《黒田清輝》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、明治から大正にかけて活躍し日本洋画界の礎を築いた黒田清輝について取り上げます。黒田清輝は薩摩の生まれで、叔父の養子となり絵の手ほどきを受けていたようですが、最初は法律家になりたいと考えていたようで 法律を学ぶためにフランスに留学しました。しかし、パリで出会った林忠正(美術商)や山本芳翠らと交流したことで、絵心を掻き立てられたようで、フランス留学2年目に画家になる決意をしました。 その後、ラファエル・コランに師事し、アカデミックな画風と印象派などから影響を併せ持つ画風になっていき、フランスのサロンでも入選をしています。帰国後は「明治美術会」を結成し日本の西洋画に新しい風を吹き込み、1896年には東京美術学校に迎えられ、その翌月に「白馬会」を結成しました。文展の設立にも大きく関与し、貴族院議員にもなるなど後半生は公人としての側面が強くなっていき 絶大な影響力を持って数多くの教え子を輩出していきました。今日も過去の展示で撮った作品とともにご紹介していこうと思います。
黒田清輝 「田舎家」

こちらは1888年の作品で油彩を始めて1年くらいの現存する最初期の油彩画です。この頃滞在していたフォンテンブロー近郊の食堂の裏庭を描いたようで、田舎の農家らしき家と その隣に詰まれた藁、そしてその周りにいる鶏たちが描かれています。ちょっと色が暗めですが、のんびりとした農家の日常を感じる作品です。この頃、黒田清輝はバルビゾン派に関心があったそうで、この作品からはバルビゾン派への傾倒も見られます。これを描いた頃、黒田はミレーの画集を買ったそうで、農村を描くバルビゾン派に共感していたようです。
黒田清輝は留学前も高橋由一の門下の細田季治や日本画の狩野派の画家にも学んでいた時期があるようです。ちなみに本名は「きよてる」と読むのだとか。「せいき」は画号なんですね。
黒田清輝 「裸体・女(後半身)」

こちらも留学中の1889年の作品です。アカデミーで学んでいた時期で、自分でもモデルを雇ってこうした習作を描いたようです。これとよく似た作品もあるので、結構描いていたのかも。ちょっと岩のようなカクカクした感じ(特に右肩辺り)もしますが、裸婦という西洋画ならではの画題に真摯に取り組んでる様子が伺えます。後に黒田清輝の裸婦作品が日本美術界に大きな論争を巻き起こします。
黒田清輝はフランスには9年間いたのですが、1888年にフォンテーヌ・ブローの南端にあるグレー=シュル=ロワンという村を初めて訪れ、その2年後からそこを拠点として活動しました。(当時、この村はフランス外の画家が集まるコロニーとなっていました) ここで黒田清輝はマリア・ビヨーという農家の女性と出会い、彼女をモデルにした作品が何枚も残っています。
黒田清輝 「読書」

こちらは1891年の作品で、初のサロン入選作となりました。この女性がマリア・ビョーで、真剣な眼差しで本を読んでいます。先程の裸婦よりもかなり自然で親密な雰囲気になっていると思います。室内でも割と明るめの色彩で、淡い光も感じられるかな。庶民的でありながら知的な女性像ですね。
ちなみにマリアは豚肉屋さんの娘らしく、「豚屋」という作品も残っています。
黒田清輝 「枯れ野原(グレー)」

こちらも留学中の1891年の作品。グレーは留学した日本の画家がよく訪れた土地で、浅井忠の方がこの地にいた印象が強いかも。何も無い野原ですが、軽やかな色彩に師匠のラファエル・コランからの影響も感じられます。
黒田清輝 「落ち葉」

こちらも1891年の作品でグレー村のポプラ並木を描いたもの。大胆なタッチは印象派のようで、晩秋の風情を強めています。アカデミックな画風だけでなくこうした近代的な手法も取り入れているのが黒田清輝の特徴じゃないかな。本人も会心の出来だったようで、留学時代の恩人にこの作品を贈ったそうです。
黒田清輝 「マンドリンを持てる女」

これも1891年の作品。サロン出品の為に描かれた作品らしく、こちらは滑らかなタッチに観えます。最初の裸婦の習作に比べると血色も良くて艷やかな感じですねw ちょっとぼんやりした眼差しがくつろいでいて、親しげな表情に思えました。
黒田清輝 「夏図画稿(女の顔)」

こちらは1892年の画稿。この女性は先程の「読書」のマリア・ビョーじゃないかな。これもサロン出品作の構想のようですが、完成することはなかったようです。素描だと一層に高いデッサン力が感じられます。
1893年には鏡に向かう裸婦を描いた「朝妝」で再びサロンで入選しています。黒田清輝は「人間の裸を描くことこそ美術の王道」とするフランス流の考えと共にこの作品を日本に持ち帰ってきました。1895年に国内で展示しましたが当時の日本では受け入れられず、それを観て驚く日本人達を描いたジョルジュ・ビゴーの「日本におけるショッキング」という絵も残っているほど話題になりました。ビゴーの風刺画に描かれた当時の女性たちの 口を開けて驚いたり顔を隠して恥ずかしそうな様子を観ると、相当にショッキングだったことが伺えます。(残念ながら「朝妝」は戦災で焼失しました) ヨーロッパでは理想化され、現実から離れた裸を見るにあたって、エロティックな下心のような現実的な関心をすべて捨てて純粋に美を感じ取るという鑑賞をしていましたが、日本の当時はエロティックな関心を示したり、冗談を言いながら観ていたようです。黒田清輝はその鑑賞態度も改めようと教えていたようです。しかし、後にまた同じような事件が起こります…。
黒田清輝 「舞妓」

こちらは帰国後の1893年の作品です。割とタッチは大胆で爽やかな色彩となっています。障子や手すりなど水平垂直の線が多い構図も面白い。
フランスからの帰国後、黒田清輝は「明治美術会」という洋風美術団体で作品を発表していきました。その頃、日本には脂派(やには)と呼ばれる暗めの明暗表現の作風もありましたが、それに対して黒田清輝が持ち込んだ明るい外光描写は「紫派」と呼ばれ、日本の西洋画に新しい風を吹き込みました。(影を紫で表現したりしたため「紫派」と呼ばれた。) 今では「外光派」と呼ぶほうが多いかな。
黒田清輝 「昼寝」

こちらも帰国後間もない1894年の作品。一気に画風が変わっていて印象派の筆触分割の技法を使っています。色が強くてフォーヴのようですらある。木漏れ日が落ちる様子なども表現されていて、明暗の表現も印象派っぽさを感じます。黒田清輝の中では異色の作品です。
黒田清輝は1894年11月~1895年2月まで日清戦争に従軍していました。しかし、実際には戦闘を目にしていなかったらしく戦闘画は不得手だったようです。
黒田清輝 「美人散歩(逍遥)」

こちらは1895年の作品。また淡くアカデミックな雰囲気強めの画風に戻った感じがします。静かで気品のある女性は黒田清輝が好んだ美人像だと思います。師のラファエル・コランの影響も感じられる作品です。
1896年には西洋画科の発足に伴い東京美術学校に迎えられ、その翌月には明治美術会から独立する形で「白馬会」を結成しました。白馬会のメンバーには久米桂一郎、藤島武二、岡田三郎助、和田英作などがいます。西洋画科は白馬会のメンバーが要職を占めたので、旧派(脂派)に対して優位になった訳ですが、時代の流れを考えると妥当かも。黒田清輝は派閥争いみたいな話が結構多いw
黒田清輝 「湖畔」

こちらは1897年に描かれた黒田清輝の代表作です。箱根の芦ノ湖を背景にしていて、モデルは奥さんの照子夫人です。夫人は23歳だったらしく瑞々しく清廉な印象を受けます。背景も夕暮れの涼し気な雰囲気があって、観ているだけで気持ちが落ち着きますね。ちなみにこの作品は第2回白馬会展の時には「避暑」というタイトルだったのだとか。
1897年には代表作の1つである「智・感・情」も描かれています。ここでも「朝妝図」と同じく女性の裸体を描いていて、これを載せた雑誌は発禁になってしまったそうです。智は「理想主義」、感は「印象主義」、情は「写実主義」をあらわしたもので、日本人女性をモデルに日本人が描いた最初の油彩裸婦となっています。
黒田清輝 「昔語り下絵(構図 II)」

こちらは焼失してしまった1898年の代表作の下絵。恐らくこれが現存する下絵の中で最も完成作を想像しやすい作品だと思います。この絵には多くの下絵が残っていて、人物それぞれを何度も描いています。僧の話をじっと聞きながら後ろで手を繋ぐ男女の姿がロマンティックw 黒田清輝はアカデミズムを学んでいたため絵画は単なるスケッチではなく構想を練って描く構想画でなければならないと考えていました。この作品はその最たる例ですが、公人として忙しくなったこともありこの後は構想画よりもスケッチが主体になっていってます。構想画という発想も当時の日本にはあまり馴染まなかったようです。
この3年後の1901年に「腰巻事件」と呼ばれ事件が起きました。これは「裸婦婦人像」を白馬会第6回展に出した際、腰から下あたりを布で覆って展示されたというものです。この頃の考えとしては性器が描いてあったらアウトみたいな感じだったようですが、この絵ではその辺は曖昧に描かれています。しかしそれでも駄目だったようで、布を巻かれてしまいました。「朝妝」の騒動から6年経ってもまだそんな状況が続いていたんですね…。何かと黒田清輝が進みすぎていて当時の日本がついていけてない感じです。
黒田清輝 「花野下絵」「花野」

こちらは1907~15年頃の構想画で、生涯の後半期に試みた唯一の大作とされています。師匠のラファエル・コランの作品かと思うほどそっくりな画風になっていて、コランの「緑野三美人図」を念頭に描いているようです。淡い色彩が神話的な雰囲気を強めていて、女神のような清らかな女性たちですね。
1910年には最初の帝室技芸員にも選ばれています。帝国美術院の院長や東京高等商業学校(一橋大学)のフランス語教師なんかもやってたらしく、多忙のためモチーフも身近なものになって行きました。
黒田清輝 「瓶花」

こちらは1912年の作品。写実的で華やかな雰囲気となっていますが、黒田清輝っぽさがあまり感じられないかも。ちょっとここまでとは違った画風に思える作品です。
黒田清輝 「夕の梨畑」「夕の原」「夕の景」

こちらは1919年の作品で、鎌倉に滞在したときに制作された3作セット。遠くに観えているのは富士山で、いずれも郷愁を誘うような光景です。筆致が粗く色合いなども印象派のような作風となっています。
黒田清輝 「案山子」

最後にこちらは1920年の作品。自分でわざわざかかしを立てて描かれた作品らしく、こちらも大胆な筆致となっています。夕暮れに立つかかしが何とも寂しげ。
1920年には貴族院議員にもなっていますが、その4年後の1924年に亡くなりました。
ということで、アカデミックな部分と印象派を取り入れた部分のある画風で日本の洋画界を牽引した画家です。当時の日本の無理解の中、めげずに作品を発表し改革を行っていったのは日本の美術史にとって非常に大きかったのではないかと思います。教育者としての功績も大きいけど、純粋に画家一本だったらどうなったのだろうか?というのがちょっと惜しい気もします。東京国立博物館の裏にある黒田記念館で作品を観ることができるので、洋画好きの方は一度は足を運んでみるとよろしいかと思います。
参考記事:
近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展 (岩手県立美術館)
黒田記念館の案内 (2010年11月)
黒田清輝-作品に見る「憩い」の情景 (東京国立博物館 本館18室)
黒田清輝 「田舎家」

こちらは1888年の作品で油彩を始めて1年くらいの現存する最初期の油彩画です。この頃滞在していたフォンテンブロー近郊の食堂の裏庭を描いたようで、田舎の農家らしき家と その隣に詰まれた藁、そしてその周りにいる鶏たちが描かれています。ちょっと色が暗めですが、のんびりとした農家の日常を感じる作品です。この頃、黒田清輝はバルビゾン派に関心があったそうで、この作品からはバルビゾン派への傾倒も見られます。これを描いた頃、黒田はミレーの画集を買ったそうで、農村を描くバルビゾン派に共感していたようです。
黒田清輝は留学前も高橋由一の門下の細田季治や日本画の狩野派の画家にも学んでいた時期があるようです。ちなみに本名は「きよてる」と読むのだとか。「せいき」は画号なんですね。
黒田清輝 「裸体・女(後半身)」

こちらも留学中の1889年の作品です。アカデミーで学んでいた時期で、自分でもモデルを雇ってこうした習作を描いたようです。これとよく似た作品もあるので、結構描いていたのかも。ちょっと岩のようなカクカクした感じ(特に右肩辺り)もしますが、裸婦という西洋画ならではの画題に真摯に取り組んでる様子が伺えます。後に黒田清輝の裸婦作品が日本美術界に大きな論争を巻き起こします。
黒田清輝はフランスには9年間いたのですが、1888年にフォンテーヌ・ブローの南端にあるグレー=シュル=ロワンという村を初めて訪れ、その2年後からそこを拠点として活動しました。(当時、この村はフランス外の画家が集まるコロニーとなっていました) ここで黒田清輝はマリア・ビヨーという農家の女性と出会い、彼女をモデルにした作品が何枚も残っています。
黒田清輝 「読書」

こちらは1891年の作品で、初のサロン入選作となりました。この女性がマリア・ビョーで、真剣な眼差しで本を読んでいます。先程の裸婦よりもかなり自然で親密な雰囲気になっていると思います。室内でも割と明るめの色彩で、淡い光も感じられるかな。庶民的でありながら知的な女性像ですね。
ちなみにマリアは豚肉屋さんの娘らしく、「豚屋」という作品も残っています。
黒田清輝 「枯れ野原(グレー)」

こちらも留学中の1891年の作品。グレーは留学した日本の画家がよく訪れた土地で、浅井忠の方がこの地にいた印象が強いかも。何も無い野原ですが、軽やかな色彩に師匠のラファエル・コランからの影響も感じられます。
黒田清輝 「落ち葉」

こちらも1891年の作品でグレー村のポプラ並木を描いたもの。大胆なタッチは印象派のようで、晩秋の風情を強めています。アカデミックな画風だけでなくこうした近代的な手法も取り入れているのが黒田清輝の特徴じゃないかな。本人も会心の出来だったようで、留学時代の恩人にこの作品を贈ったそうです。
黒田清輝 「マンドリンを持てる女」

これも1891年の作品。サロン出品の為に描かれた作品らしく、こちらは滑らかなタッチに観えます。最初の裸婦の習作に比べると血色も良くて艷やかな感じですねw ちょっとぼんやりした眼差しがくつろいでいて、親しげな表情に思えました。
黒田清輝 「夏図画稿(女の顔)」

こちらは1892年の画稿。この女性は先程の「読書」のマリア・ビョーじゃないかな。これもサロン出品作の構想のようですが、完成することはなかったようです。素描だと一層に高いデッサン力が感じられます。
1893年には鏡に向かう裸婦を描いた「朝妝」で再びサロンで入選しています。黒田清輝は「人間の裸を描くことこそ美術の王道」とするフランス流の考えと共にこの作品を日本に持ち帰ってきました。1895年に国内で展示しましたが当時の日本では受け入れられず、それを観て驚く日本人達を描いたジョルジュ・ビゴーの「日本におけるショッキング」という絵も残っているほど話題になりました。ビゴーの風刺画に描かれた当時の女性たちの 口を開けて驚いたり顔を隠して恥ずかしそうな様子を観ると、相当にショッキングだったことが伺えます。(残念ながら「朝妝」は戦災で焼失しました) ヨーロッパでは理想化され、現実から離れた裸を見るにあたって、エロティックな下心のような現実的な関心をすべて捨てて純粋に美を感じ取るという鑑賞をしていましたが、日本の当時はエロティックな関心を示したり、冗談を言いながら観ていたようです。黒田清輝はその鑑賞態度も改めようと教えていたようです。しかし、後にまた同じような事件が起こります…。
黒田清輝 「舞妓」

こちらは帰国後の1893年の作品です。割とタッチは大胆で爽やかな色彩となっています。障子や手すりなど水平垂直の線が多い構図も面白い。
フランスからの帰国後、黒田清輝は「明治美術会」という洋風美術団体で作品を発表していきました。その頃、日本には脂派(やには)と呼ばれる暗めの明暗表現の作風もありましたが、それに対して黒田清輝が持ち込んだ明るい外光描写は「紫派」と呼ばれ、日本の西洋画に新しい風を吹き込みました。(影を紫で表現したりしたため「紫派」と呼ばれた。) 今では「外光派」と呼ぶほうが多いかな。
黒田清輝 「昼寝」

こちらも帰国後間もない1894年の作品。一気に画風が変わっていて印象派の筆触分割の技法を使っています。色が強くてフォーヴのようですらある。木漏れ日が落ちる様子なども表現されていて、明暗の表現も印象派っぽさを感じます。黒田清輝の中では異色の作品です。
黒田清輝は1894年11月~1895年2月まで日清戦争に従軍していました。しかし、実際には戦闘を目にしていなかったらしく戦闘画は不得手だったようです。
黒田清輝 「美人散歩(逍遥)」

こちらは1895年の作品。また淡くアカデミックな雰囲気強めの画風に戻った感じがします。静かで気品のある女性は黒田清輝が好んだ美人像だと思います。師のラファエル・コランの影響も感じられる作品です。
1896年には西洋画科の発足に伴い東京美術学校に迎えられ、その翌月には明治美術会から独立する形で「白馬会」を結成しました。白馬会のメンバーには久米桂一郎、藤島武二、岡田三郎助、和田英作などがいます。西洋画科は白馬会のメンバーが要職を占めたので、旧派(脂派)に対して優位になった訳ですが、時代の流れを考えると妥当かも。黒田清輝は派閥争いみたいな話が結構多いw
黒田清輝 「湖畔」

こちらは1897年に描かれた黒田清輝の代表作です。箱根の芦ノ湖を背景にしていて、モデルは奥さんの照子夫人です。夫人は23歳だったらしく瑞々しく清廉な印象を受けます。背景も夕暮れの涼し気な雰囲気があって、観ているだけで気持ちが落ち着きますね。ちなみにこの作品は第2回白馬会展の時には「避暑」というタイトルだったのだとか。
1897年には代表作の1つである「智・感・情」も描かれています。ここでも「朝妝図」と同じく女性の裸体を描いていて、これを載せた雑誌は発禁になってしまったそうです。智は「理想主義」、感は「印象主義」、情は「写実主義」をあらわしたもので、日本人女性をモデルに日本人が描いた最初の油彩裸婦となっています。
黒田清輝 「昔語り下絵(構図 II)」

こちらは焼失してしまった1898年の代表作の下絵。恐らくこれが現存する下絵の中で最も完成作を想像しやすい作品だと思います。この絵には多くの下絵が残っていて、人物それぞれを何度も描いています。僧の話をじっと聞きながら後ろで手を繋ぐ男女の姿がロマンティックw 黒田清輝はアカデミズムを学んでいたため絵画は単なるスケッチではなく構想を練って描く構想画でなければならないと考えていました。この作品はその最たる例ですが、公人として忙しくなったこともありこの後は構想画よりもスケッチが主体になっていってます。構想画という発想も当時の日本にはあまり馴染まなかったようです。
この3年後の1901年に「腰巻事件」と呼ばれ事件が起きました。これは「裸婦婦人像」を白馬会第6回展に出した際、腰から下あたりを布で覆って展示されたというものです。この頃の考えとしては性器が描いてあったらアウトみたいな感じだったようですが、この絵ではその辺は曖昧に描かれています。しかしそれでも駄目だったようで、布を巻かれてしまいました。「朝妝」の騒動から6年経ってもまだそんな状況が続いていたんですね…。何かと黒田清輝が進みすぎていて当時の日本がついていけてない感じです。
黒田清輝 「花野下絵」「花野」

こちらは1907~15年頃の構想画で、生涯の後半期に試みた唯一の大作とされています。師匠のラファエル・コランの作品かと思うほどそっくりな画風になっていて、コランの「緑野三美人図」を念頭に描いているようです。淡い色彩が神話的な雰囲気を強めていて、女神のような清らかな女性たちですね。
1910年には最初の帝室技芸員にも選ばれています。帝国美術院の院長や東京高等商業学校(一橋大学)のフランス語教師なんかもやってたらしく、多忙のためモチーフも身近なものになって行きました。
黒田清輝 「瓶花」

こちらは1912年の作品。写実的で華やかな雰囲気となっていますが、黒田清輝っぽさがあまり感じられないかも。ちょっとここまでとは違った画風に思える作品です。
黒田清輝 「夕の梨畑」「夕の原」「夕の景」

こちらは1919年の作品で、鎌倉に滞在したときに制作された3作セット。遠くに観えているのは富士山で、いずれも郷愁を誘うような光景です。筆致が粗く色合いなども印象派のような作風となっています。
黒田清輝 「案山子」

最後にこちらは1920年の作品。自分でわざわざかかしを立てて描かれた作品らしく、こちらも大胆な筆致となっています。夕暮れに立つかかしが何とも寂しげ。
1920年には貴族院議員にもなっていますが、その4年後の1924年に亡くなりました。
ということで、アカデミックな部分と印象派を取り入れた部分のある画風で日本の洋画界を牽引した画家です。当時の日本の無理解の中、めげずに作品を発表し改革を行っていったのは日本の美術史にとって非常に大きかったのではないかと思います。教育者としての功績も大きいけど、純粋に画家一本だったらどうなったのだろうか?というのがちょっと惜しい気もします。東京国立博物館の裏にある黒田記念館で作品を観ることができるので、洋画好きの方は一度は足を運んでみるとよろしいかと思います。
参考記事:
近代日本洋画の巨匠 黒田清輝展 (岩手県立美術館)
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