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白髪一雄 【東京オペラシティアートギャラリー】

前回ご紹介した常設を観る前に東京オペラシティアートギャラリーの企画展「白髪一雄」を観てきました。この展示は一部で撮影可能となっていましたので、写真と共にご紹介していこうと思います。

DSC05594.jpg

【展覧名】
 白髪一雄 

【公式サイト】
 http://www.operacity.jp/ag/exh229/

【会場】東京オペラシティアートギャラリー
【最寄】初台駅

【会期】2020年1月11日(土)~3月22日(日) ※2月29日(土)~ 3月16日(月)は臨時休館
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
空いていて快適に鑑賞することができました。しかしこの展示はコロナウィルス予防の影響で臨時休館していて、その後の予定も変わる可能性もあるみたいです。お出かけの際は公式サイトをチェックした上、感染予防の注意を最大限するようお願いいたします。

さて、この展示はロープに掴まって足で床においたキャンバス等に直接描く「フット・ペインティング」で名高い現代画家 白髪一雄の個展となっています。白髪一雄は具体美術協会に参加し立体作品なども残していますが、波打つような大迫力の大型作品が特に魅力ではないかと思います。今回の展示ではそうした作品に加えて制作資料などを含めて120点ほど並んでいました。展示は8つの章に分かれていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。なお、今回は作品解説も章立てのキャプションもほぼ無いので、私の簡単な感想が中心となります。


<第1章 知られざる初期作品>
まずは初期のコーナーです。白髪一雄は幼少期より書画骨董、チャンバラ映画や芝居、浮世絵版画や中国の怪異小説(特に水滸伝)などに親しんでいたそうで、最初は日本画を学んでいたものの京都の美術専門学校を出てから油彩画に転向したそうです。少年時代には地元の尼崎のだんじり祭で山車と山車が衝突による流血の情景を目にしたことがあるらしく、それが白髪一雄の原風景となり後に血のイメージを意識した作品に繋がっていくようです。ここには初期の1949~52年頃の作品が並んでいました。

1 白髪一雄 「鳥監」
こちらは黒い鳥かごに入った4羽の鳥を描いた作品です。フラミンゴのような鳥の姿が確認できますが、かなり簡略化されていて筆致は早めです。まだ具象は残っているものの 既に大胆な表現となっていて、色も明るく塗り方も荒い感じでした。

この辺はまだ具象的な作品がありました。キュビスムを取り入れた感じのもあったりして 画風は安定せず、模索している様子が伺えました。

6 白髪一雄 「妖草II」
こちらは暗い背景に三角が無数に並ぶような抽象的な作品です。白い部分があって目に鮮やかだけど、不穏な色彩に思えるかな。初期の岡本太郎を思わせるような不協和音と不気味さを感じる作品でした。

この近くには既に抽象化が進んでいる作品が並んでいました。


<第2章 「具体」前夜:抽象からフット・ペインティングへ>
続いて2章はフットペインティングを始めた頃のコーナーです。白髪一雄は1952年に金山明・村上三郎・田中敦子らと先鋭的な表現をめざして「0会(ゼロ会)」を結成し、1953年~54年辺りから手を使って制作するようになり、更に素足で描く「フット・ペインティング」を創始していきました。当時はキャンバスではなく紙に描いていたようです。ここには1953~1954年頃の抽象画が並んでいました(フットペインティングっぽいのは次の章だったような…)

11 白髪一雄 「作品」
こちらは赤い渦巻のような抽象画です。中心に目のような物があり、暗い赤バラと言うか台風の目と言うかw 隣にも似た感じの作品があり、それは中心から無数に放射線状に線が飛び出すような感じでした。明暗があって微妙に花のようにも思えるけど、視覚的効果が面白い作品でした。


<第3章 「具体」への参加>
続いては具体美術協会に加入した頃のコーナーです。白髪一雄は1955年に「0会(ゼロ会)」の仲間とともに、吉原治良率いる「具体美術協会」に参加し、実験的な作品やパフォーマンスを発表していきました。1956年あたりは野外作品なども手掛けていたようです。ここにはそうした時代の作品が並んでいました。

19 白髪一雄 「ミスター ステラ」
こちらは巨大なキャンバスに足で描いたアクションペインティング作品で、赤と黒が渦巻いて流れを感じます。この頃には代名詞的なフットペインティングの作風が出来上がっていたように見えるかな。タイトルはフランク・ステラを意識したのではないか?と思えました。

17 白髪一雄 「作品(赤い材木)」 ★こちらで観られます
こちらは赤い四脚のような木製の作品です。側面がギザギザしていて色と共に荒々しい造形に思えます。何に使った作品か分かりませんでしたが、力強い印象を受けました。


<第4章 「水滸伝シリーズ」の誕生>
続いては『水滸伝』の登場人物の名前などがつけられた水滸伝シリーズのコーナーです。豪傑たちの名前と共に血を連想させる赤・黒に染まる大型作品が多く並んでいます。一部、3章の内容もこの章に展示されていました。

22 白髪一雄 「天異星赤髪鬼」
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とにかく赤黒く染まった画面がおどろおどろしい程のインパクトです。赤髪鬼というタイトルも納得ですが、むしろ血みどろの事件現場みたいな…w 少年時代のトラウマ炸裂と言った所でしょうか。

16 白髪一雄 「赤い液(再制作:大)」(複製)
こちらはガラスの水槽のようなものに謎の白い物体と赤い液体状に見えるものが入っている作品です。まるで実験室で臓器を入れたガラス瓶のようなイメージかなw やや不気味さを感じつつ、こんな立体作品もあったのかと驚きました。 わざわざ再制作するほど気に入ってたのかな?

26 白髪一雄 「長義」
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こちらは床に置かれて展示されていました。実際に描く時もこんな感じで置いていると思われます。やや小さめですが、飛び散るような勢いがあり大型作品と同じくらい力強く感じられました。

33 白髪一雄 「猪狩壱」
こちらはイノシシの毛皮をキャンバスの上に張り、その上から赤と黒の絵の具を塗りたくった作品です。やはり絵の具は飛び散っていて、首がもがれて血を出して倒れているような印象を受けます。中々スプラッターな感じでショッキングです。年表によると1961年に初めてイノシシの毛皮を使った作品を制作したそうで、白髪一雄は当時 猟友会に入っていたそうです。そしてその時に観た石仏・石塔・梵字などに強く惹かれ、密教への関心を深めていきました。(この後、密教関連の章があります。)

14 白髪一雄 「指で強く押してください」
これは前章の内容ですがこの章にありました。茶色いウレタンのザラついた表面に×や+に見える切り込みがあり、切り込みに沿って赤が塗られています。タイトルのように実際に押すことは出来ませんが、何かの傷のように見えたかな。この頃の作品は痛みのようなものを感じさせるように思いました。

28 白髪一雄 「地暴星喪門神」
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こちらは水滸伝の豪傑のあだ名を作品名にしたもの。天○星とか地○星というあだ名で108人いるうちの1人です(聖闘士星矢のスペクターではなく水滸伝が元ネタですw) 何だか馬が跳ねるような感じに見えるかな。具象的ではないけど躍動感があるのが面白い。

この辺は同様に水滸伝の豪傑の名前のシリーズが並んでいました。


<第5章 スキージ・ペインティングと制作の変容>
続いては素足にかわってスキージ(長いヘラ)を用いて描いていた頃のコーナーです。1965年からスキージを用いる制作が始まり、スキージをコンパスのように用いて扇形や半円をモチーフにした作品を制作していたようです。ここにはそうした素足では描けないような作品が並んでいました。

39 白髪一雄 「色絵」
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見事に半円形になった作品。勢いは変わりませんが、流れに方向性が出たように思えます。色彩についても確かに色絵の陶器を思わせるような感じかな。以前より明るくなったように思えました。

41 白髪一雄 「平治元年十二月二十六日」
こちらはかなり巨大な作品で、先程の「色絵」のキャンバスを2枚繋いでいます。うねりのような幅の広い流れがあり、やはりスキージならではの表現となっていました。とにかく間近で観ると迫力があります。


<第6章 「具体」の解散と密教への傾倒>
続いては密教への傾倒に関するコーナーです。猟友会の活動の際に観た梵字などから1960年代頃から密教への関心を深め、1971年には比叡山延暦寺で得度して天台宗の僧侶(法名は白髪素道)にまでなっています。一方この頃、具体美術協会の吉原治良が亡くなり具体美術協会は解散したようです。ここには密教の教えを取り入れたような大型作品が並んでいました。

45 白髪一雄 「貫流」
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白黒で流水や山水を思わせるかな。今までの赤っぽい色合いから一気にモノクロの水墨的な印象を受ける色彩に変わったように思えます。

50 白髪一雄 「密呪」
こちらは暗い背景に9の字肩に赤黒いものが描かれた作品です。周りには絵の具が飛び散っていて、ブラックホールのような印象を受けるかな。もしくは曼荼羅のようなものでしょうか。やはりスキージを使っているようで、これまでにない神秘性も加わっているように思えました。

この辺には密教の仏の名前のタイトルの作品が多く並んでいました。


<第7章 フット・ペインティングへの回帰と晩年の活動>
続いては再びフットペインティングに回帰した晩年のコーナーです。仏道修行の後、スキージで円相を多く描いていたようですが、動きに乏しい円の反復で制作は停滞したようで 1978年に久しぶりに足だけで描く作品を制作したようです。そして仏教的なタイトルは減っていき、代わりに中国史などにまつわるタイトルが増えたようです。1984~90年代なかばになると黒・白黒・白のみの作品が制作されたようですが、一方で1990年代には黄色・オレンジ・ピンクなど明るい色彩が以前よりも頻繁に使用されるようになったようです。ここにはそうした時期の作品が名編んでいました。

58 白髪一雄 「酔獅子」
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たしかに獅子が下向きで身構えているようにも見えるかもw 足だけで描いた作品はスキージに比べると有機的で無秩序な動きで、炸裂するような勢いを感じさせますね。

54 白髪一雄 「扶桑」
こちらは白地に白のペインティングをした作品です。厚塗り具合は他の作品と同じですが、白一色なのが何とも斬新。厚塗りで物理的に立体感があるので、影がついて流れが確認できます。これまでの色彩感覚とは全く異なる方向性で驚きました。

55 白髪一雄 「游墨 壱」
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こちらは黒一色。墨跡のようで日本っぽさを感じるかな。モノクロの作品も新しい境地のように思えました。

57 白髪一雄 「うすさま」
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こちらが晩年の作品。青やオレンジ、ピンクなどこれまで観なかった明るい色彩が特徴です。色というのは不思議なもので、これは何となく温かみを感じますw タイトルは恐らく烏枢沙摩明王のことでしょうね。


<第8章 水彩・素描にみる形成期の模索と制作の裏側>
こちらは資料のコーナーです。制作に使われた品などが並んでいました。

62 白髪一雄 「尼崎与茂川夜景」
こちらは夜の川の畔の家々を描いた水彩画です。家の明かりが川面に映って揺らめく様子が叙情的で、ここまで観てきた作品とはえらく作風が違っています。1948年頃の作品のようで、1章よりも前の頃はこういう絵を描いていたのかと驚きました。

65 白髪一雄 「無題」
こちらは1952年頃の椅子に座る裸婦を描いた素描です。やけにカクカクしていてキュビスム的な感じもしつつ、細長い身体がベルナール・ビュフェの作風に似ているように思えます。生きる痛みのようなものを感じさせる裸婦でした。

この先には1960~70年代に使っていたスキージ(スキー板みたいな)や天井から吊り下がるロープ、絵の具、絵の具を入れた缶などがありました。また、水彩による下絵のようなものもあり、画風は油彩に似ているものの墨一色や赤黒が多かったように思えます。

少し進むと『具体』誌に載せた文章の原稿などもあり、最後に映像で制作風景を流していました。上半身裸で缶に絵の具を入れて床に置いた画面に撒くように塗っています。そしてロープに掴まり、足で滑るように伸ばして描くスタイルとなっていました。サポートを務める奥さんの存在も大きいように思えます。


ということで、白髪一雄の作風の変遷を代表作と共に観ることができました。もうちょっと解説やキャプションが欲しかった所ですが、ダイナミックな作品ばかりで間近で観ると圧倒されました。休館期間もありますが、騒動が落ち着いたら現代アートの好きな方はチェックしてみてください。


おまけ:
この記事で コロナウィルス騒動による休館ラッシュ前に行った展示のメモが尽きましたw 次回はとりあえず現在の休館状況のまとめでも書こうかと思います。

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