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《ロバート・キャパ》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、報道写真家でありながらアートの世界でも名高いロバート・キャパを取り上げます。ロバート・キャパという名前は元は架空の存在で、実際には2人の人物が共同制作していました。しかし1人は戦場で若くして亡くなり、もう1人は1954年に地雷でなくなるまで5つの戦場で報道写真を撮りました。一方、多くの文化人や芸術家と交流を持ち、彼らの日常を撮った写真も多く残し報道写真とは別の魅力もみせてくれます。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


ロバート・キャパの本名はアンドレ・フリードマンではありますが、もう1人ロバート・キャパと言える人物がいます(理由は後述)まずアンドレ・フリードマン(フリードマン・エンドレ)についてですが1913年にハンガリーのユダヤ系の家に生まれました。1931年の18歳の時に左翼運動に関わり逮捕され、釈放されるとベルリンに逃れ高等政治専門学校に学ぶ傍ら、写真通信社の暗室係として働いていました。その頃にはコペンハーゲンで演説するトロツキーを撮影して名を挙げています。1933年になるとナチスから逃れパリに移住し、ここで後に「マグナム」の創始メンバーとなるカルティエ=ブレッソン、シーモアらと出会っています。その頃は貧しく、同時期にパリに住んでいた日本人の川添浩史(イタリア料理屋キャンティの創始者)のアパルトマンに出入りしていたようで、その縁でパリ在住の日本人たちとも交流を持っていました(毎日新聞パリ支局長の城戸又一からはアルバイトを得ていたそうです) また、その少し前の1934年にはドイツから逃れてきたユダヤ人の女性写真家のゲルダ・タロー(本名ゲルタ・ポホリレ)と出会いました。このゲルダ・タローこそがもう1人のロバート・キャパで、やがて2人は恋仲になり1936年からロバート・キャパ名義で共同制作するようになりました。そのため、2人のどちらが制作したのか分からない作品もあります。なお「ゲルダ・タロー」もペンネームですが、これはアンドレ・フリードマンと親交があった岡本太郎に因んだとされています。

ロバート・キャパ 「前線へ赴く兵士との別れ、バルセロナ 1936年8月」
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こちらは1936年の作品。仲睦まじいカップルの写真ですが、この後戦争に向かう劇的な場面となっています。この後2人はどうなったのか気になるところですね。ロバート・キャパの作品にはこうした歴史を象徴するようなものが多く、報道写真ながらも芸術性もある作風となっています。

ロバート・キャパ名義にしたのは当時のヨーロッパ情勢のためのようで、ユダヤ人である彼らが政治的狭量を乗り越え、「アメリカのすごい写真家」という架空の人物像を作ってアメリカ市場で売り込みやすいようにしたようです。

ロバート・キャパ 「ストライキ中のラファイエット百貨店ガードマン、パリ 1936年6月12日頃」
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こちらは1936年の作品。壁にもたれて休んでいるように見えるけどストライキのようです。うつむいて難しい顔をしているのが心境を伺わせます。

この1936年の9月のスペイン内戦中に撮影した「崩れ落ちる兵士」で、ロバート・キャパは一躍有名写真家となりました。兵士が撃たれる瞬間を撮ったもので、驚くべきシーンではあるのですが あまりに劇的で後々までやらせ疑惑がありました。(現在では実際は兵士らのマスコミ向けの演習中に坂で滑った兵士を撮ったとされています)

ロバート・キャパ 「第一次世界大戦休戦記念日にパレードする退役軍人、パリ 1936年11月11日」
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こちらも1936年の作品。退役軍人たちのパレードの様子で、特に中央の杖をついた人に目が行きます。負いても意志の強そうな雰囲気ですね。

ロバート・キャパはアンドレ・フリードマンとゲルダ・タローのどちらが撮ったか分からなかったものも、最近では研究が進んでカメラや構図などで違いが分かってきたようです。先述の「崩れ落ちる兵士」はゲルダ・タローが撮ったものと考えられるようになっています。

ロバート・キャパ 「空襲警報、ビルバオ、スペイン 1937年5月」
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こちらは1937年の作品。みんな一様に空を見上げて不安げな面持ちで、当時の緊張感が伝わってきます。ロバート・キャパの作風の1つとして、何かを観ている人たちを撮るというのがあるように思います。

この1937年の7月にゲルダ・タローはスペイン内戦の取材中に事故に巻き込まれて亡くなりました。アンドレ・フリードマンの悲しみは深く、多くの人がその死を深く悼みゲルダ・タローは反ファシストの象徴とされました。彼女の墓碑はジャコメッティがデザインしています。(その後ナチスに破壊されたが再作成しています) そしてこれ以降もアンドレ・フリードマンはロバート・キャパの名義で活動を続けていきました。

ロバート・キャパ 「Dデイ、オマハ・ビーチ、ノルマンディー海岸、1944年6月6日」
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こちらは1944年のノルマンディー上陸作戦の様子を撮った作品。海岸で匍匐前進する様子や海に浮かぶ舟などが写っていて、右に見えるのは砲火でしょうか…。まさに歴史が変わる戦場を撮った驚くべき写真です。

1939年にアメリカに移り1940年には永住権を得ています。1938年に日中戦争、1943年には北アフリカ戦線、イタリア戦線を取材し『ライフ』の特派写真家としてヨーロッパ戦線の重要な場面を記録していきました。このDデイシリーズはその中でも最高傑作とされています。

ロバート・キャパ 「Dデイ、オマハ・ビーチ、ノルマンディー海岸、1944年6月6日」
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こちらも1944年の史上最大の作戦。まさに存亡をかけた決戦の写真で、ややブレてる感じが逆に緊迫感を出しているように思えます。兵士のこの表情も鬼気迫ります。

このDデイは元々は100枚以上あったようですが、現像の際に興奮しすぎた暗室助手の不手際で11枚しか残らなかったようです。人類史に残る貴重な作品をそんなことで失うとは何とも勿体ない。

ロバート・キャパ 「解放の日、パリ 1944年8月26日」
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こちらも1944年の作品で、ナチスからの解放を祝うパリの様子。みんな歓喜の表情でイギリスやアメリカの旗も確認できます。道だけではなくバルコニーや屋根にまで人が溢れて凄い光景です。

これで戦争は終わった訳ではなく、ロバート・キャパはこの後も1945年の終戦まで各地の戦場を取材しています。

ロバート・キャパ 「解放の日、パリ 1944年8月26日」
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こちらも同じく1944年の作品。群衆の喜びのエネルギーが凝縮されたような1枚で、これも激動の時代を伝えてくれますね。

終戦後の1946年にアメリカで市民権を得て、戦後はピカソなどの著名人を撮影しています。戦時の報道写真と異なる魅力のどこかユーモアを感じる作風となっています。

ロバート・キャパ 「パブロ・ピカソと息子クロード、ゴルフ=ジュアン、フランス 1948年8月」
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こちらは1948年の作品。天才ピカソもこうしてみると子煩悩なお父さんって感じですねw 2人並んで仲睦まじい雰囲気が出ています。

1947年には著書『ちょっとピンぼけ』を出版しました。また、同じ年にアンリ・カルティエ=ブレッソン、デヴィッド・シーモア、ジョージ・ロジャーらと国際写真家集団「マグナム」を結成しています。

ロバート・キャパ 「パブロ・ピカソとフランソワーズ・ジロー、ゴルフ=ジュアン、フランス 1948年10月」
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こちらも1948年の作品。このフランソワーズ・ジローは画家でもあり、ピカソと2人の子(さっきのクロードもその1人)をもうけた愛人で、この5年後にピカソに愛想を尽かして出ていきました。ピカソを振った唯一の女性とされています。この頃は仲が良かったようで幸せそうですね。ピカソのおどけた感じも何だかユーモラス

先述のように日本とも縁があったため、1954年に来日して日本各地で写真を撮っています。その直後に第一次インドシナ戦争の取材のため北ベトナムに渡り、その地で地雷によって爆死を遂げました。しかしその名は優れた報道写真に贈られるロバート・キャパ賞として今でも失われることなく残っています。


ということで、本質は報道写真の写真家であるものの アートの分野でも非常に高い評価を得ています。今回ご紹介できなかった有名作も多数あり、今でも伝説的な存在です。横浜美術館にはロバート・キャパの実弟から寄付されたコレクションがあるので、見かけたらじっくりと味わってみて頂ければと思います。

 参考記事:マグナムを創った写真家たち~キャパ、カルティエ=ブレッソン、ロジャー、シーモア~ FUJIFILM SQUARE(フジフイルム スクエア)

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