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《瑛九》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、1930年代~1950年代にかけて活躍した瑛九(えいきゅう)を取り上げます。瑛九の本名は杉田秀夫で 元々は美術批評家として活動していましたが、マン・レイのレイヨグラフに影響を受けたフォトデッサン集『眠りの理由』の出版を機に瑛九と名乗りました。戦時中にスランプになって作品を発表しなかった時期があるものの、写真、コラージュ、油彩、水彩、ガラス絵など様々な媒体で作品を制作し 特に晩年の水玉模様の作品群が代表的な作風となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


瑛九の本名は杉田秀夫で、1911年に宮崎市の眼科医の次男として生まれました。幼少期から文化的に恵まれた環境で育ち、絵画を学びながら10代の頃から美術評論や写真評論を発表していたようで、フォトグラムの制作も試みています。やがて日本美術学校に入り(1年で退学)し、1927~28年頃には『みずゑ』などに美術批評を寄稿しています。1934年頃から油絵制作に専念し、1935年に中央美術展に初入選してその翌年には新時代洋画展の同人となりました。当初はセザンヌや竹久夢二に影響を受けた作品なども残しています。

瑛九 「瑛九氏フォート・デッサン作品集 眠りの理由 より」
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こちらは1936年のフォトデッサンの作品です。この作品集から数枚ご紹介しようと思います。

瑛九 「瑛九氏フォート・デッサン作品集 眠りの理由 より」
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こちらは「眠りの理由」の中の1枚。黒地に白い線や人の形などが抽象画のように交錯する不思議な作風で、絵のようですが写真の一種です。幻想的で夢の中のような光景に思えます。

これらはマン・レイの「レイヨグラフ」(印画紙の上に直接物を置いて感光させる手法)に影響を受けて作ったもので、型紙などを使って表現しています。

瑛九 「瑛九氏フォート・デッサン作品集 眠りの理由 より」
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こちらもシリーズの1枚。手を挙げて舞うような躍動感がありますね。マン・レイの作風をただ真似るのではなく、デッサンして作った型紙を使っているので不思議なだけでなく意味がありそうな光景に見えるのが特徴かもしれません。

このフォトデッサン集を発表したのを機に瑛九(えいきゅう Q-Ei)を名乗るようになりました。瑛九は油彩、写真、コラージュ、水彩、ガラス絵など様々な分野で創作活動しています。

瑛九 「瑛九氏フォート・デッサン作品集 眠りの理由 より」
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こちらもシリーズの1枚。周りの線が動きを表現しているようにも見えます。

こうしたフォトデッサンは油彩のモチーフと共通して使われたこともあったようです。現在でも紙を切り抜いた型が残っていて、瑛九の展覧会が行われると展示されることがしばしばあります。

瑛九 「無題」
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こちらは1937年の作品で、指のようにも思える謎の物体が黒い中に浮かんでいて、フォトデッサンに見えるけどコラージュのようです。フォトデッサンからコラージュに切り替えたのは、技法ばかりが評価されて表現に関して言及されないのに反発したためらしく、瑛九の反骨精神が伺えるエピソードです。

瑛九は世界共通言語として作られた「エスペラント語」を生活の一部に取り入れていました。人類が同じ立場に立つ土壌から美術や社会について考える道へと進んだのだとか。少し前の1934年にはエスペラント語の提唱者のザメンホフを描いた肖像も制作しています。

瑛九 「無題」
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こちらは1937年の作品で、やはりコラージュとなっています。蛇みたいなパイプみたいなものと赤い四角が組み合わさって、抽象のような具象のような不思議な作品となっています。パピエ・コレやシュルレアリスムのコラージュとも雰囲気が違って独特のものを感じます。

この時期には他にもピカソ風の作品やオートマティズムの作品などもあり 様々な画風を試していたものの1937~1939年頃はスランプだったようです。(さらに1940年頃からは作品を制作しても発表していなかった) 1943年頃には「もう一度印象派からやり直さねばならぬ」と言って印象派のような画風なども残しています。

瑛九 「乱舞」のポスター
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こちらは1950年の作品で、沢山の人影が連なって踊っているように見える抽象的なフォトデッサンです。再びフォトデッサンになったけど滲みなどもあって以前と作風が違って見えるかな。この作品を作るために使った型紙と、同じ型を使った反転している作品、制作に使ったガラス棒などを観たことがありますが、工程がわかっても一層に不思議な作風に思えたものですw

この頃から再び活発に展覧会へも出品するようになっています。1951年からは埼玉県の浦和に移住して精力的に制作しました。一方、瑛九は啓蒙家としての資質もあったようで、自由な美術教育を提唱し「創造美育協会」への参加や版画の講習会の開催を通じて美術界の活性化を目指していたそうです。また、瑛九は権威主義に抵抗し自由と独立の精神で制作することも目指したそうで、戦前・戦後を通して「ふるさと社」「自由美術家協会」、自ら主催した「デモクラート美術家協会」などの設立にも参加しています。

瑛九 「空の目」のポスター
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こちらは1957年の作品。タイトルと青っぽい背景のせいか宇宙や土星の輪のようなものを想起させるかな。どこか有機的で貝殻なども思い浮かぶかも。一時はパウル・クレーにも影響を受けたことがあるようで、確かにそれを感じる部分もあります。敷石のモザイクのようにバラバラなようで奇妙な一体感がありますね。

瑛九は晩年3年間に点描画を描いていて、私が思い浮かべる瑛九の作風はレイヨグラフとこの水玉模様の作品です。草間彌生より前にこんな水玉を多様した画家がいたんですねw

瑛九 「れいめい」
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こちらも1957年の作品。黎明という始まりを意味する言葉は宇宙の始まり または 生命の始まりでしょうか。星のようでもありアメーバのような原始生物のようでもある…。それにしても優しい色彩が心地よく、瑛九の中でも特に好きな作品です。

瑛九はオノサト・トシノブを信頼しあって刺激し合う仲間だったようです。確かに作風に似たものを感じることがあります。

瑛九 「田園」
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こちらは1959年の作品。無数の点描で描かれた大型の作品で、黄色や赤が多くて太陽や青空の下の田園風景と言われたらそう見えるかな。田園というのはベートーヴェンの田園交響曲のことらしく、同名の作品は田園を繰り返し聴きながら描いていたというエピソードがあります。先程の水玉をさらに細かくしたような感じで、ほとばしるような勢いと陽光が表現されているように思えます。

1957年頃にはフォトデッサンで用いた型紙を使って、エアコンプレッサーのみで描いた作品なども残しています。1960年に亡くなる直前まで新たな表現に挑戦し続けた画家でした。


ということで、幅広いジャンルで活躍した芸術家となっています。宮崎で生まれ戦後は浦和で活動したこともあり、関東では埼玉県立近代美術館や うらわ美術館、東京国立近代美術館などでコレクションを観る機会があります。それ以外のギャラリーなどでちょくちょく小さな個展も開かれるので、知っておくと面白い存在だと思います。
 参考記事:
  生誕100年記念 瑛九展-夢に託して (うらわ美術館)
  生誕100年記念 瑛九展 (埼玉県立近代美術館)
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