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《岩佐又兵衛》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、戦国末期から江戸初期に活躍した岩佐又兵衛について取り上げます。岩佐又兵衛は通称で、本名は勝以(かつもち)で現在の伊丹に戦国武将 荒木村重の子として生まれ、主君である織田信長に反旗を翻したことから一族は滅亡の危機を迎えますが奇跡的に生き残りました。その後、母の姓を名乗って京都で活動し、豊臣の滅亡後に現在の福井に移住して20年ほど過ごした後に江戸に移っています。その画風は1つの流派に属さず、大和絵と漢画を融合した画風で人物画に本領を発揮しました。題材は幅広く、古典から風俗まで描いて浮世絵の祖とされることもあり後世に影響を与えています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

先述の通り、岩佐又兵衛は摂津伊丹城主荒木村重の子として誕生し戦乱に巻き込まれたものの、まだ赤ん坊だったので一族虐殺を生き延びることができました。土佐派や狩野派に学んだとされますが詳細はよく分かっておらず、牧谿や梁楷といった南宋時代の中国の水墨の画家なども研究していたと考えられています。画業初期の京都時代には代表作で国宝の「洛中洛外図屏風 舟木本」などが描かれています。(京都時代の写真は見つからず…)

岩佐又兵衛 「老子出関図」「雲龍図」
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こちらは元は六曲一双の屏風に龍虎と人物が12図貼りこまれていたようですが、明治時代に分割され今は掛け軸となっています。ぬっとした龍と、ちょっととぼけた顔の牛が可愛いw 墨の濃淡を自在に操って緩急のある表現も見事です。

この作品は大阪夏の陣で豊臣が滅びた後(40歳頃)に移り住んだ福井で制作されたもので、福井の豪商の金屋家に伝わった「金谷屏風」の一部です。2図ほど行方不明になっていて全部観ることはできませんが、東博や山種美術館、出光美術館などでそのシリーズを観ることができます。

岩佐又兵衛 「官女観菊図」のポスター
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こちらも「金谷屏風」の一部で、牛車の中で御簾を上げる侍女と足元の菊を見る2人の宮廷女官が描かれています。源氏物語の六条御息所を描いたものらしく白黒なので静かな印象を受けますが、実物をよく見ると3人の女性の唇はうっすらと赤くなっていて艶やかさがあります。トリミングされたような構図が面白い作品となっています。

大和絵を得意とした岩佐又兵衛ですが、こうした水墨も得意だったようです。割と画風が幅広く、観られる機会も少ないので中々馴染みにくい画家ですw

岩佐又兵衛 「伊勢物語 鳥の子図」
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こちらも「金谷屏風」の一部で、右隻第6扇というセンターを務めた作品ですw 伊勢物語の第50段「鳥の子」で、女が男に恨みの和歌を返すシーンを描いているらしく、結構怖い顔しているように観えます。岩佐又兵衛の人物は顔に特徴があって、顎が長くて頬がぷっくりしてますw そのため「豊頬長頤」と呼ばれるようで、この作品はそれがよく出ていますね。

岩佐又兵衛 「羅浮仙図」
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こちらも「金谷屏風」の一部で、隋の時代の羅浮山を舞台にした伝説を描いています。この女性は梅の精(仙女)で、羅浮仙と呼ばれています。色鮮やかで清く爽やかな感じを受けるかな。それにしても金谷屏風は日本の文学や中国の仙人など題材が幅広くて、どういう基準なんだろうか?と未だに疑問です。

ちなみに金谷屏風は福井県立美術館で数日間(2017年8月26日~28日)だけ現存10図が夢の再開を果たすという奇跡の機会がありました。私は行けませんでしたが伝説の展覧会です。

岩佐又兵衛 「本性坊怪力図」
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こちらは『太平記』に出てくる南北朝時代の大和の般若寺の僧の本性房を描いた作品。崖の上でデカい岩を投げ落とそうとしているのが本性房で、笠置山の後醍醐天皇を六波羅探題の軍が攻めた時に大石を敵中に投じて退散させたという逸話を描いているそうです。大和絵のようでもあり岩などは漢画のようでもある独特の画風となっていて、臨場感ある構成も面白い。

こんなコミカルな雰囲気の作品もありますが、岩佐又兵衛は血みどろでスプラッターな作品も結構あります。首を跳ね飛ばされたり斬られて血が吹き出したり…w 割とそっちのほうが有名な作品が多いので、おどろおどろしい画家のイメージを持っている方もいるかも。

伝 岩佐又兵衛 「故事人物図屏風」
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こちらは本人の作品かはっきりしない作品。故事の出典もはっきりせず謡曲の「蟻通」や「住吉詣」、源氏物語の「桐壷」などが有力な説のようです。人々はそれほど顎が長くないけど生き生きとした雰囲気は岩佐又兵衛っぽさを感じるかな。

岩佐又兵衛は福井で20年ほど活躍し評判となり、1637年頃に幕府(秀忠?)の招きで江戸に出ています。3代将軍の家光の娘の千代姫の婚礼調度品の制作を命じられ、それが終わってからも川越の仙波東照宮の拝殿に奉納する「三十六歌仙図額」を制作するなど江戸でも20年ほど活躍したようです。

岩佐又兵衛 「風俗図」
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こちらは団扇に描かれた当時の風俗を描いたもので、晩年の作 もしくは工房作と考えられているようです。生き生きとして人情味が感じられて 浮世絵の始祖とされる理由も分かるかな。

こちも風俗図
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ごろ寝した母親に集まる子供や煙管を吸う男など、のんびりした雰囲気です。戦乱の時代って感じじゃないので世の中が落ち着いた頃でしょうか。穏やかな光景です。

先述の「三十六歌仙図額」の裏に「寛永十七年六月七日 絵師土佐光信末流岩佐又兵衛尉勝以図」という銘があり、明治時代にそれが発見され「勝以」と岩佐又兵衛が同一人物であるのが確かとなりました。結構、謎が多い画家です。

岩佐又兵衛の作品の写真は少なかったので、ここからはオマケとなります。

岩佐勝重 「猿猴芦雁図」
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こちらは岩佐又兵衛の息子による2幅対の作品。右幅の構図と左幅の雁の首の曲線が呼応するように思えます。猿がゆるキャラみたいで可愛いw

歌川国芳 「浮世又平名画奇特」
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こちらは江戸後期の浮世絵師の歌川国芳による岩佐又兵衛の伝説を描いた作品。浮世絵の祖・又平(岩佐又兵衛)が描く絵の中から人や妖怪たちが出てきた様子が描かれています。岩佐又兵衛へのリスペクトを感じますが、その一方で鷹匠の袖に将軍の家定を表す文字があったり藤娘が大奥を表すと評判になったそうで、国芳は版元と共に過料に処せられています。反骨精神ぶりは国芳らしいかなw

歌舞伎の演目「傾城反魂香」の主人公に浮世又兵衛という人物がいて、岩佐又兵衛がモデルとされています。江戸時代を通して有名な画家だったことが分かりますね。


ということで、幅広い作風と題材で一言で言い表すのは難しい画家となっています。その特徴の掴めなさがいまいち一般受けしていない気もしますが、国宝や重要文化財が多く美術好きの中にはファンの多い画家です。最近は奇想の画家として評価が高まってるので、福井の展示のように東京でもまとめて紹介して欲しいものです。
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