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《月岡芳年》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、幕末から明治にかけて活躍した浮世絵師 月岡芳年を取り上げます。月岡芳年は歌川国芳に入門し、若い頃は師匠譲りのドラマチックな作品で人気を博しました。幕末から明治初期にかけて「血みどろ絵」と呼ばれる猟奇な作風を残し、芳年の代名詞のように語られることもありますが、これは芳年の作品のほんの一部であってその後も歴史画や風俗画を始め数多くのシリーズを手掛けました。月岡芳年の門弟には水野年方がいて、孫弟子の鏑木清方や曾孫弟子の伊東深水などにも繋がっていきました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


月岡芳年は1839年に江戸で生まれ、12歳で歌川国芳に入門しました。(同門には河鍋暁斎などもいます。)それからわずか3年後に「一魁斎芳年」の名前で「文治元年平家の一門亡海中落入る図」という作品を制作しています。駆け出しの絵師が3枚続の大判錦絵を手がけるのは異例中の異例だったそうで、親族から資金の提供があったのではないかと推測されるものの、すでに才能に満ち溢れていたのは確かだったようです。20歳を過ぎると役者絵や武者絵を継続して作るようになりますが、23歳の時に師匠の国芳が病死してしまいます。その為わずか10年の師弟関係となりましたが、国芳が芳年に与えた影響は大きいようです。27歳の時、「和漢百物語 小野川喜三郎」に初めて「月岡魁斎芳年」と月岡の号を署名したらしく、これは月岡雪斎という親戚の画姓を引き継いだものとされるようですが、一人立ちの決意も込められていたと考えられるようです。 1866年に兄弟子の落合芳幾と共に歌舞伎や講談の刃傷場面を描いた「英名二十八衆句」という作品を発表し、その後も過剰なまでに血を描写した「血みどろ絵」と呼ばれるの猟奇な作品を多く手がけています。そのインパクトから芳年というと血みどろのイメージで狂気の絵師とみなされることもあるようですが、このような表現は幕末の歌舞伎や講談で好まれた趣向だそうで、芳年はそれを過剰に演出したに過ぎないようです。また、この時期に空想の武者絵ではなく上野戦争で目の当たりにした戦闘のリアリズムを追求したのが要因のようです。しかし血みどろ絵の時期はほんの一時期で、それだけで月岡芳年を評価するのは妥当ではないと思われます。
その後、30歳の頃に明治の新しい時代になると、芳年だけでなく狩野派をはじめとするあらゆる絵師の基盤が揺らぎ、芳年は自らの方向性を模索する中、「一魁随筆」という武者絵を打ち出しました。しかし思ったような人気を得ることはできず、失意の中で明治5年(1872年)には神経衰弱という病に倒れ、それ以降生活は困窮していきました。

月岡芳年 「誠忠義心伝 礒合十郎左ェ門藤原正久」
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こちらは1868年の作品で、仮名手本忠臣蔵(実名ではなく名前を仮託して使っている忠臣蔵)を描いたシリーズです。畳を盾に矢を防いでいるものの出血多量で畳に血の手形が出来ています。この血みどろっぷりのインパクトが大きいので、芳年のイメージがリンクしてしまったのも頷けるかな。確かにリアリティを感じますね。この4年後に病気で倒れてしまいました。

月岡芳年は明治6年(1873年 35歳)にそれまで使っていた「一魁斎」の号に代わって新しく「大蘇」の号を用いるようになり、病から脱して意欲的に制作に携わるようになりました。明治8年(1875年)には郵便報知新聞で新聞錦絵の連載を開いて好評を博し、新聞小説の挿絵も手がけるなど新聞でも活躍しています。明治10年(1877年 39歳)の頃に勃発した西南戦争に取材するなど この時期は風俗・時事的な要素が濃くなると共に歴史画・神話画・徳川の時代を振り返るような作品も手がけています。この頃の画風は衣服の衣紋線や皺を強調して描いたり、人物の劇的な動きを与える芳年ならではの画風の確立が観られるようです。

月岡芳年 「義経紀五條橋之図」の一部の看板
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こちらは1881年の作品の一部で、実際の絵には弁慶と牛若丸が五條大橋で戦っている様子が描かれています。ひらひらと跳ぶこの義経に対し長刀で踏ん張るようなポーズの弁慶が対照的となっています。義経だけでも躍動感と緊張感がみなぎっていて迫力がありますね。

西南戦争が終わった後、40代となった芳年が精力的に取り組んだのは歴史画で、日本の神話から江戸時代に至るまでの揃いものを立て続けに発表しました。その基盤には師匠の武者絵があると考えられ、さらに時代考証を重んじた菊池容斎や、西洋の油絵の色彩、銅版の陰影などを加えたようです。また、この頃 天皇を中心とする明治政府にとって歴史画は国民を教化する有益なツールと認識され、芳年の絵も国民に歴史や修身を啓蒙する役割を担ったようです。

月岡芳年 「芳年武者旡類 源牛若丸 熊坂長範」のポスター
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こちらは明治16(1883年)の作品で、神話から戦国時代までの武者を描くシリーズの1枚です。武者震いと旡類(無類)を掛けたタイトルで、ここでは切り込む牛若と仰け反って長刀で受ける熊坂長範が描かれ、お互いに視線がぶつかり合っています。戦闘の迫力が伝わるポーズが見事で、まさに真剣勝負の瞬間ですね。

月岡芳年は明治15年(1882年)に絵入自由新聞社に挿絵絵師として月給100円の破格の待遇で迎えられ、人気の絶頂期となりました。その人気は非常に高く47歳の頃に出た「東京流行細見紀」では浮世絵師としてトップ名前が挙がるほどだったようです。画業においても40代半ばから亡くなるまでの10年の間に代表作・ヒット作を連発していて、いずれも明と暗、静と動を巧みに操ったドラマチックな画面構成となっています。こうした作品には浄瑠璃・歌舞伎・講談・落語・戯作・小説などが大きく関わっていたようです。

月岡芳年 「風俗三十二相 うるささう 寛政年間処女之風俗」
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こちらは私の大好きな1888年のシリーズものです。寝ている猫に覆いかぶさるように抱きついている華やかな着物の女性を描かれ、猫が可愛くて仕方がないといった感じの女性に対して、猫はやれやれといった感じなのが面白いw 猫の首輪と女性の襦袢はお揃いの柄になっているなど、猫好きの女性であることがよく伝わって来ます。

この時代、他の画家が新たな美術を模索する中、芳年は過ぎ去った江戸を懐かしむ庶民たちの感情に沿うように江戸へと回帰していったようです。

月岡芳年 「風俗三十二相 つめたさう(文化年間めかけの風俗)」
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こちらは腕まくりして手を洗う女性。派手な簪をしている妾で、タイトル通り水が冷たいんでしょうね。まるでその場を観ていたかのような心情表現が素晴らしい。

このシリーズは寛政から明治まで32枚揃いとなっています。「三十二相」とは元々は仏教用語で釈迦の姿の32の特徴を示すものですが、それに因んで女性の美しさを表す趣向となっています。歌川国貞なども当世三十二相」というシリーズを出しているので、そうしたものに影響されているかも知れません。

月岡芳年 「風俗三十二相 暗さう(明治年間妻君の風俗)」
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こちらは寝床の行灯に火を灯す女性が描かれ、ちょっと楽しげな表情をしています。緻密に描かれていて色っぽい雰囲気もありますね。

このシリーズでは各時代・各身分がタイトルに付けられていて、時代考証などもそれに合わしています。何気ない仕草や格好にもその時代を感じさせる工夫もあるようです。

月岡芳年 「風俗三十二相 かわゆらしさう(明治十年以来内室の風俗)」
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母子の仲睦まじい様子が描かれた1枚。このシリーズの中でも特に感情が表に出ているのではないかと思います。子供が可愛くて仕方ないという雰囲気が感じられ、子供もしっかり抱きついていますね。

この頃、「月百姿(つきのひゃくし)」という全100枚揃物のシリーズも手掛けています。(残念ながら写真が見つかりませんでした) 月と共に美人、役者、動物、武者、妖怪、伝説、歴史など様々なテーマが描かれていて正に月岡芳年の総決算とも言える代表作となっています。

月岡芳年 「雪月花の内・雪 尾上梅幸の岩倉の宗玄」
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こちらは晩年の1890年の作品で、歌舞伎の演目を描いた役者絵です。雪景色を背景に鋭い目つきと独特の髪型が何とも印象的。爪も長いしちょっと妖怪みたいに見えるけど、妖しい魅力がありますね。

月岡芳年 「芸妓図」
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最後にこちらは年代不明の肉筆画。非常にすらりとした印象を受け、画面外の左側にいる人と会話をしているような感じかな。肉筆においても艶っぽさは健在ですね。

晩年まで活躍した月岡芳年ですが、明治24年(1891年)に神経の病が再発し、54歳で亡くなってしまいました。晩年の作風が大好きなのでもうちょっと頑張って欲しかった…。

ということで、意外と写真が少なくて晩年に集中してしまいましたが、大好きな画家の1人です。数年に1度くらいの割合で個展も開催されるので、そうした機会には足を運んでいます。今後も開催されると思いますので、イチオシしたい画家です。

 参考記事:
  月岡芳年「月百姿」展 後期 (礫川浮世絵美術館)
  没後120年記念 月岡芳年 感想前編(太田記念美術館)
  没後120年記念 月岡芳年 感想後編(太田記念美術館)
  芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師 感想前編(練馬区立美術館)
  芳年-激動の時代を生きた鬼才浮世絵師 感想後編(練馬区立美術館)

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