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《ウジェーヌ・ドラクロワ》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、19世紀前半から中頃にかけて活躍したロマン主義の巨匠ウジェーヌ・ドラクロワ(フェルディナン・ヴィクトール・ウジェーヌ・ドラクロワ)を取り上げます。ドラクロワが活躍した時代はダヴィッドやアングルといった新古典主義の系譜が画壇の中心でしたが、この頃から美術だけでなく音楽や文学においてもロマン主義(ロマン派)が台頭し、ドラクロワはその代表格とされます。ドラクロワの一番の特徴は同時代の歴史的な出来事を歴史画風に描いた点で、1822年にキオス島で起きた虐殺をテーマにした「キオス島の虐殺」や、1830年の七月革命を題材にした「民衆を導く自由の女神」などが代表作として挙げられます。また、1832年からはアルジェリアやモロッコを旅行し、異国情緒を取り入れた作品なども残しました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

ウジェーヌ・ドラクロワは1798年にパリで外交官(実の父は有力な政治家という説が有力)の子として生まれ、17歳の頃から新古典主義の画家ピエール=ナルシス・ゲランに師事しました。そのため初期はアカデミックな画風だったようでルーベンスやラファエロに影響を受けていたようです。しかし同門でロマン派の先駆者となるテオドール・ジェリコーの作品に触発されるようになり、1822年に『神曲』から着想を得た「ダンテの小舟」という作品でサロンにデビューしました。この作品はかなり批判されたようですが、新古典主義の先輩画家であるジャン・グロが強力に推薦してくれたようです。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「Nu assis, dit Mademoiselle Rose(マドモアゼル・ローズ)」
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こちらはサロンデビュー間もない1824年頃の作品。イギリスのロマン派の画家リチャード・パークス・ボニントンと共にモデルに向かって描いていたようで、モデルは2人のために何度もポーズを変えていたそうです。もうこの頃から粗目の筆致に見えるかな。ちょっと不安そうな顔が内面性を感じさせます。

これを描いた年に代表作となる「キオス島の虐殺」をサロンに出品しました。これは1820年から始まったトルコ軍のギリシャ侵攻によって1万人の人々が虐殺された事件を描いたもので、怒りや悲しみを叩きつけたような作品となり、この頃ちょうど敬愛するジェリコーが落馬で亡くなっているので、その悲しみも背景にあったのかも知れません。ジャン・グロには「これは絵画の虐殺だ」と酷評されたものの、新しいロマン派の代表画家として評価する者もいて、作品は国に購入されました。(親類・縁者のコネが強いのも後押ししたようです)

ウジェーヌ・ドラクロワ 「民衆を導く自由の女神」
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こちらは一番有名な1830年の作品で、同年に起きたフランス7月革命を主題としています。実際の事件を描いているのでリアリティがありつつ、「自由」「平等」「博愛」の擬人化である女性(マリアンヌ)など比喩的な表現も使われています。後ろのシルクハットの人物はドラクロワ自身という説もあるようです。こういう劇的で感情を鼓舞するような場面や、激しいタッチで強い色彩を用いている点などが新古典主義とは大きな違いとなっていて、ドラクロワはロマン派の代表として名をあげました。

ちなみにロマン派はそれまでの伝統や合理主義などに対して感情表現や神秘性といったものを取り入れたのが特徴とも言えますが一概にそうでもない所もあり、定義が難しいところです。山田五郎 氏が言っていた「古典主義に対して何でも反抗したので統一性はない」というのが一番スッキリ来る定義かもしれませんw 

ウジェーヌ・ドラクロワ 「シビュラと黄金の小枝(女預言者と黄金の小枝)」
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これは1838年の作品で、1845年のサロンに出品されました。叙事詩『アエネイス』に基づいた話で、アポロの巫女の女預言者シビュラが冥界に向かうアエネイスに、冥界の女王プロセルピナへの供物として黄金の小枝を探すように言い、指さしてその場所を教えているシーンです。鑑賞している人がアエネイスになったような視線になっているのが面白い構図となっています。当時の書簡によると、ドラクロワ自身が「金の枝を手に入れた」という想いを込めてこの作品を描いたとされていて、真なる芸術の領域を達し超えたと感じていたとも考えられるようです。

この作品を描く前の1832年にアルジェリアやモロッコを旅行し、1830年代末は古代のモデルという問題に心を砕いていたようです。異国情緒や神秘性を感じる作品はこの頃から多いように思います。また、詩人のバイロンやシェイクスピアに着想を得た作品なども残しています。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「聖母の教育」
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こちらは1852年の作品で、聖母マリアの母アンナがマリアに旧約聖書の読み方を教えている場面が描かれています。この作品はかなり穏やかな雰囲気で、犬もいてのんびりした光景です。劇的な代表作とはだいぶ違っていますが、ここでも筆致は粗目で色彩豊かなのが面白い所だと思います。ちなみにこの10年前にドラクロワは女流作家のジョルジュ・サンドの別荘に滞在し、使用人とその娘をモデルにこの絵と同様の主題で描いています。サンドの恋人は作曲家のショパンでドラクロワとも友人だったようです。ちょうどこの絵もショパンの曲のような穏やかな印象ですね。

1855年のパリ万博で、ドラクロワはアングルと共に特別室を与えられて36点の油彩画を出品しました(先程のシビュラもそのうちの1点です) 2人はライバル関係と言った所ですが、アングルとしては比較されるのも嫌だったようですw

ウジェーヌ・ドラクロワ 「墓に運ばれるキリスト」
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こちらは1859年の作品で洞窟のようなところで、3人の男性に持ち上げられて更に深い地下へと運ばれるキリストを描いた作品です。シャベルと共にたいまつを持った人の周りや、洞窟の入口付近からもれる光などによって、光によって人々に微妙な影が落ちています。この作品は尊敬していたレンブラントに影響を受けていると指摘され、深い宗教性と友人に先立たれたドラクロワの悲しみの内面性が表されているようです。題材自体に悲しみを感じますね。

ドラクロワは1857年にアカデミーの会員になりました。1830年以降にブルボン宮やリュクサンブール宮などの大規模な装飾事業を手掛けていたのにこの頃まで会員ではなかったのが意外です。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「海からあがる馬」のレプリカ
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こちらは1860年の作品で、モロッコに行った際のスケッチと馬を組み合わせて描いています。ターバンを巻いていて異国情緒があるし、躍動感ある姿勢がドラクロワならではのドラマチックな感じです。筆致も素早く、この後の時代の近代絵画の到来を感じさせますね。

ドラクロワは体調を崩し1859年以後は引きこもりがちになっていきました。そして1863年に亡くなっています。

ウジェーヌ・ドラクロワ 「ケレスを讃えて」
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こちらは年代不明の作品で、これまではパリ市庁舎の天井画習作とされてきましたが、現在ではドラクロワの死後の1866年頃の天井画のために弟子のアンドリウが描いたのではないかとされています。私には判別はつきませんが、大勢の人間が様々なポーズを取っているのは往年のドラクロワを思わせるものがあるように思えます。

ドラクロワの弟子と言って良いか分かりませんが、ピュヴィス・ド・シャヴァンヌも短期間ですがドラクロワに師事しています。また、ドラクロワは死後も近代の画家たちに大きな影響を与えました。色彩表現の重視によってその後の印象派に繋がる流れができ、ゴッホもドラクロワの色彩理論を学んでいます。描写についても個人の感性を重視した作品を描いたのも近代的に思えます。さらに新印象主義のシニャックは1899年に「ウジェーヌ・ドラクロワから新印象主義まで」を刊行し、分割主義を理論的に体系づけ、やがてこの本は広く読み継がれ抽象絵画の創設にも大きな役割を果たしています。そう考えるとドラクロワは近代絵画の始祖の1人とも言えそうです。

ということで、ドラクロワも革命的な画家だと思います。日本ではまとめて紹介される機会はほぼ無く、名品展や海外の大型美術館展などで数点観られるといった感じです。しかし絵画の歴史の流れを知る上でも重要だと思いますので、覚えておきたい画家です。

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