《浅井忠》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、明治時代に洋画の先駆者として活躍した浅井忠について取り上げます。浅井忠はバルビゾン派に影響を受けたアントニオ・フォンタネージに本格的な西洋画を学び、同級生の仲間を中心に日本最初の本格的な美術団体「明治美術会」を設立し、後に東京美術学校の教授にもなっています。教授就任の後にはパリやバルビゾンにほど近いフォンテーヌブローやグレーを訪れ、明るい色彩で季節感豊かな作品を残しました。パリではアール・ヌーヴォーにも触れて自らの作風に取り込むようになり、国内でのアール・ヌーヴォーの伝道師的な役割も担って晩年は図案などの制作に注力しました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。
浅井忠は江戸時代末期の安政3年(1856年)に佐倉藩の江戸屋敷に生まれ、父の死去に伴い幼くして家督を継ぎましたが早くから絵に興味を持っていたようです。10歳前後の頃に佐倉藩の御用絵師 黒沼槐山に日本画を学び、「槐庭(かいてい)」という号を与えられています。1873年(明治6年 17歳頃)に上京し、1876年には洋画家の国沢新九郎の画塾「彰義堂」に入門して油彩を学び、さらに同年に工部美術学校に入学し、イタリア人画家のアントニオ・フォンタネージに本格的に西洋絵画を学びました。しかし1878年にフォンタネージが帰国すると後任教師の指導を不満として退学し、小山正太郎、松岡寿らと共に「十一会」を結成しています。
浅井忠 「農家内部」

こちらは1887年の作品で水彩によるスケッチです。平凡な農家といった感じですが、水平・垂直の直線が多いので面白い構図に思います。明暗表現も情感あって、農家という題材からもバルビゾン派っぽいものを感じます。
残念ながら若い頃の作品の写真がありませんでしたが、槐庭の時代の画帳を観たことがあります。松竹梅や小動物など簡潔に描かれていて、大人なら上手いというほどでもないとは思いますが、10歳の作品とは思えない程の完成度となっていました。子供の頃から温厚で高い人格を持っていたようで、絵の才能も抜群だったそうです。師であった黒沼槐山も敬慕の念を持って接し、もはや教えることは無いと人格も才能も評価していたのだとか。ちなみに洋画の先生のフォンタネージはフランスのバルビゾン派やイギリスのターナー、フィレンツェのマッキアイオーリなどを研究した画家で、1876~78年に明治政府の招きによって東京で西洋画を教えていました。浅井忠はかなり色濃くその影響を受けています
浅井忠 「春畝」

こちらは1888年の油彩で、浅井忠の代表作の1つです。家族で並んで農作業する姿が力強く、労働讃歌とも言えるような光景に思えます。題材的にもバルビゾン派からの影響でしょうね。背景でわずかに咲いた花が情感溢れて可憐です。 この作品とほとんど同じ図柄の写真が明治期に海外向けにお土産として売られていたようで、当時の外国人の異国趣味にも合っていたそうです。
この翌年の1889年に日本初の本格的な洋画団体「明治美術会」を設立し、その中心人物として活躍しました。「春畝」も明治美術会展に出品されています。
浅井忠 「少女と犬」

こちらは1893年の作品で、着物の少女が犬を抱きかかえています。犬はちょっと緊張しているのか固まった姿勢のように見えるかなw 少女なのに慈愛の雰囲気があるように思います。
この年に浅井忠は結婚しています。この頃から公の仕事も増えていった感じです。
浅井忠 「諏訪湖」

こちらは1894年の作品。水彩は軽やかで油彩のどっしりした雰囲気と違っているように思えます。風景の中にさりげなく人が描かれているのが農村の営みを感じさせて叙情的ですね。
こんなのんびりした絵を描いていますが1894年には日清戦争が開戦し浅井忠も従軍しています。
浅井忠 「旅順戦後の捜索」

こちらは1895年の作品で、日清戦争に従軍し取材したものです。どういう状況かわかりませんが、道端で倒れている様子などがちょっと生々しい。従軍時代の貴重な作品です。
この年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会で妙技二等賞を受賞しています。段々と地位が高まった感じがしますが、1893年には黒田清輝が印象派などを取り入れた画風をフランスから持ち帰っています。黒田清輝は当初は「明治美術会」で作品を発表していましたが、やがて「白馬会」を組織し「紫派(外光派)」と呼ばれ脚光を浴びます。一方、「明治美術会」は暗い色調であることから脂派または旧派と呼ばれるようになり 後に多くの洋画家たちが明治美術会から白馬会へと移って行ってしまいます。
参考記事:《黒田清輝》 作者別紹介
浅井忠 「武蔵野」

こちらは1898年の作品。農村や田舎の風景画を得意とした浅井忠ですが、ここでは珍しく武士の鷹狩という歴史的な場面を描いています。武家の出身ということもあり馬具や人物の服装はかなり詳細に描かれているようですが、割とリラックスした雰囲気に見えるかな。他の作品に比べて明るい色調になっているようにも思えます。
この1898年(明治31年)の7月に、浅井忠は東京美術学校の教授に任命されました。
浅井忠 「房総御宿海岸」

こちらは1899年の作品。この頃、東京近郊や甲信地方に謝礼旅行に出かけていたようで、これは千葉南東部の房総半島の太平洋岸の街を描いているようです。全体的に淡い色彩で、籠を背負って村に向かう人の姿が郷愁を誘います。先程の作品に比べるとかなりぼんやりした仕上げになっているようにも見えるかな。
この翌年の1900年に文部省から西洋画研究のため2年間のフランス留学を命じられ、渡仏しました。
浅井忠 「少女立像(巴里にて)」

こちらは1900年の水彩の作品で、留学先のパリで描かれた作品です。って、着物姿の日本人にしか見えませんがw 現地にいた日本人なのかな? 緻密で気品ある立ち姿となっていますね。
浅井忠が留学した1900年頃はパリ万国博覧会が開かれていて、単に留学だけでなくその監査役の職も務めていたようです。また、アール・ヌーヴォーの火付け役であるサミュエル・ビングとも交流がするなどアール・ヌーヴォーに深い関わりがありました。
浅井忠 「グレー風景」

こちらも留学中の1901年の作品で、パリ郊外のグレー(バルビゾン村の近く)の風景画です。ここには様々な国から多くの芸術家が集まっていて、ライバルとなる黒田清輝も浅井忠より先にここを訪れています。この絵では外光を意識していたようで、今までの作品に比べるとだいぶ色が淡くて軽やかな印象を受けます。留学の成果が伺えますね。
浅井忠がパリにいた頃、ちょうど夏目漱石もロンドンに留学中で浅井忠とお互いの下宿を行き来する仲でした。後の『三四郎』には浅井忠をモデルにした深見画伯が登場しています。
浅井忠 「婦人像」

こちらも1901年の作品。渡欧時代は人物画は少ないものの様々な描き方を試していたようです。これはオーソドックスな油彩人物画と言えるとのことですが、以前に比べて色が明るく見えます。緑の背景に赤というのは対比的なので、印象派などの手法に近いのではないかと思いました。
浅井忠は小説や旅行記の挿絵も手がけていたようで、特にフランス留学中に同宿だった国文学者 池辺義象とは度々共演していたようです。留学中の人脈凄いw
浅井忠 「フランス風景」

こちらも1901年の作品。浅井忠は風景の中に人物を点景として描いて 人の営みを含んだ景色として捉えることが多かったようで、この作品でもその特徴が観られます。ちょっと寂しげな田舎の空気感まで伝わってきそうです。
前述のようにフランス留学中に浅井忠はアール・ヌーヴォーなどの装飾美術にも興味を持ったようで、特に壁画に関心を持ったようです。後に皇太子のためのタペストリーの下絵なども制作しています。
浅井忠 「読書」

こちらは1902年で、じっと本を読む女性が描かれています。目をつぶっているようにも見えますが、光と温かみを感じる色合いで知的な雰囲気です。
この絵は浅井忠がパリ郊外のグレーにいた頃に、ホテルの中で和田英作と共に描いたそうです。その時の和田英作の絵も残されていて、浅井忠よりも横からの構図となっています。見比べると2人の作風の違いを楽しめるのですが、私はその機会を得たのは1度しかありませんw
浅井忠 「グレー雪渓」

こちらも1902年の作品で、4回目のグレー滞在時に描かれました。割と大胆なタッチになっていて外光派や印象派を思わせる画風になっているようにも思えます。寂しくも叙情的な雰囲気で好み。
この1902年に浅井忠は帰国しました。
浅井忠 「花」のポスター

こちらは1902~07年頃の作品で、花を単純化していてアール・ヌーヴォーの図案からの影響が見て取れます。デザイン画は油彩や水彩と全く異なる画風になっているのが面白い。
浅井忠はアール・ヌーヴォーに影響を受け、グレーの隣村の陶芸家の元で作陶するほど熱心に研究していたようです。アール・ヌーヴォーを意識した陶芸の図案や、花をデザインした壺・絵皿なども残されています。
浅井忠 「永観堂庭内」

こちらは1902~07年頃に京都の永観堂を描いた作品。のんびりとしていて明るい色合いが爽やかです。氷屋も出ていて夏かな。やはり人の営みが描かれている作品が浅井忠の真骨頂ではないでしょうか。
1902年にに帰国した浅井忠は、新設の京都高等工芸学校(現在の京都工芸繊維大学)の教授に就任しするため、一家で京都に移住しました。京都が終の棲家となり亡くなるまでの5年間を過ごしています。京都高等工芸学校では染色科でドローイングと、図案科で図画実習・図画描法を指導していたようです。陶芸図案では京都の陶芸家と交流し、自らも図案の研鑽もしていたのだとか。
浅井忠 「聖護院の庭」

こちらは1904年の作品。本山修験宗総本山の聖護院の庭を描いていて、浅井忠はそのすぐ東に住んでいたそうです。ツツジが咲き誇る様子を瑞々しく描いていて、丸っこい塊がリズミカルに感じられます。
この前年の1903年に「聖護院洋画研究所」を開いて後進の育成や図案・工芸の制作に精力的に取り組んでいたようです。幼い頃に日本画を学んでいたので、アール・ヌーヴォーだけでなく四条派、琳派、狩野派、果ては大津絵なども研究して取り込んでいたようです。
浅井忠 「木曾福島」

最後にこちらは1905年の作品。どういうわけか長野の木曽福島の光景となっていますが、水彩の軽やかな風景画はここまで観てきたお得意の画題かな。人っ子一人いないのがちょっと珍しいようにも思えますが。
この翌年の1906年に聖護院洋画研究所は「関西美術院」に発展しました。門下には石井柏亭や梅原龍三郎、安井曾太郎といった次世代の巨匠が名を連ねています。
ということで、日本画から始まりバルビゾン派やアール・ヌーヴォーなど様々な画風も取り込んだ画家となっています。黒田清輝たちの白馬会に押され気味ではありますが日本の洋画に大きな足跡を残しています。東京では東博の常設でよく観る機会があるので、是非とも注目して観てください。
参考記事:
アール・ヌーヴォーの伝道師 浅井忠と近代デザイン (ヤマザキマザック美術館)名古屋編
近代洋画の先駆者浅井忠7-浅井忠のドローイング- (千葉県立美術館)
浅井忠・フォンタネージとバルビゾン派 (千葉県立美術館)
浅井忠は江戸時代末期の安政3年(1856年)に佐倉藩の江戸屋敷に生まれ、父の死去に伴い幼くして家督を継ぎましたが早くから絵に興味を持っていたようです。10歳前後の頃に佐倉藩の御用絵師 黒沼槐山に日本画を学び、「槐庭(かいてい)」という号を与えられています。1873年(明治6年 17歳頃)に上京し、1876年には洋画家の国沢新九郎の画塾「彰義堂」に入門して油彩を学び、さらに同年に工部美術学校に入学し、イタリア人画家のアントニオ・フォンタネージに本格的に西洋絵画を学びました。しかし1878年にフォンタネージが帰国すると後任教師の指導を不満として退学し、小山正太郎、松岡寿らと共に「十一会」を結成しています。
浅井忠 「農家内部」

こちらは1887年の作品で水彩によるスケッチです。平凡な農家といった感じですが、水平・垂直の直線が多いので面白い構図に思います。明暗表現も情感あって、農家という題材からもバルビゾン派っぽいものを感じます。
残念ながら若い頃の作品の写真がありませんでしたが、槐庭の時代の画帳を観たことがあります。松竹梅や小動物など簡潔に描かれていて、大人なら上手いというほどでもないとは思いますが、10歳の作品とは思えない程の完成度となっていました。子供の頃から温厚で高い人格を持っていたようで、絵の才能も抜群だったそうです。師であった黒沼槐山も敬慕の念を持って接し、もはや教えることは無いと人格も才能も評価していたのだとか。ちなみに洋画の先生のフォンタネージはフランスのバルビゾン派やイギリスのターナー、フィレンツェのマッキアイオーリなどを研究した画家で、1876~78年に明治政府の招きによって東京で西洋画を教えていました。浅井忠はかなり色濃くその影響を受けています
浅井忠 「春畝」

こちらは1888年の油彩で、浅井忠の代表作の1つです。家族で並んで農作業する姿が力強く、労働讃歌とも言えるような光景に思えます。題材的にもバルビゾン派からの影響でしょうね。背景でわずかに咲いた花が情感溢れて可憐です。 この作品とほとんど同じ図柄の写真が明治期に海外向けにお土産として売られていたようで、当時の外国人の異国趣味にも合っていたそうです。
この翌年の1889年に日本初の本格的な洋画団体「明治美術会」を設立し、その中心人物として活躍しました。「春畝」も明治美術会展に出品されています。
浅井忠 「少女と犬」

こちらは1893年の作品で、着物の少女が犬を抱きかかえています。犬はちょっと緊張しているのか固まった姿勢のように見えるかなw 少女なのに慈愛の雰囲気があるように思います。
この年に浅井忠は結婚しています。この頃から公の仕事も増えていった感じです。
浅井忠 「諏訪湖」

こちらは1894年の作品。水彩は軽やかで油彩のどっしりした雰囲気と違っているように思えます。風景の中にさりげなく人が描かれているのが農村の営みを感じさせて叙情的ですね。
こんなのんびりした絵を描いていますが1894年には日清戦争が開戦し浅井忠も従軍しています。
浅井忠 「旅順戦後の捜索」

こちらは1895年の作品で、日清戦争に従軍し取材したものです。どういう状況かわかりませんが、道端で倒れている様子などがちょっと生々しい。従軍時代の貴重な作品です。
この年に京都で開催された第4回内国勧業博覧会で妙技二等賞を受賞しています。段々と地位が高まった感じがしますが、1893年には黒田清輝が印象派などを取り入れた画風をフランスから持ち帰っています。黒田清輝は当初は「明治美術会」で作品を発表していましたが、やがて「白馬会」を組織し「紫派(外光派)」と呼ばれ脚光を浴びます。一方、「明治美術会」は暗い色調であることから脂派または旧派と呼ばれるようになり 後に多くの洋画家たちが明治美術会から白馬会へと移って行ってしまいます。
参考記事:《黒田清輝》 作者別紹介
浅井忠 「武蔵野」

こちらは1898年の作品。農村や田舎の風景画を得意とした浅井忠ですが、ここでは珍しく武士の鷹狩という歴史的な場面を描いています。武家の出身ということもあり馬具や人物の服装はかなり詳細に描かれているようですが、割とリラックスした雰囲気に見えるかな。他の作品に比べて明るい色調になっているようにも思えます。
この1898年(明治31年)の7月に、浅井忠は東京美術学校の教授に任命されました。
浅井忠 「房総御宿海岸」

こちらは1899年の作品。この頃、東京近郊や甲信地方に謝礼旅行に出かけていたようで、これは千葉南東部の房総半島の太平洋岸の街を描いているようです。全体的に淡い色彩で、籠を背負って村に向かう人の姿が郷愁を誘います。先程の作品に比べるとかなりぼんやりした仕上げになっているようにも見えるかな。
この翌年の1900年に文部省から西洋画研究のため2年間のフランス留学を命じられ、渡仏しました。
浅井忠 「少女立像(巴里にて)」

こちらは1900年の水彩の作品で、留学先のパリで描かれた作品です。って、着物姿の日本人にしか見えませんがw 現地にいた日本人なのかな? 緻密で気品ある立ち姿となっていますね。
浅井忠が留学した1900年頃はパリ万国博覧会が開かれていて、単に留学だけでなくその監査役の職も務めていたようです。また、アール・ヌーヴォーの火付け役であるサミュエル・ビングとも交流がするなどアール・ヌーヴォーに深い関わりがありました。
浅井忠 「グレー風景」

こちらも留学中の1901年の作品で、パリ郊外のグレー(バルビゾン村の近く)の風景画です。ここには様々な国から多くの芸術家が集まっていて、ライバルとなる黒田清輝も浅井忠より先にここを訪れています。この絵では外光を意識していたようで、今までの作品に比べるとだいぶ色が淡くて軽やかな印象を受けます。留学の成果が伺えますね。
浅井忠がパリにいた頃、ちょうど夏目漱石もロンドンに留学中で浅井忠とお互いの下宿を行き来する仲でした。後の『三四郎』には浅井忠をモデルにした深見画伯が登場しています。
浅井忠 「婦人像」

こちらも1901年の作品。渡欧時代は人物画は少ないものの様々な描き方を試していたようです。これはオーソドックスな油彩人物画と言えるとのことですが、以前に比べて色が明るく見えます。緑の背景に赤というのは対比的なので、印象派などの手法に近いのではないかと思いました。
浅井忠は小説や旅行記の挿絵も手がけていたようで、特にフランス留学中に同宿だった国文学者 池辺義象とは度々共演していたようです。留学中の人脈凄いw
浅井忠 「フランス風景」

こちらも1901年の作品。浅井忠は風景の中に人物を点景として描いて 人の営みを含んだ景色として捉えることが多かったようで、この作品でもその特徴が観られます。ちょっと寂しげな田舎の空気感まで伝わってきそうです。
前述のようにフランス留学中に浅井忠はアール・ヌーヴォーなどの装飾美術にも興味を持ったようで、特に壁画に関心を持ったようです。後に皇太子のためのタペストリーの下絵なども制作しています。
浅井忠 「読書」

こちらは1902年で、じっと本を読む女性が描かれています。目をつぶっているようにも見えますが、光と温かみを感じる色合いで知的な雰囲気です。
この絵は浅井忠がパリ郊外のグレーにいた頃に、ホテルの中で和田英作と共に描いたそうです。その時の和田英作の絵も残されていて、浅井忠よりも横からの構図となっています。見比べると2人の作風の違いを楽しめるのですが、私はその機会を得たのは1度しかありませんw
浅井忠 「グレー雪渓」

こちらも1902年の作品で、4回目のグレー滞在時に描かれました。割と大胆なタッチになっていて外光派や印象派を思わせる画風になっているようにも思えます。寂しくも叙情的な雰囲気で好み。
この1902年に浅井忠は帰国しました。
浅井忠 「花」のポスター

こちらは1902~07年頃の作品で、花を単純化していてアール・ヌーヴォーの図案からの影響が見て取れます。デザイン画は油彩や水彩と全く異なる画風になっているのが面白い。
浅井忠はアール・ヌーヴォーに影響を受け、グレーの隣村の陶芸家の元で作陶するほど熱心に研究していたようです。アール・ヌーヴォーを意識した陶芸の図案や、花をデザインした壺・絵皿なども残されています。
浅井忠 「永観堂庭内」

こちらは1902~07年頃に京都の永観堂を描いた作品。のんびりとしていて明るい色合いが爽やかです。氷屋も出ていて夏かな。やはり人の営みが描かれている作品が浅井忠の真骨頂ではないでしょうか。
1902年にに帰国した浅井忠は、新設の京都高等工芸学校(現在の京都工芸繊維大学)の教授に就任しするため、一家で京都に移住しました。京都が終の棲家となり亡くなるまでの5年間を過ごしています。京都高等工芸学校では染色科でドローイングと、図案科で図画実習・図画描法を指導していたようです。陶芸図案では京都の陶芸家と交流し、自らも図案の研鑽もしていたのだとか。
浅井忠 「聖護院の庭」

こちらは1904年の作品。本山修験宗総本山の聖護院の庭を描いていて、浅井忠はそのすぐ東に住んでいたそうです。ツツジが咲き誇る様子を瑞々しく描いていて、丸っこい塊がリズミカルに感じられます。
この前年の1903年に「聖護院洋画研究所」を開いて後進の育成や図案・工芸の制作に精力的に取り組んでいたようです。幼い頃に日本画を学んでいたので、アール・ヌーヴォーだけでなく四条派、琳派、狩野派、果ては大津絵なども研究して取り込んでいたようです。
浅井忠 「木曾福島」

最後にこちらは1905年の作品。どういうわけか長野の木曽福島の光景となっていますが、水彩の軽やかな風景画はここまで観てきたお得意の画題かな。人っ子一人いないのがちょっと珍しいようにも思えますが。
この翌年の1906年に聖護院洋画研究所は「関西美術院」に発展しました。門下には石井柏亭や梅原龍三郎、安井曾太郎といった次世代の巨匠が名を連ねています。
ということで、日本画から始まりバルビゾン派やアール・ヌーヴォーなど様々な画風も取り込んだ画家となっています。黒田清輝たちの白馬会に押され気味ではありますが日本の洋画に大きな足跡を残しています。東京では東博の常設でよく観る機会があるので、是非とも注目して観てください。
参考記事:
アール・ヌーヴォーの伝道師 浅井忠と近代デザイン (ヤマザキマザック美術館)名古屋編
近代洋画の先駆者浅井忠7-浅井忠のドローイング- (千葉県立美術館)
浅井忠・フォンタネージとバルビゾン派 (千葉県立美術館)
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