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《ジョルジュ・ブラック》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、ピカソと共にキュビスムを生み出したジョルジュ・ブラックを取り上げます。ジョルジュ・ブラックの初期はフォーヴィスムやセザンヌに影響を受けた作風でしたが、ピカソと出会いセザンヌの「円筒、球、円錐で自然を表現したい」という考えを着想源として、事物を立体的かつ多面的に捉えるキュビスムを創始しました。さらに「パピエ・コレ」と呼ばれるコラージュで総合的キュビスムへと発展し、シュルレアリスムを始め近現代絵画全般に大きな影響を与えています。1914年の第一次世界大戦に出て一時的に失明して絵画から離れた時期もありますが、復帰して以降も新たな表現を追い求めていきました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


ジョルジュ・ブラックは1882年にアルジャントゥイユで生まれフランス北西部の港町ル・アーブルで育ちました。建築装飾の父を持ち子供の頃から絵を描くことに関心があったようです。15歳から地元ル・アーブルのエコール・デ・ボザールで学び、18歳でパリに出て装飾画家の為の修行をすると共に、夜間講座や画塾で素描と油彩を学んでいきました。その後、本格的に画家を志すようになるとフォービスム(野獣派)にも参加したのですが、セザンヌからの影響とピカソとの出会いによってキュビスム絵画を作っていくようになりました。

ジョルジュ・ブラック 「Grand Nu」
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こちらは1907~08年頃の作品で、日本語にすると大きなヌードとなります。全体的にセザンヌっぽい描写とフォーヴィスムっぽい色彩の強さが感じられるかな。既にキュビスムへと向かう前段階のような絵に思えます。初期の貴重な作品です。

この頃、セザンヌの回顧展があったようで、セザンヌから影響を受けています。一方でマティスからも影響を受けていて、先程の絵のように両方が感じられる作風だったようです。

ジョルジュ・ブラック 「Le viaduc à L'Estaque」
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こちらは1908年の作品で、日本語にすると「レスタックの高架橋」です。これもかなりセザンヌ風ですが、ここで注目なのは幾何学的なモチーフばかりになっている点で、かなりキュビスムに近づいている感じがします。自然を直線と円形で捕らえ始めたのが伺えますね。

この頃、詩人のアポリネールと共にピカソのアトリエに訪れて「アヴィニョンの娘たち」を観て衝撃を受けたそうです。ピカソもセザンヌから影響を受けていて、1909年から共同制作するようになりました。

ジョルジュ・ブラック 「小さなキュビスムのギター(テーブルの上のギター)」
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こちらは1909~10年の作品で、後に発見され(1954年)版画として出版されました。これは完全にキュビスムを作り始めた頃の時期で、線描でギターを多面的に描こうとしている様子が伺えます。

1908~1909年頃からキュビスムが始まったと言われています。ちなみに「キュビスム」の名付け親はマティスで、こうした作風を観て「キューブ」と評したのが始まりです。

ジョルジュ・ブラック 「Les usines du Rio-Tinto à l'Estaque」
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こちらは1910年の作品で、タイトルは「レスタックのリオ・ティント工場」という意味です。建物らしきものをかなりデフォルメして四角や三角で表現していて、キュビスムの特徴を示しています。この頃には色彩も落ち着いてざらついた感じとなっていて、景色と建物が混然一体となっているように見えますね。

共同制作していた頃のピカソとブラックの作品はよく似ているものがありますが、2人の傾向としてピカソは動的で動きの変化を多面的に表す一方、ブラックは静的で3次元を2次元で表現する為に複数の視点から観たような構成となっています。描く対象もピカソは人物が多いけどブラックは静物や風景が多いように思います。

ジョルジュ・ブラック 「女のトルソ」
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こちらは1910~11年の作品。ちょっと分かりづらいですが女性の上半身を分解して再構成するような構図となっています。言われてみるとそう見えるような見えないような…w とりあえず、これまでの既存の美術よりだいぶ抽象化が進んだ作風なのが一見して見て取れますねw

キュビスムの中でも1909年~11年頃までを「分析的キュビスム」と呼びます。この頃の特徴は小さな破片を組み合わすように描いていて、それまでの一点透視法や明暗表現を根本的に問い直そうとしました。ぼんやりしているのは周りの空間や物とお互いに浸透し合うような表現のためで、抑制された色彩も特徴となっています。

ジョルジュ・ブラック 「静物」
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こちらは1910~11年頃の作品。テーブルに瓶らしきものが置いてあるように見えるけど、実際は何だかちょっと分かりませんw しかし一見してすぐにブラックの作品だと分かる特徴が出ていて、落ち着きと形態のリズムの両面が感じられます。

ブラックは「手で触れることのできる空間」を追求していたそうで、多面的な視点によって触れることができるような存在感を出しているようです。そして1911年の夏以降、より均質な構成へと洗練されていきます。

ジョルジュ・ブラック 「円卓」
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こちらは1911年の作品。テーブルの上の物を描いているようで、先程の静物とよく似た印象を受けます。初めてブラックの作品を観た時に積み木みたいだと思ったものですが、縦横斜めの線と円形で構成されているのが面白いです。

この頃にはレジェやドローネーなどのキュビスムの追随者が出てサロンに出品していたようです。それによりキュビスムの名前も広がりましたが、良く評価する声もあれば批判もあったようで、斬新すぎて驚きで騒がれたといった感じのようです。

ジョルジュ・ブラック 「フォックス」
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こちらは1911年(1912年発行)の作品。右のあたりにFOXという文字の入っているのがタイトルの由来ですが、狐を描いたわけではなさそうに見えますw 多分、静物じゃないかな? 積み重なるような構図で、ちょっと建物のように見えたり。

この頃、こちらの作品のように画面に文字を入れることがあったようです。文字が入ると意味が分かるような気がしますが、逆に一層分からなくなったりしますねw

ジョルジュ・ブラック 「コンポジション(コップのある静物)」
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こちらは1912年(1950年発行)の作品。先程の作品と似ていて、線と引っかき傷のような明暗で描かれています。円筒形がいくつか見受けられるのがコップかな。これも一定のリズムで秩序が感じられます。

この頃からブラックの作品でよく観られるバイオリンなどもモチーフになるようになりました。また、絵の具に砂を混ぜて描いたり画面に木目模様を模写したり、画面を楕円にするなどの実験も行われています。

ジョルジュ・ブラック 「Souvenir du Havre」
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こちらは1912年の作品で、日本語にするとル・アーブルの思い出となります。故郷の光景を描いたと思われ、船や建物らしきものの中にLE HA VRE. の文字が散らされているのが分かります。これはストレートに文字で描いてあるものを示していますねw 

これまでの分析的キュビスムに対し、1912年頃から1914年頃までを「総合的キュビスム」と呼びます。様々な実験を経て新聞紙などの既成の素材を画面に張り合わせる「コラージュ」や「パピエ・コレ」と呼ばれる技法を確立し、これによって従来の物を別の意味に変えたり、繋ぎ合わせて新しい意味が生まれたりするようになりました。この技法は後にシュルレアリスムに非常に好まれ、大きな影響を与えています。また、レディ・メイドの先例ともされるので、現代に至るまで多大なインスピレーションの源となっています。

ジョルジュ・ブラック 「デリエール・ル・ミロワール 第138号(1963年5月刊)《パピエ・コレ》」
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こちらは1912~1914年頃の作品を1963年の美術誌で発行したものです。絵と新聞と板切れみたいなものを組み合わせた「パピエ・コレ」となっていて、絵と現実の境も曖昧になったような多面性を感じます。

ジョルジュ・ブラック 「デリエール・ル・ミロワール 第138号(1963年5月刊)《瓶(表紙)》」
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こちらも先程と同じ美術誌に載った1912~1914年頃(1963年発行)作品。切り抜きの形が瓶となっていて、元の素材から別の意味を与えられているように思います。組み合わせ方もキュビスムらしく、単なる絵の枠を越えているのも凄い発想です。

ジョルジュ・ブラック 「デリエール・ル・ミロワール 第138号(1963年5月刊)《たばこの箱》」
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こちらも先程と同じ美術誌に載った1912~1914年頃(1963年発行)作品。これも新聞紙を貼って箱にしているのかな。パイプやカップらしきものもあって洒落た雰囲気となっています。特にカップの色の組み合わせ方のセンスが素晴らしいですね。

ジョルジュ・ブラック 「L'homme a La guitare」
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こちらは1914年の作品で、日本語では「ギターを持つ男」となります。以前よりも輪郭が明確になっていて、木目や水玉などそれぞれの素材感が増しているのが分かります。組み合うというよりは重なっているように見えるかな。同じキュビスムでも様々な実験を繰り返していたんですね。

ブラックの最盛期は1909~1914年頃と言われています。というのも、1914年に始まった第一次世界大戦にブラックが出征することになりピカソとの共同制作が終わってしまいました。2人の支援者だったドイツ人の画商も国外へと逃れて援助は無くなってしまいます。

ジョルジュ・ブラック 「Nature morte à la pipe」
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こちらは1914年の作品で、日本語にすると「パイプのある静物」です。楕円形の画面に斑点のような面やざらついた面を組み合わせていて、下のほうにパイプが描かれているのが分かります。パピエ・コレのような雰囲気もあって、これまでの実験の成果を詰め込んだように思える作品です。

1915年にブラックは戦場で頭部に重傷を負い、一時的に失明してしまいました。長い療養を行い1916年中には絵画制作を再開しています。

ジョルジュ・ブラック 「Nature morte à la sonate」
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こちらは第一次世界大戦が終わった後の1921年の作品で、日本語にすると「ソナタのある静物」です。楽譜やギター、果物などが単純化されていて、これまでの細切れになったようなキュビスムから大きく画風が変わっています。かなり具象性が戻ってきていて、描いてあるのが何だか分かるw 世間的にはこの時代以前の作品が評価が高い訳ですが、私はこの頃の作風が特に好きですw

1921年は盟友のピカソは「新古典主義の時代」を迎えています。どっしりと量感のある人体像が多い訳ですが、この絵とか観てるとその影響も受けているのではないか?と思えます。

ジョルジュ・ブラック 「Fruits sur une nappe et compotier」
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こちらは1925年の作品で、日本語にすると「テーブルクロスの上のフルーツとコンポートディッシュ」となります。先程の絵よりも一層に具象性が増して、それぞれの質感まで表現されているように見えます。輪郭が太くどっしりとした印象ですね。

ジョルジュ・ブラック 「画架」
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こちらは1938年の作品。この時代になると単純化されているものの具象的で多面的というほどでもない感じになっています。代わりに色彩が豊かになっていて、明るい画面です。むしろ後発のシュルレアリスムのミロなどに似た画風に思えます。

1930~40年代頃はこうした黒や茶色を基調とした静物をよく描いていたようです。

ジョルジュ・ブラック 「Le billard」
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こちらは1944年の作品で、日本語にすると「ビリヤード」です。ビリヤード台が折れ曲がって上から観たような視点になっているのはかつてのキュビスムっぽさが感じられますが、今までで一番 写実的な印象を受けます。色はやや抑えめになったようで、また画風が変化しているようです。

ジョルジュ・ブラック 「葉、色、光」
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こちらは1953~54年の作品。今度は色面の組み合わせのような感じで、あまりキュビスムっぽさは感じません。しかし色の取り合わせが独創的で面白い。切り絵みたいな印象を受けます。

かつてライバルだったマティスも晩年は切り絵のように単純化した作品を残しています。ブラックの晩年の作品はその画風とよく似ていて、たまに見間違いますw

ジョルジュ・ブラック 「鳥」
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こちらは1956年の作品で、デフォルメが進んで一種の記号のような形態となっています。平面的な色面で構成されていて、装飾性も豊かです。線の柔らかみも優美な印象ですね。

この後、亡くなる年の1963年まで活動を続けました。最晩年には「メタモルフォーシス」という立体作品を手掛けていて、ブラックの原画を陶器やジュエリー、彫刻作品、装飾美術などに応用しました。画風としてはこちらの「鳥」に似た色面で表現するようなスタイルです。
 参考記事:ジョルジュ・ブラック展 絵画から立体への変容 ―メタモルフォーシス (パナソニック 汐留ミュージアム)

ということで、近現代の美術史を語る上で必ず名前が挙がる画家となっています。晩年はあまり紹介されない気がしますが、美術好きとしては知っておきたい重要人物です。

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