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ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 (感想前編)【国立西洋美術館】

前回ご紹介した常設を観る前に国立西洋美術館の特別展「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」を観てきました。この展示は既に終了していますが、見どころが多く大阪にも巡回するので前編・後編に分けてご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/london2020/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年6月18日(木)~10月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
10日くらい前に事前予約をしたのですが、残っていたのは平日の昼と夜間開催の夜のみと言った感じでした。大阪でも同様になると思いますので、もし足を運ぼうと考えている方は早めに予約することをオススメします。ちなみに時間区切りの予約制でも入場待ちが10分くらいあって、中に入っても結構混んでいました。場所によっては人だかりが出来ていて、割と三密なのではという危惧が…。

さて、この展示はイギリスのロンドンにあるロンドン・ナショナル・ギャラリーのコレクションが約60点観られるもので、同館が海外にこれだけ大規模に貸し出すのは200年の歴史で初めてのことだそうです。すべてが日本初公開で今後もこんな機会があるのか?って感じなので非常に楽しみにしていたのですが、コロナによって開催延期でどうなるかという時期もありました。ようやく開催されてからも世の中の感染状況があまり芳しい状況でなかったので行くのが会期末になってしまいました。しかし行った甲斐のある名画ばかりで61点全てが傑作という奇跡のような内容でした。7章構成となっていましたので、各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。(章の概要はメモしなかったので割愛します)


<1章 イタリア・ルネサンス絵画の収集>
まずはイタリア・ルネサンス期の作品のコーナーです。非常に有名な絵画が並び、早くも貴重な機会となっていました。

2 カルロ・クリヴェッリ 「聖エミディウスを伴う受胎告知」 ★こちらで観られます
こちらは建物の中にいるマリアに空から光線が差し込み、受胎告知するという場面を描いた作品です。光を発する天の雲がUFOっぽいのでUFOのTV番組とかでよく出てきますw 光は謎の小窓を通って手を交差するマリアに当たり、書見台で本を読んでいたり整然とした室内の描写となっています。これはマリアの純血や敬虔さを象徴するものを考えられるようで、マリアは恭しく静かな表情をしています。しかし普通は受胎告知というとガブリエルが告知する場面な訳ですが、この絵ではガブリエルは窓の外にいて 聖エミディウスというこの絵を依頼したアスコリ・ピチェーノの街の聖人を伴っているなど、ちょっと変わった構成となっています。聖エミディウスはこの街の模型を持っていて、これはローマ教皇から自治権を獲得したことを示しているようで、その奥のアーチ状の橋の上で手紙を読む人はその書状を読んでいると思われるのだとか。他にも孔雀がユノを表すなど様々なメタファーが込められているようで、様々な読み解きができそうです(左上の物陰に隠れた子供とかどんな意味があるのか知りたいw) それにしてもこの絵を観て最初に出た感想は思ってたよりデカい!でしたw 高さ207cm 幅146.7cmで見上げるような感じです。 細部まで緻密な上にこの大きさなのでかなり迫力がありました。やはり直接観ないとわからないことがありますね。

4 サンドロ・ボッティチェッリ 「聖ゼノビウス伝より初期の四場面」 ★こちらで観られます
こちらはフィレンツェ出身の聖ゼノビウスの物語を描いた4枚セットのうちの1枚で、この作品の中にも4つの場面が描かれています。左から順に4コマ漫画みたいな感じとなっていて、左から順に キリスト教に改宗するので結婚できないと許嫁に告げるシーン、洗礼を受けるシーン、母親が洗礼を受けるシーン、教皇に跪き司教を拝命するシーンとなっています。4つの時系列が違和感なく繋がっているのは日本の絵巻物と通じるものを感じるかな。500年前の作品とは思えないほど色鮮やかで優美な印象を受けます。出てくる人々も生き生きしていてボッティチェリらしさを感じました。

この近くにはミケランジェロの師匠のドメニコ・ギルランダイオの作品などもありました。

5 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「ノリ・メ・タンゲレ」 ★こちらで観られます
こちらは聖書の復活したキリストとマグダラのマリアの話を絵画化したもので、白い衣と杖のようなものを持った復活後のキリストと、その足元で跪いて触れようとしているマグダラのマリアが描かれています。「ノリ・メ・タンゲレ」はラテン語で「我に触れるな」という意味で、マグダラのマリアがキリストの遺骸が無くなったので庭師らしき男に探すのを手伝って貰おうとしたところ、この言葉を言われてこの庭師が復活したキリストであると悟るというシーンです。繊細で気品ある描写と色合いとなっていて、見上げるマグダラのマリアの顔には驚きの様子が伺えます。全体的に色は明るめで特に2人は目を引くような明るさとなっていました。これはかなりの傑作だと思います。

8 ヤコポ・ティントレット(本名ヤコポ・ロブスティ) 「天の川の起源」 ★こちらで観られます
こちらはユピテル(ゼウス)がアルクメネとの間の子のヘラクレスに、本来の妻であるユノ(ヘラ)が寝ている隙にユノの乳を飲ませようとしている様子を描いた作品です。アルクメネは人間なのでヘラクレスは半人半神な訳ですが、ユノの乳を飲めば神になれます。しかしヘラクレスが強く吸ったのでユノが起きてしまい、空に吹き上げたミルクが天の川になったというストーリーです。ここでは乳房から星が舞い上がっていて、ちょうどユノが起きたところのようです。登場人物の動きが誇張気味なくらいダイナミックなポーズとなっていて、明るい色彩と共に見栄えがします。この作品も結構大きいのですが、元々はもっと大きな絵だったと考えられるようで下の方などちょっとカットされたような感じもするかな。とは言え、この状態としても絵として面白く、空飛ぶ人物たちが渦巻くような構図となっているので中心のヘラクレスが非常に目を引きました。

<2章 オランダ絵画の黄金時代>
続いては17世紀オランダ絵画のコーナーです。

9 レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン 「34歳の自画像」 ★こちらで観られます
こちらはレンブラントの自画像で、黒い服に黒い帽子をかぶり、やや斜めになった姿勢でこちらを観ている姿で描かれています。肘を手前の柱に置くポーズはティツィアーノやラファエロに倣ったもので、つまり自分はそうした巨匠と匹敵する存在であると自認していたようです。やや神経質そうな表情にも思えましたが、顔の細部から服の質感に至るまで恐ろしく精密で真に迫るものがあり、その自己評価も納得です。明暗の表現にレンブラントらしさを感じます。レンブラントの34歳は人生の絶頂期で、この少し後に人生が暗転してしまいます。まさにレンブラントの頂点と言った作品かもしれませんね。
 参考記事:《レンブラント・ファン・レイン》 作者別紹介

13 ヨハネス・フェルメール 「ヴァージナルの前に座る若い女性」 ★こちらで観られます
こちらは寡作の画家フェルメールの晩年近くの作品で、普段ならこれをメインに展覧会が組まれてると思いますw オルガンのようなヴァージナルという楽器に向かう女性が ふとこちらを見ているような場面で、周りには弦を挟み込んだヴィオラ・ダ・ガンバがあり、背景にはフェルメールの義母が所持していたと考えられているディルク・ファン・バビューレンの「取り持ち女」らしき絵が飾ってあります。この辺の物には意味が込められていそうですが、読み解くのは難しいですw 絵の中で特に目を引くのはやはり女性で、こちらを気遣っている表情でしょうか。鍵盤に手をおいているので演奏のタイミングを伺っているのかも?? また、着ている豪華な衣装も目を引き、反射してツヤが出ています。豊かな質感に見えるので感心しますが、近寄ってみると意外と大胆な筆致となっていて一層に驚かされます。観れば観るほど発見があるのは名画の特徴ですね。なお、ロンドン・ナショナル・ギャラリーにはフェルメールの「ヴァージナルの前に立つ女」という作品もあるので、対になっているのではないかという説もあります。


<3章 ヴァン・ダイクとイギリス肖像画>
続いてはフランドル出身でルーベンスの工房で学び、イギリスに渡ってイングランド国王チャールズ1世の宮廷画家として活躍したヴァン・ダイクに関するコーナーです。ヴァン・ダイクの描く肖像画は当時のイギリス貴族の間で絶対的な人気を誇り、イギリスの画家たちにも大きな影響を与え、イギリス肖像画の確立に貢献しました。

17 アンソニー・ヴァン・ダイク 「レディ・エリザベス・シンベビーとアンドーヴァー子爵夫人ドロシー」 ★こちらで観られます
こちらは貴族の姉妹を描いた作品で、右に新婦の妹、左に未婚の姉の姿があり、下の方には翼の生えた子供(プットー)が花束を妹に渡しています。やけに色白でちょっとぎこちないポーズで目線も合ってないので、正直なところ虚ろな印象を受けるかなw しかしこのポーズや衣装にも貞節や純血といった意味があるようで2人が目立つようにプットーは陰影が強くなっているなど様々な技巧が施されているようです。解説によると、実際の姿から理想化もしているようで絵とのギャップに驚かれたという人もいたのだとかw 肖像を盛るのは今も昔も変わらずですかねw

22 トマス・ゲインズバラ 「シドンズ夫人」 ★こちらで観られます
こちらはヴァン・ダイクの150年ほど後の作品で、大きな黒い帽子を被る横向きの貴婦人が描かれた肖像です。知的な雰囲気の美人で、顔は写真のように精緻ですが服などは割と大胆な筆致となっています。ポーズや色彩のバランスも良くて かなり好み。モデルが美人だから2割増しくらい良く見えますw この女性は舞台女優でもあり、得意だったのはシェイクスピアの『マクベス』のマクベス夫人で、この役は夫を殺害し、夢遊病となって 手を洗い、いくら洗っても血の汚れが取れないと言うシーンが有名です。あまりにハマり役で有名だったので、この女優が生地を買いに言った時に、「これは洗えるのかしら」と呟いたら店の主人が凍りついたというエピソードまであったのだとか。この絵ではそんな怖い感じはしないですが、文句なしの傑作です。


<4章 グランド・ツアー>
続いてはイギリス貴族の子弟たちが今で言う卒業旅行でイタリアを訪れて見聞を広める「グランド・ツアー」についてのコーナーです。このグランド・ツアーで訪れた地の絵をお土産として持ち帰るのが流行り、イタリアの風景画が多くイギリスにもたらされました。

27 カナレット(本名ジョヴァンニ・アントニオ・カナル)  「ヴェネツィア:大運河のレガッタ」 ★こちらで観られます
こちらはヴェネチアの年中行事であるレガッタレースの様子を描いた作品です。中央には傾いたレガッタの姿があり、これが競技者かな。周りにも無数の小舟が浮かび、両岸の建物も含めて数え切れないほどの人たちが見物しています。空も明るくヴェネチアの華やかさが凝縮されたような雰囲気で、祭りの熱気が伝わってきます。一点透視図法で緻密に描かれ実景そのものに見えますが、実際には奥に描かれたリアルト橋はこの場所からは見えないようで、ヴェネチアらしさを強調しているのかもしれません。これは確かにヴェネチアの思い出として持ち帰りたくなる気持ちも分かります。それにしても縦117.2cmx横186.7cmと結構大きいので運ぶのは大変だったのではw

カナレットはイギリスに渡って描いた作品もありました。

30 ジョヴァンニ・パオロ・パニーニ  「人物のいるローマの廃墟」 ★こちらで観られます
こちらは前回の常設の記事でもご紹介したパニーニの作品で、現実と空想が融合した風景画「カプリッチョ」となっています。この画家はローマの画家アカデミーの総裁にもなっているほどの人物で、グランド・ツアーの貴族たちにも人気だったようです。ピラミッドはローマに実在するガイウス・ケスティウスのピラミッドで、それ以外は空想の品々のようです。空想ではあるけどローマっぽさを集めたような絵で、神話の時代を思わせました。

クロード=ジョゼフ・ヴェルネ  「ローマのテヴェレ川での競技」 ★こちらで観られます
こちらはフランスの画家ですがローマに長く滞在し、後に海景画で名を馳せました。ここではローマの川の競技の様子が描かれ、先程のカナレットの作品に通じるものを感じます。たくさんの見物人たちの身なりも良く、上流階級の社交場のような雰囲気もあるかな。風景も理想化されたような美しさで、特に雲の表現が見事でした。
 参考記事:《クロード=ジョセフ・ヴェルネ》 作者別紹介


ということで、本来であれば展覧会の主役級ばかりが並ぶ凄い内容となっていました。今年は何としてもこの展示だけは見たいと思っていたので非常に満足です。後半にも驚く作品が沢山ありましたので、次回は残りの5~7章をご紹介予定です。

 → 後編はこちら

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