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《ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル》  作者別紹介

今日は作者別紹介で、19世紀初頭のフランスで活躍した新古典主義の画家ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルについて取り上げます。アングルは新古典派の巨匠のジャック=ルイ・ダヴィッドに学び、若手画家の登竜門であるローマ賞を受賞しました。そしてイタリアに留学すると、制作しながらルネサンス期の巨匠の研究などを行っていましたが本国からは批判ばかりされていて、留学期間終了後もフランスには帰らず20年近く滞在しいます。しかし、1824年に帰国しサロンに出品した「ルイ13世の誓願」で評価が一気に高まり、アカデミー会員となりダヴィッドの継承者と見做され地位と名誉を手にしました。1834年には再びイタリアのローマに向かい、フランスアカデミーの院長にもなっています。晩年は巨匠として名を馳せ、弟子のシャセリオーを始め数多くの画家に影響を与えていて、特にルノワールは「アングル様式」と呼ぶスタイルを確立するほどアングルに傾倒しています。アングルの作品は重要すぎることもあって日本にはあまり来ませんが、今日も過去の展示や旅行で撮った作品とともにご紹介していこうと思います。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「ヴァルパンソンの浴女」
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こちらは1808年の初期作品です。アカデミー・フランセーズ在籍中にローマで描かれたもので、留学の成果を評価してもらうためにフランスの美術アカデミーに送った3つの作品のうちの1つだそうです。この後も裸婦の作品が多く出てきますが、この作品は特に滑らかで写真のような精密さと艶が感じられます。特に肩から腰にかけての色使いには驚きますね。

ちなみに新古典主義とは古代ギリシア・ローマへの古典様式を理想として写実性や理性を重視した流派です。それまでのロココのような華美な流れに対抗したもので、古代遺跡が発掘されたのをきっかけに再びルネサンスをやってるような感じかな。(ルネサンスよりももっと古代ローマそのものって感じ) 絵画だけでなく建築や彫刻でも同様の動きがあり、神殿のような建物はだいたいこの流れです。絵画学校のアカデミーは新古典主義が中心的存在になっていくわけですが、その反動で近代美術というアンチテーゼを生んでいくことになります。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「ユピテルとテティス」
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こちらは1811年の作品(グラネ美術館のキャプションだと1835年だった気がしますが、1811年とされています) これも留学先から本国に送った3枚のうちの1枚で、アングルは自身の最高傑作と考えていたようです。写真だと分かりづらいですが かなり大型で、見上げるような堂々たるゼウスの姿と艷やかなテティスの肌は理想的な美しさとなっていて、これぞ新古典主義と言った感じです。これは『イリアス』のワンシーンで、テティスがゼウスにトロイア軍に加勢するよう頼んでいます。左後ろにいるのは嫉妬深い妻のヘラで、じーっと観てますねw これだけ見事な出来なのに、アカデミーでは賛否両論だったようで、引き伸ばされたテティスの体などが批判されました。この引き伸ばしは勿論意図的にやっていて、女性の美しさを強調するためのもののようです。後で出てくる作品はもっと顕著なのでアングルの特徴の1つと言えそうです。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「グラン・オダリスク」
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こちらは1814年の作品で、アングルの作品の中でも特に有名です。オダリスクはハレムの女奴隷のことで、官能的な美しさを見せています。そして、この作品が最も女性の体の引き伸ばしを感じるのではないでしょうか。写実を良しとする新古典主義なのに、胴の長さ・細さや手足の長さがおかしいだろ!と当時かなり批判されました。これはマニエリスムなどからの影響で強調する為にやっていたようですが、当時はあまり理解されることはなく、しばらく批判され続けたようです。しかし、解剖学的な正しさより自分が美しいと思うように表現するというのは非常に大きな改革で、後にルノワールやピカソはこうした点にも大きなインスピレーションを受けています。絵画の良し悪しって、時代とともに評価が変わるものですね。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「アンジェリカ」
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こちらは1819年の作品。何だかめちゃくちゃ窮屈そうな格好をした女性像ですw この絵は次に紹介する作品のヴァリアントの1つで、アンジェリカだけ抜き出していて ここには描かれていませんが鎖で繋がれているのでこういう格好になっています。これも解剖学的にはどうなんだろ?って所もありますね。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「アンジェリカを救うルッジェーロ」
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こちらは1817年~1819年頃の作品。ルドヴィーコ・アリオストの「狂えるオルランド」の1シーンを絵画化したもので、ヒッポグリフに乗ったルッジェーロが鎖に繋がれたアンジェリカを助けにきています。足元には怪物がいて、生贄になっているようです。ストーリーも場面もアンドロメダの話そっくりなので、私は以前これはアンドロメダを描いたものかと思ってましたw ちょっと画面がテカっていて申し訳ないですが、先程のヴァリアントに比べて明暗も一層ドラマチックになっているように思います。なお、この作品も当時は批判されたようです。巨匠への道は遠い…w

と、ここまで批判されまくっていたアングルですが、1824年のサロンに出品した「ルイ13世の誓願」で評価が一気に高まります。これは故郷のモントーバンのノートルダム大聖堂のための祭壇画で、同じサロン出品作のウジェーヌ・ドラクロワの「キオス島の虐殺」に対抗する作品として絶賛されました。これには本人も意外だったようで、周りの他の画家の作品に気圧されてたほどだったのだとか。その背景として当時、ロマン派が台頭しはじめ、新古典主義の巨匠ダヴィッドはナポレオン失脚に伴って亡命していたので、新古典主義の新しい旗手を求めていたというのもあるようですが、これによってアングルは押しも押されもせぬ新古典主義の巨匠となりました。翌年にはレジオン・ドヌール勲章、1829年には国立美術学校の教授といった地位も得て、これを境に評価が一変しています。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「Madame Marcotte de Sainte-Marie(マダムマルコットドサントマリーの肖像)」
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こちらは1826年の作品。名声を得ると肖像画の仕事もあるんですねw 穏やかでじっとこちらを見つめていて、ちょっと緊張しているようにも思えるかな。質感豊かで写実的な印象です。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「若い女の頭部」
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こちらは年代不明の作品。恐らく習作と思われます。仰ぎ見るようなポーズで、肌や顔に瑞々しい印象を受けます。描きかけでこれだけ実力を感じさせるのは流石ですね。

ジャン=オーギュスト=ドミニック・アングル & アレクサンドル・デゴッフ 「パフォスのヴィーナス」のポスター
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こちらのポスターの右側がタイトルの作品で、イタリアから再び帰ってきた後の1852年頃に描かれました。この絵でも左肩から首の辺りなんかは不自然だったり、背中から足の辺りはどうなってるんだ?って感じではありますが、そんなのお構いなしで滑らかな裸体がアングルらしくて美しい。これは高弟が背景を担当した共作となっていて、このポスターでは分かりませんが背景にキプロス島のパフォスの神殿が描かれています。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「ルイ14世の食卓のモリエール」
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こちらは1860年の作品。足を組んで当時流行っていたトルコ風の格好をしているのがルイ14世です。テーブルの隣に座っているのが喜劇作家のモリエールらしく、当時の逸話を絵画化したようです。それにしてもルイ14世の座り方はどうなってるんだw と、ここまで観てくるとこれがアングルの味だと分かりますね。

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「トルコ風呂」
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最後にこちらは1862年 当時82歳のアングルの代表作! 手前で楽器を弾く後ろ姿の女性に見覚えはありませんでしょうか? 実はこれは最初にご紹介した「ヴァルパンソンの浴女」を元にしています。他にも過去のスケッチなどを元にいているらしく、この作品の為にモデルを使うことはなかったようです。まさにアングルの裸婦の集大成といったところでしょうか。老いても衰えない情熱を感じます。ちなみにこの作品は発注者に受け取りを拒否され、ルーヴル美術館でへの寄贈も2回拒否されているそうです。巨匠なのに何だか昔に戻ったみたいな扱いですねw


ということで、アングルは新古典主義の巨匠なのに我が道を行った画家で、近代絵画の画家たちに多大な影響を与えました。アングルへの評価を見ていると、美術の評価というのは当時には真価はわからず 長い歴史の中で決まっていくような気がしますね。たまに大型展で少数だけ来ることもあるので、機会があったら是非目にしてみてください。
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