《藤島武二》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、明治末期から昭和にかけて活躍した日本の洋画界の重鎮の1人である藤島武二を取り上げます。藤島武二は女性像や海景画が特に有名で、渡欧時代に身につけた西洋の技法を使いつつ東洋的な美を追い求めた画家と言えます。初期は繊細さと装飾性を兼ね備えた浪漫主義的な作風、留学以降は大胆な筆致といったように時代によってコロコロと画風が変わっていき迷走していたような印象も受けますが、後半生は東洋的な美を感じさせるモチーフを多く手掛けました。また、長きに渡り東京美術学校の教師として勤め、多くの後進画家を育て大きな影響を与えています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。
藤島武二は1867年に薩摩藩士の家に生まれ、最初に絵を学んだのは四条派の日本画家 平山東岳からでした。また、母方の先祖で狩野派の絵師 蓑田常僖などにも学んでいたようです。さらに2度めの上京の際には川端玉章に学ぶなど、最初期は日本画からスタートしています。しかし日本画の作品はほとんど残っておらず、24歳の時に洋画へと転向しています。洋画家になってからは曽山幸彦からデッサンを学び、中丸精十郎、松岡壽を経て モデルを重視した山本芳翠、白馬会と東京美術学校の西洋画科の中心人物である黒田清輝 といった数多くの画家に師事しました。1896年には東京美術学校で助教授を勤め、亡くなるまで同校で教壇につきました。
藤島武二 「天平の面影」

こちらは1902年の比較的早い時期の代表作です。日本画を学んでいただけあって、題材も金地を背景にした表現も日本的な雰囲気が強めとなっています。初期の洋画作品を観ていると、山本芳翠の師である五姓田芳柳に近いものを感じることもあるかな。写実的で伝統的な西洋画を日本を題材に描いてる感じです。これは前年に奈良に旅行した際に心に留めたものを組み合わせたもので、ポーズは古代ギリシアのコントラポストを用いています。この東洋と西洋を組み合わせたような様式は「明治浪漫主義」と呼ばれたようです。女性は静かで儚い雰囲気があり、様々な理想美を体現しているように思えます。
曾山幸彦の画塾では岡田三郎助も洋画を学んでいました。2人共フランス帰りの黒田清輝と知遇を得て1896年に設立された東京美術学校の教員として就任しました。1897年に岡田が渡仏、1905年には藤島が渡仏し、その渡仏の時期の違いは作風の違いにも現れていきます。岡田が渡仏中に藤島は白馬会で前述の「明治浪漫主義」の作風を示すと共に、アール・ヌーヴォーを取り入れたデザインを本の装丁を手がけるなど渡仏前から活躍していました。
藤島武二 「自画像」

こちらは1903年頃の自画像です。横向きでやや鋭い眼光が印象的な自画像で、これは藤島武二の30歳半ば頃(芸大の助教授の頃)の姿で、油彩の自画像ではこれが唯一の作品となっています。中々精悍な顔つきです。
この時期の装丁の仕事の写真が見つからなかったのですが、有名なところでは与謝野晶子の「みだれ髪」や与謝野鉄幹の「鉄幹子」などを手掛けています。…これらは私の好みではなくハッキリ言って藤島の装丁は微妙ですw 明らかにミュシャを意識した作品なんかもありますが、本家を知っているとどれもイマイチ垢抜けない印象になってしまうw
藤島武二 「婦人と朝顔」の看板

こちらは1904年の作品で緑の葉っぱと紫の花をつける朝顔を背景にした女性の肖像です。やや左側に配置されていて、こちらをじっと見る顔は無表情ですが、何かを訴えかけているように思えます。1904年の白馬会第9回展に同じモデルを描いた「夢想」などを数点出していたそうで、これはその内の「朝」という作品と考えられているようです。アール・ヌーヴォーやラファエル前派からの影響があると共に、ルドンにも通じる象徴主義的な雰囲気が感じられます。
藤島は文部省から命じられて、1905年にフランスとイタリアに合わせて4年間留学してそこでまた新しい師を得て学んでいます。フランスではグランド・ショミエールという自由度の高い私塾に通った後、エコール・デ・ボザールに入学しフェルナン・コルモンに学びます(カバネルの弟子)。その後、コルモンからの紹介でイタリアではアカデミー・ド・フランスの学長で肖像画家として名高かかったエミール=オーギュスト・カロリュス=デュランに学んだようです。フランスではベル・エポック時代の雰囲気を味わい、イタリアではルネサンス期の研究をするなど非常に恵まれた環境のように思えますが、イタリアで盗難にあってフランス滞在時の作品はわずかしか残っていないのだとか…。(イタリアの頃のはそれなりに残ってるようです)
藤島武二 「チョチャラ」

こちらは1908~09年の作品で、ローマ留学時代の作風を示しています。モデルは、ローマの南東のチョチャリア地方からローマへやって来る花売娘で独特のスカーフを巻いています。以前に比べると明暗が増しているように見えると共に、間近で見るとタッチが粗くなっていて、作風の変化を感じさせます。
この頃の作品には風景画も大胆なタッチで描かれたものがあり、以前のような滑らかで清廉な印象とはだいぶ違う作風になってきています。
藤島武二 「黒扇」

こちらも1908~09年の作品でローマ留学時代の代表作となります。美人なので真っ先に端正な印象を受けますが、実際に近くで見るとかなり筆致が大胆です。顔も影に青が使われるなど印象派のような雰囲気に思えます。全体的にスペイン趣味なのも先人たちから学んだものかもしれません。解説によると、これだけの名画なのに晩年まで発表されずに画室の奥深くに鋲で留められていた状態だったそうです。何か特別な想い出が込められているのかな…。
留学から帰国すると、東京美術学校の教授となった藤島ですが文展では仲間たちに比べてパッとしなかったようです。そこで色々と意欲的に取り組みフレスコ画を思わせる作品なども作っています。この時期はフォーヴィスム(特にマティス)を思わせる作品などもあり、画風が一定しない模索期となります。
藤島武二 「うつつ」

こちらは1913年の作品で、第7回文展に出品して3等賞を受けました。先程までの留学中の大胆な筆致から繊細なものへと変化していて、また雰囲気が変わったように思えます。気だるく耽美な感じで象徴主義の要素も復活しているような…。この頃から藤島武二の女性像は東洋的な理想美を追い求めていくことになります。
この1913年に朝鮮へ30日の出張を命ぜられると大きな転機となり、朝鮮の自然や民族衣装に惹かれ、感心を東洋に向けたそうです。そして、ルネサンス様式を借りながら東洋的典型美を創造していくことになります。
藤島武二 「匂い」

こちらは1915年の作品で、チャイナドレスを着て香を楽しむ女性が描かれています。この絵では割と単純化されていて色も明るくなり華やかな印象を受けます。東洋への感心も明らかで、独自のバランスの取れた作風ではないかと思います。これだけの傑作なので、この路線でしばらく進めば良かったのではと思うのですが…。
実際のところ、この頃は様々な表現の女性像があり、唐三彩の絵みたいな画風もあればルネサンス期の模写もあったりとまだ模索している感じです。
藤島武二 「アルチショ」

こちらは1917年の作品で、アルチショとは朝鮮アザミのことです。花は東洋的ですが、テーブルクロスや本などの明るく平面的な表現はマティスなどを彷彿とするかな。背景もかなり大胆なタッチになっていて、物の配置や色の取り合わせが見事です。右下にある黄色い本もクロスに映えてアクセントになってる感じ。
ここまで観て来ると藤島の画風とは何なのか?という疑問だらけになってきますが、朝鮮に行ったことでついに大傑作が生まれます。それが1924年の「東洋振り」で、中国風の服を着た女性が真横を向いた作品です。これの面白いところは「プロフィール」というルネサンス期に流行った横向きの人物像と、東洋然とした女性の組み合わせで、東洋と西洋が混じり合ったような感じに仕上がっています。
藤島武二 「女の横顔」

こちらは1926~27年の作品で、この絵でも真横を向いた「プロフィール」の肖像となっています。耳にはイヤリングをつけているなど、華やかな印象を受ける一方で、澄まして静かな表情からは神秘的なものを感じます。背景にはゴツゴツした山が見えるのも不思議。このモデルは竹久夢二のモデルを務めていたお葉というあだ名の女性で、中国の服を着せています。東洋的なモチーフをルネサンス的に描いているのが特徴です。ちなみに藤島武二はこうした服を50着ほど持っていたのだとか。
1924年に黒田清輝が亡くなり、藤島・岡田は日本美術界の指導者の立場を担うことになりました。後進の指導に尽力し、表現や生き方に大きく影響を与えています。そして1928年には2人そろって皇太后より天皇即位を祝した絵の制作を依頼されます。藤島は旭日を題材にすると決め、意に適う場所を探しに日本各地や台湾、中国、モンゴルにも足を運んで、その末に描き上げた「旭日照六合」を奉納しています。これを描くのには9年を要しましたが、それによって風景画に新たな展開をもたらせました。
藤島武二 「浪(大洗)」

こちらは1931年の作品で、押し寄せる浪を力強く描いています。やや紫がかっているのは日の出の時間帯なのかな? 単純化されているものの潮騒が聞こえてくるようなリアリティがあって自然の雄大さや爽やかさを感じますね。何処か懐かしい気分になる傑作です。
この頃、先述のように天皇への献上に相応しい神々しい雰囲気を求め、全国あちこちで日の出を観ては描くのを繰り返し、藤島の代名詞的な日の出の作品(特に海景)を数多く残しました。藤島武二の作品に海の絵が多いイメージはこの頃の仕事ぶりによるものです。
藤島武二 「麻姑献壽(まこけんじゅ)」

こちらは1937年の作品。麻姑(まこ)は中国の仙女で 鳥の爪に似た長い爪を生やしていたとされ、孫の手の語源になったと言われています。ここでは仙果の桃と 孫の手のような棒で女性を麻姑に見立てていて恭しい雰囲気となっています。画風は何度も変わっていますが東洋と西洋の融合という点においては晩年まで一貫していたようですね。
この1937年に横山大観、竹内栖鳳、岡田三郎助と共に第一回文化勲章を受賞するなど大きな名誉を手に入れました。また、満州へ美術展の審査へ向かった際に砂漠の日の出の美しさに出会い、長年の念願だった御学問所に収める作品「旭日照六合」を完成させました。その後も新しい画風に挑戦してナビ派を思わせるような大胆な画風も残したものの1943年に亡くなりました。
ということで、結構な頻度で画風が変わる画家ではありますが不思議とひと目で藤島武二と分かる特徴があるように思います。個展や白馬会関連の展示で目にする機会もあり、大きな美術館の常設で出会うこともあると思いますので、是非知っておきたい画家の1人です。
参考記事:
藤島武二展 (練馬区立美術館)
藤島武二・岡田三郎助展 ~女性美の競演~ (そごう美術館)
藤島武二は1867年に薩摩藩士の家に生まれ、最初に絵を学んだのは四条派の日本画家 平山東岳からでした。また、母方の先祖で狩野派の絵師 蓑田常僖などにも学んでいたようです。さらに2度めの上京の際には川端玉章に学ぶなど、最初期は日本画からスタートしています。しかし日本画の作品はほとんど残っておらず、24歳の時に洋画へと転向しています。洋画家になってからは曽山幸彦からデッサンを学び、中丸精十郎、松岡壽を経て モデルを重視した山本芳翠、白馬会と東京美術学校の西洋画科の中心人物である黒田清輝 といった数多くの画家に師事しました。1896年には東京美術学校で助教授を勤め、亡くなるまで同校で教壇につきました。
藤島武二 「天平の面影」

こちらは1902年の比較的早い時期の代表作です。日本画を学んでいただけあって、題材も金地を背景にした表現も日本的な雰囲気が強めとなっています。初期の洋画作品を観ていると、山本芳翠の師である五姓田芳柳に近いものを感じることもあるかな。写実的で伝統的な西洋画を日本を題材に描いてる感じです。これは前年に奈良に旅行した際に心に留めたものを組み合わせたもので、ポーズは古代ギリシアのコントラポストを用いています。この東洋と西洋を組み合わせたような様式は「明治浪漫主義」と呼ばれたようです。女性は静かで儚い雰囲気があり、様々な理想美を体現しているように思えます。
曾山幸彦の画塾では岡田三郎助も洋画を学んでいました。2人共フランス帰りの黒田清輝と知遇を得て1896年に設立された東京美術学校の教員として就任しました。1897年に岡田が渡仏、1905年には藤島が渡仏し、その渡仏の時期の違いは作風の違いにも現れていきます。岡田が渡仏中に藤島は白馬会で前述の「明治浪漫主義」の作風を示すと共に、アール・ヌーヴォーを取り入れたデザインを本の装丁を手がけるなど渡仏前から活躍していました。
藤島武二 「自画像」

こちらは1903年頃の自画像です。横向きでやや鋭い眼光が印象的な自画像で、これは藤島武二の30歳半ば頃(芸大の助教授の頃)の姿で、油彩の自画像ではこれが唯一の作品となっています。中々精悍な顔つきです。
この時期の装丁の仕事の写真が見つからなかったのですが、有名なところでは与謝野晶子の「みだれ髪」や与謝野鉄幹の「鉄幹子」などを手掛けています。…これらは私の好みではなくハッキリ言って藤島の装丁は微妙ですw 明らかにミュシャを意識した作品なんかもありますが、本家を知っているとどれもイマイチ垢抜けない印象になってしまうw
藤島武二 「婦人と朝顔」の看板

こちらは1904年の作品で緑の葉っぱと紫の花をつける朝顔を背景にした女性の肖像です。やや左側に配置されていて、こちらをじっと見る顔は無表情ですが、何かを訴えかけているように思えます。1904年の白馬会第9回展に同じモデルを描いた「夢想」などを数点出していたそうで、これはその内の「朝」という作品と考えられているようです。アール・ヌーヴォーやラファエル前派からの影響があると共に、ルドンにも通じる象徴主義的な雰囲気が感じられます。
藤島は文部省から命じられて、1905年にフランスとイタリアに合わせて4年間留学してそこでまた新しい師を得て学んでいます。フランスではグランド・ショミエールという自由度の高い私塾に通った後、エコール・デ・ボザールに入学しフェルナン・コルモンに学びます(カバネルの弟子)。その後、コルモンからの紹介でイタリアではアカデミー・ド・フランスの学長で肖像画家として名高かかったエミール=オーギュスト・カロリュス=デュランに学んだようです。フランスではベル・エポック時代の雰囲気を味わい、イタリアではルネサンス期の研究をするなど非常に恵まれた環境のように思えますが、イタリアで盗難にあってフランス滞在時の作品はわずかしか残っていないのだとか…。(イタリアの頃のはそれなりに残ってるようです)
藤島武二 「チョチャラ」

こちらは1908~09年の作品で、ローマ留学時代の作風を示しています。モデルは、ローマの南東のチョチャリア地方からローマへやって来る花売娘で独特のスカーフを巻いています。以前に比べると明暗が増しているように見えると共に、間近で見るとタッチが粗くなっていて、作風の変化を感じさせます。
この頃の作品には風景画も大胆なタッチで描かれたものがあり、以前のような滑らかで清廉な印象とはだいぶ違う作風になってきています。
藤島武二 「黒扇」

こちらも1908~09年の作品でローマ留学時代の代表作となります。美人なので真っ先に端正な印象を受けますが、実際に近くで見るとかなり筆致が大胆です。顔も影に青が使われるなど印象派のような雰囲気に思えます。全体的にスペイン趣味なのも先人たちから学んだものかもしれません。解説によると、これだけの名画なのに晩年まで発表されずに画室の奥深くに鋲で留められていた状態だったそうです。何か特別な想い出が込められているのかな…。
留学から帰国すると、東京美術学校の教授となった藤島ですが文展では仲間たちに比べてパッとしなかったようです。そこで色々と意欲的に取り組みフレスコ画を思わせる作品なども作っています。この時期はフォーヴィスム(特にマティス)を思わせる作品などもあり、画風が一定しない模索期となります。
藤島武二 「うつつ」

こちらは1913年の作品で、第7回文展に出品して3等賞を受けました。先程までの留学中の大胆な筆致から繊細なものへと変化していて、また雰囲気が変わったように思えます。気だるく耽美な感じで象徴主義の要素も復活しているような…。この頃から藤島武二の女性像は東洋的な理想美を追い求めていくことになります。
この1913年に朝鮮へ30日の出張を命ぜられると大きな転機となり、朝鮮の自然や民族衣装に惹かれ、感心を東洋に向けたそうです。そして、ルネサンス様式を借りながら東洋的典型美を創造していくことになります。
藤島武二 「匂い」

こちらは1915年の作品で、チャイナドレスを着て香を楽しむ女性が描かれています。この絵では割と単純化されていて色も明るくなり華やかな印象を受けます。東洋への感心も明らかで、独自のバランスの取れた作風ではないかと思います。これだけの傑作なので、この路線でしばらく進めば良かったのではと思うのですが…。
実際のところ、この頃は様々な表現の女性像があり、唐三彩の絵みたいな画風もあればルネサンス期の模写もあったりとまだ模索している感じです。
藤島武二 「アルチショ」

こちらは1917年の作品で、アルチショとは朝鮮アザミのことです。花は東洋的ですが、テーブルクロスや本などの明るく平面的な表現はマティスなどを彷彿とするかな。背景もかなり大胆なタッチになっていて、物の配置や色の取り合わせが見事です。右下にある黄色い本もクロスに映えてアクセントになってる感じ。
ここまで観て来ると藤島の画風とは何なのか?という疑問だらけになってきますが、朝鮮に行ったことでついに大傑作が生まれます。それが1924年の「東洋振り」で、中国風の服を着た女性が真横を向いた作品です。これの面白いところは「プロフィール」というルネサンス期に流行った横向きの人物像と、東洋然とした女性の組み合わせで、東洋と西洋が混じり合ったような感じに仕上がっています。
藤島武二 「女の横顔」

こちらは1926~27年の作品で、この絵でも真横を向いた「プロフィール」の肖像となっています。耳にはイヤリングをつけているなど、華やかな印象を受ける一方で、澄まして静かな表情からは神秘的なものを感じます。背景にはゴツゴツした山が見えるのも不思議。このモデルは竹久夢二のモデルを務めていたお葉というあだ名の女性で、中国の服を着せています。東洋的なモチーフをルネサンス的に描いているのが特徴です。ちなみに藤島武二はこうした服を50着ほど持っていたのだとか。
1924年に黒田清輝が亡くなり、藤島・岡田は日本美術界の指導者の立場を担うことになりました。後進の指導に尽力し、表現や生き方に大きく影響を与えています。そして1928年には2人そろって皇太后より天皇即位を祝した絵の制作を依頼されます。藤島は旭日を題材にすると決め、意に適う場所を探しに日本各地や台湾、中国、モンゴルにも足を運んで、その末に描き上げた「旭日照六合」を奉納しています。これを描くのには9年を要しましたが、それによって風景画に新たな展開をもたらせました。
藤島武二 「浪(大洗)」

こちらは1931年の作品で、押し寄せる浪を力強く描いています。やや紫がかっているのは日の出の時間帯なのかな? 単純化されているものの潮騒が聞こえてくるようなリアリティがあって自然の雄大さや爽やかさを感じますね。何処か懐かしい気分になる傑作です。
この頃、先述のように天皇への献上に相応しい神々しい雰囲気を求め、全国あちこちで日の出を観ては描くのを繰り返し、藤島の代名詞的な日の出の作品(特に海景)を数多く残しました。藤島武二の作品に海の絵が多いイメージはこの頃の仕事ぶりによるものです。
藤島武二 「麻姑献壽(まこけんじゅ)」

こちらは1937年の作品。麻姑(まこ)は中国の仙女で 鳥の爪に似た長い爪を生やしていたとされ、孫の手の語源になったと言われています。ここでは仙果の桃と 孫の手のような棒で女性を麻姑に見立てていて恭しい雰囲気となっています。画風は何度も変わっていますが東洋と西洋の融合という点においては晩年まで一貫していたようですね。
この1937年に横山大観、竹内栖鳳、岡田三郎助と共に第一回文化勲章を受賞するなど大きな名誉を手に入れました。また、満州へ美術展の審査へ向かった際に砂漠の日の出の美しさに出会い、長年の念願だった御学問所に収める作品「旭日照六合」を完成させました。その後も新しい画風に挑戦してナビ派を思わせるような大胆な画風も残したものの1943年に亡くなりました。
ということで、結構な頻度で画風が変わる画家ではありますが不思議とひと目で藤島武二と分かる特徴があるように思います。個展や白馬会関連の展示で目にする機会もあり、大きな美術館の常設で出会うこともあると思いますので、是非知っておきたい画家の1人です。
参考記事:
藤島武二展 (練馬区立美術館)
藤島武二・岡田三郎助展 ~女性美の競演~ (そごう美術館)
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