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《フェルナン・レジェ》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、キュビスムから独自の進化を遂げたフェルナン・レジェを取り上げます。レジェは画家になる前は製図工だったこともあり、機械やパイプを思わせるモチーフがよく出てきますが、1930年代には有機的なフォルムの作風となるなど作風は次々に変遷していきました。しかしキュビスムに色彩を取り入れるという点では一貫していて、晩年まで色鮮やかな作品を残しました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

フェルナン・レジェは1881年にフランスのノルマンディー地方の農家の息子として生まれました。1900年にパリに出て若い頃は製図工の仕事をしながらアカデミー・ジュリアンに通って絵を学び当時は印象派風の作品を描いていたようです。しかし1907年のサロン・ドートンヌでのセザンヌの回顧展に感銘を受けたようで、セザンヌの「自然を円錐、円筒、球として捉える」という言葉から生まれたキュビスムへと関心を移していきました。1908年からはモディリアーニやシャガールなどのエコール・ド・パリの面々が集まっていた「ラ・リュッシュ(蜂の巣)」と呼ばれるアトリエに住んで、多くの画家と知り合い ピカソの画商であったカーンワイラーに認められて1912年にはカーンワイラーの画廊で個展も開いています。また、この年は画家ジャック・ヴィヨンを中心に結成された前衛グループ「セクシオン・ドール」(黄金分割。ピュトー派とも呼ばれる)に参加し、キュビスムの新しい方向性を模索していきます。しかし1914~1917年には第一次世界大戦に従軍していたようです。

残念ながら第一次世界大戦より前の作品の写真はなかったので戦後からのご紹介となります。

フェルナン・レジェ 「Contrastes de formes」
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こちらは第一次世界大戦が終わった1918年の作品で、日本語にすると「形のコントラスト」と言った感じです。円錐や四角が散りばめられているのはキュビスム的だと思いますが、ピカソやブラックと違って奥行きというか立体感があって色も鮮やかに感じられます。

セクシオン・ドールはキュビスムが抑制された色で表現されていたことに対して色彩を取り戻す方向性だったようで、レジェには独特の明るい色が感じられます。

フェルナン・レジェ 「Le pont du remorqueur」
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こちらは1920年の作品で、日本語にすると「曳船の橋」となります。人や船、機械らしきものが多面的に表現されていて、それぞれが色面になっているのがレジェらしいキュビスムに思えます。配置や形態のリズムも心地よい作品ですね。

この年にレジェは建築家でピュリスムの画家であるル・コルビュジエと出会い、影響を与えています。確かにお互いに似た画風です。
 参考記事:
  《ル・コルビュジエ》  作者別紹介
  ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代 感想後編(国立西洋美術館)

フェルナン・レジェ 「Femme au miroir」
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こちらも1920年の作品で、日本語にすると「鏡の中の女性」となります。確かに鏡らしきものに映る女性の顔がありますねw 周りは工場のような無機質な印象で、白黒が多いので一層に中央辺りに目が行きます。これはレジェと言われないとちょっと気づけ無いかもw

第一次大戦以後のレジェの芸術は、相対立する存在を一つの画面の中で調和させることだったそうで、その緊張的調和の方法を「コントラスト」と呼んだそうです。レジェのコントラストの理念は造形的目的から宇宙的範疇にまで拡大していったそうで、レジェの夢見た理想世界は近代機械化文明と素朴な人間生活の調和でした。知識人たちが高度に機能化して行く近代世界での人間性の将来を憂慮する中で、レジェはそうした世界で逞しく生きる人間の可能性を期待した殆ど唯一の画家なのだとか。
 引用元:国立西洋美術館

フェルナン・レジェ 「L'homme à la pipe」
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こちらも1920年の作品で日本語にすると「パイプを持つ男」となります。縞々のような模様が窓のように見え、階段の手すりのようなものがあったりして近未来的な建物の中のように思えます。犬の姿もあるしちょっとシュールな感じすらあるかなw 色彩はレジェにしては落ち着いているように思えます。

レジェはこの頃から絵画だけでなく舞台美術にも取り組んでいます。レジェは生涯で絵画以外に、舞台装置、挿絵、陶器、ステンドグラスなど、多様な分野で創作活動を行っていました。

フェルナン・レジェ 「La Rose et le Compas」
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こちらは1925年の作品で、日本語にすると「薔薇とコンパス」です。左右に薔薇とコンパスがあり、真ん中の赤いのと合わせて分断された3つのモチーフが繋がったような構成となっています。詳細は不明だけど元々は製図をやっていたので、真ん中のも製図に使うものなのかな? 具象的だけどキュビスム的なところもあって面白い構図です。

1913年にアポリネールは、「彼(レジェ)は人類が古代から持ち続けてきた本能とわが民族の本能に反発して、自分が生きている現代文明の本能に、喜んで専念した最初の画家である」と評したそうです。戦時中は大砲や兵器の形に魅せられたってくらいなので、人工的な造形や機械が好きだったのかも。

フェルナン・レジェ 「花と女」
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こちらは1926年の作品。横向きの女性と花があり、真ん中には幾何学模様を組み合わせたものがあります。これは何だか分かりませんが、顔と花は割と具象的ですね。こちらでも3分割されたような構成となっていて、先程の作品との共通点があるように思えます。

こうした明快な色彩は第一次世界大戦やアメリカの滞在で得たもののようです。

フェルナン・レジェ 「Le Pot rouge」
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こちらは1926年の作品で、日本語にすると「赤いポット」です。ポットには見えないけど、花や容器のようなものは分かるかな。以前に比べて色面ではなく陰影がついて柔らかい雰囲気となっていて、形も丸みを帯びて有機的に見えますね。機械のようでもあるけど何だか可愛らしい雰囲気です。

第一次世界大戦の兵役中にチャップリンの映画を観たそうで、それもレジェに影響を与えたようです。1936年のチャップリンの映画『モダン・タイムス』なんかは労働者が機械に振り回される様子を皮肉っぽく描いてるので、その後のレジェとは方向性が逆に思えるんですけどね。

フェルナン・レジェ 「Composition à la main et aux chapeaux」
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こちらは1927年の作品で、日本語にすると「手と帽子の構図」となります。人の顔、帽子、トランプ、機械、浮き輪のようなもの?などが単純化され色面で表現されています。白・赤・青・黄といった色が鮮やかに感じられ、脈絡が分からない物がシュールにすら思えます。この横顔はさっきの「花と女」に通じるものがありますね。

フェルナン・レジェ 「Composition aux trois figures」
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こちらは1932年の作品で、日本語にすると「三つ折りの構図」といった感じでしょうか…? めちゃくちゃ雰囲気が変わって幾何学的な感じではなく、有機的でピカソの新古典主義の時代を思わせる人物像が描かれています。色も背景のほうが強くて今までとは明らかに画風が違いますね。素朴で力強い印象を受けます。

フェルナン・レジェ 「Composition aux deux perroquets」
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こちらは1935~39年頃の作品で、日本語にすると「2羽のオウムとの構図」となります。先程の画風を色彩豊かに発展させたような感じで、やはり手足の太い様式となっています。タイトルのオウムも確かにいますねw 有機的で迫ってくるような生命力が感じられます。

レジェは1940年から第二次世界大戦の戦火を避けてアメリカで活動しています。戦後、1945年にフランスへと帰国しています。

フェルナン・レジェ 「赤い鶏と青い空」
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こちらは1953年の作品です。さらに画風が変わって、具象的な風景をキュビスム風にしたように思えます。それにしても色が爽やかで、これまでの原色の組み合わせとは違った鮮やかさを感じます。

1950年頃から南仏のニースの近くにあるビオットという陶器の有名な産地で陶器製作に携わるようになりました。今ではその地にフェルナン・レジェ美術館があります。

フェルナン・レジェ 「サンバ」
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こちらは1953年の作品です。こちらはかなり単純化されてデザイン的な画風に見えます。工業的なモチーフはレジェっぽいけど、これがレジェとは思えないくらいの進化ぶりです。

この前年の1952年に71歳で弟子の女性と再婚しましたが、1955年に亡くなりました。


ということで、キュビスムから独自の進化を遂げた画家となっています。日本では国立西洋美術館で観る機会があるものの、個展は観たことがありません。有名な割に調べても謎な部分も結構あったので、本格的な回顧展が日本でも開催されることを期待したいところです。
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