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《橋本雅邦》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、幕末から明治にかけて活躍し東京美術学校の設立や日本美術院の創設に携わった橋本雅邦を取り上げます。橋本雅邦は元々は川越藩に仕える狩野派の画家でしたが、幕末の動乱で維新後は絵師としての活動は低迷しました。しかし同門で親友の狩野芳崖と共に研鑽を積み、アーネスト・フェノロサと岡倉天心の伝統絵画の復興運動に参加して新しい表現技法に挑み、1882年の第一回内国絵画共進会で高い評価を得て名を馳せて行きました。己の画業のみならず、東京美術学校の設立以降 横山大観や下村観山、菱田春草、川合玉堂といった錚々たる面々を指導し、日本画の世界に大きな足跡を残しました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

橋本雅邦は川越藩の御用絵師の父を持ち、父が木挽町狩野家の高弟だったので江戸木挽町(今の中央区)の狩野家の邸内で1835年に生まれました。幼少の頃から父に絵を学び、12歳で父の師で木挽町狩野家の当主である晴川院養信に入門しています。ここには7歳年上の狩野芳崖も共に入門していて、2人は生涯の友となり「勝川院の龍虎」と称されるほど門下で抜けた存在となっていきました。1860年(25~26歳)には雅邦の号を貰って独立しましたが、ここからしばらく苦難の時代が続きます。明治維新の動乱で絵画の需要は少なく、木挽町狩野家が火災で消失して雅邦も財産を失い、妻は病気となり 川越藩も廃止されました。そのため橋本雅邦は明治維新後、兵部省の海軍兵学校で図係学係として製図を行っていたようで、しばらく絵師の活動はできない状態でした。

橋本雅邦 「水雷命中」
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こちらは1881年頃の作品。前述の通り雅邦は海軍兵学校で図係学係として製図を行っていて、油絵を描くこともあったようです。この絵も油彩で日本画のイメージがあるのでちょっと珍しいのではないかと思います。巨匠にも意外な過去があったのが伺える1枚です。

この翌年の1882年の第一回内国絵画共進会でMOA美術館所蔵の「琴棋書画図」が銀印主席を取り、「竹鳩図」も銀印となって有名になりました。また、この頃から狩野芳崖を庇護していたフェノロサの日本画の復興運動に賛同していたようです。ちなみにフェノロサは1882年の第一回内国絵画共進会の審査官を務め、狩野芳崖に注目しています。フェノロサ自身も狩野派に学んで画号まで貰っているほど狩野派を高く評価した人物でした。

橋本雅邦 「寿老」
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こちらは年代不明の作品。以前ご紹介した雪舟の作品を模したもので、雪舟をよく学んでいた様子が伺えます。狩野派や過去の巨匠の伝統を学んだ下地があったからこそ新しい表現を模索できたのかもしれませんね。
 参考記事:《雪舟等楊》 作者別紹介

1886年に橋本雅邦は海軍兵学校を辞めて、狩野芳崖と共にフェノロサ・岡倉天心らが目指す東京美術学校の設立に向けて準備を始めました。しかし東京美術学校の開校を目前に控えた1888年に盟友の狩野芳崖が亡くなってしまいました。そのため、狩野芳崖の絶筆で最高傑作の「悲母観音」は橋本雅邦が仕上げを行っています。また、開校目前で芳崖が亡くなったこともあり、東京美術学校の絵画科の主任は橋本雅邦が務めることになりました。

橋本雅邦 「山水」
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こちらは1893年の作品で、同年のコロンブス世界博覧会(シカゴ万国博覧会)に出品されました。伝統的な水墨画ではありますが、構図や遠近法、明暗を表すためにヨーロッパの風景画の技法が取り入れられているそうです。岩の輪郭などは狩野派っぽい所もありつつターナーのような湿気を感じられるように思えます。

この3年前の1890年に東京美術学校が開校しています。その第一期生には横山大観、下村観山、西郷孤月、第二期生には菱田春草がいて 近代日本画における雅邦の影響力はかなり大きいと言えます。また、1890年の第3回内国勧業博覧会では「白雲紅樹」が妙技一等賞を受賞し、帝室技芸員にも任命されています。この年で一気に名実共に日本画の頂点に立った感じがあります。

橋本雅邦 「竹林猫」
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こちらは1896年(明治29年)の作品で、竹林の下で寝ている猫が描かれています。目を細めて表情が人間っぽく見えるw 竹の輪郭が濃くなっていて力強さを感じるけど、何故か途中でいきなり切れてるのか気になります。ここで竹を切ったのか、構図的な計算なのか…。

この1年前の1895年には「龍虎図屏風」を第4回内国勧業博覧会に出品しています。こちらも狩野派らしい迫力を感じる一方で 奥行きの表現には西洋画からの影響が感じられる作品です。この絵を観た川合玉堂はその素晴らしさに感激し、雅邦の門戸を叩いたとされるほどの名画です。

橋本雅邦 「臨済一喝(画稿)」
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こちらは1897年(明治30年)に描かれた代表作の画稿で、本画は50年以上行方不明になっていましたが2013年に再発見されました。これを観る度にキング・クリムゾンの1stのジャケットを思い出してしまうw 似たような顔がいくつも並び、一喝する口と目に試行錯誤が観られます。貴重な制作過程の作品ですね。

橋本雅邦 「狙公」
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こちらも1897年の猿回しを描いた2幅対の作品。伝統的な画題でありながら、子供たちと猿が特に表情豊かでそれまでの日本画になかった写実的な描写となっています。生き生きして動きを感じますね。

この翌年の1898年に、東京美術学校の内部でとんでもない内紛が起きます。岡倉天心が対抗勢力によって排斥されて辞職し、それに憤慨した橋本雅邦や横山大観、下村観山、菱田春草ら34名の教授陣も抗議して辞職してしまいました。(その内の12名は引き止めに成功し留任しています) 経緯はややこしいので割愛しますが、怪文書まで飛び出して中々に醜い争いです。そして東京美術学校を去った半年後、岡倉天心が中心となり一緒に辞職した仲間と共に「日本美術院」(院展)が創立されました。

橋本雅邦 「牧童」
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こちらは1899年の作品で、シンプルながらも情感漂う光景。牛と寝転ぶ子供がのんびりした雰囲気で、一種の理想郷のような感じにも観えます。

この翌年の1900年にパリ万国博覧会に「龍虎図」を出品し銀賞を受賞しています。

橋本雅邦 「春秋楼閣山水」
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こちらは1902年(明治35年)頃の作品。眺めの良い楼閣で中国風の人が寛いでいて、雅な風情が漂います。手前は濃く輪郭が強めで、背景は薄っすらしているなど遠近感を感じるかな。伝統的な画題と西洋の技法が自然に溶け合っている感じがしますね。

1900年くらいまでは日本美術院の勢いもあったのですが、それ以降は資金が無くなったり内紛があって徐々に勢いを失っていきました。

橋本雅邦 「驟雨図」
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こちらも1902年(明治35年)の作品。斜めに白い線が入っていて、背景には箕と笠を被って前かがみで走る人の姿が描かれています。にわか雨の風情と湿気が感じられる1枚です。

橋本雅邦 「鶺鴒図」
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こちらは1905年頃の作品。背景に風が吹き渡るような雰囲気が出ているのが面白い。余白の取り方が素晴らしく、余韻と広がりを感じさせます。この絵とそっくりの作品を観た覚えがあるので得意の画題だったのかな?

この年に日本美術院は茨城県の五浦海岸へと移転して都落ちなどと揶揄されました。翌年には岡倉天心を追って横山大観、菱田春草、下村観山、木村武山は五浦に移転していますが雅邦は移っていません。

橋本雅邦 「蓬莱山」
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こちらは1903~07年頃の作品。繊細な濃淡で霧がかった山を表現しています。遠近感も感じられて見事です。

橋本雅邦 「瀟湘八景」
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最後にこちらは年代不明(明治時代)の作品。中国の洞庭湖の周辺の8つの景勝地を描く伝統的な主題となっていて、この作品では近代化した画風ではなく従来の伝統的な水墨画の技法で描かれています。雪舟や狩野派の趣きが強く出ていて流石の画力です。

橋本雅邦は1908年に亡くなりました。雅邦の死後も日本美術院は苦戦し1910年には一度解散していますが、その後再興し現在でも活動を続けています。最近は橋本雅邦の個展はあまり開催されていないように思いますが、様々な展覧会で観る機会があるので是非覚えていきたい画家です。
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