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ハマスホイとデンマーク絵画 (感想後編)【東京都美術館】

今日は前回に引き続き東京都美術館の「ハマスホイとデンマーク絵画」についてです。前編は1~2章についてご紹介しましたが、後編は残りの3~4章についてです。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC04322.jpg

【展覧名】
 ハマスホイとデンマーク絵画

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/denmark2020/
 https://www.tobikan.jp/exhibition/2019_hammershoi.html

【会場】東京都美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年1月21日(火)~3月26日(木)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
後半も前半同様に自分のペースで鑑賞することができました。引き続き気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<3 19世紀末のデンマーク絵画─国際化と室内画の隆盛>
3章は19世紀末の頃のデンマーク絵画のコーナーです。1870年代半ばまで王立美術アカデミーでは愛国主義的な価値観の指導が行われていましたが、旧態然としたアカデミーに対する反発が強まり官展に対抗した独立展が組織されたそうです。1893年にはゴッホとゴーギャンの作品を展示するなど外国の最新の動向を紹介し、デンマーク美術の国際化に大きな役割を果たしていきます。また、1880年以降のコペンハーゲンでは画家の自宅の室内を主題とするのが人気を博したそうで、幸福な家庭のイメージが特徴となったようです。やがて20世紀が近づくにつれ無人の室内のように物語性が希薄になり 居間や寝室を美的空間として捉えて 洗練された色彩やモチーフの配置などの統合を追求するようになっていったようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

33 クレスチャン・モアイェ=ピーダスン 「花咲く桃の木、アルル」
こちらはゴッホとイーゼルを並べて描いたのではないかと考えられている作品です。この画家はアルルでゴッホに出会い刺激を受けたそうで、この絵ではゴッホの「桃の木(マウフェの思い出に)」と非常によく似た構図で桃の木が描かれています。ピンクの花を咲かせていて、地面も柔らかいピンク色になっています。全体的に淡く優しい色彩なのでゴッホとは趣きが違うようにも思えますが、解説によると輝くような明るさと洗練された色彩はゴッホとの出会いの成果とのことでした。最初はゴッホは頭がおかしいのでは?と思ったという記述も残っているそうで、そう思ったのも仕方ないのかも。

36 ユーリウス・ポウルスン 「夕暮れ」
こちらは夕焼けを背景に草原に立つ2本の大きな木が描かれています。手前では人が寝そべっていて、全体的にぼんやりした画面でピントがずれた写真みたいな印象を受けます。近くで見ると筆致が大胆で、印象派的なものもあるかもしれません。地平線のグラデーションが郷愁を誘う作品でした。

この隣にあったヨハン・ローゼの「夜の波止場、ホールン」という作品も静かで叙情的な雰囲気で好みでした。

40 ヴィゴ・ヨハンスン 「きよしこの夜」 ★こちらで観られます
こちらは暗い室内の中、蝋燭に火の灯ったクリスマスツリーを囲って手を繋ぐ女性と子供たちが描かれています。歌って踊っているようで楽しそうな表情を受けべていて、ささやかな幸せを感じさせる光景です。明暗は強いものの、柔らかい階調となっていて神秘的な明るさを感じます。こうした心地よさや癒やしを「ヒュゲ」と呼ぶそうで、この頃 多くの人が求めていたようです。ちなみにクリスマスにツリーを囲う風習は今でもデンマークに残っているそうで、ヒュゲという概念も健在です。

45 ピーダ・イルステズ 「ピアノに向かう少女」 ★こちらで観られます
この画家はハマスホイの妻の兄で、室内でピアノに向かう少女の後ろ姿を描いた作品です。全体的に明るい色彩で柔らかい光に包まれているように感じます。女の子は椅子に座っていて、足が地面に届いていないのが可愛らしい。解説によると、ピーダ・イルステズはオランダ室内画に影響を受けたそうです。隣にあった「縫物をする少女」(★こちらで観られます)もどこかフェルメールの作品を彷彿とさせる画面となっていて、静謐さと穏やかさが感じられました。
ハマスホイの姻戚関係だけあって、後ろ姿を描いているのは偶然ではないでしょうね。この画家は子供がよく登場するのが特徴かもしれません。

47 カール・ホルスーウ 「読書する少女のいる室内」
こちらは室内の窓辺で読書している少女を描いた作品です。周りには洗練された家具や調度品、絵画などに囲まれていて モダンな印象を受けます。そうした家具などに水平・垂直の線が多用されているので幾何学的なリズム感すら感じられました。

こうして同時代の画家たちを観ていると、ハマスホイもこの流れを汲んでいるのが分かるように思えます。部屋の中の後ろ姿の人物を描いた作品もいくつかありました。


<4 ヴィルヘルム・ハマスホイ─首都の静寂の中で>
最後は今回の主役のハマスホイについてのコーナーです。ヴィルヘルム・ハマスホイはコペンハーゲンに生まれ、この街で画家になり歴史の降り積もった建物や旧市街に建つ古いアパートの室内を繰り返し描きました。ピーザ・スィヴェリーン・クロイアに師事し21歳でデビューしたものの当時は不評だったそうですが、クロイアは高く評価していたようで 理解は出来ないが優れた画家になると言っていたようです。ハマスホイは初期には肖像や人物、風景に取り組んでいたようで、室内画を初めて描いたのは1888年頃だったようです。そして1890年代半ばからは室内画が徐々に主要な地位になり、1889年に移り住んだアパートを描いた一連の作品で名声を獲得しました。それ以降、この世を去るまでコペンハーゲンの異なるアパートに住みながら古い室内を描き続けていくことになります。ここにはそうしたハマスホイの作品と共にハマスホイが描く室内を再現したような扉と窓が設置されてムードを盛り上げていました。

56 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「自画像」
こちらは斜め向きの自画像で、全体的に沈んだ色調となっています。黒い服に黒い髪で、かなり地味めな感じかなw 表情も静かでちょっと神秘的ですらありました。
この隣には古代のレリーフを模写した作品などもありました。アカデミーで学んだ際にギリシャのレリーフを模写したもののようです。

その先には肖像画もありました。やはり暗い色調でやや荒目の筆致です。これは確かに個性を理解されるには時間がかかりそうw

52 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「夏の夜、ティスヴィレ」
こちらは草原に建つ2軒の家を描いた作品です。画面の3/4くらいは淡い空で、白夜なのかもしれません。海らしきものも見える光景で、寂しげで静かで人っ子一人いません。風景画においても まるで時間が止まったような静寂となっていました。

54 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「古いストーブのある室内」
こちらは初めて描いた室内画です。ドアの開いた白い壁の室内に、古いストーブだけ置かれていて空き部屋のような雰囲気です。奥から光が差し込む様子が柔らかく表現されていて、寂しさと温かみの両面が感じられます。シンプルな構図も面白く、不思議な魅力がありました。

63 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「三人の若い女性」
こちらはハマスホイゆかりの3人の女性を描いた作品で、左から順に 椅子に座る義理の兄の妻インゲボー、ハマスホイの妻イーダ、本を読むハマスホイの妹アナとなっています。割と密集しているけどお互いに関心がなさそうで、それぞれ独立した肖像のようにも思えます。全体的にくすんだ色彩となっていて、ややシュールさを感じるほどに静かでした。解説によると、敬愛したホイッスラーの画風に似ていると言われているのだとか。

70 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「室内」 ★こちらで観られます
こちらは手前に白いクロスのテーブル、その奥に黒い服の奥さんの後ろ姿が描かれた作品です。傍らには楕円の鏡と黒い机が置かれていて、全体的に白~黒のモノクロームの色調となっています。窓からは光が差し 繊細な明暗で表されていますが、温かみよりも静けさが漂っています。室内+奥さんの後ろ姿 はハマスホイの代表的なモチーフの組み合わせのように思いました。

69 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「若いブナの森、フレズレクスヴェアク」
こちらはやや斜面状の森の中に木々が立ち並ぶ様子が描かれた作品です。これまた抑えがちな色彩で、空は白っぽく曇りがちで 周りに動物の姿は無く時間が止まったような光景です。解説によると、ハマスホイは自然の中でイーゼルを立てて描いていたようですが、この絵では自然観察と言うよりは記憶の中の風景を描いているのではないかとのことでした。何を描いても静寂が漂ってくるのが面白い個性です。

この隣にあった「ライラの風景」も風景画で、珍しく明るい色彩に思えましたが それでも静かでシュールさすら感じる画面でした。この辺はそうした風景画が並んでいます。

75 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「ロンドン、モンタギュー・ストリート」
こちらはロンドンの大英博物館の近くを描いた作品です。霧がかった中、整然とした町並みとなっていて人の姿は1人もありません。全体的に白みがかっていて、早朝を思わせるかな。外国の街を描いたのは珍しいようですが、紛れもなくハマスホイらしさが伺えましたw

73 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「背を向けた若い女性のいる室内」 ★こちらで観られます
こちらは壁に向いている黒い服の奥さん?の後ろ姿を描いた作品です。脇には銀のトレイを抱え、前にある閉じたピアノには染め付けのようなパンチボウルが置かれてます。また、壁の左上には飾られていて、画面内に水平・垂直の多いスッキリとした構図となっています。女性はやや右下に視線を向けていて表情は見えず、謎めいた雰囲気となっていました。どれも写実的なのに超現実的に思えてしまうw

この近くにはこの作品に出てくるパンチボウルや奥さんが持っていたトレイなども展示していました。ボウルは割れて鎹で接いでいるため蓋が少し開いているようで、絵でもそれが確認できるようでした。

この隣には国立西洋美術館の「ピアノを弾く妻イーダのいる室内」もありました。
 参考記事:国立西洋美術館の案内 (常設 2009年10月)

76 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「イーダ・ハマスホイの肖像」
こちらは奥さんが38歳頃の肖像です。コーヒーカップにスプーンを入れて左の方に視線を向けていて、顔や手が緑がかっているのがちょっと不気味。この前の年に手術を受けたそうで、顔色が悪いのかも知れませんが異様な感じを受けます。解説によると、目の隈や血管の浮き上がりなど細部に渡ってありのままを描いているようで、愛情と感謝を表しているとのことでした。って そうは思えないなあw

77 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「聖ペテロ聖堂」 ★こちらで観られます
こちらは教会の尖塔と屋根の部分を描いた縦長の大型作品です。コペンハーゲンの歴史的建造物らしくオレンジの屋根が重厚な印象ですが、やはり全体的に白い霧のようなものが漂い、手前には枯れ木が立っているなど静かな画面です。むしろ廃墟感すらあるw これはクレステン・クプゲがよく描いた主題だそうで、ハマスホイはクプゲを最も敬愛していたようです。それでもハマスホイらしさがよく表れていて個性を感じました。

この辺は建物を描いた作品が並んでいました。

80 ヴィルヘルム・ハマスホイ 「室内─開いた扉、ストランゲーゼ30番地」 ★こちらで観られます
こちらは10年住んだ家の食堂から続く部屋の眺めを描いた作品です。白い扉が2つ並ぶように開け放たれていて、構図にリズムが感じられます。部屋の中はガランとしていて空き家か廃墟のようにも思えます。扉の上部が妙に歪んでいて奇妙な印象ですが、これはカンヴァスが引き延ばされて歪んでしまったようです。床にはシミがあり、生活の痕跡を残しているかな。日本の侘び寂びにも似た感覚を覚えました。

この近くの「カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地」は温かみを感じる作品でした。
ハマスホイは没後しばらく忘れ去られ、1980年代にようやく再評価されたようです。この いぶし銀のような味わいを発見した人は凄いw


ということで、ハマスホイとデンマークの絵画を楽しむことが出来ました。思ったよりハマスホイの割合が少なかったものの、周辺画家の作品を観ることでハマスホイも一連の流れを受けた作風であることが理解できたように思います。独特の魅力が記憶に残る画家ですので、洋画好きの方にオススメの展示です。
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