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ロンドン・ナショナル・ギャラリー展 (感想後編)【国立西洋美術館】

今日は前回に引き続き国立西洋美術館の「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」についてです。前編は4章までご紹介しましたが、後編では残りの5~7章以降についてご紹介して参ります。まずは概要のおさらいです。

 → 前編はこちら

DSC05886.jpg

【展覧名】
 ロンドン・ナショナル・ギャラリー展

【公式サイト】
 https://artexhibition.jp/london2020/
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020london_gallery.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年6月18日(木)~10月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 2時間00分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_③_4_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_4_⑤_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_2_3_④_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_3_4_⑤_満足

【感想】
後半も混んでいて、特にゴッホの「ひまわり」の周辺は混んでいました。後編も引き続き各章ごとに気に入った作品と共にご紹介していこうと思います。


<5章 スペイン絵画の発見>
5章はスペイン絵画のコーナーで、17世紀~19世紀序盤くらいまでの画家の作品が並んでいました。

34 エル・グレコ(本名ドメニコス・テオトコプーロス)  「神殿から商人を追い払うキリスト」 ★こちらで観られます
こちらは聖書の物語の1つで、神殿で商売していた者たちにキリストが激怒して追い出すシーンが描かれています。身を捻って鞭を振るうキリストや手を挙げて逃げ惑う商人たちに動きを感じる一方、右側の老人たちはキリストを見て何やら話しているようです。左右で動と静になっている謎解きのヒントは背景のレリーフにあり、左には失楽園、右にはイサクの犠牲の場面が描かれています。つまり左側は罪を犯して楽園から追い出される者たち、右側は神の恩寵を受ける者たちってことですね。全体的に引き伸ばしや青みがかった色使いなど エル・グレコならではの個性もあって、非常に見応えのある作品でした。

35 ディエゴ・ベラスケス 「マルタとマリアの家のキリスト」 ★こちらで観られます
こちらは厨房で女性が何かを容器の中ですり潰す様子と、その後ろで老婆が奥の窓枠の向こうを指し示していて、そこにはキリストがマルタとマリアに教えを説いている場面が広がっています。これは「ボデゴン」と呼ばれる厨房など食べ物のある室内の様子を描く主題と聖書の場面が一体となっているもので、この作品を描いた頃のベラスケスはボデゴンを得意としていました。一方、マルタとマリアの話は、2人の家にキリストが訪れた際にマルタはその接待のための支度に追われる反面、マリアはキリストの話を聞いてばかりいるのでマルタが咎めた所、キリストは「マリアは良い方を選んだ」と言った逸話です。つまりキリストの話を聞くことが何よりも重要だという話なわけですが、この絵ではマルタの勤勉さを倣えと言わんばかりに老婆が指差しているように見えます。働いている女性はこちらを向いて煩そうな顔をしていてちょっと同情w 見る人によって解釈は変わりそうですが、ベラスケス初期の特徴がよく表れているように思いました。
 参考記事:《ディエゴ・ベラスケス》 作者別紹介

39 バルトロメ・エステバン・ムリーリョ  「幼い洗礼者聖ヨハネと子羊」 ★こちらで観られます
こちらは幼い子供が荒野の中で子羊を抱きかかえている様子が描かれた作品で、足元に葦の十字架が転がっていることからキリストに洗礼を施した洗礼者ヨハネの幼い頃の姿であることが分かります。キリストと洗礼者ヨハネは親戚で、お互いの子供の姿を描いた聖家族の主題でよく見かけますが、ここではヨハネのみとなっていてこの時代にヨハネをソロで描いた作品が人気を博していたようです。また、洗礼者ヨハネが羊を抱く左手の指で天を指しているのはキリストの降臨を示し、子羊は犠牲となるキリストの象徴となっています。周りが荒野になっているのも彼が荒野で修行していることを示すなど、信者にはすぐに連想されるモチーフと言えそうです。絵としても明暗が強くドラマチックで、ヨハネの聡明そうな笑顔が何とも可愛い。一方の子羊は毛並みがフワフワしているけど凛々しい表情なので、可愛いというよりは威厳を感じました。

ムリーリョはもう1点の「窓枠に身を乗り出した農民の少年」という作品も面白い絵でした。ニヤッと笑う少年の表情が生き生きしています。

33 フランシスコ・デ・ゴヤ 「ウェリントン公爵」 ★こちらで観られます
こちらは黒っぽい背景に斜め向きの男性の肖像で、赤っぽい服に無数の勲章が付けられています。この人物はワーテルローの戦いでナポレオンを打ち負かした英雄で、長嶋一茂に似てる気がしますw こちらを見ているものの、目に力はなく虚ろな表情に見えて とてもナポレオンに勝つような覇気が感じられません。戦いに疲れ切った感じなのかな?? 普通は理想化して描きそうなものですが、容赦なくリアルを追求しようとする辺りにゴヤっぽさを感じました。
 参考記事:《フランシスコ・デ・ゴヤ》 作者別紹介


<6章 風景画とピクチャレスク>
続いては風景画のコーナーで「ピクチャレスク」と呼ばれる絵になる風景を求めた作品が並んでいました。現代風に言うとインスタ映えみたいなニュアンスの風景画です。

42 クロード・ロラン(本名クロード・ジュレ)  「海港」 ★こちらで観られます
こちらは港の様子を描いた作品で、朝日か夕日か分かりませんが水平線の向こうに太陽が輝き水面に光が反射しています。周りに建物や人々が描かれているけど、恐らく実景ではなく様々なものを組み合わせた空想の光景だと思われます。この光り輝く港はクロード・ロランの代名詞的な画題で、一目でロランと分かりますw ドラマティックで雄大な雰囲気となっていました。

45 ヤーコプ・ファン・ロイスダール  「城の廃墟と教会のある風景」 ★こちらで観られます
こちらはフェルメールと同時代に活躍した17世紀オランダの画家ロイスダールの作品で、田園地帯の中にある城の廃墟と教会が見えています。地平線が低めに描かれ、広々とした光景となっていて空の雲がうねるような迫力です。手前では羊飼いが休んでいて長閑な雰囲気もあるかな。写実的でありながら詩情ある風景で、当時のオランダの様子が伝わってくるようでした。

49 ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー 「ポリュフェモスを嘲るオデュッセウス」 ★こちらで観られます
こちらはホメロスの『オデュッセイア』を題材にした作品で、巨人ポリュフェモスに一度は捕まって洞窟に閉じ込められたオデュッセウスと仲間たちが脱走し、船で逃げていく場面が描かれています。船のマストの上辺りに巨人の姿があって、ちょっと巨大過ぎるだろ!?と驚いてしまいますw 右下にある太陽からは放射線状に光が放たれ、全体的に輝くような色彩となっているので、先程のロランからの影響が見て取れます。やや粗めに見えるタッチや光を捉える表現などは印象派の先駆け的な雰囲気も感じられました。


<7章 イギリスにおけるフランス近代美術受容>
最後はフランス絵画のコーナーです。新古典主義やバルビゾン派から印象派、ポスト印象派などの作品が並んでいました。

50 ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 「アンジェリカを救うルッジェーロ」 ★こちらで観られます
こちらは新古典主義の巨匠アングルによる作品。ルドヴィーコ・アリオストの「狂えるオルランド」の1シーンを絵画化したもので、ヒッポグリフに乗ったルッジェーロが鎖に繋がれたアンジェリカを助けにきています。って、この絵はルーヴル美術館の所蔵じゃないの?と思ったら、ヴァリアントのようで ルーヴル美術館の作品は横長ですがこちらはやや縦長になって両脇がトリミングされたような感じです。アンジェリカは滑らかな肌で官能的ではありますが、首から肩の辺りが不自然で解剖学的にはおかしなことになっています。これは女性美を最大限にするための表現で、アングルはこうした作品を数多く残しています。イギリスの美術館がこれだけ見事なアングルの作品を持っていることに驚きました。
 参考記事:《ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル》  作者別紹介

55 ピエール=オーギュスト・ルノワール 「劇場にて(初めてのお出かけ)」 ★こちらで観られます
こちらは桟敷席から劇場を観る少女の横顔を描いた作品で、タイトルから察するに初めて劇場に来た上流階級の娘だと思われます。少女の横顔にはあどけなさと緊張感もあって初々しい感じです。昨年のコートールド美術館展にも「桟敷席」という劇場の観客たちを描いた作品がありましたが、この作品でも舞台よりも観客を題材にしているのが面白いところです。背景には他のお客さんも群像として描かれていて当時の劇場の賑わいを感じさせました。ちなみにこの作品は1876年~77年頃なので、第1回印象派展から2年後(第3回頃)で、代表作の「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」を描いた頃となります。群像に凝ってたのかな??
 参考記事:《ピエール=オーギュスト・ルノワール》 作者別紹介

この辺にはピサロの印象派らしい頃の作品やドガの踊り子を描いた作品、ファンタン・ラトゥールの花の作品などもありました。モネも太鼓橋と睡蓮を描いた作品があったので、少数でも各画家の代表的な作風が観られる品揃えとなっています。

60 ポール・セザンヌ 「プロヴァンスの丘」 ★こちらで観られます
こちらはセザンヌの故郷のプロヴァンス地方の風景を描いた作品です。観るものを円筒・球・円錐として捉えるという理論を持っていたセザンヌですが、ここでも後のピカソのキュビスムに繋がるような幾何学的な要素が感じられる風景となっています。色彩も緑とオレンジがかった色が対比的で一層にリズムを感じます。この作品もセザンヌらしい題材・技法が観られて好みでした。
 参考記事:セザンヌゆかりの地めぐり 【南仏編 エクス】

58 フィンセント・ファン・ゴッホ 「ひまわり」 ★こちらで観られます
こちらはゴッホ作品で特に有名な「ひまわり」の1点で、連作7点の中でも最高傑作とされる作品です。明るい黄色を背景に花瓶に入ったひまわりが描かれ、花びらは厚塗りされて生命力がほとばしるような雰囲気です。まだ蕾だったり花を落としているのもあるのは人生の縮図のようでもあり ゴッホの出身地であるオランダのヴァニタスの伝統からの影響なのかもしれません。花瓶にはヴィンセントのサインがあり、ひまわりでサインが残されているのは7点の中で2点しかありません。これはアルルで共同生活したゴーギャンの部屋を飾るに相応しい作品であると考えた為で、ゴーギャンもこの絵を絶賛したようです。間近で観るとマチエールと相まって迫りくるものがあるので、これは実際に観られて本当に良かったです。それにしても黄色地に黄色って発想が天才すぎますよねw

近くにはゴーギャンが描いた花の絵もありました。

その後には「ひまわり」に関するパネルがあり、7点の写真が並んでいました。この展示の作品は4点目で、1~3点目は青や緑がかった背景となっています。(2点目は戦時中に芦屋で消失) 3点目と4点目がゴーギャンの部屋に相応しいとサインされたもので、ひまわりは常に太陽を向くので伝統的に忠誠の意味があったようでゴーギャンへの忠誠の意味もあったようです。SOMPO美術館のひまわりは5点目で、4点目の自己模作です。写真を見比べるとオリジナルより若干 背景が黄緑がかっているように見えるかな。7点目のひまわりもそっくりです。写真とは言え、こうして比較して観られるコーナーは参考になりました。

最後にロンドン・ナショナル・ギャラリーの歴史がありました。1824年に開館していて、1897年にはイギリス美術専門の別館ができています(別館は今では独立してテート・ギャラリーになっています。)


ということで、後半も有名画家の名作が目白押しでした。西洋絵画の歴史そのものといった品揃えで今年一番の豪華な展示だったのは間違いないと思います。コロナ禍で翻弄されましたが、それだけに一層に思い出深いものとなりました。
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■2011/9/29
「週刊文春 10月6日号」に掲載されました
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■2009/10/28
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  → 関東 > 絵画

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