上がっていて、飛び散る感じがよく表れています。また、海や浜の筆致は荒くて印象派のような感じに思えました。

19 ミケール・アンガ 「ボートを漕ぎ出す漁師たち」 ★こちらで観られます
この画家は恐らく西洋美術館ではミカエル・アンカーと表記されていた人かな。大型作品で、たくさんの漁師が海難救助の為にボートを荒れた海へと押し出している様子が描かれています。力を入れている姿が逞しく、暗めの色調が労働者たちの貧しさと気骨を表しているように思えます。群像がみんな左向きになっているのでそちらに海が広がり難破船がいるのかもしれません。 画面外の奥行きも感じられました。

このミケール・アンガはスケーイン派の中心人物で、奥さんのアナ・アンガの作品も近くに展示されていました。また、ムンクを指導したことで知られるノルウェーの画家クリスティアン・クローグの作品などもありました。

25 ヴィゴ・ヨハンスン 「9月の夕暮れ、スケーイン」
この画家は西洋美術館だとヴィゴー・ヨハンセンの表記かな。草原で草を食む羊たちが描かれた風景画となっています。タイトルでは9月の夕暮れとありますが、空は青白く 日本の夕暮れとはちょっと雰囲気が違います。落ち着いた色調で印象派のような筆致となっているのが面白く、モネに影響を受けたようです。穏やかで心安らぐ作品でした。

31 ピーザ・スィヴェリーン・クロイア 「スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア」 ★こちらで観られます
こちらはそれぞれペーダー・セヴェリン・クロヤー、アンナ・アンカー、マリー・クロヤーのことだと思います。ミケール・アンガの奥さんのアナ・アンガ(画家)と、この作品の画家の奥さんであるマリーイ・クロイア(この人も画家)が砂浜で散歩する様子が描かれ、全体的に淡く白っぽい色彩となっています。目の前の砂浜が大きく取られ、点々と足跡が並んでいるのが叙情的です。2人は小さく描かれているものの、仲良く談笑しているように見えるかな。夕暮れ時を「青い時間」と言うそうで、やや寂しさもありつつ幻想的な感じも受けました。

このクロイアはフランスで研鑽を積んで既に国内で名が知られていたようで、この画家と奥さんが中心となってスケーイン派が集まったようです。


ということで、まだハマスホイの作品が出てきていませんが今日はここまでにしておこうと思います。ハマスホイ目当てで行ったのでやや肩透かしを食らった感じですが、デンマーク黄金期の画家やスケーインの画家の作品も目新しくて楽しめました。後半はハマスホイのコーナーがありましたので、次回は残りの3~4章についてご紹介の予定です。

 → 後編はこちら
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