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《東山魁夷》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、戦後の国民的画家と呼ばれた東山魁夷について取り上げます。東山魁夷は風景画を中心に描いた画家で、絵自体は単純な構図が多いのですが、色彩感覚がしんみりした雰囲気で分かりやすい美しさがあると思います。特に緑や青をベースにした作品が多く、日本の美しい光景の中に画家自身の心象風景を描いたような作風となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

まず東山魁夷の生涯をごく簡単に説明すると、東山魁夷は1908年に横浜で生まれ、東京美術学校に入り そこで川合玉堂、松岡映丘、結城素明らの指導を受けて日本画を学びました。在学中には帝展に入選していて、東京美術学校を卒業した際に東山魁夷を名乗るようになりました。その後 ドイツに留学するものの父の病気で2年で帰国し、1940年には川崎小虎の娘と結婚しています。しかし、しばらくの間は絵も売れず、肉親が次々と亡くなったり戦争へ招集されるなど、不遇の時代を過ごしたようです。そして1950年の42歳の時、日展で「道」が話題となったのをきっかけに人気が出て、1956年には日本芸術院賞を受賞、1969年には文化勲章受賞など、まさに国民的画家と言える地位を築いていきました。

東山魁夷 「残照」
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こちらは評価が高まることになった1947年の作品。人生のどん底の時期に写生のために訪れた千葉県鹿野山の山頂からの風景を描いたもので、遠くの山が赤く染まる開けた視界の広々とした雰囲気となっていて、割と単純化された平坦な印象を受けます。東山魁夷はこの山頂からの光景を見つめていた時、自然が作り出す光景と自分の心の動きが重なる充実感を味わったそうで、この頃から風景画家となる決意をしたようです。まだ画風や色彩はそれほど印象的ではないですが、東山魁夷のターニングポイントとなった風景なのかもしれません。日展で特選を得て政府に買い上げられ、東山魁夷の名が広まりました。

戦前から官展に出品していた東山魁夷ですが、これが初の特選で 終戦前後に父・母・弟を亡くし 空襲で自宅も無くすなど この頃までどん底にいたようです。しかし死を覚悟した時に平凡な風景が生命に満ち溢れて輝き 何よりも美しく感じたそうで、それ以降 素直な眼と心で自然を見つめ、自分の心を重ねた風景画を描くようになっていきました。

東山魁夷 「道」
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こちらがブレイクのきっかけになった1950年の作品。青森のスケッチを元に心象風景として描いたもので、戦後5年という当時の日本の状況を考えると、これからどう生きていくのかを表すような象徴としての道、これから歩む道と言えそうです。ざらついたマチエールでややぼんやりとしてしんみりした雰囲気が漂っていますが、潔くまっすぐ伸びているのが気持ちの良い作品です。よーく観ると、途中で右に曲がって行ってますけどねw

この作品辺りから一気に画風が変わっているように思います。これ以降は晩年まで割と安定しているので、画風の面でも重要な時期だったのでしょうね。

東山魁夷 「秋風行画巻」
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こちらは1952年の作品。巻物で秋の山を描いていて、柔らかい色彩が流れるように美しい。自然そのものというよりは理想化されたような光景に思えます。

1956年には「光昏」で日本芸術院賞も受賞し、皇室の依頼を受けるなど一躍人気画家となっていました。

東山魁夷 「青響」
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こちらは1960年の作品で、福島の土湯峠に取材したものです。こちらも非常に単純化された光景で、緑が印象的な作品です。この落ち着いて心に染み入るような色彩が東山魁夷の特徴だと思います。青が響くというタイトルが似つかわしく、静けさの中に滝の音だけが聞こえてくるような情感漂う作品です。

1962年にドイツ時代からの憧れでもあった北欧へと旅立ちました。北欧での風景は東山魁夷の想像通りの光景だったようで、帰国後に連作を発表すると高い評価を得て、青が多用されたことから「青の画家」のイメージも生まれたようです。

東山魁夷 「映象」
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こちらは1962年の作品。木々は白く枯れて真っ暗な背景に浮かび上がるようで、神秘的な光景となっています。波1つ立たず、動物もいない静寂の世界でどこか内省的な心象風景のような雰囲気に思えます。寂しげで神秘的ですね。

東山魁夷は北欧に旅立つ前から作家の川端康成から急速に失われつつあった京都を描くように勧められたようです。また、帰国後に皇室に依頼された新宮殿の大壁画制作は日本的なものを前面に押し出す必要性があったので、日本古来の文化が集まる京都は避けて通れず、京都をテーマとした作品に取り掛かかりました。大壁画の完成した年には「京洛四季」展で連作が発表され、北欧シリーズとは全く異なる大和絵的な表現となりました。

東山魁夷 「京洛小景より<一力>(1月)」
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こちらは1971年の作品で、京都を描いた版画シリーズです。京都下京区の一力亭という店を描いているのですが、トリミングしたような構図で水平・垂直・直線の多い画面となっています。壁の色も美しく、京都の美意識を凝縮したような雰囲気ですね。

この作品の3年前の1968年には山種美術館の人気作「年暮る」も制作されています。京都を描いた作品の中でも特に名作となっています。

東山魁夷 「京洛小景より<桂離宮書院>(8月)」
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こちらも同じ版画集で、桂離宮の書院を描いています。ブルーノ・タウトも絶賛したシンプルかつ機能的な日本の美の粋が見て取れます。東山魁夷は建物の絵も素晴らしい。

東山魁夷 「京洛小景より<落柿舎>(10月)」
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こちらも同じ版画集。農家の壁も美しい色で描いています。箕笠の円が直線の多い画面にアクセントになっていて非常に面白い。木の影が手前の柿の木の存在を教えてくれるというのも洒脱です。
京都シリーズを公表した翌年に、東山魁夷はドイツ・オーストリアへと旅立ちました。ドイツ・オーストリアでもやはり古都を描いたようで現地の建物を描いた作品が中心となっています。

1971年には奈良の唐招提寺から受けた開山の鑑真和上の像を安置する御影堂の障壁画制作の依頼を受託し、10年の歳月をかけて1期、2期、残り と段階的に奉納していきました。この制作の為には日本中を取材して回った他、日中平和友好条約締結前に中国に3回訪問して取材してきたようです。

東山魁夷 「緑響く」のポスター
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こちらは1982年の作品で、信州の八ヶ岳にある御射鹿池がモチーフとなっています。この反射で画面を二分する構図はこれまでの作品にもありましたが、白い馬がいると色彩にアクセントがついて、視線がそこに集まるように感じます。この景色は実景を元に描いたものですが、もちろん実際に白い馬がいたわけではなく、この馬は平安を願う祈りの象徴として描かれています。白い馬がいるだけで神話的な雰囲気が漂います。

1972年に急に白い馬を描くようになったそうで、画家本人にとってもそれは突然の事だったようです。1972年に描いた18点全てに白い馬が描かれたということで、これまでの静かで誰もいない画面から 少し超現実的な雰囲気が加味されたように思えます。白馬を描くことは祈りであり、心が籠められていれば上手い下手はどうでもいいことだと考えるようになったようです。70歳を越えてからは写生に出ることも難しくなっていたようですが、それまでに観てきた風景やスケッチを元に日本でも外国でもない心の中の風景を描くようになっていきました。

残念ながら晩年の作品は写真がありませんでした。1999年の90歳まで生きたので割と最近まで活躍されていました。今でも人気が高い画家で展覧会も数年おきに開催されているように思います。東京国立近代美術館にも多くの代表作が収蔵されていますので、目にする機会も多く馴染みやすい画家です。


 参考記事:
  生誕110年 東山魁夷展 感想前編(国立新美術館)
  生誕110年 東山魁夷展 感想後編(国立新美術館)

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