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《アルフレッド・シスレー》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、一貫して印象派の画風を貫いたイギリス人画家アルフレッド・シスレーについて取り上げます。シスレーはグレールの画塾でモネやルノワールと出会い、印象派のメンバーとして活躍しました。900点近くの作品のほとんどが風景画で 晩年まで画風を変えることなかった為、アンリ・マティスがカミーユ・ピサロに「典型的な印象派の画家は誰か?」と尋ねたところ「シスレーだ」と答えたという逸話が有名です。今日は2017年にエクス・アン・プロヴァンスのコーモン芸術センターで撮ってきた写真(の未紹介作品)を中心にご紹介していこうと思います。

アルフレッド・シスレーは1839年にパリで生まれましたが国籍はイギリス人で、父親は裕福な貿易商でした。1857年の18歳でロンドンに渡り叔父の元でビジネスを学んでいたものの美術に関心を持ち、学業を捨てて4年後にパリに戻ります。1862年からエコール・デ・ボザールへ通い、バジールの勧めでグレールのアトリエで学ぶようになり そこでモネやルノワールと出会いました。

アルフレッド・シスレー 「Vue de Montmartre depuis la Cité des Fleurs aux Batignolles」
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こちらは1869年の作品で日本語にすると「シテデフルールからバティニョールまでのモンマルトルの眺め」といった所でしょうか。印象派の他のメンバーと同じように戸外で制作していて清々しい色彩となっています。しかし後の画風に比べると筆致が細かく思えるかな。

この作品の前年の1868年にはサロンで入選していますが、あまり芳しい評価ではなかったようです。また、絵も売れませんでしたが、裕福な家なので経済的に困窮していた訳でもなかったようです。

アルフレッド・シスレー 「Les péniches (Vue d'un port)」
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こちらは1870年の作品で、日本語にすると「はしけ船(港の景色)」かな。この後も多く出てきますがシスレーは水辺の光景を特に多く描いた画家で、反射や波立つ様子を見事に描写しています。ここでは穏やかでちょっと寂しげな雰囲気に思えますね。

こんな平和そうな風景ですが、この1870年に普仏戦争が勃発すると、シスレーは敵兵によって家と財産を失い 翌年には実家が破産しています。これ以降は亡くなるまで苦しい生活となってしまったのだとか。普仏戦争ではバジールも戦死しているし散々な年です。

アルフレッド・シスレー 「La Grande Rue,Argenteuil」
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こちらは1872年の作品で、日本語では「アルジャントゥイユの大通り」です。この絵はタッチが結構大胆になっていて印象派らしさが強まっているように思えます。人の描写とかかなり簡潔だけど生き生きとしていますね。

1871年にパリ・コミューンが起こると、シスレーは混乱を避けてヴォワザンやアルジャントゥイユ、ブージヴァル、ポール=マルリなどに移り住んでいます。アルジャントゥイユは同時期にモネも住んでいた場所で、シスレーやルノワールは頻繁にモネを訪れています。

アルフレッド・シスレー 「Pêcheurs étendant leurs filets」
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こちらは1872年の作品で、日本語にすると「網を乾燥させる漁師」または「網を広げる漁師」です。穏やかな河岸が描かれ、青や緑の多い爽やかな画面です。こうした同時代の日常風景を描いているのも印象派の特徴1つと言えます。観ていて心落ち着く好みの作品です。

シスレーのルーツとして、イギリスのターナーやフランスのバルビゾン派(特にコロー)、写実主義のクールベなどが挙げられます。光や空気感の表現、同時代の現実世界を描く点などにそうした影響が感じられます。

アルフレッド・シスレー 「La Seine à Bougival」
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こちらは1872年の作品で、日本語では「ブージヴァルのセーヌ川」です。シスレーはセーヌ川とロワン川が大好きで定番のモチーフとなっています。この頃には画風が完成した感じがして、これ以降も安定しています。似た絵が多い気もするけど、その一貫した所がシスレーの魅力でもあるかな。

ブージヴァルはパリ近郊の街で、後にルノワールが代表作の「ブージヴァルのダンス」を描いたことでも知られています。普仏戦争の時にシスレーが財産を失ったのもこの街だったりしますが、それ以降も多くの作品をこの地で描いています。

アルフレッド・シスレー 「La Seine à Bougival en hiver」
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こちらは1872年の作品で、日本語では「冬のブージヴァルのセーヌ川」です。何しろ川をひたすら描いているので、こうして並ぶと四季折々の様子も楽しめます。雪と枯れ木が寒そうだけど、赤みが多いので不思議と全体的に温かみが感じられるのが面白い。

アルフレッド・シスレー 「L'Inondation à Port-Marly」
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こちらも1872年の作品で、日本語にすると「ポール=マルリの洪水」です。この作品は7点の連作となっていて、洪水の後の街の様子が描かれています。モネも同じ年にアルジャントゥイユの洪水の絵を描いているけど、こんなのも題材にしてしまうのかって感じですねw 現代の日本だと不謹慎って怒られそう。普段とは違う光景でちょっとヴェネツィアみたいな。

連作というのも印象派ならではの手法です。光の移ろいを捉えようとしたことから時間や場所を変えて同じものを描いたもので、シスレーもモレの教会などで連作を残しています。(後ほど出てきます)

アルフレッド・シスレー 「Printemps à Bougival」
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こちらは1873年の作品で、日本語だと「ブージヴァルの春」となります。青々とした空や白い花を咲かせる木々など春の明るさが清々しい雰囲気です。手前の子供たちも微笑ましくて幸せそうですね。

この年の1873年4月頃からピサロとモネを中心にグループ展の構想を進めていました。そしてピサロが草稿を作り、1874年に(印象派と言うのは後に名付けられた呼称)無審査の自由なグループ展を発足しました。
 参考記事:《カミーユ・ピサロ》 作者別紹介

アルフレッド・シスレー 「Route de Louveciennes - effet de neige」
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こちらは1874年の作品で、日本語だと「ルーヴェシエンヌの道(雪の効果)」かな?? シスレーはモネと同じく雪の表現が特に上手い画家で、ピンクや水色で雪に陰影を付けて陽光が反射したような感じを出しています。小さく描かれた2人の人物は雪の後の様子を見てるんでしょうか。

この1874年に第1回印象派展が開催されました。シスレーも他のメンバーと同じく酷評されていますが、他の仲間に比べるとそれほど叩かれてなかったようで、むしろスルー気味だったようです。ちなみにシスレーは全8回の印象派展のうち4回(第1回~第3回、第7回)参加しています。

アルフレッド・シスレー 「Sous le Pont de Hampton Court」
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こちらは1874年の作品で、日本語では「ハンプトンコート橋の下」となります。これはロンドン近郊のテムズ川に架かる橋で、橋桁を主役にするという大胆な構図となっています。筆致は大胆なもののボートを漕ぐ人の姿や橋によって生まれる陰影などを瑞々しく表現していて見事です。印象派展で散々な評価だったのにもめげずにこんな名作を残しているとは素晴らしいですね。

この年、印象派展の後にオペラ歌手のジャン=バティスト・フォールの招きでイギリスに2~3ヶ月程度滞在しています。ロンドン滞在中にテムズ川周辺の風景を20点ほど描いていて、こちらもそのうちの1枚です。この頃が一番脂が乗ってた時期かも。

アルフレッド・シスレー 「L'Abreuvoir de Marly-le-Roi」
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こちらは1875年の作品で、マルリー=ル=ロワの様子が描かれています。この絵では寒々しい雰囲気で空もどんよりした感じかな。叙情的な光景です。

この翌年に第2回印象派展、翌々年に第3回が行われます。印象派の仲間たちは徐々に袂を分かち 表現も変わっていきました。

アルフレッド・シスレー 「Jour de fête à Marly-le-Roi」
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こちらも1875年の作品で、日本語にすると「マルリー=ル=ロワの祭日」です。フランスの国旗が掲げられ、祝日らしい雰囲気ですが傘をさしている人がいて路面も反射しているので雨なのかも。

アルフレッド・シスレー 「Bougival」
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こちらは1876年の作品で、日本語にすると「ブージヴァル」です。これぞ印象派!といった光溢れる光景で、特に川と空の青が目を引きます。煙や雲で風の流れまで感じられ日差しも温かみがありますね。シスレーの中でもかなり好きな作品です。

印象派の特徴として、パレットで色を混ぜ合わせずにキャンバスの上に並べるという手法があります。色を対比的に置くのでこうした明るい画面を表現することが可能となっています。

アルフレッド・シスレー 「Pont de Sèvres」
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こちらは1877年の作品で、日本語にすると「セーヴル橋」です。曇りがちな空と煙の絶妙な色の表現が見事。割と大胆な筆致だけど落ち着いて見えるのは色合いのせいかな。川に佇んでいる人は何をしているのか気になりますw 

セーヴルはセーヴル焼きで知られるパリのすぐ近くの街です。この地でもいくつか作品を残しています。

アルフレッド・シスレー 「La Station de Sèvres」
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こちらは1879年の作品で、日本語にすると「セーヴル駅」です。この絵は日差しが非常に強く感じられ、中央の影になっている建物が特に目を引きます。タイトルから察するにこれは駅なんでしょうね。その後ろに煙があるので機関車の存在を連想させます。当時の様子がよく伝わってくる傑作です。

印象派の特徴の1つに煙や水蒸気を描くというのがあります。形の無いものを表現するというのは新しい試みでした。

アルフレッド・シスレー 「Chantier à Saint-Mammès」
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こちらは1880年の作品で、日本語にすると「サン=マメスの建築現場」です。手前に丸太のようなものや足場らしきものがあるので確かに作業場のようだけど、作業している人はいないようですw シスレーは街を描いても人は小さく描いて風景が主役ってのが多いように思います。

1880年代はこのサン=マメスの辺りのロワン川沿いを拠点に活動しました。この後はロワン川もよく出てきます

アルフレッド・シスレー 「Le Loing à Saint-Mammès」
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こちらは1884年の作品で、日本語だと「サン=マメスのロワン川」かな?? 画風は変わっていませんが、地平線が低めになっているので一層に開放感があるように思います。対象物も小さめになっていて広々した感じ。

シスレーは風景を中心に様々な空を描いたので「空のシスレー」と言われることもあります。季節や時間帯によって変わる空は印象派らしい主題です。

アルフレッド・シスレー 「Chantier à saint-mammès」
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こちらは1885年の作品。日本語だと「サン=マメスの建築現場」です。今度は船を作っているところで、何人か作業している様子が伺えます。青や緑の中の黄色い船体が特に目を引くかな。色鮮やかで晴れ晴れした空も心地良い作品です。

アルフレッド・シスレー 「Matinée de septembre」
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こちらは1887年の作品で、日本語では「九月の朝」です。やや淡くまだ日が登って間もない時間帯の空気感が表されているように思います。1人で佇んでいる女性らしき姿が何だか詩的です。

この2年後の1889年にモレ=シュル=ロワンに移住しました。ここはセーヌ川とロワン川が合流する場所で、合流地点を描いた作品も残されています。この2つの川が大好きなのは間違いないw

アルフレッド・シスレー 「Moret-sur-Loing (La Porte de Bourgogne)」
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こちらは1891年の作品で、日本語では「モレ=シュル=ロワン(ブルゴーニュの門)」です。川沿いの教会や建物が立ち並び、現在でもこの辺の光景はあまり変わっていないので観光地となっています。建物は水面にも反射していて非常に美しい光景です。

モレ=シュル=ロワンは終の棲家となりました。そのため晩年の作品はモレを描いたものが多くなります。

アルフレッド・シスレー 「À Saint-Mammès (confluence du Loing et du canal du Loing)」
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こちらは1892年の作品。ちょっと日本語訳が難しいけどサン=マメスにて(ロワン河の合流地点)って感じでしょうか。手前に並木が大きく描かれているのが大胆で目を引きます。川に向かっている人は釣りでもしてるんでしょうか。長閑で穏やかな雰囲気で心休まります。

ちなみにこの並木道は船を引っ張る馬が歩く道で、日陰を作るために木が植えられています。のんびりした光景にも歴史ありって感じです。

アルフレッド・シスレー 「Église de Moret au soleil」
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こちらは1893年の作品で、日本語にすると「太陽の中のモレの教会」です。こちらはモレのノートルダム教会で、シスレーはこの教会を連作で14枚描いています。この絵では側面に光が強くあたり、正面あたりは影になっているのがよく分かります。影を黒でなく青で表現しているのも印象派らしい表現かな。構図も正面からでなく斜めからというのが面白い。

アルフレッド・シスレー 「L'église de Moret (le soir) 」
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こちらは1894年の作品で、日本語にすると「モレの教会(夕方)」です。さっきの絵と一緒だろ!と思ってしまいますが、陽の当たり方が違いますw 教会の下の方にはこちら側の建物の影が映っているようで、太陽の位置が違うのを感じます。単体で観るのも良い絵だけど、比べて観ると季節や時間帯によって移ろう様子を感じられるのも連作の魅力です。

この後、1897年にイギリスに婚姻届を出しに行っていますが、またすぐにフランスに戻っています。そして1899年にモレ=シュル=ロワンで亡くなりました。

ということで、シスレーは最も印象派らしいと言われたのも納得の画風となっています。日本でも人気の画家ですが何故か個展は開かれず、印象派展や海外の美術館展などで観る機会が多いと思います。国立西洋美術館を始め日本各地の大きな美術館にも所蔵されていて馴染みやすいので、是非覚えておきたい画家です。
 参考記事:シスレー展 (コーモン芸術センター)【南仏編 エクス】
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