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モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展 【パナソニック汐留美術館】

前回ご紹介したカフェに行く前に新橋のパナソニック汐留美術館で「モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展」を観てきました。

DSC04324.jpg

【展覧名】
 モダンデザインが結ぶ暮らしの夢展 

【公式サイト】
 https://panasonic.co.jp/ls/museum/exhibition/20/200111/index.html

【会場】パナソニック汐留美術館
【最寄】新橋駅/汐留駅

【会期】2020年1月11日(土)~3月22日(日)  ※2月29日~3月15日は休館
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
割とお客さんが多く、場所によっては混雑感がありましたが概ね自分のペースで観ることができました。

さて、この展示は1933年に亡命してきたドイツの建築家ブルーノ・タウト、その指導を受けた日本モダンデザインの巨匠 剣持勇、タウトを招き銀座で家具工芸店「ミラテス」を営んだ井上房一郎、井上と親交のあった建築家アントニン・レーモンドとその妻でインテリアデザイナーのノエミ・レーモンド、レーモンドの元でも働いた木工家具デザイナーのジョージ・ナカシマ、そして剣持勇と親交のあった彫刻家イサム・ノグチという 日本のモダンデザインの歴史で重要な役割を担ったアーティストたちの展示となっています。それぞれの分野や方向性に違いはありますが、お互いの能力を認め交流していた様子も含めて紹介されていて、家具や建築の図面、模型、写真など160点程度が並んでいました。各章ごとに簡単にメモしてきましたので、その様子を振り返ってみようと思います。


<第1章 ブルーノ・タウトと井上房一郎たち-「ミラテス」を中心に>
まずはブルーノ・タウトと井上房一郎についてのコーナーです。ブルーノ・タウトは1933年に53歳でナチスから日本に亡命してきて、仙台の商工省工業指導所を経て1934年に井上房一郎に迎えられ高崎の洗心亭に仮住まいを得ました。ブルーノ・タウトは4年ほどでトルコへと去りますが、そのうちの2年2ヶ月を高崎の地で工芸運動に費やしています。一方、井上房一郎は山本鼎の「農民美術運動」に共鳴し、さらに1925年のアール・デコ博の洗礼を受けて触発されたようで、高崎に木工・織物組合を組織し、近代化と生活改善に取り組みました。そして1935年に井上房一郎が銀座に家具工芸店「ミラテス」を開き「タウト井上」印で品質保証した商品を販売していきます。ここにはそうした2人の取り組みが紹介されていました。

最初に井上房一郎によるスチール製の椅子・机、漆塗りなどがありました。シンプルな形で中世ヨーロッパの僧院の椅子を基本形態にしているようです。

その先にはブルーノ・タウトと桂離宮について紹介されていました。(この話、高校の教科書とかで見覚えがありますw) ブルーノ・タウトは来日してすぐに桂離宮を観に行き(その日は誕生日)、パルテノン神殿とならぶ世界的な建築物であると非常に高く評価し、翌月に『ニッポン』を著してやがて世界に知らしめることになります。今回の展示では触れていませんでしたが、この話にはいくつか逸話があって日光東照宮を見せたら「キッチュ」と酷評したりもしていますw 桂離宮の美しさを自分の設計に取り込んだ所、日本的になりすぎてドイツ風を期待した顧客ががっかりして建築計画がフイになったなんて話もあるので、かなり入れ込んでいたのは確かでしょうね。

この辺にはタウトの画帖や日記、東大で行った講義を取ったノートなどもありました。また、イスタンブールから送ったタウトの書簡は掛け軸仕立てになっていて、自在鉤らしきものや帆船、木々などを水墨のように描いていました。手紙の内容は日本の文化を愛していて、ハイカラ(西洋かぶれ)に批判的であり続けて欲しいと心配している様子が書かれているようでした。日本人は今でも日本の良さを知らずに捨てがちですからね…w

その後は小物が並び、グラス、煙草入れなどがありました。丸みが柔らかい印象のデザインです。そしてミラテスについて紹介されていました。ミラテスは「アドミィラ・ティシュウ」の略で、「布地を見る」という意味だそうです。ここにはミラテスのカタログや、タウトがデザインした包み紙、看板などがあります。当時の写真を観るとかなり洒落た店構えで、包み紙までモダンな雰囲気が出ています。

その先には 円形で渦巻くようなデザインの竹細工の裁縫箱や、竹細工のマガジンラック・バスケットなどが並んでいます。やはり日本的な竹に目をつけていたようで、先進性と日本的な要素の両面が感じられます。さらに椅子とテーブルがあり、折りたたみ椅子は木の温かみが感じられる素朴な印象でした。また、特に面白かったのは「伸縮自在本立」という作品で、日本の格子から着想を得て作った本立です。これは名前の通り折りたたんだり伸ばしたり変形が可能となっていて、置き場所や本の冊数に合わせることが出来るようになっています。日本の職人と共に作っていたようで、両者の発想と技術に驚かされました。
なお、ミラテスにはフランク・ロイド・ライトと共に帝国ホテルの建築で来日したレーモンド夫妻も訪れていて、それがきっかけで井上房一郎と親交が始まったようです。ブルーノ・タウトは日記でアントニン・レーモンドを職人気質と評していたのだとか

ここまでは家具ばかりで建築家っぽさがない訳ですが、本人も当時「建築家の休日」と皮肉交じりに言っていたようです。しかし日本にも1軒だけ建築作品があり、熱海の旧日向別邸の地下室が映像で紹介されていました。(ここは見学可能ですが2022年4月まで休館中) 3部屋あり、洋間・社交室・和室となっています。日本的な配色になっていて、設計も幾何学的にスッキリした印象を受けるかな。一方で裸電球がいくつもぶら下がって並んでいるのが装飾的で、屋台みたいなw こういうのはキッチュじゃないの?と思ってしまいますが、整然と並ぶ様子は回廊のような印象でした。また、旧日向別邸の椅子やテーブルもあって雰囲気を盛り上げていました。ここはいずれ行ってみたい所です。


<第2章 アントニン&ノエミ・レーモンド>
続いてはアントニン・レーモンドと妻のノエミ・レーモンドについてのコーナーです。アントニン・レーモンドはチェコ出身のアメリカ人建築家で、前述の通り帝国ホテルの仕事で来日し井上房一郎と出会っています。当初はフランク・ロイド・ライトに強い影響を受けていましたが、西洋建築を日本に押し付けるのではなく、日本に合った建築を目指すようになり独自の道を歩んでいきました。前川國男や吉村順三といった日本の巨匠もアントニン・レーモンドの元で学んでいます。
一方、ノエミ・レーモンドも夫と共にフランク・ロイド・ライトの事務所で働き、帝国ホテルのインテリアにも携わっていたようです。ここには2人の作品が並んでいました。
 参考記事:
  アントニン・レーモンド 「旧イタリア大使館別荘」 【日光編】
  日本の家 1945年以降の建築と暮らし 感想前編(東京国立近代美術館)

ここでは まず軽井沢での聖ポール教会の設計図などが並んでいました。今でも現存する三角屋根の教会です。また、近くにはノエミによる「帝国ホテル 孔雀の間のための装飾習作」などもありました。先程の聖ポール教会の透視図などにも関わっている他、壁紙やファブリックのサンプルの見本帳などもあり、幅広い分野で夫と共に活躍していたことが伺えます。ノエミの手掛けた椅子には竹が使われていて、割と素朴さもありつつ洒脱なところも共存しているような 温かみを感じるデザインでした。

その先には笄町のレーモンド夫妻の自邸と井上房一郎邸についてのコーナーがありました。オリジナルは現存していませんが、レーモンド邸に惚れ込んで そっくりコピーした井上房一郎の邸宅が高崎に残っているようです。設計図を見るのでなく実寸を採寸したそうで、見た目は平屋で屋根が斜めになっている木造建築です。まさに和洋折衷と言った感じで、スッキリ簡潔な美しさがあります。やはりこれも日本の風土に合わせたモダニズム建築となっているようでした。

さらに少し先にはアントニン・レーモンドによる絵画作品もありました。ややキュビスム的な抽象絵画で、高崎の群馬音楽センター(これも設計した)のロビー壁画も手掛けています。他に陶芸作品もあり建築だけでなく多彩な芸術への関心と才能が伺えました。

この章の最後には軽井沢の新スタジオという夏用の事務所も紹介されていました。コンクリート製の巨大な円筒形の暖炉を中心に12角形の和室が広がっています。この暖炉が大黒柱の代わりになっているようで、まるで傘のような作りに見えました。


<第3章 剣持勇の「ジャパニーズモダン」>
続いては剣持勇についてのコーナーです。剣持勇はブルーノ・タウトの助手を務め、戦時中は技術官僚として働きました。そして敗戦後は一転して進駐軍の家具の政策に携わり、やがてプロダクトデザインを手掛けるようになっていきます。公人の立場では量産前提の国策に沿って機能と効率を研究しつつ、私人として民具をこよなく愛してインテリアデザインに用いたようです。また、1950年には来日したイサム・ノグチに製作の場を提供し、1952年にはイサム・ノグチの紹介で渡米しています。そうして公私で培った2つの価値をジャパニーズ・モダンというスタイルへと結びつけていたようです。

ここには椅子が4脚あり、いずれも異なる形態と素材となっています。「スタッキング・スツール202」という公団住宅向けの椅子では秋田の曲げ木の技術が用いられていて、足が滑らかなV字を描いています。一方で座る部分が青となっているのがモダンな印象も受けるかな。まさに伝統とモダンの融合です。

その先には「柏戸椅子T-7165」という木製のどっしりした椅子がありました。これは柏戸という力士の名前を取っているだけあって重厚感があり、ブロックを重ねたモザイクのような模様があります。見えない底の部分はくり抜いて軽量化しているとのことですが、かなり重そう… 割と硬そうに見えたけど座り心地が気になる所です。

そして代表作である「丸椅子C-316」がありました。これは藤を編んで作った丸っこい椅子で、中央に赤い座布団が置かれたようなデザインです。割とあちこちで観られるので、これは馴染み深いかな。ボリューム感があり、優美なフォルムが特徴です。藤という伝統素材を使っているのも親しみやすい。

ここでは映像で剣持勇のその他の仕事も紹介していました。ヤクルトの容器も手掛けていたのだとか。昔の駅のベンチとかも手掛けていたし、意外と身近なところに剣持勇のデザインがあるかもしれませんね。


<第4章 ジョージ・ナカシマと讃岐民具連>
続いては日系2世で「木匠」と呼ばれるジョージ・ナカシマについてのコーナーです。ジョージ・ナカシマはレーモンド夫妻のもとで軽井沢の聖ポール教会などの建設現場監督を務めていました。その後インドに渡り修行者と共に2年間の共同生活をして「美を楽しむ者」という称号を授かったそうです。やがてアメリカに帰国すると1942年に日系人収容所に抑留されますが、そこで日本人の大工から木工の基礎を習得し、手仕事の産業化を目指すモノづくりを始めます。1943年にレーモンド夫妻にホープ農場に招かれ(まだ戦時中で助けてもらった)、1957年にはスタジオを完成させました。さらに1964年には日本の讃岐民具連に招かれて高松で生産指導を行ったようです。

ここには木の椅子がずらりと並んでいました。木霊と交流する・木の声を聞くというのを信条としていたらしく、木目の美しさや素材感が生かされているのが見て取れます。少し先には「コノイド・スタジオ」の写真があり、これはジョージ・ナカシマのスタジオでコノイドとはシェル構造のことを指すようです。コノイドスタジオの椅子や内観写真もあり、特に「コノイドベンチ」という椅子はかなり幅広となっていて目を引きました。形もきちっとしている訳でなく、それが木材ならではの味わいとなっているように思いました。

他にミングレンミュージアム(讃岐民具連の美術館)のテーブルなどもあり、その仕事ぶりを伝えていました。


<第5章 イサム・ノグチの「萬來舎」とあかり>
最後はイサム・ノグチのコーナーです。イサム・ノグチについては下記の記事などを参照頂ければと思いますが、この章では慶應義塾大学の「萬來舎」と「あかり」シリーズを取り上げています。前述の通り剣持勇に製作場を提供して貰い、さらに翌年にはアントニン・レーモンドの依頼を受けるなどお互いに交流があった様子が紹介されています。
 参考記事:イサム・ノグチ ─ 彫刻から身体・庭へ ─ (東京オペラシティアートギャラリー)

ここには萬來舎の模型と写真、そこに飾った石膏作品の写真などがありました。モダンでありながら内部は円柱が並んだ神殿のようで、何処か荘厳な雰囲気のある建物となっています。

最後に「あかり」のコーナーがあり、ここだけ撮影可能となっていました。
DSC04331.jpg
岐阜の提灯に着想を得て作られたもので、現在でも和モダンに欠かせないアイテムになっています。


と言うことで、お互いの交流の様子や代表作を俯瞰することができる展示となっていました。できれば1人1人の個展を観てみたいですが、こうして繋がりを観るとお互いの共通点や違いが分かって面白かったです。インテリアデザインや建築に興味がある方にオススメの展示です。


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