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内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」 【国立西洋美術館】

今日は写真多めです。前回ご紹介した国立西洋美術館の常設を観た際に、版画室で内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」という展示を観てきました。この展示は撮影可能となっていましたので、写真を使ってご紹介していこうと思います。

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【展覧名】
 内藤コレクション展Ⅲ「写本彩飾の精華 天に捧ぐ歌、神の理」

【公式サイト】
 https://www.nmwa.go.jp/jp/exhibitions/2020manuscript2.html

【会場】国立西洋美術館
【最寄】上野駅

【会期】2020年9月8日(火)~10月18日(日)
 ※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。

【鑑賞所要時間(私のペースです)】
 0時間30分程度

【混み具合・混雑状況】
 混雑_1_2_3_④_5_快適

【作品充実度】
 不足_1_2_3_④_5_充実

【理解しやすさ】
 難解_1_②_3_4_5_明解

【総合満足度】
 不満_1_2_③_4_5_満足

【感想】
それほど混んでおらず快適に鑑賞することができました。

さて、この展示は2016年に内藤裕史 氏が寄贈した中世の聖書などの写本のコレクションを紹介するもので、昨年末から今年頭にかけて開催された同様の趣向の展示の第3弾となっています。(第2弾は観に行けませんでした) 今回は聖歌集に由来するリーフが中心となっていましたので、気に入った作品の写真をいくつかご紹介していこうと思います。
 参考記事:内藤コレクション展「ゴシック写本の小宇宙――文字に棲まう絵、言葉を超えてゆく絵」 (国立西洋美術館)

「聖務日課聖歌集零葉:イニシアルQの内部に[書物と剣を手にした聖パウロ]」 イタリア、ピサ 1330~40年頃
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こちらは聖パウロの祝日(6月30日)に歌う聖歌の記譜の一葉。剣を持っているのは斬首されたためで、険しい表情となっています。一方、赤や青は聖人によく使わえる色ですが、鮮やかでデザイン的には楽しげな雰囲気に見えますねw

序盤には内藤コレクションについての解説もありました。ルオーを観て芸術に関心を持った話など以前ご紹介した内容となります。これだけのものを1人で集めたとは驚きです。

「聖務日課聖歌集由来のビフォリウム:イニシアルAの内部に[神殿奉献]」 イタリア、ローマ 1285~1300年頃
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こちらはAの形の中に聖母子らしき姿があり、エルサレムの神殿にイエスを捧げに行く神殿奉献のシーンとなっています。ここでもSやAの文字がリズミカルに書かれていて枠は天使でしょうか。軽やかで音楽に相応しい感じですね。

「典礼用詩篇集零葉:イニシアルBの内部に[プサルテリウムを奏でるダヴィデ王と祝福する神]」 イタリア、フィレンツェ 1380年頃
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こちらは公的な礼拝で使用された詩篇集由来の一葉だそうで、Bの上段は祝福のポーズの神、下段はダヴィデがプサルテリウムという古代の弦楽器を奏でている姿で描かれています。これも草花や鳥が流れるような紋様となっていて彩りも非常に美しい。ルネサンス以前にこうした躍動感あるデザインがあったんですね。

「司教用定式書零葉:イニシアルBの内部に[聖母子像を祝福する司教]」 イタリア、ウンブリア地方 1480~90年頃
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こちらはアヴィニョンに教皇庁があった頃に高位聖職者の為に作られた写本と考えられている一葉。解説によると、アヴィニョン教皇庁では写本制作の需要が高まり、アヴィニョン派と呼ばれる一流派が生まれたそうで、この作品にはパリ派とイタリアからの影響を受けた折衷的な様式が表れているようです。聖母子や司教の線画的な表現、赤・青・バラ色を基調とし金地を使うのがパリ派、SとAのイニシアルを縁取る赤色の線状装飾や余白装飾、字体などはイタリアの様式とのこと。素人には全くわかりませんが、数多く観ていくと分かるのかな??

「ミサ聖歌集零葉:イニシアルGの内部に[諸聖人]」 イタリア、パヴィア 1480~85年頃
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こちらは諸聖人の祝日(11月1日)のミサで歌われる入祭唱の冒頭の記譜。金の四角の中のGの字に多くの聖人が集まっていて、厳かさと華やかさが感じられます。

「ミサ典書零葉:[ミサをあげる司祭]を内部に描くふたつのイニシアルA」 イタリア、ウンブリア地方 1300~10年頃
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こちらはミサで朗読するテキストや聖歌を収めたミサ典書からの一葉。ミサをあげる司教の姿だけでなく、所々にある文字の装飾も面白い模様で目を引きます。何か意味がある紋章なのかな? 金色の文字のフォントも美しいですね。

「聖務日課聖歌集零葉:イニシアルAの内部に[キリスト復活]」 南ネーデルラント、トゥルネー 1330~40年頃
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こちらは復活祭の聖務日課の為の聖歌を記した一葉。復活祭だけあってキリストが棺から足を出していて、周りは見張りの兵士のようです。下にある絵では天使が空になった布を持ち上げて墓参りの女性たちに見せています。割と素朴な感じで色も控えめに見えるかな。しかし、こちらはかつて英国の美術批評家のジョン・ラスキンが持っていたほどの品のようです。ラスキンに影響を受けたラファエル前派やアーツ・アンド・クラフツも確実に中世美術の影響を受けているので、そう考えると価値ある一葉ですね。

「聖務日課聖歌集零葉:イニシアルQの内部に[福音書記者聖ヨハネ]」 南ネーデルラント、おそらくトゥルネー 15世紀初頭
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こちらは毒杯を祝福する福音書記者聖ヨハネを描いた作品。毒を祝福で無毒化したという伝承を元にしているそうで、ちょうど2本の指で祝福のポーズをしています。こうした小さい絵1つ1つに物語が込められているのは宗教美術ならではですね。

「聖歌集零葉:イニシアルRの内部に[羊飼いへのお告げ]」 スペイン、おそらくサンタ・マリア・デ・グアダルーベ修道院(エストレマドゥーラ地方) 1450~75年
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こちらは修道院の合唱隊の為の聖歌集からの一葉。金が多く使われ、びっしりと紋様で埋まった枠がこれまでのものとちょっと違って見えるかな。豪華で密度の高い雰囲気に思えました。

「ウェールズのヨハンネス著『説教術書』零葉:装飾イニシアルDおよびE」 アラゴン連合王国、カタルーニャ地方(バルセロナ?) 1400年頃
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こちらはバルセロナ付近で作られたと思われる一葉。先程のと年代が近いのにえらく雰囲気が違っていて面白いw こちらは流麗な印象を受けました。

「ガブリエル・デ・ケーロの貴族身分証明書」 グラナダ王立高等法院発行 カスティーリャ王国、グラナダ 1540年
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こちらは貴族の身分を証明するもので、ドラゴンはスペイン王カルロス1世のDon CarlosのDを表しているそうです。これだけ豪華なのに貴族の身分証明書としてはかなり地味なのだとか。爵位のない貴族に使われたようですが、証明しないと分からない程度の貴族なんていたのだろうか…。

「カスティーリャ女王フアナ1世の印章」 
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こちらは先程の証明書とセットで並んでいました。カルロス1世の母親のもので、杖を持った人物が鉛に彫られています。女王の印章って、こっちの方が凄いコレクションなのでは?w

「『グラティアヌス教令集』零葉:司教に訴え出る巡礼者」 フランス、トゥールーズ 1320年
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こちらは婚姻に関する法的案件が書かれている一葉。巡礼の途中で死んだと思われた夫が生還した場合、妻の再婚は取り消されるべきかという内容らしく、跪いて懇願しているのが行方不明だった夫です。しかし右の方で抱き合うような現夫婦の様子を観ると、女性の心が離れているというのも伺えます。こんな人間模様まで写本に描いてあるとは驚きましたw

「『クレメンス集』(およびヨハンネス・アンドレアエによる注釈)零葉:装飾イニシアルDおよびR」 フランス南西部、おそらくトゥールーズ 1330年~50年頃
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こちらは注釈付きの写本。面白いのが文字の配置が「中」の字のようになっているところで、右隣にも杯のような形になっている文字があります。このデザインセンスの自由さにも感心させられました。


ということで、今回も知られざる写本の世界を垣間見られたように思います。中身を知るにはキリスト教の深い理解が必要だとは思いますが、装飾の美しさやデザイン性などは一目で分かる面白さがあったと思います。

ちなみにこの展示をもって国立西洋美術館は2022年春まで設備整理のため休館に入ります。この前リニューアルしたばかりなのにまたかよ!?とも思うけど、コロナでしばらくは苦慮しそうだし丁度良いタイミングかもしれませんね。
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