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《クロード=ジョセフ・ヴェルネ》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、18世紀フランスを代表する風景画家のクロード=ジョセフ・ヴェルネ(ジョゼフ・ヴェルネ)について取り上げます。日本ではあまり有名ではないかもしれませんが、フランスを始め西洋絵画を集めている大きな美術館にはよくコレクションされていて、日本では海外の○○美術館展といった機会でよく目にします。イタリアで学び新古典主義を少し先取りした雰囲気もありつつ、海景画を得意とし 実際に戸外でスケッチをして描いたリアリティのある描写や、光や大気の時間による変化を捉えるといった後のバルビゾン派や印象派のような姿勢で、絵画の歴史においても革新的な存在です。当時のアカデミーでも高く評価されていて、国王から依頼された連作「フランスの港」で名声を確固たるものとしました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

ジョセフ・ヴェルネは1714年に装飾画家の息子として南フランスのアヴィニョンで生まれ、14~15歳まで父のアトリエで学び 父の勧めで地元の有力画家フィリップ・ソーバンにも学んでいます。そして近くのエクス=アン=プロヴァンスの装飾画家ジャック・ヴィアリのもとで仕事をするようになり、1731年に貴族の邸宅の扉口上部を飾る一連の風景画を描き、これが最初期の作品となっています。そして1734年には庇護者のコーモン侯爵の力添えを得てイタリアのローマへと旅立ち、20年ほど滞在することになります。ローマではアドリアン・マングラールに師事したそうで、さらに17世紀のローマで活躍したクロード・ロラン、サルヴァトール・ローザ、ガスパール・デュゲなどの作品も研究するようになり、ジョバンニ・パオロ・パンニーニやアンドレア・ロカテッリにも影響を受けたそうです。
ローマでは古代美術品を素描する仕事に従事していましたが、やがてローマ在住の各国の外交庁や教皇庁の人々の間でジョセフ・ヴェルネの描く風景画が評判を得るようになっていきます。特にイギリス人に人気だったらしく、この時代のイギリス人は「グランドツアー」と呼ばれる 裕福な貴族の子弟が学業の終了時に行った大規模な旅行が背景にあります。(お土産で当地の風景画とかをよく買ってた) カンパーニャ平野やナポリ湾の眺めを描いた作品、そして難破船の主題が評価が高く イタリア滞在中の1746年にはフランスの王立絵画・彫刻アカデミーの準会員にもなっています。1753年3月にフランスに帰国すると、アカデミーの正会員となりルイ15世からの注文で連作「フランスの港」という大規模かつ名誉な仕事に着手しています。しかし、これによって10年以上フランス各地を転々とする生活となり、旅行による身体的負担に悩むことになったようです。そのため、本当は20点を予定していましたが15点でこの連作は終了しています。それでもこの連作は版画化され名声を高めました。

残念ながらイタリア時代や「フランスの港」の連作の写真はありませんでした…。50代から晩年にかけての作品をご紹介してまいります。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「Le Matin à la mer, le départ pour la pêche」
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こちらは1765~1766年頃の作品で、タイトルを日本語にすると「朝の海、釣りへの出発」といった感じです。朝の清々しい空気感があり、柔らかい朝日の光の表現が見事です。水平線が低いので開放感もありますね。

この作品もそうですが、光に包まれた船の絵を観るとクロード・ロランの作品を思い起こします。(と言うか私はよく見間違いますw) 実際に、クロード・ロランを研究しているのでその影響は明らかですが、当時の批評家のドゥニ・ディドロはロランはただの風景画家だが、ヴェルネは歴史画家であると評したようです。ドゥニ・ディドロからは「絵画の魔術」とまで評されたらしいので、当時のジョセフ・ヴェルネがいかに評価されていたかが分かります。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「Le Soir à la mer. L'entrée dons le port」
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こちらは1766年頃の作品で、タイトルを日本語にすると「夕方の海、港の入り口」かな。さっきと割と似た構図ですが、今度は夕日でさっきよりだいぶ赤味が増しています。人々も働いていたり ちょっとのんびりしていたりと生き生きしていて、夕方の雰囲気がよく出ているように思います。

ジョセフ・ヴェルネはよく港や海を描いていますが、時間を変えて同じ場所(ジョセフ・ヴェルネの場合は同じような場所ですが)を描くという手法は後のモネの連作を思わせるものがあります。光の微妙な変化を捉えるという点でも印象派の先駆けのようなことを試みていますね。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「La nuit ; un port de mer au clair de luna」
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こちらは1771年の作品で、日本語にすると「夜、月明かりに照らされた港」です。月光が明るく神秘的で、手前の炎も面白い陰影を生んでいます。理想的な風景でありつつリアリティを感じさせるのがジョセフ・ヴェルネの魅力と言えるのではないでしょうか。

ジョセフ・ヴェルネは実際に画架を背に担いで戸外で制作していたようです。これも印象派と似た行動ですが、現地で描いた実景と空想を織り交ぜて描いた作品も多いようです。それがこうした理想性とリアリティを融合したような光景につながったんでしょうね。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「夏の夕べ、イタリア風景」
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こちらは1773年の作品で、上野の国立西洋美術館の所蔵品です。これも恐らくいくつかの光景を組み合わせているようでイタリアの何処かは特定できないようですが、穏やかで神話のような光景に観えます。この頃になると新古典主義的な要素も出てきているようで、やや硬さを感じさせる仕上げとなっています。

この作品には対になる朝の光景の作品も確認されているそうです。一日の各時間を複数のタブローによって描き分けるのはイタリア時代からヴェルネが好んだ技法で、17世紀からの伝統に従っているのだとか。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「Etude pour Le matin.Les baigneuses」「Etude pour Le midi」
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こちらは1771年の作品で、「朝、水浴」の習作と「昼」の習作となります。習作のせいか若干粗めの仕上がりですが、却って生々しい感じが出ていて好きです。廃墟のようなものもあり、自然の雄大さも感じられます。

この頃、イタリアのポンペイ遺跡などが発掘されたことをきっかけにヨーロッパでは廃墟ブームが起きています。同時代の画家にはユベール・ロベールやピラネージといった廃墟を得意とした画家もいて、こうした風景も好まれたのかもしれませんね。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「Entrée d'un port de mer par temps calme,au coucher de soleil」
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こちらは1777年の作品で、日本語にすると「穏やかな天気の中、夕暮れ時の海の港への入り口」と言った感じです。この絵、さっきも無かったか?と二度見してしまいそうになりますw 割と似た構図で似た色使いの作品が多いのも特徴かな。それ故に一度覚えるとすぐに認知できる画家だったりします。

実際、ジョセフ・ヴェルネ自身も多くの港を描いていて、独創性を失わずに制作し続けることに苦しんでいたそうです。海や港なんてどこも似てるのに独創性を出すとなると大変ですね…。そのためか各地方の独特の風俗を描いたりしていたようで、それも評価を高めた一因のようです。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「Une tempête avec naufrage d'un vaisseau」
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こちらは1777年の作品で、日本語にすると「難破船と嵐」かな。波が高く真っ黒な雲や雷鳴が何ともドラマチックな光景となっています。船は明らかに座礁していて自然の驚異を感じます。一方で穏やかな空も観えているのが静と動の対比になっていて一層に神秘的に思えます。

難破船の主題はヴェルネの作品の中でも高い評価を受けたテーマで、特徴の1つとなっています。いつ頃から難破船を描いていたか分からないようですが、ローマにいた頃に影響を受けたパウル・ブリル、クロードロラン、ピーテル・ファン・ラールらはヴェルネより前にこの主題を描いていたそうです。

クロード=ジョセフ・ヴェルネ 「le naufrage dans la tempête」
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こちらは晩年の1788年の作品で、日本語にすると「大波の中の難破船」となります。この絵でも雷鳴が轟き大波が岩に砕け散る様子が見事に描写されています。救助する人たちの姿も真に迫っていて緊張感がありますね。

ジョセフ・ヴェルネは嵐を描くために体を船のマストに縛りつけてスケッチしたという逸話があるそうです。何という画家根性!w それだけ体を張っていたから体力を消耗したんでしょうね。晩年には弟子のヴァランシエンヌの影響で歴史的風景画にも取り組んでいたそうですが、この絵を描いた翌年の1789年に亡くなっています。

ここからはオマケとなりますが、ジョセフ・ヴェルネは本人だけでなく息子のカルル・ヴェルネと孫のオラース・ヴェルネも画家となって活躍しています

オラース・ヴェルネ 「Joseph Vernet attaché à un mât étudie les effets de la tempête.」
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こちらはジョセフ・ヴェルネの孫の作品で、1822年のもの。ジョセフ・ヴェルネの嵐を模した作品のようで、祖父の作風によく似ているように思います。

オラース・ヴェルネ 「Mazeppa」
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こちらはオラース・ヴェルネの1826年の作品。オラース・ヴェルネはフランス復古王政時代に戦闘場面を描いて評価された画家で、この絵でも緊迫した雰囲気が感じられます。何故2枚似たような絵があるのかは解説がフランス語で読めず…w


ということで、当時から評価が高く革新的な取り組みをしていた画家です。日本で個展が開かれたことは無いようですが、現在開催中のロンドン・ナショナル・ギャラリー展など有名美術館のコレクション展などでお目にかかる機会があります。覚えやすい画風なので、これを機会に意識してみると見方も変わってくるのではないかと思います。

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