《ピエール=オーギュスト・ルノワール》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、日本でもつとに有名なフランスの画家ピエール=オーギュスト・ルノワールについて取り上げます。ルノワールは印象派の画家として扱われることが多いですが、ロココ的な要素があったり印象派に行き詰まりを感じて古典に傾倒した時期もあり、サロンでも入選を繰り返しています。また、晩年には独自の様式を確立していて、印象派だけではくくりきれない画家ではないかと思います。ルノワールは「絵は楽しくて美しいものでなければならない」という考えをもっていたため幸福感に溢れた作風となっていて、上流階級の人々や裸婦をよくモチーフにしていました。今日も過去の展示で撮った作品とともにご紹介していこうと思います。
ピエール=オーギュスト・ルノワールは仕立て屋の息子としてフランスのリモージュに生まれ、3歳でパリに家族と共に移り住みました。13歳の頃から磁器の絵付け職人の工房で働き、19歳で画家を目指し、グレールの画塾に入ります。その後は、
19歳~38歳(1860~1879年頃):グレール画塾の修行時代。1874年から始まる印象主義への参加
39歳~50歳(1880~1891年頃):印象派展から離れサロンでの成功を経て、アルジェリアやイタリアへ旅行を経験。そこで得たものから模索と試作の時期。1880年代には「アングル様式」という古典主義への回帰
51歳~78歳(1890~1910年頃):様式を集大成した時期
となります。初期の頃は神話をモチーフにした作品、印象派時代には生活習慣や物語性の無い戸外風景の中の作品が多く描かれました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」

こちらは1872年の作品です。アルジェリアに行った後に描いたのか?と思ってしましますが、これは初期のものでドラクロワの「アルジェの女たち」などを下敷きにパリで描いたもののようです。女性の美しさをうまく表現しているのは流石ですが、後の作品に比べると色彩は落ち着いていて輪郭も明瞭なように思います。
なお、この絵を描く2年前の1870年(当時29歳)の時に普仏戦争が勃発して騎兵隊に従軍しています。また、この絵の2年後の1874年(当時33歳)の時にモネたちと「第1回印象派展」を開催しているので、これからという時期ですね。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」

こちらは1876年の作品で、第3回印象派展に出品されています。今はアーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)の看板娘と有名かな? モデルはパトロンだった出版業者の娘で、こう見えて4歳の頃の姿です。微笑んでこちらを観る顔は理知的で 子供とは思えないほどの気品を感じます。この絵では印象派らしく筆触分割の技法が使われていて、パレットの上で絵の具を混ぜずにキャンバスに並べています。陰影も青や紫なんかを使っていて、当時はこうした技法は批判されがちでした(裸婦に落ちた影が青紫がかっているので、死体みたいだとか言われてみたり) しかし依頼主と本人は非常に気に入ったようで、生涯大切にしたのだとか。素晴らしい名画です。
第3回展にはルノワールの作品で最も有名な「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」も発表しています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「リュシアン・ドーデの肖像」

こちらは1879年のパステルの作品。お菓子を持ってふっくらした可愛い子供が描かれ、背景の赤も温かみを感じます。 輪郭は結構しっかりしているように思えるかな。ルノワールは少年時代に磁器の絵付けをしていて、それは絵画にも影響を及ぼしています。特に、柔らかな色彩や優美さ、官能的で繊細な点などはロココ様式の影響を受けているようです。この絵もどこかロココっぽさを感じました。
この絵の1年前の1878年にはサロンに応募して入選しています。ついに官展で認められたことで肖像などの注文も増えて画家としての成功を得ました。一方で印象派の仲間であったドガはサロンに参加する者は印象派展に相応しくないと考えていたようで、その考えの違いからルノワールは第4回から第6回の印象派展には参加していません。
ちょっとこの辺の時代の作品の写真が無いのでご紹介しづらいですが、1881年(40歳)の時にアルジェリアとイタリアに旅していて、アルジェリアの気候に影響を受けて全体的に色鮮やかで光が溢れるような画風へと進化しています。イタリアではルネサンス期の巨匠 特にラファエロに感銘を受けています。元々はアカデミックな絵画を否定していた訳ですが、次第に古典絵画への傾倒を深め1883年~1888年頃にかけて「アングル様式」と呼ぶデッサン重視の時代を迎えます。このアングル様式の時代の代表作がダンス3部作の「都会のダンス」「田舎のダンス」「ブージヴァルのダンス」(いずれも1883年)です。特に都会のダンスはそれっぽい感じがします。しかし、この画風の変化はあまりパトロンに受けなかったようで、以前ほど売れなくなったのだとか。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ムール貝採り」

こちらは1888~1889年頃の作品。この絵では波打つようなタッチでややボンヤリした感じもしますが、輪郭はしっかりしているのでまだアングル様式の傾向が強いように思えます。子どもたちが手を繋いでいたり、穏やかで優しい雰囲気が溢れている点はルノワールならではですね。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「Madame de Bonnieres(ボニエール夫人の肖像)」

こちらは1889年の作品。これもはっきりくっきりした画風となっていて、これを見ても印象派っぽさはあまり感じないと思います。一方で柔らかく温かみのある赤い背景はルノワール独特の色彩感覚じゃないでしょうか。こちらを見て微笑む女性も幸せそうな雰囲気です。 それにしても胴の細さがやばいw 昔の女性は大変ですね。
この翌年の1890年に「田舎のダンス」のモデルをつとめたアリーヌと結婚しています。1885年にはアリーヌとの間に長男のピエールが生まれているんで、順序があれな感じですがw 「都会のダンス」と「ブージヴァルのダンス」もモデルのシュザンヌ・ヴァラドン(ユトリロの母)と二股していた時期もあったそうで、ユトリロの父親説まであるのだとか。意外と女性関係はゆるいw
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「帽子の女」

こちらは1891年の作品。この頃からアングル様式を離れて「真珠色の時代」と呼ばれる独自様式へと進んでいきます。この絵でも青、黄色、赤など様々な色が白と響き合って、艷やかな印象を受けます。また、先程の絵もそうですが、ルノワールの女性像はファッションにも注目で、仕立て屋の息子だけあってファッションには関心が高かったことが伺えます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ピアノを弾く娘たち」

こちらは1892年頃の作品。オルセー美術館所蔵の「ピアノに寄る少女たち」のヴァリアントで、構図的にはほぼ同じです。ピアノの練習をする姿に幸福感が漂い、背景の色も温かみを感じさせます。新しい境地を思わせる1枚で、この後の時代は一層に柔らかい画風へと進化していきます。
この頃、私生活では1888年頃からリュウマチの症状が表れ、1890年代からはさらに体調が悪化していっています。リュウマチは晩年まで苦しめられ続けることになります。また、1884年には次男のジャンが生まれています。ジャンは後に有名な映画監督になっていて、知ってる方も多いかも。3人の息子達は長男ピエール・ルノワール(俳優)、次男ジャン・ルノワール(映画監督)、三男クロード・ルノワール<通称ココ>(陶芸家)と、芸術一家です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「長い髪の浴女」

こちらは1895~96年頃の作品。この絵は割と輪郭がはっきりしているけど、背景はもやっとして柔らかい印象を受けるかな。肌の色や小ぶりな胸などはルノワールが好んだ裸婦像そのものと言ったところでしょうか。官能的でありつつ女神のような美しさで、ルノワールの裸婦の中でも傑作だと思います。
この頃から裸婦の作品が多くなっています。ルノワールは身体表現は芸術の本質的な形式の1つであると語っていたそうで、特に浴女や神話の裸婦をよく描いています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「横たわる浴女」

こちらは1906年の作品で、ルノワールに学んだ梅原龍三郎が西洋美術館に寄贈したものです。浴女とのことですが屋外にいるせいか神話的な雰囲気にも思えるかな。横たわる構図はロココの頃によく描かれた主題らしいので、ロココ的な要素もあるかもしれません。一層に豊満で柔らかい雰囲気が強まっているようにも思えます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ばらをつけた女」

こちらは1910年代頃の作品でやはり梅原龍三郎による寄贈品。この頃になるとさらに色彩豊かになっていて、背景が萌え立つように温かみを感じさせます。タッチも粗くなっていて晩年の円熟味を感じさせる1枚です。
ルノワール一家は1903年にはカーニュ・シュル・メールに移り住み、1908年からは現在のルノワール美術館となっている邸宅に移りました。1910年くらいには車椅子での生活を余儀なくされています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ばら」

こちらは年代不明の作品。薔薇はルノワールが特によく描いた花です。結構粗めのタッチで描かれていて、華やかさよりも温かみが感じられるかな。ルノワールは「絵画は壁を飾るために描かれるものだ。だからできるだけ豊かなものであるべきだ」という考えをもっていたようで、人々に身近で喜びを与える存在として装飾画を描いていたようです。
こちらは晩年に住んでいたカーニュ・シュル・メールの邸宅

晩年は椅子から立つこともできず、絵筆も手に縛り付けて描いていたようです。そのため、この家や庭の中をモチーフにした作品も多くなっています。
こちらも邸宅内にある建物を描いた作品。

絵だけ観ると明るく爽やかな印象ですが、ルノワール自身は満身創痍だったりします。
このルノワール美術館には陶器に絵付けした作品もあります。

画業の始まりは磁器への絵付けだったので、原点回帰みたいな感じでしょうか。絵画作品とはまた違ったデザインセンスを感じます。
最後にこちらはリシャール・ギノとの合作で、ルノワールの奥さんのアリーヌの像。

リシャール・ギノはマイヨールの弟子で、ルノワールのデッサンと指示に基づいて形を作りました。1913年以降、彫刻作品をいくつか残していて、奥さんの像はこの他にも観た覚えがあります。1915年には奥さんに先立たれる訳ですが、在りし日の幸せで優しい雰囲気が漂っていますね。
そして1919年にルノワールはなくなりました。その年にレジオンドヌール勲章を受け、ルーヴル美術館に展示されていることが出来たので本望だったと思いますが、時は第一次世界大戦が終わったばかりで、戦争で長男ピエールと次男ジャンが負傷したりしていて不幸の時代を招いた戦争を嘆く手紙も残っています。作品だけ観ているとルノワールは幸せな人生だったように思えますが、その裏で苦労や悲劇を乗り越えてきたんですね。
ということで、ルノワールは逸話が多いこともあって記事にまとめるのも大変でしたw 今後も観る機会の多い画家だと思いますので、画風の変遷やその背景などを知っておくと一層に楽しめるのではないかと思います。
参考記事:
ルノワール美術館 (南仏編 カーニュ・シュル・メール)
ルノワール-伝統と革新 感想前編(国立新美術館)
ルノワール-伝統と革新 感想後編(国立新美術館)
ピエール=オーギュスト・ルノワールは仕立て屋の息子としてフランスのリモージュに生まれ、3歳でパリに家族と共に移り住みました。13歳の頃から磁器の絵付け職人の工房で働き、19歳で画家を目指し、グレールの画塾に入ります。その後は、
19歳~38歳(1860~1879年頃):グレール画塾の修行時代。1874年から始まる印象主義への参加
39歳~50歳(1880~1891年頃):印象派展から離れサロンでの成功を経て、アルジェリアやイタリアへ旅行を経験。そこで得たものから模索と試作の時期。1880年代には「アングル様式」という古典主義への回帰
51歳~78歳(1890~1910年頃):様式を集大成した時期
となります。初期の頃は神話をモチーフにした作品、印象派時代には生活習慣や物語性の無い戸外風景の中の作品が多く描かれました。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」

こちらは1872年の作品です。アルジェリアに行った後に描いたのか?と思ってしましますが、これは初期のものでドラクロワの「アルジェの女たち」などを下敷きにパリで描いたもののようです。女性の美しさをうまく表現しているのは流石ですが、後の作品に比べると色彩は落ち着いていて輪郭も明瞭なように思います。
なお、この絵を描く2年前の1870年(当時29歳)の時に普仏戦争が勃発して騎兵隊に従軍しています。また、この絵の2年後の1874年(当時33歳)の時にモネたちと「第1回印象派展」を開催しているので、これからという時期ですね。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」

こちらは1876年の作品で、第3回印象派展に出品されています。今はアーティゾン美術館(旧ブリジストン美術館)の看板娘と有名かな? モデルはパトロンだった出版業者の娘で、こう見えて4歳の頃の姿です。微笑んでこちらを観る顔は理知的で 子供とは思えないほどの気品を感じます。この絵では印象派らしく筆触分割の技法が使われていて、パレットの上で絵の具を混ぜずにキャンバスに並べています。陰影も青や紫なんかを使っていて、当時はこうした技法は批判されがちでした(裸婦に落ちた影が青紫がかっているので、死体みたいだとか言われてみたり) しかし依頼主と本人は非常に気に入ったようで、生涯大切にしたのだとか。素晴らしい名画です。
第3回展にはルノワールの作品で最も有名な「ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会」も発表しています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「リュシアン・ドーデの肖像」

こちらは1879年のパステルの作品。お菓子を持ってふっくらした可愛い子供が描かれ、背景の赤も温かみを感じます。 輪郭は結構しっかりしているように思えるかな。ルノワールは少年時代に磁器の絵付けをしていて、それは絵画にも影響を及ぼしています。特に、柔らかな色彩や優美さ、官能的で繊細な点などはロココ様式の影響を受けているようです。この絵もどこかロココっぽさを感じました。
この絵の1年前の1878年にはサロンに応募して入選しています。ついに官展で認められたことで肖像などの注文も増えて画家としての成功を得ました。一方で印象派の仲間であったドガはサロンに参加する者は印象派展に相応しくないと考えていたようで、その考えの違いからルノワールは第4回から第6回の印象派展には参加していません。
ちょっとこの辺の時代の作品の写真が無いのでご紹介しづらいですが、1881年(40歳)の時にアルジェリアとイタリアに旅していて、アルジェリアの気候に影響を受けて全体的に色鮮やかで光が溢れるような画風へと進化しています。イタリアではルネサンス期の巨匠 特にラファエロに感銘を受けています。元々はアカデミックな絵画を否定していた訳ですが、次第に古典絵画への傾倒を深め1883年~1888年頃にかけて「アングル様式」と呼ぶデッサン重視の時代を迎えます。このアングル様式の時代の代表作がダンス3部作の「都会のダンス」「田舎のダンス」「ブージヴァルのダンス」(いずれも1883年)です。特に都会のダンスはそれっぽい感じがします。しかし、この画風の変化はあまりパトロンに受けなかったようで、以前ほど売れなくなったのだとか。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ムール貝採り」

こちらは1888~1889年頃の作品。この絵では波打つようなタッチでややボンヤリした感じもしますが、輪郭はしっかりしているのでまだアングル様式の傾向が強いように思えます。子どもたちが手を繋いでいたり、穏やかで優しい雰囲気が溢れている点はルノワールならではですね。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「Madame de Bonnieres(ボニエール夫人の肖像)」

こちらは1889年の作品。これもはっきりくっきりした画風となっていて、これを見ても印象派っぽさはあまり感じないと思います。一方で柔らかく温かみのある赤い背景はルノワール独特の色彩感覚じゃないでしょうか。こちらを見て微笑む女性も幸せそうな雰囲気です。 それにしても胴の細さがやばいw 昔の女性は大変ですね。
この翌年の1890年に「田舎のダンス」のモデルをつとめたアリーヌと結婚しています。1885年にはアリーヌとの間に長男のピエールが生まれているんで、順序があれな感じですがw 「都会のダンス」と「ブージヴァルのダンス」もモデルのシュザンヌ・ヴァラドン(ユトリロの母)と二股していた時期もあったそうで、ユトリロの父親説まであるのだとか。意外と女性関係はゆるいw
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「帽子の女」

こちらは1891年の作品。この頃からアングル様式を離れて「真珠色の時代」と呼ばれる独自様式へと進んでいきます。この絵でも青、黄色、赤など様々な色が白と響き合って、艷やかな印象を受けます。また、先程の絵もそうですが、ルノワールの女性像はファッションにも注目で、仕立て屋の息子だけあってファッションには関心が高かったことが伺えます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ピアノを弾く娘たち」

こちらは1892年頃の作品。オルセー美術館所蔵の「ピアノに寄る少女たち」のヴァリアントで、構図的にはほぼ同じです。ピアノの練習をする姿に幸福感が漂い、背景の色も温かみを感じさせます。新しい境地を思わせる1枚で、この後の時代は一層に柔らかい画風へと進化していきます。
この頃、私生活では1888年頃からリュウマチの症状が表れ、1890年代からはさらに体調が悪化していっています。リュウマチは晩年まで苦しめられ続けることになります。また、1884年には次男のジャンが生まれています。ジャンは後に有名な映画監督になっていて、知ってる方も多いかも。3人の息子達は長男ピエール・ルノワール(俳優)、次男ジャン・ルノワール(映画監督)、三男クロード・ルノワール<通称ココ>(陶芸家)と、芸術一家です。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「長い髪の浴女」

こちらは1895~96年頃の作品。この絵は割と輪郭がはっきりしているけど、背景はもやっとして柔らかい印象を受けるかな。肌の色や小ぶりな胸などはルノワールが好んだ裸婦像そのものと言ったところでしょうか。官能的でありつつ女神のような美しさで、ルノワールの裸婦の中でも傑作だと思います。
この頃から裸婦の作品が多くなっています。ルノワールは身体表現は芸術の本質的な形式の1つであると語っていたそうで、特に浴女や神話の裸婦をよく描いています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「横たわる浴女」

こちらは1906年の作品で、ルノワールに学んだ梅原龍三郎が西洋美術館に寄贈したものです。浴女とのことですが屋外にいるせいか神話的な雰囲気にも思えるかな。横たわる構図はロココの頃によく描かれた主題らしいので、ロココ的な要素もあるかもしれません。一層に豊満で柔らかい雰囲気が強まっているようにも思えます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ばらをつけた女」

こちらは1910年代頃の作品でやはり梅原龍三郎による寄贈品。この頃になるとさらに色彩豊かになっていて、背景が萌え立つように温かみを感じさせます。タッチも粗くなっていて晩年の円熟味を感じさせる1枚です。
ルノワール一家は1903年にはカーニュ・シュル・メールに移り住み、1908年からは現在のルノワール美術館となっている邸宅に移りました。1910年くらいには車椅子での生活を余儀なくされています。
ピエール=オーギュスト・ルノワール 「ばら」

こちらは年代不明の作品。薔薇はルノワールが特によく描いた花です。結構粗めのタッチで描かれていて、華やかさよりも温かみが感じられるかな。ルノワールは「絵画は壁を飾るために描かれるものだ。だからできるだけ豊かなものであるべきだ」という考えをもっていたようで、人々に身近で喜びを与える存在として装飾画を描いていたようです。
こちらは晩年に住んでいたカーニュ・シュル・メールの邸宅

晩年は椅子から立つこともできず、絵筆も手に縛り付けて描いていたようです。そのため、この家や庭の中をモチーフにした作品も多くなっています。
こちらも邸宅内にある建物を描いた作品。

絵だけ観ると明るく爽やかな印象ですが、ルノワール自身は満身創痍だったりします。
このルノワール美術館には陶器に絵付けした作品もあります。

画業の始まりは磁器への絵付けだったので、原点回帰みたいな感じでしょうか。絵画作品とはまた違ったデザインセンスを感じます。
最後にこちらはリシャール・ギノとの合作で、ルノワールの奥さんのアリーヌの像。

リシャール・ギノはマイヨールの弟子で、ルノワールのデッサンと指示に基づいて形を作りました。1913年以降、彫刻作品をいくつか残していて、奥さんの像はこの他にも観た覚えがあります。1915年には奥さんに先立たれる訳ですが、在りし日の幸せで優しい雰囲気が漂っていますね。
そして1919年にルノワールはなくなりました。その年にレジオンドヌール勲章を受け、ルーヴル美術館に展示されていることが出来たので本望だったと思いますが、時は第一次世界大戦が終わったばかりで、戦争で長男ピエールと次男ジャンが負傷したりしていて不幸の時代を招いた戦争を嘆く手紙も残っています。作品だけ観ているとルノワールは幸せな人生だったように思えますが、その裏で苦労や悲劇を乗り越えてきたんですね。
ということで、ルノワールは逸話が多いこともあって記事にまとめるのも大変でしたw 今後も観る機会の多い画家だと思いますので、画風の変遷やその背景などを知っておくと一層に楽しめるのではないかと思います。
参考記事:
ルノワール美術館 (南仏編 カーニュ・シュル・メール)
ルノワール-伝統と革新 感想前編(国立新美術館)
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