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《佐伯祐三》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、日本におけるフォーヴィスムの画家の佐伯祐三を取り上げます。佐伯祐三は当初は穏健な画風でしたが、ヴラマンクに「アカデミック」と酷評されたことで自信を失い、自身の画風を模索していきました。病弱で東京美術学校卒業から僅か5年程度の活動で亡くなったものの、現在の独立展に繋がる「1930年協会」の設立やフォーヴィスムの受容など大きな功績を残しました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


佐伯祐三は1898年に大阪の光徳寺というお寺の次男といて生まれました。子供の頃は野球や水泳、ヴァイオリンなどに興味を持っていたようですが1915年の17歳頃から油彩を描くようになり、赤松麟作の洋画塾で学びました。父からは医者になることを期待されていたものの、画家を志望するようになり1917年に上京して川端画学校で藤島武二の指導を受け、その秋には岡田三郎助の本郷洋画研究所に学んでいます。さらに1918年(20歳)で東京美術学校 西洋画科予備科に入学し、やがて本科に進級して長原孝太郎にデッサンを学びました。

佐伯祐三 「自画像」
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こちらは1915年の作品で、油彩を描き始めたばかりの17歳の頃に描かれたものです。全体的にひび割れてしまってるので分かりづらいけど、茶色を貴重としてこちらをチラッと観る構図となっています。後の画風とはかなり異なりますが最初期の作品として貴重ですね。ちなみに東京美術学校を卒業する際(1923年)にも自画像を残していて、赤茶色の髪に口髭をたくわえチラッとこちらを見るという今の時代の感覚でも結構なイケメンの姿となっています。その自画像でも後の佐伯の画風とだいぶ違っていてちょっとルノワール風な穏やかな雰囲気になっています。いずれにせよ この頃はまだ自信家のような雰囲気があるんですけどね…。

在学中の1921年に結婚し、現在の新宿区中落合に住みました。1920年代の目白・落合一体は東京郊外として整備が進められ、モダンな邸宅の並ぶ目白文化村やアビラ村と名付けられた住宅街がありました。この辺には満谷国四郎、金山平三といったヨーロッパ帰りの画家や音楽家も集まっていたようです。
そして1923年に東京美術学校を卒業すると、その年の11月には妻子を連れてパリへと旅立ち、1924年3月にはパリ郊外のクラマールに住み始めました。

佐伯祐三 「門と広告」
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こちらは1925年の作品。非常に重厚感のある門が独特のマチエールで描かれ、広告の文字が勢いを感じさせます。佐伯は広告をよくモチーフにしていて、この作品にはその特徴がよく出ているように思えます。
温厚な雰囲気の作風だったのがパリで激変してこうした どっしりとした色彩へと変化しています。

作風が変化したのは1924年に画家仲間の里見勝蔵と共にパリ郊外のオーヴェル=シュル=オワーズに住むフォーヴィスムの巨匠のモーリス・ド・ヴラマンクを訪ねたことが原因で、持参した自信作の「裸婦」を見せたところ「アカデミック!」と批判され、個性のない つまらない絵という酷評を受けました。ヴラマンクは大柄な人物で、罵倒される佐伯は相当怖かったと思われます。そのショックで「立てる自画像」では自分の顔の部分をパレットナイフで削り取るなど、相当に自信を喪失したようです。そして芸術家として己の向かう道を模索するようになりました。

佐伯祐三 「アントレ ド リュード シャトー」
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こちらは1925年の作品で、パリに到着した当時に住んでいた一角を描いた作品です。セザンヌやヴラマンクに学んだ画面構成・形態把握となっているようで、壁の質感などはユトリロからの影響もあるようです。しかし色彩の重厚さは独自のものに思えるかな。ここでも看板の文字などが佐伯っぽさを感じさせます。

ヴラマンクにフルボッコにされて凹んでいた佐伯ですが、その翌日には同じオーヴェルのゴッホ終焉の地を巡っていてガシェ医師の家も訪れています。繊細なのかタフなのかよく分からないエピソードではありますが、ゴッホやフォーヴィスムを吸収することで強い色彩と粗削りな筆致を得て行きました。9月にはサロン・ドートンヌに入選しています。

佐伯祐三 「パリ雪渓」
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こちらも1925年の作品。寂しげで雪が土混じりになっているのが大胆な筆致で表現されています。曇天でやや歪んだような手前の建物が閉塞感を出しているように思えます。こうした雪景色はヴラマンクも得意とした画題だけど、人や建物の表現にはユトリロに通じるものがあるかな。

1925年には兄もフランスに来て佐伯祐三と会っています。その際、病弱な祐三を心配した母の意向を伝えて帰国を促し、1926年の1月に帰国することになりました。帰国の際にイタリア各地も訪れています。

佐伯祐三 「滞船」
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こちらは1926年の作品で、帰国後に故郷 大阪の安治川や尻無川へ出かけて滞船を描いた連作の1枚です。やや重苦しいほどの色ですが素早い筆致で描かれ、船体の白い線が目を引きます。嵐でも来そうな予感ですね。1926年には下落合などゆかりの地でも制作していました。

この1926年に東京府美術館で行われた第13回二科展で佐伯の滞欧時の作品19点が特別陳列され、当時の日本の画壇を震撼させ興奮を巻き起こしました。また、その4ヶ月前には1920年代前半をパリで過ごした画家、木下孝則、小島善太郎、里見勝蔵、前田寛治と共に5人で「1930年協会」を設立しています。1926年に結成なのに1930年協会なの?とツッコミを入れたくなりますが、これはバルビゾン派のコロー、Tルソー、ミレーらが結成した「1830年派」に由来し、1930年には立派な新運動を完成させようという意気込みが込められていた名前です。最初の展覧会では5名の169点が展示され、留学の成果の発表というニュアンスが強めだったようですが評判となり、賛同した新たなメンバーも増えて すぐに大きな団体となりました。その後は弱体化や再生、分裂などを経て現在でも「独立展」として続いています。
 参考記事:昭和の洋画を切り拓いた若き情熱1930年協会から独立へ (八王子市夢美術館)

佐伯祐三 「リュクサンブール公園」の看板
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こちらは1927年の作品で再渡仏した際のものです。背の高い木々が並び青空も見えて爽やかな光景です。人々も行き交っていて活気を感じます。再びのパリに心踊らせていたんじゃないか?と思えるくらい明るい雰囲気ですね。

この1927年の7月に日本を出発し、8月末に再びパリに到着しています。10月からはモンパルナスにアトリエを設けています。

佐伯祐三 「ガス灯と広告」
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こちらは1927年の作品。佐伯の代名詞的な広告が並び、雑多さと流麗さの両面が感じられます。壁の質感は特に見事で、うらぶれたパリの街角の雰囲気が伝わってきます。佐伯の作品でも特に好きな1枚です。

モンパルナスのアトリエには荻須高徳や山口長男なども訪ねてきています。特に荻須高徳は佐伯と似た画風で、やはりヴラマンクやユトリロに影響を受けて街並みを描いた作品を多く残しています。

佐伯祐三 「テラスの広告」
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こちらも1927年の作品。アトリエの近くの、ポール・ロワイヤル通り周辺のカフェを描いていて赤や緑の看板が目に鮮やかです。椅子・衝立の曲線や文字が勢いを感じさせ、誰もいないのに生き生きとした雰囲気となっています。この作品は1929年の第4回一九三〇年協会展の特別陳列に出品されたそうで、佐伯の代表作と言えそうです。

この年の第20回サロン・ドートンヌに「広告のある家」と「カフェ・レストラン」が入選しています。また、ポール・ロワイヤル通りの「カフェ・レストラン」の連作などを手掛けました。

佐伯祐三 「モランの寺」
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こちらは最晩年の1928年の作品。恐らく荻須高徳、山口長男、横手貞美、大橋了介と共にヴィリエ=シュル=モランに写生旅行に行った時に見た寺院を描いたものだと思われます。やや歪んでいるものの、くすんだ色彩とどっしりとした風格が感じられ、質感も豊かです。寂しげながらも力強いようにも見えます。佐伯の作品は良い絵ばかりですね。

2月に写生旅行に行った後の3月に雨天で風邪をひき、持病の結核の病状が悪化していきました。6月には自殺未遂を起こして精神病院に入院し、8月に30歳の若さで衰弱死しました。


ということで、特に街角を描いた作品が魅力的です。個展はしばらく見てない(2008年のそごう美術館の展示を覚えてるくらいかな?)けど、私は特に好きな画家の1人なので、観られる機会があったら是非じっくりと観て頂きたい画家です。
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