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《野々村仁清》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、江戸初期に京焼を大成した野々村仁清(ののむらにんせい)について取り上げます。野々村仁清は丹波国野々村(現在の京都府北桑田郡美山町)の出身で、本名は清右衛門(せいえもん)ですが 瀬戸で修行し陶器の技術を身に着けた後、京都の仁和寺の近くに御室窯を開き 仁和寺の「仁」と清右衛門の「清」を合わせて「仁清」と称しました。当初はあまり有名ではなかったようですが、茶人の金森宗和の指導の元で作陶するようになると 金森宗和の茶会で仁清の作品が使われるようになり、名が広まっていきました。野々村仁清は尾形乾山の師でもあり、京焼のみならず日本の陶芸界に大きな影響を与えています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。(仁清の作品は年代不明の為、順不同となります)

野々村仁清 「色絵月梅酢茶壺」
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まずは仁清の代表作から。梅を狩野派風に描いていて、赤が鮮やかで華やかです。金の使い方も見事で気品漂う一品です。当時は陶器に赤を使うのは難しかったようで、仁清が初めて赤を使ったという話を聞いたことがあります。また、仁清の特徴として轆轤(ろくろ)の高い技術がよく取り上げられます。こうした大型でふっくらとした形を作れたことも仁清ならではの高い技術の賜物です。

仁清が活躍した時代は、1620年に2代将軍 徳川秀忠の娘の東福門院(徳川和子)が入内するなど幕府と朝廷の融和政策が進み幕府からの経済援助もあって、京都も文化的環境が発展していきました。多くの文化人がサロンを形成し、公家・武家・町衆・僧侶の身分を越えた交流を行っていたようで、この交流によって新しい時代の美意識が作られていきました。

野々村仁清 「色絵牡丹図水指」
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こちらも色絵の水差し。中国的な窓絵の構図となっていますが、描かれているのは牡丹で和風の趣があります。この作品でも金泥や赤を効果的に使っていて かつての王朝文化を思わせますね。

江戸時代初期の1615年に禁中並公家諸法度が制定されると、和歌は宮廷を象徴する芸能と位置づけられ、後水尾天皇は率先して古典文学を研究しました。それによって古典復興の機運が高まり、詩歌では素直でなだらかな言葉の流れや、分かりやすい平明な趣向が重視されたようです。この美意識は詩歌のみならず他の文化にも向けられたそうで、野々村仁清を含めた寛永文化の特色となっています。後水尾天皇自身で古典や茶の湯などの文化交流のサロンを開くなど文化的な後押しをしていたようです。

野々村仁清 「色絵鶴香合」
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こちらも色絵ですが可愛らしい鶴の形をした香合です。柔らかい丸みが何とも優美で首のカーブが特に美しく感じます。仁清はこうした鳥の形の香合を割と早い時期から作っていたようです。他にも扇や菊の形の釘隠しなど遊び心を感じる作品も作っていて、デザインの面白さも仁清の魅力だと思います。

仁清は様々な陶器を研究していたようで、信楽焼風のもの、唐津焼を写したもの、高麗茶碗を写したもの、さらには東南アジアの「安南」という陶器に影響を受けた作品などもあります。幾何学的でモダンな模様もあれば素朴な作風のものもある… と、作風は幅広いのですが根底には共通して洒脱な感性があるように思います。

野々村仁清 「瀬戸釉平水指」
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こちらは仁清にしては渋い印象を受けますが、形はふっくらして最初の茶壺に似たものを感じます。仁清が修行した瀬戸焼の作を思わせ、瀬戸釉ともいわれる鉄釉に灰釉を流し掛けています。華やかな作品もあると思えばどっしりと力強い作品もあるというのは凄いことですね。

仁清は1647年頃に仁和寺の門前に窯を開いたのですが、先述の通り最初は売れていませんでした。しかし茶人の金森宗和が仁清をプロデュースしたことで名が売れていきます。金森宗和は飛騨高山城主の金森家に生まれて京都で茶人として活躍した人物で、武家・公家・町人らと交流を持ち、茶席で自分がプロデュースした御室焼を披露し斡旋していったようです。仁清は金森宗和の趣味(落ち着いた色調と独創的かつ洗練された造形)に沿った作陶をしていたようですが、金森宗和が亡くなると色絵に力を入れていき、それまでとは異なる華麗な作風へと変化していったようです。順序的には色絵は後の時代のものなんでしょうね。

野々村仁清 「銹絵山水図水指」
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こちらは銹絵と呼ばれる鉄釉によるモノクロの作品。まるで水墨の山水図のように繊細な表現となっていて叙情的な光景となっています。あちこちにヒビが入っているのは関東大震災で破損した為で、漆工芸家の六角紫水(ろっかくしすい)の手で修復されたのだとか。

尾形光琳の弟で陶芸家の尾形乾山は仁和寺の近くに住んでいたこともあり野々村仁清の元で陶芸を学んでいます。尾形乾山もよく銹絵の陶器を作っていて、兄の尾形光琳が絵付けをした合作も残っています。

野々村仁清 「銹絵染付舵櫂文茶碗」
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こちらは白地の茶碗の側面に青い染付と黒い鉄釉で模様を付けた作品。舵と2本の櫂らしく 舟の本体はありませんが 櫂が波のように観えるような。シンプルで現代に通じるようなデザインセンスが素晴らしいですね。

野々村仁清は京都で活躍しましたが、東京国立博物館や根津美術館、MOA美術館など東日本の美術館にも多くコレクションされています。今回ご紹介した作品のうち5点は東京国立博物館の所蔵ですw 

ということで、仁清は作風が色々ありますが どこかユーモアがあって気品漂う都会的なセンスを感じさせます。特に色絵は見栄えも良いのでファンが多い陶芸家です。展覧会も小規模ながらちょくちょく開催されるので、今後も注視していきたいと思っています。


 参考記事:
  寛永の雅 江戸の宮廷文化と遠州・仁清・探幽 (サントリー美術館)
  仁清と乾山 ―京のやきものと絵画―  (岡田美術館)箱根編
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