《ラファエロ・サンティ》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、ルネサンス期の3大巨匠の1人ラファエロ・サンティ(ラファエロ・サンツィオ)について取り上げます。ラファエロは大きく分けて出身地のウルビーノ時代(1500年~1504年頃)、レオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ・ブオナローティに影響を受けたフィレンツェ時代(1504年~1508年頃)、教皇に仕えたローマ時代(1508年~1520年)となっていて、特にヴァチカンに多くの作品が残されています。生前から評価が高く、『画家・彫刻家・建築家列伝』を書いた後世の画家ヴァザーリも「ラファエロという人物には、優しさ、勤勉さ、美しさ、謙虚さ、品の良さを通して魂のあらゆる美点が光が輝いている」と評しました。その評価が頷けるような優美で気品ある作風となっていて、後世のアカデミー教育で画家の模範とされ数限りない画家たちに影響を与えました。今日もそんなラファエロについて過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。
ラファエロは1483年にウルビーノの画家で詩人のジョヴァンニ・サンティの子として産まれました。父の工房は繁盛していたようですが、8歳の時に母を亡くし、11歳の時には父も亡くしています。ラファエロの画家としての基礎は父の工房の画家に学んだという説が有力のようですが、諸説あり実際のところはよく分かっていません。画家としてのラファエロの名が初めて現れるのは1500年12月10日に制作された祭壇画で、トレンティーノの聖ニコラウス教会の「父なる神、聖母マリア」「天使」を制作した時のようです。これには父の作品に観られるのと同じ技法が用いられている一方、ペルジーノ(ヴァザーリの著書ではラファエロの師匠とされている)からの影響も色濃く観られるようで、ペルジーノからの影響はその後一層顕著になっていくそうです。また、ラファエロはピントリッキオらに協力して働き腕を磨いていったそうで、ラファエロは急速に成長を遂げ、より大きな舞台を夢見るようになっていきました。
ラファエロ・サンティ 「自画像」のポスター

こちらは1504~1506年頃の作品で、ウルビーノの時代の後のフィレンツェ時代となります。故郷に帰った際 家族かウルビーノ公爵の為に描いたと考えられる自画像で、優しげな顔立ちで知的な雰囲気がありますね。見た目通り慎ましく穏やかな性格で、一様に皆に褒め称えられる人物だったそうです。
残念ながらウルビーノ時代の作品の写真は見つからず…。ラファエロの父はウルビーノ公に仕えた宮廷画家で、フランドル絵画とイタリア絵画を調和させたた画風で 教養高く文才にも恵まれていたそうです。この父のコネクションはラファエロにも非常に有利に働きました。また、初期のラファエロはペルジーノを正確に模写していて、現在でもどちらの作品か意見の別れるものもあるほどだそうです。
ラファエロ・サンティ 「大公の聖母」のポスター

こちらはラファエロがフィレンツェへやって来た翌年の1505年(22歳頃)の作品です。マリアは慈悲溢れる表情をしていて、キリストは柔らかい肉体表現で描かれしっかりと母につかまってますね。陰影も柔らかく緻密で、これぞラファエロといった気品ある作風です。背景が黒一色になっているのは後世に塗りつぶされたためらしく、元々は窓が描かれていたことが調査で分かっています。 タイトルの大公とは後世のトスカーナ大公フェルディナンド3世(ハプスブルク家に連なる家系の人物 1769~1824年)のことで、18世紀にナポレオンから逃れる際に亡命先に持っていくほどこの絵を大切にしていたそうで、いつも寝室に飾っていたことから名付けられたそうです。その頃に傷んでしまったのかも…。
ラファエロは1504年にウルビーノの宮廷の実力者にフィレンツェ共和国の行政長官宛の紹介状を書いてもらい、フィレンツェに進出を果たしました。この頃のフィレンツェではレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ・ブオナローティが政庁舎の壁画の注文を受けて下絵を制作していて、ラファエロは2人の芸術から大きな刺激を受けています。レオナルド・ダ・ヴィンチからは動き溢れる構図と陰影法、モナリザに観られる肖像画の優雅なポーズなどを学び、ミケランジェロからは男性裸体像の動きや短縮法、姿勢のヴァリエーションを学んで自分の作品に応用しています。ラファエロはこの2人以外にも過去の芸術家や同時代のフラ・バルトロメオらの作品にも積極的学んだようですが、むやみに学ぶのではなく、自らの目的に合うものを選び、変容させることも厭わなかったようです。ラファエロのフィレンツェ時代は主に上流貴族の注文による肖像画と聖母子像を多く制作し、ウルビーノやペルージャにも足を運んで その地にも作品が残されています。
ラファエロ・サンティ 「一角獣を抱く貴婦人」のポスター

こちらは1505年~1506年頃の作品です。これを初めて観た時にレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザに構図が似てるなと思いました。(ピラミッド型の人物図はダ・ヴィンチの影響のようなのであながち間違いじゃないとは思います) そして、もう一つ気になるのが小脇に抱えた一角獣です。この絵は婚礼の際に注文されて作られ、一角獣は貞淑と純潔の証ですが、やけに小さくないか?w 仮にも馬ならもっと大きいのでは? と思いますが、実はこの一角獣は元々 犬を描こうとしていたのを一角獣に変更したのではないかと考えられています。 また、この絵の修復前は一角獣は車輪に置き換わり、女性は肩にマントを羽織って、聖カタリナとして描き換えられていたこともあるようです。(車輪はカタリナを表す持ち物) 修復の際にX線で調べてみて、一角獣の存在が分かったそうで、何故上から描かれていたのかはわかりませんが、ミステリアスな運命を辿った作品です。
ラファエロはフィレンツェにいながらキリスト教世界の中心都市ローマで働く機会を伺っていたらしく、1508年についにその機会を得ました。当時の教皇ユリウス2世は居室の装飾のため当代を代表する画家をローマに呼び寄せたそうで、その中にラファエロも加えられました。当初はチームの一員として従事していたようですが、やがて頭角を現し全体の装飾を任されることになり、他にもシスティーナ礼拝堂に飾るタピスリー制作など大きなプロジェクトをいくつも行うようになっていきました。そして大規模な工房を構え、幾つもの制作を同時に行うようになると共に、マルカントニオ・ライモンディ等の版画家を使って自らの素描を版画化していきます。その後、教皇ユリウス2世の跡を継いだレオ10世もラファエロを重用して居室の装飾を続行させたそうで、ラファエロは1514年にはサン・ピエトロ寺院の造営主任になり、一方では古代遺跡の保護などにも携わっていたそうです。また、ヴァチカンでは多くの人文主義者と交流し、ラファエロほど貴族や学者と交流した画家はそれまでいなかったほどだったようです。
模写:下村観山 原画:ラファエロ・サンティ「小椅子の聖母」(左側)

こちらは1513年~1514年頃の作品を明治時代の日本画家の下村観山が模写したものです。ローマ時代の作品ではあるものの「トンド」と呼ばれるフィレンツェで流行った円形画となっていて、フィレンツェ出身のレオ10世の注文ではないかという説もあります。理想的な雰囲気の母子像で、割と人間っぽさがあって親子の愛情が強く感じられますね。色彩はティツィアーノからの影響も指摘されているようですが、ちょっと模写だとそこまで分からないかなw
ラファエロはローマで様々な芸術家と出会っていて、中でもミケランジェロは最大の存在だったようですが、次いでヴェネツィア出身のセバスティアーノ・ルチアーニも重要な存在だったようです。ラファエロは彼を通じてヴェネツィア派の色彩や風景表現を取り入れていて、逆にセバスティアーノ・ルチアーニもラファエロからの影響を受けています。
ラファエロ・サンティ 「バルダッサーレ・カスティリオーネの肖像」

こちらは1514~1515年頃の作品で、モデルは友人であり 外交官で人道主義者である人物です。割と地味な色使いですが、暗いという感じではなく柔らかい温かみを感じます。手を組んでやや斜めに構える構図はやはりモナ・リザへのリスペクトでしょうか。等身大なので間近で観るとかなり存在感があって親しみも感じられる作品です。
ラファエロの工房は才能ある若い画家が集まっていたそうで、ラファエロは熱心に指導しました。弟子は成長して後にイタリアを代表する画家として活躍するものも現れ、特にジュリオ・ロマーノはマントヴァの宮廷画家を務めるほどの活躍をしたそうです。ラファエロの死後も弟子たちは師の方法を引き継いで工房を運営していき、その延長線上には17世紀のルーベンスの工房などもあります。
ラファエロ・サンティ 「友人のいる自画像」

こちらは1518~1520年頃の晩年の作品です。この後ろの人物はラファエロ本人と考えられるようで、2人は仲が良さそうな感じを受けます。手前の人物は誰かわからないようですが、一番弟子とも言えるジュリオ・ロマーノとの説が近年注目されているようです。穏やかな中に少しだけ動きを感じますね。
ラファエロは1520年の誕生日に37歳の若さで熱病によって夭折してしまいました。ラファエロはサン・ピエトロ大聖堂の建設責任者でしたが亡くなってしまったので最終的にはミケランジェロが設計することになりました。
版刻:ウーゴ・ダ・カルピ 原画:ラファエロ・サンティ 「ダヴィデとゴリアテ」

こちらは年代不明(恐らくローマ時代)の原画を版画化したものです。ダヴィデが投石機でゴリアテの額に石を当て、気絶したところで首を斬るシーンが描かれています。周りの人々も含めてドラマチックな印象を受けるので、ここまで観てきた作品とはだいぶ印象が異なるかな。元々はラファエロの版画を作っていたライモンディが線刻した複製版画があったのですが、これはさらにそれを「キアロスクーロ(明暗)」という技法で翻案したものです。「キアロスクーロ」は16世紀初めにドイツで生まれた技法で、線を表す板(ラインブロック)と色面を表す板(トーンブロック)を使って刷られています。その名の通り明暗が強めで遠近感や立体感がよく表れているように思えます。技法のおかげで一層ドラマチックに感じられるのかも。
こうした版画は古代ギリシャやローマの古典を参考にしていて、18世紀の新古典主義の時代には手本となって後の世にも影響を与えました。
版刻:マルカントニオ・ライモンディ 原画:ラファエロ・サンティ? 「『美徳』より 賢明」

こちらも年代不明で、ラファエロが原画ではないかと考えられている作品です。理想的な均整の取れた裸婦像で、腕の辺りに若干の硬さがあるようにも思えますが、優美な肉体をしています。
ラファエロのローマ時代の仕事は普通の人々の目に触れない所のものだったので、準備素描をライモンディ達版画家に渡して銅版画を作らせ、弟子に刷らせていたそうです。ラファエロはいち早く版画の潜在能力に気づいて、自らの作品を版画にして弟子の育成にも活用しました。これによってラファエロの作品はヨーロッパ中に知られることとなり、版画に基づく陶器なども盛んに作られました。
ということで、実は20年ほどしか作品が残っていないラファエロですが、その仕事はどれも重要で歴史的な影響度で言えばラファエロが崇敬したレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ・ブオナローティをも凌ぐ存在ではないかと思います。日本で観られる機会は稀ですが、数年おきくらいで来日することがあるので、その際は見逃したくない画家ですね。
参考記事:
ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)
ラファエロは1483年にウルビーノの画家で詩人のジョヴァンニ・サンティの子として産まれました。父の工房は繁盛していたようですが、8歳の時に母を亡くし、11歳の時には父も亡くしています。ラファエロの画家としての基礎は父の工房の画家に学んだという説が有力のようですが、諸説あり実際のところはよく分かっていません。画家としてのラファエロの名が初めて現れるのは1500年12月10日に制作された祭壇画で、トレンティーノの聖ニコラウス教会の「父なる神、聖母マリア」「天使」を制作した時のようです。これには父の作品に観られるのと同じ技法が用いられている一方、ペルジーノ(ヴァザーリの著書ではラファエロの師匠とされている)からの影響も色濃く観られるようで、ペルジーノからの影響はその後一層顕著になっていくそうです。また、ラファエロはピントリッキオらに協力して働き腕を磨いていったそうで、ラファエロは急速に成長を遂げ、より大きな舞台を夢見るようになっていきました。
ラファエロ・サンティ 「自画像」のポスター

こちらは1504~1506年頃の作品で、ウルビーノの時代の後のフィレンツェ時代となります。故郷に帰った際 家族かウルビーノ公爵の為に描いたと考えられる自画像で、優しげな顔立ちで知的な雰囲気がありますね。見た目通り慎ましく穏やかな性格で、一様に皆に褒め称えられる人物だったそうです。
残念ながらウルビーノ時代の作品の写真は見つからず…。ラファエロの父はウルビーノ公に仕えた宮廷画家で、フランドル絵画とイタリア絵画を調和させたた画風で 教養高く文才にも恵まれていたそうです。この父のコネクションはラファエロにも非常に有利に働きました。また、初期のラファエロはペルジーノを正確に模写していて、現在でもどちらの作品か意見の別れるものもあるほどだそうです。
ラファエロ・サンティ 「大公の聖母」のポスター

こちらはラファエロがフィレンツェへやって来た翌年の1505年(22歳頃)の作品です。マリアは慈悲溢れる表情をしていて、キリストは柔らかい肉体表現で描かれしっかりと母につかまってますね。陰影も柔らかく緻密で、これぞラファエロといった気品ある作風です。背景が黒一色になっているのは後世に塗りつぶされたためらしく、元々は窓が描かれていたことが調査で分かっています。 タイトルの大公とは後世のトスカーナ大公フェルディナンド3世(ハプスブルク家に連なる家系の人物 1769~1824年)のことで、18世紀にナポレオンから逃れる際に亡命先に持っていくほどこの絵を大切にしていたそうで、いつも寝室に飾っていたことから名付けられたそうです。その頃に傷んでしまったのかも…。
ラファエロは1504年にウルビーノの宮廷の実力者にフィレンツェ共和国の行政長官宛の紹介状を書いてもらい、フィレンツェに進出を果たしました。この頃のフィレンツェではレオナルド・ダ・ヴィンチとミケランジェロ・ブオナローティが政庁舎の壁画の注文を受けて下絵を制作していて、ラファエロは2人の芸術から大きな刺激を受けています。レオナルド・ダ・ヴィンチからは動き溢れる構図と陰影法、モナリザに観られる肖像画の優雅なポーズなどを学び、ミケランジェロからは男性裸体像の動きや短縮法、姿勢のヴァリエーションを学んで自分の作品に応用しています。ラファエロはこの2人以外にも過去の芸術家や同時代のフラ・バルトロメオらの作品にも積極的学んだようですが、むやみに学ぶのではなく、自らの目的に合うものを選び、変容させることも厭わなかったようです。ラファエロのフィレンツェ時代は主に上流貴族の注文による肖像画と聖母子像を多く制作し、ウルビーノやペルージャにも足を運んで その地にも作品が残されています。
ラファエロ・サンティ 「一角獣を抱く貴婦人」のポスター

こちらは1505年~1506年頃の作品です。これを初めて観た時にレオナルド・ダ・ヴィンチのモナリザに構図が似てるなと思いました。(ピラミッド型の人物図はダ・ヴィンチの影響のようなのであながち間違いじゃないとは思います) そして、もう一つ気になるのが小脇に抱えた一角獣です。この絵は婚礼の際に注文されて作られ、一角獣は貞淑と純潔の証ですが、やけに小さくないか?w 仮にも馬ならもっと大きいのでは? と思いますが、実はこの一角獣は元々 犬を描こうとしていたのを一角獣に変更したのではないかと考えられています。 また、この絵の修復前は一角獣は車輪に置き換わり、女性は肩にマントを羽織って、聖カタリナとして描き換えられていたこともあるようです。(車輪はカタリナを表す持ち物) 修復の際にX線で調べてみて、一角獣の存在が分かったそうで、何故上から描かれていたのかはわかりませんが、ミステリアスな運命を辿った作品です。
ラファエロはフィレンツェにいながらキリスト教世界の中心都市ローマで働く機会を伺っていたらしく、1508年についにその機会を得ました。当時の教皇ユリウス2世は居室の装飾のため当代を代表する画家をローマに呼び寄せたそうで、その中にラファエロも加えられました。当初はチームの一員として従事していたようですが、やがて頭角を現し全体の装飾を任されることになり、他にもシスティーナ礼拝堂に飾るタピスリー制作など大きなプロジェクトをいくつも行うようになっていきました。そして大規模な工房を構え、幾つもの制作を同時に行うようになると共に、マルカントニオ・ライモンディ等の版画家を使って自らの素描を版画化していきます。その後、教皇ユリウス2世の跡を継いだレオ10世もラファエロを重用して居室の装飾を続行させたそうで、ラファエロは1514年にはサン・ピエトロ寺院の造営主任になり、一方では古代遺跡の保護などにも携わっていたそうです。また、ヴァチカンでは多くの人文主義者と交流し、ラファエロほど貴族や学者と交流した画家はそれまでいなかったほどだったようです。
模写:下村観山 原画:ラファエロ・サンティ「小椅子の聖母」(左側)

こちらは1513年~1514年頃の作品を明治時代の日本画家の下村観山が模写したものです。ローマ時代の作品ではあるものの「トンド」と呼ばれるフィレンツェで流行った円形画となっていて、フィレンツェ出身のレオ10世の注文ではないかという説もあります。理想的な雰囲気の母子像で、割と人間っぽさがあって親子の愛情が強く感じられますね。色彩はティツィアーノからの影響も指摘されているようですが、ちょっと模写だとそこまで分からないかなw
ラファエロはローマで様々な芸術家と出会っていて、中でもミケランジェロは最大の存在だったようですが、次いでヴェネツィア出身のセバスティアーノ・ルチアーニも重要な存在だったようです。ラファエロは彼を通じてヴェネツィア派の色彩や風景表現を取り入れていて、逆にセバスティアーノ・ルチアーニもラファエロからの影響を受けています。
ラファエロ・サンティ 「バルダッサーレ・カスティリオーネの肖像」

こちらは1514~1515年頃の作品で、モデルは友人であり 外交官で人道主義者である人物です。割と地味な色使いですが、暗いという感じではなく柔らかい温かみを感じます。手を組んでやや斜めに構える構図はやはりモナ・リザへのリスペクトでしょうか。等身大なので間近で観るとかなり存在感があって親しみも感じられる作品です。
ラファエロの工房は才能ある若い画家が集まっていたそうで、ラファエロは熱心に指導しました。弟子は成長して後にイタリアを代表する画家として活躍するものも現れ、特にジュリオ・ロマーノはマントヴァの宮廷画家を務めるほどの活躍をしたそうです。ラファエロの死後も弟子たちは師の方法を引き継いで工房を運営していき、その延長線上には17世紀のルーベンスの工房などもあります。
ラファエロ・サンティ 「友人のいる自画像」

こちらは1518~1520年頃の晩年の作品です。この後ろの人物はラファエロ本人と考えられるようで、2人は仲が良さそうな感じを受けます。手前の人物は誰かわからないようですが、一番弟子とも言えるジュリオ・ロマーノとの説が近年注目されているようです。穏やかな中に少しだけ動きを感じますね。
ラファエロは1520年の誕生日に37歳の若さで熱病によって夭折してしまいました。ラファエロはサン・ピエトロ大聖堂の建設責任者でしたが亡くなってしまったので最終的にはミケランジェロが設計することになりました。
版刻:ウーゴ・ダ・カルピ 原画:ラファエロ・サンティ 「ダヴィデとゴリアテ」

こちらは年代不明(恐らくローマ時代)の原画を版画化したものです。ダヴィデが投石機でゴリアテの額に石を当て、気絶したところで首を斬るシーンが描かれています。周りの人々も含めてドラマチックな印象を受けるので、ここまで観てきた作品とはだいぶ印象が異なるかな。元々はラファエロの版画を作っていたライモンディが線刻した複製版画があったのですが、これはさらにそれを「キアロスクーロ(明暗)」という技法で翻案したものです。「キアロスクーロ」は16世紀初めにドイツで生まれた技法で、線を表す板(ラインブロック)と色面を表す板(トーンブロック)を使って刷られています。その名の通り明暗が強めで遠近感や立体感がよく表れているように思えます。技法のおかげで一層ドラマチックに感じられるのかも。
こうした版画は古代ギリシャやローマの古典を参考にしていて、18世紀の新古典主義の時代には手本となって後の世にも影響を与えました。
版刻:マルカントニオ・ライモンディ 原画:ラファエロ・サンティ? 「『美徳』より 賢明」

こちらも年代不明で、ラファエロが原画ではないかと考えられている作品です。理想的な均整の取れた裸婦像で、腕の辺りに若干の硬さがあるようにも思えますが、優美な肉体をしています。
ラファエロのローマ時代の仕事は普通の人々の目に触れない所のものだったので、準備素描をライモンディ達版画家に渡して銅版画を作らせ、弟子に刷らせていたそうです。ラファエロはいち早く版画の潜在能力に気づいて、自らの作品を版画にして弟子の育成にも活用しました。これによってラファエロの作品はヨーロッパ中に知られることとなり、版画に基づく陶器なども盛んに作られました。
ということで、実は20年ほどしか作品が残っていないラファエロですが、その仕事はどれも重要で歴史的な影響度で言えばラファエロが崇敬したレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロ・ブオナローティをも凌ぐ存在ではないかと思います。日本で観られる機会は稀ですが、数年おきくらいで来日することがあるので、その際は見逃したくない画家ですね。
参考記事:
ラファエロ 感想前編(国立西洋美術館)
ラファエロ 感想後編(国立西洋美術館)
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