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奇蹟の芸術都市バルセロナ (感想後編)【東京ステーションギャラリー】

今日は前回に引き続き東京ステーションギャラリーの「奇蹟の芸術都市バルセロナ」についてです。前編では1~3章についてご紹介しましたが、後編では残りの4~6章についてご紹介していこうと思います。まずは概要のおさらいです

 → 前編はこちら

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【展覧名】
 奇蹟の芸術都市バルセロナ

【公式サイト】
 http://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202002_barcelona.html

【会場】東京ステーションギャラリー
【最寄】東京駅

【会期】2020年2月8日(土)~4月5日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
上階に比べると下階のほうがやや空いていて概ね自分のペースで観ることができました。引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介して参ります。


<4章 「四匹の猫」>-
4章は「四匹の猫」というサロン的なカフェについてのコーナーです。3章でも観てきたラモン・カザス、サンティアゴ・ルシニョル、ミケル・ウトリリョ、ペラ・ルメウの4人はパリのカフェ「黒猫」(シャ・ノワール)からヒントを得てバルセロナに「四匹の猫」を開きました。 ここにはバルセロナ内外から芸術家たちが集まり、芸術談義をしたり展覧会、音楽会、人形劇、朗読会などの催しが行われ雑誌・パンフレットなども発刊したようです。そうした発刊物には若い芸術家に手掛けさせていたようで、グループ展でも後進の画家を参加させて活動の機会を与えていたようです。そんな「四匹の猫」にはピカソも18歳の頃から通い、初の展覧会を開いたり芸術家同士の交流を持っていたようです。ここにはそうした活動を伝える品々が並んでいました。

まずは人形劇や影絵のパンフレットやポスターがありました。ラモン・カザスの「影絵芝居のポスター」はロートレックを思わせるデザインで、パリのカフェ文化からの影響がうかがえます。また、人形劇の人形もあり当時の「四匹の猫」で大人気だったそうです。大人だけでなく子供向けの公演もあったらしいので幅広く支持されていたのかも知れません。

4-21 リカル・カナルス 「カフェ・コンセール」
こちらは観客席から舞台で踊る踊り子たちを眺めている構図の絵画です。手前には演奏している楽団や着飾った女性たちの姿もあります。割と筆致が粗めで印象派のような感じで、題材的にもドガなどを思い起こしました。当時の賑やかな様子が生き生きと伝わってきます。この画家はセザンヌなどポスト印象派も含めて研究していたそうで、フランス風な絵に見えました。

この隣にあった同じ画家の「化粧」という作品もマネを彷彿とする主題でした。

4-9 10 ラモン・カザス 「貞奴の肖像」「川上音二郎の肖像」
こちらは日本人の夫妻をモデルにした素描の肖像画です。2人の一座は欧米各地で日本舞踊や歌舞伎を披露して人気を博したのですが、この絵は1902年に3日間のバルセロナ公演を行った際、カザスが自宅のアトリエに招いて描いたようです。やや不安げな様子で座る洋装の貞奴と、寛いだ感じで足を組む川上音二郎が対照的に思えます。素早い筆致でやや簡素ではありますが表情が読み取れるほどに特徴を捉えていました。
 参考記事:文化のみち二葉館の写真 (名古屋編)

4-19 エルマン・アングラダ・カマラザ 「夜の女」
こちらは花柄の黄色いドレスを着た女性の肖像で、胸に手を当てて微笑んでいます。足をやや捻って優美なポーズとなっていて、背景も薄緑色の花柄で華やいだ印象を受けます。等身大くらいあるので見栄えが良く、筆致は粗めですが妖しい色気が漂っていました。

続いては四匹の猫でのピカソについてのコーナーです。ピカソは14歳頃からバルセロナに住んでいて、四匹の猫に通い画家たちとの交流の中でエル・グレコを意識した作品やデッサンを数多く残したようです。主催者のラモン・カザスにも対抗意識を持っていたようで、既にこの頃から評価は高かったそうです。

4-27 パブロ・ピカソ 「エル・グレコ風の肖像」
こちらは顎髭を生やした黒髪の男性が描かれ、背景も黒で溶け込むように見えます。縦に引き伸ばされた感じの筆跡で、顔も細長くなっているので確かにエル・グレコに影響されていることが伺えます。ピカソの貴重な初期作品を観られて驚きでした。

この近くにはピカソが手掛けた雑誌の挿絵もありました。また、友人のカルラス・カザジェマスの「酒場のジェルメーヌ」という絵がありました。カルラス・カザジェマスは失恋して自殺するわけですが、恐らくその女性を描いているようです。彼の自殺はピカソにも大きなショックを与え、「青の時代」に移るきっかけになりました。

4-13 イジドラ・ヌネイ 「ジプシー女の横顔」
こちらは赤い服を着た黒髪に褐色の肌のジプシー女が描かれた作品です。俯いて疲れた感じの後ろ姿となっていて、全体的にくすんだ色彩で 背景は緑がかっていて、服の赤が強めに見えても派手さは無く貧しく沈んだ印象を受けます。解説によると、この画家はかつては風景を中心に描いていたようですが、病に苦しむ人々を目にしてから都市に生きる貧しい人や病人・社会の底辺に追いやられた人などを描くようになったそうです。そしてその主題はピカソにも大きな影響を与えたそうで、確かにピカソの青の時代の寂しげな雰囲気と共通するものを感じました。


<5章 ノウサンティズマ - 地中海へのまなざし>
続いては「ノウサンティズマ」という芸術家派についてのコーナーです。1898年の米西戦争敗北を機にスペイン中央政府との対立が激しくなったカタルーニャでは民族性を重視する保守的思想が強くなったそうで、3章でご紹介した芸術運動(ムダルニズマ)のようなアール・ヌーヴォー的な表現様式は形骸化したものとみなされ批判の対象となっていったようです。そして代わりに地中海文明への回帰を特徴とした「ノウサンティズマ」というローカルな表現様式が生まれたようです。ここにはそうした作品が並んでいました。

5-7 ジュアキム・スニェー 「森の中の三人の女たち」
こちらは畑の見える樹の下で3人の裸婦が描かれた作品です。ポーズを取ったり、座ったり、様子を伺う仕草をしたりと三者三様となっていますが、色彩・構図・描法などはセザンヌそのものと言った感じです。背景に現実風景があるのはマネみたいな…。まあエクス・アン・プロヴァンスもバルセロナからそれほど遠くないとは思うけど、やっぱりフランス風なのでは…w 「ノウサンティズマ」って何だろう?と逆に分からなくなりましたw

5-4 ホアキン・トーレス=ガルシア 「村の女たち」
こちらは様々な果実を籠に淹れて運ぶ3人の女性と、座っている1人の女性を描いた作品です。平面的な描法で、解説によると地中海的な古典美やアルカイックな造形が特徴となっているようです。何処と無くドニの神話を描いた作品などに似ているように思えましたが、牧歌的で理想郷のような光景となっていました。

5-9 パブロ・ガルガーリョ 「ピカソの頭部」
こちらは前髪を分けたピカソの頭部の彫刻で、遠くから観てもピカソと分かるw キュビスム的な要素もありつつ単純化の具合が面白く、風貌や特徴をよく捉えていました。

この近くにはカダファルクによる「1917年開催予定のバルセロナ国際博覧会俯瞰図」という計画図もありました。この博覧会は第一次大戦の影響により1929年に延期され、この案の完全な実現には至らなかったそうです。当時の写真やポスターもあり、ポスターはアール・デコ風でした。


<6章 前衛美術の勃興、そして内戦へ>
最後はミロやダリをはじめとする前衛美術の勃興と スペイン内戦の頃に関するコーナーです。1906年にバルセロナにダルマウ画廊がオープンし、この店のオーナーのジュゼップ・ダルマウは かつて四匹の猫で個展も開いた元画家で、アートディーラーになった人物のようです。この画廊では国内外の新しい芸術を紹介し、若い前衛芸術家に刺激を与えると共に 彼らを国際市場へと送り出していきました。ジョアン・ミロやサルバトール・ダリもそうした画家で、この画廊から世界へと進出したようです。また、モダニズム建築の巨匠ル・コルビュジエやミース・ファン・デル・ローエに影響を受けたバルセロナの建築家たちも新時代の建築を示し 建築界でも前衛運動が起きたようです。しかし1930年にダルマウ画廊は経済的な理由で閉廊し、1934年になると10月革命によってスペイン情勢に暗雲が立ち込め 前衛芸術の流れが絶たれてしまいます。さらに1936年7月18日についに内戦が勃発し、以後長い独裁が続きます(民主化するのはなんと1977~78年頃です) ここにはそうした内戦時代直前までの品が並んでいました。

6-1 メラ・ムッテルミルヒ 「画商ジュゼップ・ダルマウの肖像」
こちらはソファに腰掛けてポケットに手を入れている画商ジュゼップ・ダルマウを描いた肖像です。こちらをじっと観ているような視線を感じます。かなり大胆な筆致で、ざらついたマチエールとなっていて 塗り残しのような白い部分も多くあります。個性的な画風で驚きました。

6-4 ジュアン・ミロ 「花と蝶」 ★こちらで観られます
こちらは横浜美術館でよく見かける作品で、晩年のミロの画風とは異なった画風です。花瓶に入った木と蝶が描かれ、みんな正面を向いて描かれています。それが何とも平面的でシュールな雰囲気で、控えめな色彩と共に素朴さすら感じられました。明るい色彩で有名なミロの作品とは思えないほどですw なお、ミロは1918年にダルマウ画廊で初個展を開催したそうです。この画廊で大いに刺激を受けて前衛芸術に大きな関心を寄せてセザンヌ、ゴッホ、フォーヴ、キュビスムなどを吸収していったのだとか。

この隣にあったミロの「赤い扇」はフォーヴ的な作品でした。

6-11 サルバドール・ダリ 「ヴィーナスと水兵(サルバット=パパサイットへのオマージュ)」
こちらは1925年にダルマウ画廊で開いた初個展に出品された作品です。水兵がヴィーナスを後ろから抱くような感じで、恐らく建物から海を見ているような光景です。キュビスム的な面もありつつ新古典主義の時代のピカソの作風に近いものを感じます。(というか、遠目で観てピカソかと思ったw) 水兵とヴィーナスという突拍子もない組み合わせがシュールで、既にシュルレアリスムへの傾倒の萌芽がみられました。

この近くにはピカソの作品などもありました。

6-30 ル・コルビュジエ 「無題(バルセロナ陥落)」
こちらは絵画のリトグラフで、2人の人物が描かれた作品となっています。狭い所に押し込められているように身をかがめていて、タイトルから察するにスペイン内戦でのバルセロナの抑圧ぶりを表現しているのではないかと思います。キュビスムを発展させたピュリスムでの表現となっていて、ル・コルビュジエの画家としての一面がよく分かる作品でした。
 参考記事:ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 感想前編(国立西洋美術館)

内戦前にル・コルビュジエはバルセロナを訪れていたようで、その時の写真などもありました。当時のバルセロナの建築家に関する資料などもあります。

スペイン内戦は反乱軍が勝利し、フランコ将軍の軍事独裁時代となりました。フランコ政権下では公的な場でのカタルーニャ語の使用が禁止されるなど、カタルーニャは再び抑圧の時代を迎えます。(またかという感じですね…)

6-27 パブロ・ピカソ 「フランコの夢と嘘Ⅱ」
こちらは共和国陣営への支援金を得る為の版画作品です。漫画のようにいくつかのコマ割りがあり、そこに戯画的な感じで人々が描かれているのですが、手を挙げて苦しむ人や殺される母子などショッキングな場面となっています。「フランコの夢と嘘」を描いた年には有名な「ゲルニカ」も描いているので、フランコとそれを支援したナチスへの怒りが込められているように思えました。

6-25 ジュアン・ミロ 「スペインを救え」
こちらもスペイン内戦中の1937年に開催されたパリ万博のスペイン共和国パビリオンで共和国陣営への支援金を募るために販売されたポスターです。力こぶを見せる農民らしき人が描かれ、画面下には「私はファシスト陣営に対して時代遅れの暴力しか認めない。その反対の陣営に対しては計り知れない創造性を持った人々を認める。その創造性は世界を圧倒する力をスペインに与えるだろう。」と書いてあるそうです。ミロの力強く屈しない姿勢がそのまま現れているような作品でした。


ということで、後半はピカソ、ミロ、ダリといった巨匠を輩出した背景を知ることが出来ました。合わせてカタルーニャやスペインの歴史も知ることができるので、バルセロナに旅行に行ったことがある方や行ってみたい方にオススメの展示です。

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