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森田恒友展 自然と共に生きて行かう (感想前編)【埼玉県立近代美術館】

前回ご紹介した埼玉県立近代美術館の常設を観る前に企画展の「森田恒友展 自然と共に生きて行かう」を観てきました。メモを多めに取ってきましたので、前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 森田恒友展 自然と共に生きて行かう

【公式サイト】
 https://pref.spec.ed.jp/momas/2020.2.1-3.22--%E6%A3%AE%E7%94%B0%E6%81%92%E5%8F%8B%E5%B1%95

【会場】埼玉県立近代美術館
【最寄】北浦和駅

【会期】2020年2月1日 (土) ~3月22日 (日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は森田恒友という埼玉県熊谷市出身で明治末から昭和初期にかけて活躍した画家の個展となっています。私は何枚か観た覚えがある程度でほとんど知らなかった画家ですが、初期は青木繁と共に行動し、後に珊瑚会や春陽会といったグループに参加し晩年は日本画を描くなど多彩な活動をしていた画家です。冒頭の略歴によると、20歳で画家を志して上京し、不同舎や東京美術学校で洋画を学び、美術学校で先輩だった青木繁に影響を受けて浪漫主義的な作品を描いていたようです。美術学校を卒業すると雑誌や新聞の挿絵・漫画の仕事を担当しながら美術文芸雑誌『方寸』の創刊に携わりました。そして1914年にはヨーロッパに渡り現地でセザンヌに深く傾倒し、その影響を色濃く受けた作品を残しています。しかし第一次世界大戦が勃発したこともあり翌年には帰国したようで、日本各地を旅しているうちに水墨表現が日本の風景に適していることを見出し、後半生は柔らかな筆使いで旅先や武蔵野の自然をとらえた日本画を発表するようになったそうです。展示は時系列的に初期から晩年まで5つの章に分かれていましたので、詳しくは各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<第1章 出発―洋画家として>
まずは初期のコーナーです。森田恒友は1881年に熊谷で生まれ、1901年に上京しました。中村不折の妻(いと)が同郷だったのを頼って中村不折に師事しましたが、すぐに不折が渡欧してしまったので小山正太郎の画塾 不同舎に入ります。そこで徹底した鉛筆の素描を学んだようで、着実に習得し 晩年まで素描を重視していたようです。1902年に東京美術学校洋画科に入り、さらに1904年からは太平洋画会研究所にも通って学びます。美術学校で同窓だった山本鼎や、太平洋画会の小杉未醒、平福百穂らとは生涯の親交を結び、中でも美術学校の先輩だった青木繁とは2度の共同生活を送るなど深い仲だったようです。青木繁の代表作「海の幸」が誕生した布良への旅行にも坂本繁二郎、青木繁の恋人(福田たね)と同行しています。その為、初期作品は青木繁の象徴主義的な作風に強く影響を受けましたが、やがてそこから脱して自らの方向性を模索していったようです。ここにはそうした初期の作品が並んでいました。
 参考記事:
  没後100年 青木繁展ーよみがえる神話と芸術 (ブリヂストン美術館)
  開館記念展「見えてくる光景 コレクションの現在地」 感想前編(アーティゾン美術館)

1-02 森田恒友 「農家の洗場」
こちらは農家の軒先を描いた作品です。秋の光景らしく背景の木には柿がなり、屋根からもオレンジ色の農作物が吊るされています。細部はあまり描き込んでおらず ややぼんやりしていますが、重厚で素朴な色彩となっていて叙情的な雰囲気でした。

1-05 森田恒友 「大里郡深谷並木」
こちらは両脇に大木が並ぶ並木道を描いた作品で、その間を歩く馬と馬方を鉛筆で素描しています。並木の鬱蒼とした雰囲気を濃淡のみで表現していて、光が差し込む様子なども感じられます。情感豊かで静かな光景でした。

この近くには鉛筆による自画像や父、妹といった身近な家族の肖像もありました。少し先には小学校の修業書なんかもあって、子供の頃から成績優秀で級長だったことが紹介されていました。温厚な人格者だったみたいです。

1-10 森田恒友 「樵夫」
こちらはうずくまって顔を横にして目を瞑る女性と、そのすぐ横で顔を覗き込むような老人が描かれた作品です。周りはゴツゴツしていて背景は海っぽく見えるかな。全体的にぼんやりした感じが青木繁に似た幻想性があり、何かの物語の場面なのかもしれません。象徴主義的な要素もあって確かに青木繁からの影響が見て取れました。

1-12 青木繁・森田恒友 「春の夕」
こちらは青い肌をした人物が5人くらい描かれ、背景に満月が輝くという構図となっています。ぼんやりしていて顔は分かりませんが、道具を持って帰宅する姿のように思えます。青みがかった画面が神秘的で、静かな雰囲気となっていました。青木繁との共作っぽいけど青木繁の絵のようでもあるw


<第2章 『方寸』から无声会へ―模索の時代>
続いては卒業後から渡仏前の模索の時代のコーナーです。1906年に東京美術学校西洋画科選科を主席で卒業すると、幾度か落選したこともあったようですが第一回文展で「湖畔」が入選します。この頃には青木繁の影響から脱して、浪漫主義を基調に柔らかい色調や光で人物・草木などを捉えることに関心の軸を移していたようです。外光表現にも目を向け、房州や高原に取材した作品も残しています。一方、この頃から雑誌や新聞に携わり『方寸』の創刊に関わり、編集や発行の中心となっています。そして1908年からは結城素明の誘いで太平洋通信社に入社して『週刊サンデー』で風刺画や挿絵を担当しました。1911年には大阪に移り、渡欧までに帝国新聞や大阪毎日新聞の挿絵も手掛けていたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

2-11 森田恒友 「漁村(網干)」
こちらは横長の油彩で、漁網を干している3人の男性が描かれています。背景にも女性たちが作業しているのですが、半裸で仕事している人が多いかな。素朴さを感じる光景で、輪郭が強く色は浅めとなっているように思えます。長閑で漁村での暮らしの様子が伝わってくるようでした。

この辺には『方寸』が何ページか紹介されていました。白黒の版画だけでなくカラーページなどもあります。

2-04 森田恒友 「湖畔」
こちらは文展で入選した作品で、湖畔の森の中を描いた作品です。木や草が画面を覆い、正面の木陰には前屈みの姿勢の女性らしき姿もあります。全体的にぼんやりとしていて、鬱蒼とした雰囲気が強まっているように思えるかな。静かな中に人が横切った瞬間のような光景でした。

2-14 森田恒友 「川に沿う街」
こちらは川沿いの街を小高い場所から見下ろすような構図で描いた風景画です。手前の軒先では鉢植えの世話したり洗濯したりと のんびり過ごす人の姿もあります。一方、家々の屋根は幾何学的な連なりとなっているのが面白く、筆致は印象派のように粗めとなっています。道はピンクに染まるなど明るい雰囲気で、色彩も含めて この辺から近代絵画っぽさが増しているように思えました。

この近くにあった「着船」も色が明るく幾何学的な構図の面白さがありました。
その後は漫画の原画がありました。浅草の様子をやや戯画的に描いています。また、俳句雑誌『ホトトギス』や『サンデー』の表紙、大阪時代のスケッチなどもありました。特に『ホトトギス』は今後の交流関係で重要な存在です。

2-18 森田恒友 「海辺風景」 ★こちらで観られます
こちらは二曲一隻の金地の屏風で、木工作業をする人や 戯れる2匹の犬、それを観ている子供、餌を食べるアヒルなどが描かれています。それぞれが自由な雰囲気で、一種の理想郷的な安らぎが感じられます。ここまで洋画だったのが急に日本画になったのに驚きましたが、既に高い力量となっていることに一層驚かされます。素朴で南画に似た画風に思えました。


ということで、今日はここまでにしておこうと思います。初期は青木繁に影響を受けているのが顕著ですが、徐々に画風が変わっていくのが感じられました。後半はだいぶ変わって洋画だけでなく日本画作品が多くなっていましたので、次回は残りの3~5章をご紹介の予定です。

 → 後編はこちら
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