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《ペーテル・パウル・ルーベンス》  作者別紹介

今日は作者別紹介で、現在のベルギーのアントウェルペン(アントワープ)を中心に活躍した17世紀の巨匠ペーテル・パウル・ルーベンスについて取り上げます。ルーベンスは大工房を構え、当時から各所に大きな影響を与えました。画家のみならず外交官や人文学者としても活躍し、工房や自宅の設計を手がける建築家であり、美術コレクターであり、ラテン語や古典文学に深い造詣を持ち 母語のフラマン語だけではなく、イタリア語、フランス語、スペイン語、英語も自在に操るマルチリンガルで、さらに人当たりも良いという超人的な人物でした。ルーベンスの筆使いは「細部を省略して 逆に誇張を用いて画面に統一感のある激烈なビジョンを生み出す」と評され、優美かつドラマティックな画風が特徴となっています。寓意画、神話画、宗教画などを多く手掛け、工房や他の巨匠と共同で制作した作品も多く存在しています。今日はそんなルーベンスについて過去の展示の写真などを使ってご紹介していこうと思います。


ペーテル・パウル・ルーベンス 「眠る二人の子供」
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この子供は兄の子であるクララ(右)とフィリップ(左)と考えられ、兄が亡くなった1612~13年頃に描かれました。赤みがかった頬の色など、生気あふれる感じがルーベンス独特だと思います。写実的だけどよく見ると割と素早い筆致になっているのが驚きです。ちなみにこの絵を元に工房が作った「聖母子と聖エリサベツ、幼い洗礼者ヨハネ」という作品があります。ルーベンスの工房はその規模と効率的な製作方法において際立っていたそうで、助手たちに求めたのはルーベンスの手本を参照しつつ、それを模して描くことだったようです。しかし、ほとんどの助手にとってその水準は不可能だったので、ルーベンス自身が加筆することで一定の質を保とうとしていたのだとか。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「L'Enlevement de Proserpine」(プロセルピナの略奪)
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こちらは1614~15年頃の作品。連れ去られるプロセルピナが両手を挙げる劇的な構図となっています。ルーベンスは1600年にイタリアに留学し、8年の間に古代彫刻やルネサンスの巨匠、イタリア画家たちの作品を研究しています。特にマンテーニャ、ヴェロネーゼ、ティツィアーノ、カラヴァッジョ、アンニーバレ・カラッチ、ラファエロなどからの影響が強いようです。ルネサンス期に見つかった古代ギリシアのラオコーン像を模写したりもしているので、劇的なポーズもそうした所からの着想かもしれませんね。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「ユノに欺かれるイクシオン」
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こちらは1615年頃の作品。ユノはギリシャ神話のヘラのことで、ゼウスの妻で嫉妬深い神です。イクシオンはゼウスの浮気に嫉妬しているヘラを誘惑する訳ですが、ゼウスに企みがバレて雲で作った偽物のヘラを抱いています。右で手を上げているのが本物で、左の抱かれているほうが偽物ですね。よーく観ると偽者は左足の先が曖昧になってきていて雲から出来た感じw 眼もうつろで魂が抜けてるようにも観えます。それにしてもみんな肉感的で、瑞々しい肌の表現はルーベンスの真骨頂だと思います。数あるルーベンスの作品の中でも特に印象深い作品です。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」のポスター
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こちらは1615~16年頃の作品で、ルーベンスの5歳の娘の顔が描かれています。凛々しい雰囲気で聡明そうな顔をしていて、ルーベンスからの愛情が感じられます。この子はこの絵の5年後にわずか12歳で亡くなってしまいましたが、ルーベンスは家族思いで家族の絵をよく描いています。2度の結婚によって8人の子供を設け、仕事としてではなく自分の為に家族の肖像画を描いていたのだとか。多才で温厚で家族思い…本当に完璧超人ですw

ペーテル・パウル・ルーベンス 「エリクトニオスを発見するケクロプスの娘たち」の看板
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こちらは1615~16年頃の作品で、アッティカの初代王ケクロプスの娘たちが、大地の女神ガイアの子のエリクトニオスを発見するシーンが描かれています。ミネルヴァが決して開けてはいけないと言って渡してきた籠を開けたらこの赤ちゃんがいたわけですが、蛇の尾が生えていて明らかに人間ではありません。 赤ちゃんの周りには3人の裸婦(娘たち)とプットー(キューピッド)と1人の老人の姿があり、裸婦達はいずれも血色の良い滑らかな肌で 強い光が当たっています。また、3人のポーズ・向き・表情はそれぞれ異なっていて、それぞれ魅力的です。さらに背後にはパンの像やガイアを示す像があり、プットーは別の話のメリクリウスの恋をほのめかしているらしく、様々な寓意がてんこ盛りになっています。ルーベンスの教養の深さと練りに練った構成が伺えますね。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「マルスとレア・シルウィア」の一部のポスター
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こちらは1616~1617年頃のタペストリーの下絵(の一部のコピー)で、本物は横長の作品です。この男性はマルスで、女性は火の巫女のシルウィアとなっていて、この女性に恋して手を差し出している様子となっています。シルウィアの驚くような表情が生き生きしていて、映画のワンシーンのような光景です。 また、翻るマントや 光が反射する甲冑、光沢のある女性の服などが一層に劇的な雰囲気を強めています。女性の背後に火が燃えていたり、足元にキューピットがいるのが前後の物語も表しているようです。ちなみにこの2人は後に結ばれて、その双子の子がローマを建国したとされています

ペーテル・パウル・ルーベンス 「神々の会議」
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こちらは1622~25年頃の作品です。こちらの群像もダイナミックでちょっとどれが誰かはわかりませんが、特に真ん中の赤いマントの人物に自然に目が行くと思います。流れるような配置や色彩感覚は流石ですね。なお、後にこれを模写したのがルノワールで、模写は上野の国立西洋美術館のコレクションになっています。

ルーベンスは1623年からは絵筆を持った外交官として各国の宮廷で手腕をふるいながら和平交渉に望んだそうで、宗主国スペインとイギリスの和議の成立に貢献しています。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「豊穣」
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こちらは1630年頃の作品で、タピスリーのための下絵と考えられています。手にもているのは「豊穣の角(コルヌコピア)」で、角からこぼれ落ちる果実は人間に対する自然の恵みを象徴しているのだとか。仕上がりはやや簡素な感じですが、これが下絵とは思えないほどの優美さですね。なお、ルーベンスは晩年になると古代の理想美から離れて現実的かつ豊穣さを象徴するようなふくよかさを強調した女性を描くようになっていったようです。この絵ではかつての劇的という感じよりは優しく慈愛に満ちた印象を受けます。

ペーテル・パウル・ルーベンス 「聖アンデレの殉教」のポスター
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こちらは1638~39年頃の作品で、殉教した十二使徒の1人を描いています。本物は4mくらいある大画面で、ちょうど見上げるような等身大となっています。足元には処刑を命じたものの民衆の怒りによって中止させようとするローマ総督が馬に乗った姿で描かれていて、周りにいる2人の女性のうちの1人はキリスト教に改宗した総督の夫人だそうです。このポスターでも何となくわかりますが、実物を近くで見ると結構大胆なタッチとなっていて、特に十字架に光がスポットライトのように差し込むのが目を引きます。ルーベンスの生きた時代は宗教改革の時代で、対抗宗教改革の一環で分かりやすくリアルで信者の感情に訴える宗教画が求められていました。この絵は見事にそれを体現したような感じではないでしょうか。

ちなみに昔あったアニメの『フランダースの犬』で最後にネロが観たのはルーベンスの宗教画だった訳ですが、最近の若者はフランダースの犬を知らないでしょうねw


ということで、ルーベンスはどれを取っても傑作揃いとなっています。海外の美術館展をやると1~2点くらい入っていたり、数年に1回くらいの割合で個展も開かれるので巨匠の中では割と目にする機会も多いかな。人物像が特に魅力で、何度観ても発見のある奥深い画家です。

 参考記事:
  ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想前編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ルーベンス 栄光のアントワープ工房と原点のイタリア 感想後編(Bunkamuraザ・ミュージアム)
  ルーベンス展―バロックの誕生 感想後編(国立西洋美術館)
  ルーベンス展―バロックの誕生 感想後編(国立西洋美術館)

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