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医学と芸術展:生命(いのち)と愛の未来を探る 【森美術館】

森アーツセンターギャラリーで「ヴァン クリーフ&アーペル ザ スピリット オブ ビューティー展」を観た後、階上の森美術館に移動し、「医学と芸術展:生命(いのち)と愛の未来を探る」を観てきました。 前回書き忘れていましたが、「ヴァン クリーフ&アーペル展」「医学と芸術展」、そして東京シティビューの3つの入場券のセットが2000円とお得な価格になっていました。

DSC_8090.jpg


【展覧名】
医学と芸術展:生命(いのち)と愛の未来を探る

【公式サイト】
 http://www.mori.art.museum/contents/medicine/index.html

【会場】森美術館
【最寄】六本木駅
【会期】2009年11月28日(土)~2010年2月28日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 1時間30分程度

【混み具合・混雑状況(土曜日16時30頃です)】
 混雑_1_②_3_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_③_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_④_5_満足

【感想】
この展覧はその名の通り、医学や人体をテーマにした内容で、古今東西の様々な美術品がテーマに沿って展示されていました。ルネサンスから現代まで、時代も地域もバラバラでかなり広範囲な内容となっていますので、そこに繋がりや流れを感じようとするのは難しいかもしれません。(少し散発的な気もします。) テーマも大雑把なので、無料で貸してくれる解説機を借りたほうが細かい解説で理解は深まると思います。 ・・・とはいえ、何じゃこれ!?という驚きに満ちた内容で、特に知識が無くても楽しめる妙なものも多かったので、細かいことは気にしなくても良いかも知れません。とりあえず気に入った作品を通じてご紹介しようかと思います。

<第一部 身体の発見> ★展示風景 その1 その2 その3
このコーナーは身体の科学的/美的探究の歴史を振り返るコーナーでした。

ジャック=ファビアン・ゴーティエ・ダゴティ
右:「横からみた妊婦解剖図」 左」「切開された赤ん坊を抱く女性の解剖図」
上記の展示風景その2に写っている1760年代の2枚の縦長の絵です。
右の絵は、横向きの裸婦が子供を抱いている絵ですが、母親のおなかは破れたように内臓まで見えいます。子供も肉がむき出しになってるのが怖い…。
左の絵は、踊るように手を上げる裸婦が描かれ、おなかには子供が宿っているのが透けて見えます。これも筋肉まで透けて見えるのが理科室の解剖人間みたいでした。また、胎児が上向きになってたりするのが違和感を感じたのですが、これは正確な描写ではないようです。しかし18世紀当時は珍しいということで人気を博したのだとか。裸婦の足元に沢山いる内臓むき出しの子供など不気味な雰囲気もありました。

白宜洛(パイ・イールオ) 「リサイクル」 ★こちらで観られます
リアカーと巨大な心臓の模型を使った2009年作の現代アートです。周りには新聞や空き缶が転がっていています。これは臓器の売買なども思わせる「リサイクル」をテーマにしているようでした。先ほどの17世紀作品と同じ部屋にあるのですが、何の脈絡も無く面食らいました。こんな感じの取り合わせが最後まで続きますw

レオナルド・ダ・ヴィンチ 「頭蓋骨の習作」 ★こちらで観られます(下の中央あたりです)
何とレオナルド・ダ・ヴィンチの作品も3点ありました。いずれも1500年前後に描かれた人体のスケッチで、エリザベス女王のコレクションだそうです。スケッチとはいえダ・ヴィンチの作品を観るのは2~3年ぶりかな。(ちなみにミケランジェロの素描もあります)
この作品は2つの頭蓋骨が上下に描かれています。上は横向きの骸骨に四角が描かれ、下はそこを切除した後の絵となっています。ダ・ヴィンチは人体を知ることは宇宙を知ることと考えていたらしく、超精密な描写と細かいメモを取って観察しているのが伺えました。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 「脳室」
雄牛の脳の解剖図です。脳室に蝋を流し込み、固めてから開いたようです。脳室の関係を明らかにするために描かれていて、これも精密な描写で細かく描かれていました。

レオナルド・ダ・ヴィンチ 「肝臓の血管」
これも毛細血管まで描かれていそうな精密なスケッチです。ダ・ヴィンチはこれを「血管の木」と呼んでいたそうです。画家の才能を持ちつつ科学的な医師のような才能ももつマルチぶりがよくわかる作品でした。

円山応挙 「波上白骨座禅図」 ★こちらで観られます
1780年代の作品。ここら辺まで来ると、ダ・ヴィンチの後に応挙という取り合わせのぶっ飛び具合にもそろそろ慣れてきましたw これは海原の上に浮かぶように座禅をする白骨が描かれています。会場でもただならぬ存在感を持っていました。白骨の下にある波は、人の煩悩を表し、座禅で押さえ込もうとしているのだろうか?という解説もありました。なお、応挙は西洋の解剖も学んでいたそうです。

河鍋暁斎 「骸骨図」
流れるような筆遣いで1871年に描かれた2枚の掛け軸です。これは即興で描かれたものらしく、かなり簡素に描かれていますが、男女の骨の違いを書き分けているとのことです。余白には精子と卵子を思わせる記号的なものもあり、明治初期の河鍋暁斎が西洋医学に長けていたことが伺える作品でした。

この辺りには象牙の人体模型が沢山ありました。取り外すとおなかの部分が開き、理科室の解剖人形みたいな感じです。特に妊娠した女性の模型が多かったかな。 また、チベットなどの人体の観念図などもあり、様々な人体観が楽しめます。正確なものもあれば、そうでないのもあり、カオスな展覧コーナーですw

黒田清輝 「レンブラント・ファン・レイン作『トゥルプ博士の解剖講義』模写」
レンブラントの作品を模写した黒田清輝の1888年作品で、遠目からレンブラントっぽいと思いました。(流石に近寄るとちょっと違う気がします) この絵は黒い広つば帽の男性が死体の腕を器具でつまみ上げて、7人の男性達に講義をしている様子が描かれています。17世紀当時はこうした解剖が大学で行われ、市民も一種のエンターテインメントとして見物していたそうで、「解剖学シアター」とも言える存在だったようです。この絵の周りでもそうした様子が描かれた作品がいくつかありました。ちょっと怖いですが、こうした背景もあり当時のオランダ医学は進んでいたのだろうなと思いながら観ていました。

グンター・フォン・ハーゲンス 「頭から脊柱までの人体切断片」
2006年くらいに作られた現代アートです。以前、この美術館でデミアン・ハーストの輪切りになった牛を見たことがありますが、これは縦に薄く輪切りになった人間です。本物かどうか解説はなかったですが、このリアルさは本物だと思います。少し小柄な感じで、樹脂によって固定されているようでした。んー、本物だとしたら倫理上の問題とか大丈夫だったのか心配になりました。


<第二部 病と死との戦い> ★展示風景
このコーナーは先ほどの人体中心のコーナーと少し違い、医学や老いへの抵抗が中心となっているコーナーのようでした。

アーネスト・ボード 「歯科手術で初めてのエーテル使用」
歯医者が麻酔のエーテルを患者に嗅がせているシーンを描いた絵です。この作品は1846年の作品ですが、この頃には麻酔が使われていたようで、痛み無しで手術が可能となっていたようです。医学の進歩を感じる作品でした。

狩野一信 「五百羅漢図 第59幅 神通」
1854年の作品。おどろおどろしい雰囲気の羅漢の掛け軸で、全部で100幅あるうちの1幅らしいです。集まった羅漢が怪我人や病人に処方箋を書いている様子をが描かれているようです。羅漢も医者のような処方箋を書いているのがちょっと現実味を感じます。

デミアン・ハースト 「外科手術(マイア)」 ★こちらで観られます
2007年の作品で絶対に写真だと思ったら絵でした。近くで何度観ても写真に見えるほど写実的です。この絵は作者のパートナー(奥さん?)の帝王切開の手術の様子を描いていて、チューブの中を赤い血が流れる様子など緊迫感のある絵でした。デミアン・ハーストといえば、この美術館で観た「母と子、分断されて」(輪切りの牛の親子)のイメージが強いですが、これだけ写実的な絵がかけるとは知りませんでした。


この辺は様々な医療器具が並んでいました。薬瓶、義手、義足、義眼、注射器、切断用のこぎりなどの手術道具、巨大な人工呼吸器、電気治療器具、果ては貞操帯やマスターベーション防止器なんてものまでありましたw また、メメント・モリ(汝、死ぬことを忘るることなかれ)をテーマにした作品が多いのも特徴でした。

アルヴィン・ザフラ 「どこからでもない議論」
2000年に作られた横長の抽象画のような作品ですが、これは板の上に貼られたサンドペーパーで骸骨をすり潰すまで削って描いたものらしいです。何てことを…と思いましたが、こうして作品として生き続けているのかもしれません。

スージー・フリーマン&リズ・リー 「記念日」
2000年に作られた、6500個もの経口避妊薬を縫い付けて作られたウェディングドレス。計算すると25年分もの量らしいです。これから家庭を作っていくはずの女性に避妊薬というブラックジョークみたいな作品ですが、家族計画を考えさせるような面もあるようでした。

フィンセント・ファン・ゴッホ 「ポール・ガシェ医師の肖像」
1890年の作品で、ゴッホの生涯唯一の銅板画です。描かれている医師は最晩年の主治医らしく、パイプをくわえ温厚そうな顔をしています。白黒でもゴッホとわかる独特の筆致が印象的でした、ゴッホは最後は孤独の内に自殺しますが、この絵は意外と親しげな雰囲気を持っているように思えました。(いい作品ですが、この展覧会の主題とは医師って点しか接点がないような気がw)

ヴェルター・シェルス 「ライフ・ビフォア・デス」
2003~2005年頃に撮られた、左右一対の白黒の大きな写真です。全部で26対あるようですが、ここでは4対が展示されていました。その中で1対ピックアップして紹介すると、左は温和な老いた男性がこちらを見ている写真、右は目を閉じて眠っているような写真です。実はこの右の写真は、左の写真を撮った1ヵ月後に男性が死に、その直後に撮られた写真だということでした。これらは本人や家族の了承を得て撮られているらしく、死は終わりではないと信じている人など、死に際しての考えや意味を問いかけるような作品でした。皆一様に穏やかな死に顔だったのが心に残ります。


<第三部 永遠の生と愛に向かって>
最後のコーナーは現代医学・科学から得たインスピレーションをアートにした作品が主に成っていました。

ジル・バルビエ 「老人ホーム」 ★こちらで観られます
2002年の作品。歩行器をつけたスーパーマンや、点滴を受けて横たわるキャプテンアメリカなど、老いたアメコミヒーロー達の実物大の蝋人形です。若くて強い彼らもいずれは老いや死を迎えることから逃げられないというのを、ユーモアをもって皮肉っていると解説されていました。単純に何だこれ!?って面白さがあります。

パトリシア・ピッチニーニ 「ゲーム・ボーイズ・アドヴァンス」 ★こちらで観られます
2002年の作品。壁でゲームボーイ(今ならDSかな)で遊んでいる子供が2人いるぞ?と思ったら作品でした。普通に服を着ていて完全に会場に溶け込んでいますw しかし顔を観ると子供なのに老人のような顔で、皺があり白髪交じりと解説されていました(白髪はないように思うけど…) これはクローン羊のドリーからインスピレーションを受けた作品で、クローンはオリジナルの細胞の年齢で生まれる(最初から老いている)というのを表現したそうです。 未来にはこういう事態もありえるのかな? 薄気味悪いです。

イ・ビョンホ 「ヴァニタス胸像」
2009年の作品です。胸像の顔の部分がゴムのようになっていて、時間と共に空気が入ったり抜けていきます。それが人物の年が老いたり若くなったりするように見えました。こうして見ると弛みが老いて見える一番の原因なのかな。

野村仁 「tRNA+チトクロームC又は双胴の鳥」
1992年の作品です。これは野村仁展でも似たような作品を観たことがあるかも。作品の近くに寄るとコンピューターの声でtRNAの4つの塩基の名前を読み上げます。tRNAの組み合わさった様子が双胴の鳥のように見えるということで、このタイトルになったようでした。流石、科学とアートの融合といえばこの方の得意な分野ではないでしょうか。

ロナ・ポンディック 「クリムソン・クイーン・メイプル(しだれモミジ)」 ★こちらで観られます
2003年に作られた、銀色の木の模型です。綺麗だなと思ってよく観てみると、人の顔のような果実?が付いています。これは作者の顔で、クローン技術と生命の樹をモチーフにしているようです。ちょっと不気味ですが意味深でした。


最後には今回の展示にもあった義手や人体模型を使った映像作品もありました。


ということで、面白くて色々とカオスな内容でした。時代や国を飛び越えても、共通して人体に関心を寄せるのは当然といえば当然かもしれません。その表現やアプローチの違いが多様に垣間見れる展示でした。ヴァン クリーフ&アーペル展と合わせてお勧めです。
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Comment
No title
先日、行ってきました!
こちらの記事を参考にさせて頂いたので、じっくり観れました。
音声ガイドが無料なのはいいですね!
Re: No title
こんにちは
満足されたみたいですね。カオスな展覧なので音声ガイドがあると助かりますw
記事がお役に立って幸いです^^
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