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ターナーから印象派へ 光の中の自然 【府中市美術館】

もう10日くらい前になりますが、久々に府中市美術館に赴き、「ターナーから印象派へ 光の中の自然」展を観てきました。ここは駅から遠いので京王府中駅からいつもバスで行っています。

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【展覧名】
市制施行55周年記念
ターナーから印象派へ 光の中の自然

【公式サイト】
http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/kikakuten/kikakuitiran/turner/index.html

【会場】府中市美術館
【最寄】京王線府中駅/京王線東府中駅/JR中央線武蔵小金井駅など
【会期】2009年11月14日(土)~2010年2月14日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 特別展 1時間30分程度+常設展 1時間00分程度

【混み具合・混雑状況(日曜日12時頃です)】
 混雑_1_2_3_4_⑤_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
今回の展示は主にイギリス画家が中心となっていたように思います。ターナーやミレイなど、有名どころの作品も結構あり、充実した内容だったと思います。

今回も章ごとに気に入った作品をご紹介します。

<1章 純粋風景 主題と自然 イギリス風景画の始まり>
このコーナーはその名の通り、イギリスの風景画が主なテーマとなっていました。オランダ絵画からの影響もみられるとの解説もありました。

ウィリアム・ヘンリー・ハント 「イワヒバリの巣」 ★こちらで観られます
土を背景に鳥の巣が描かれ、周りにはバラやイチゴが転がっています。巣の中には青い卵があり、水彩の絵なのに非常に鮮明で、細かく写実的でした。しかし、これは実際の光景を描いたものではないそうです。

パトリック・ネイスミス 「クラモンド、エディンバラ近郊」
オランダの風景画からの影響が観られると解説されていた作品。山道と木々が描かれ、うねるような幹に生命感があります。空まで精密に描かれ写実的です。このコーナーの作品は精密描写の写生が多かったです。

ジョン・エヴァレット・ミレイ 「グレン・バーナム」 ★こちらで観られます
久々に観るミレイの作品。枯れ木が両脇にある雪道を、赤い帽子?(スカーフ?)をかぶった女性が、奥へと背を向けて歩いています。背景には山が見え、どことなく夕暮れのような寂しい雰囲気です。 ミレイはこの地を去る心残りを描いたという解説がありました。しんみりと心に残る作品でした。

ジョウゼフ・マラッド・ウィリアム・ターナー 「エーレンブライトシュタイン」 ★こちらで観られます
切り立つ崖の上にある廃墟と、その下の港町が描かれた風景画です。手前に船がいくつか描かれ、その中にはカンバスをいじっている人物がいます。 実はこれはターナー本人らしいです。 水彩で柔らかく描かれ、輪郭がゆるく金色に光り輝いているかのような雰囲気の絵でした。なお、この辺にはターナーの絵が4枚ほど飾られていました。


<2章 海、川、湖、そして岸辺の風物>
19世紀の初めに、イギリス画家は海岸に注目するようになったそうです。このコーナーではそうした水辺の作品がテーマになっていました。

ウィリアム・クラークソン・スタンフィールド 「テクセル川河口」
川の河口を描いている作品ですが、ほとんど海みたいな感じです。激しい波の上を行く帆船が描かれていて、船が傾くほどの波に力強さを感じます。嵐かな?と思う一方、空は薄日が差していて意外と明るい雰囲気でした。

ジョン・ブレット 「コーンウォール海岸、トリヴォウズ岬」
鮮やかな青が非常に爽やかな作品。海原と空が大きく描かれ、その波まで精密に描かれています。海の色合いは群青だったり、緑がかったり、微妙な色の変化を見せてくれました。

ジョージ・フレデリック・ウォッツ 「ネス湖」
ぼんやりして薄暗い湖畔(ネッシーで有名なネス湖)の風景画です。縦長の画面の、上部60%くらいは空が描かれていて、霧がかったような静かな印象で、幻想的な雰囲気でした。解説によると作者はこの作品を手放さなかったそうです。


<3章 旅人>
デイヴィッド・ロバーツ 「ガラリヤのカナ」
岩山の中腹から遙か向こうの夕日(朝日?)を望む絵です。光線が放射状に出ていて、明るく神秘的な感じもしました。

ジェイムズ・ベイカー・パイン 「コブレンツとエーレンブライトシュタイン」
アーチ状の橋が見える川の畔の風景です。川には船が浮かび、河岸では洗濯をしている女性達が描かれていました。 光や大気の表現が柔らかいように思いました。(空気遠近法について評価が高いという説明もありました。)

ウィリアム・クラークソン・スタンフィールド 「ブルターニュの海岸」
海岸の風景で、浜では漁師達が何かの作業をしています。波は人の高さくらいまで高くなり、激しい飛沫の表現が見事です。海の向こうには真っ黒な雲が広がり、かごめ?が飛んでいます。嵐が来る予感を感じる作品でした。


<4章 仕事と風景 一人、動物、農耕>
ジョン・リネル 「小川を渡る」
山道を登る馬車と人々の絵です。両脇には木々があり、道の向こうには田園風景が広がって見えます。また、道には轍が残り、微妙に木々や崖の影が落ちています。そうした光の表現が素晴らしく、ロイヤルアカデミーでもこの作品はこの画家の最高傑作と評されたそうです。

エドウィン・ランシア 「乱射」
雪の斜面で倒れる母鹿と寄り添う仔鹿が描かれています。母鹿は狩猟の傷を負い、血を流して死んでいるように見えます。仔鹿がその母鹿の乳を飲もうとしているのが不憫です。これは、子連れの鹿を撃ってはいけないというルールを守っていない者を非難する意味が込められているそうです。また、周りには無数の足跡があり、雪の質感を感じたり、鹿とは対照的に爽やかで神々しい陽からは、超然とした自然の雄大さを感じました。

トマス・シドニー・クーパー 「橋の上の牛」
小川の橋とその周りの牛達の絵です。橋の上で寝そべる2頭の牛、その周りの2頭の牛、手前で川の水を飲む牛、背後にも1頭という感じで、6頭ほどが群がっています。牛飼いも見当たらず、のんびりした雰囲気です。また、奥から明るい光が輝き、神聖な風景のようにも見えました。

ジョウゼフ・ファーカーソン 「冬の日没」
縦長の絵で、雪道を羊の群れがこちらにやってくる様子や、牧羊犬や羊飼いが描かれています。背景には柔らかな夕陽のグラデーションが見え、郷愁を誘います。日が暮れて帰るのかな?

ジョウゼフ・マラッド・ウィリアム・ターナー 「タブリ・ハウス-准男爵J.F.レスター卿の屋敷、風の強い日」
湖に浮かぶ帆船と、塔が描かれています。帆船は左から右へと吹く風に押し倒されるようになっていて、見えない風の流れを感じます。また、手前の水面には光が当たり、その少し奥には真っ黒な影が覆われ、頭上に雲があることが想像できます。一見晴れているようですが、嵐が近づく様子が間接的にわかる作品でした。


<5章 人のいる風景>
ウィリアム・マルレディ 「初めての船出」
大仰なタイトルですが、水辺でたらいに乗った子供ですw 周りにはそれを引っ張ったり支える家族が描かれています。背景にも見物している人が2人いますが、その2人はぼやけていて、手前の家族がスポットライトが当たったかのように目を引きます。また、肉感的で生気のある子供たちの描写が印象的でした。

ジョージ・クラウセン 「春の朝:ハーヴァーストック・ヒル」
ガス灯のある石畳の大通りを歩く人々の絵です。まず目に入るのが手前に大きく描かれた喪服の女性とその子供で、身分の高そうな雰囲気です。そして、その背景ではつるはしをもって道路工事を行う男性が描かれていました。これは意図的に身分の違う人々が一緒にいる風景を描いたそうです。何か当時の政治的な意味でもあるのか?と思いながら観ましたが特に解説はありませんでした。

エリザベス・アデラ・フォーブズ 「ジャン、ジャンヌ、ジャネット」 ★こちらで観られます
イギリスの印象派の作品です。緑豊かな小川の脇の小道で手押し車に座る女性と、その女性が摘んだハーブを食べる白ヤギが描かれています。奥には弟と思われる子供が釣りをしていて、幸せでのんびりした雰囲気が出ています。花の表現などは印象派っぽいですが、ヤギの毛は細かく描かれ、ふわふわした質感を感じさせました。

ヘンリー・ハーバート・ラ・サング 「プラム拾い」
林の中でプラムを拾う2人の子供です。木漏れ日があちこちに落ちていて、プラムを拾う子の背中や足にも光が落ちています。子供の姿勢は今にも動きそうで、一瞬を切り取ってきたような臨場感ある絵でした。


<6章 建物のある風景 建築物と土地の景観図>
ジョン・ウィリアム・ゴッドワード 「金魚の池」 ★こちらで観られます
噴水のような水場の脇に座り、水の中の魚に餌をやろうと身をひねる女性が描かれています。背景には真っ赤な花やローマ風の立像が描かれ装飾的で華麗な感じもします。映画か物語のワンシーンのような絵でした。

ウォルター・クレイン 「ホイットビー修道院」
13世紀に建てられたという聖堂の廃墟の絵です。廃墟となっても風格を感じ、荘厳な雰囲気を称えています。質感まで伝わるような描写でした。

ノーマン・ウィルキンソン(オブ・フォー・オークス) 「ボックス村」
丘から見おろす村の風景です。似たような家々が並び、遠くの森や丘も見渡せます。日差しがあたりのんびりとした光景ですが、人が見当たらず、時間が止まったような雰囲気でした。


<7章 フランスの風景画>
最後はおなじみの名前が揃う、フランス風景画のコーナーでした。

ピエール=エドゥアール・フレール 「雪合戦」
何十人もの子供が学校の前で雪合戦をしています。雪を投げている子、手で防御している子、しゃがんで雪を集める子、雪の上でうつ伏せになっている子までいますw 生き生きとしていて可愛らしいですが、雪は薄くて土と混ざってぐちゃぐちゃになってそうな感じでしたw

ウジェーヌ=ルイ・ブーダン 「トルーヴィル、満潮時の埠頭」 ★こちらで観られます(PDF)
港のようすを描いた作品。帆船が何隻かいて、薄い青の水面や空の表現がブーダンならではの美しさでした、清清しい作品です。

カミーユ・ピサロ 「ルーヴシエンヌの村道」 ★こちらで観られます
村の入口と思われる場所で、下り坂を行きかう人や村の様子が描かれています。光による微妙な色の違いや澄んだ空気を感じるような表現は流石印象派です。秋の趣を感じる風景となっていました。

ポール・ゴーギャン 「ディエップの港」 ★こちらで観られます
まだゴーギャンが印象派だった頃の作品です。港の風景が描かれていて、薄曇な感じですが、淡く軽やかな表現に見えます。よく観るゴーギャンのイメージとは違っていて、貴重な経験でした。


ということで、予想よりも楽しめる内容でした。機会があったらもう一度観たい内容です。
この後、常設展覧もさらっと観てきました。メモを取らなかったので常設の感想は割愛しますが、特集展示で
「明治・大正・昭和の洋画」 9月19日(土)~2010年2月14日(日)
「冬の絵」 11月14日(土)~2010年1月10日(日)
をやっていました。
参考リンク:http://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/jyosetu/ichiran/jyosetuten/index.html
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Comment
No title
すごく感じの良い美術館ですね。
Re: No title
>みことみさん
コメントありがとうございます。 ここは駅から遠いのが難ですが、美術館の周りには並木道があったりして、環境も素晴らしいです。市民と美術館が一体になった感じがする、都下ならではの美術館ですよ。
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■2011/11/21
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■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
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■2009/10/28
Yahoo!カテゴリーに登録されました
  → 絵画
  → 関東 > 絵画

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