《ベルナール・ビュッフェ》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、抽象絵画が全盛の時代にあって具象絵画を貫いたベルナール・ビュフェを取り上げます。ビュフェは戦後間もない頃に若くして高い評価を得た画家で、時代に呼応するような寂しげな画風が「悲惨主義(ミゼラビリスム)」と評されました。直線的で引っかき傷のような線の多い画面に人物や静物を描き、一目で分かる個性的な画家となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。
ビュフェは1928年のパリ生まれで、第二次世界大戦中はドイツの占領下で絵を学びました。15歳で国立美術学校に合格する天才的な才能を持ち 美術学校時代から頭角を現していたそうで、この頃にはシャイム・スーティンやキュビスムの影響を受けました。しかし17歳で母を亡くすと学校を退学してしまいます。貧しい生活をしながら独学で絵を描き続け、戦後間もない1947年(18~19歳)にサロン・デ・ザンデパンダンに出品すると注目を集めます。さらに、個展を開催すると1点が国家買い上げとなるなど華々しいスタートとなりました。そして翌年の1948年には若手の登竜門となる批評家賞を受賞し一躍脚光を浴びる画家になっていきました。
ベルナール・ビュフェ 「Nature morte au poisson」

こちらは1948年の作品で、日本語にすると「魚のいる静物」となります。沈んだモノクロな色彩と直線や円の多い画風で、引っかき傷のような線も多く描かれているのがビュフェの特徴と言えると思います。もの哀しく静かな雰囲気となっています。
初期はこうした色調を抑えた画風で、最も評価が高く人気がある時期となっています。
ベルナール・ビュフェ 「Femme au filet」

こちらは1948年の作品で、日本語にすると「ネットを持つ女性」となります。これはどういう状況なんだろうか?w 直線が交差する幾何学的な構図だけど、リズムや動的な感じを受けないのは色彩のせいでしょうか。すべてが細く黒っぽくなっているのに個性を感じます。
ビュフェには油彩だけでなく版画作品などもあり、この年にはドライポイントでの制作も始めました。
ベルナール・ビュフェ 「Le peintre et son modèle」

こちらも1948年の作品で、日本語にすると「画家とモデル」となります。めっちゃガリガリの人物像で、モデルは後ろ姿となっていて虚無感すら感じます。
この頃は第二次世界大戦が終わったばかりで、冷戦が始まろうとするような時代でした。ビュフェの絵にはその時代の不安や虚無感が表れていると考えられ、「悲惨主義(ミゼラビリスム)」と呼ばれることもあります。
ベルナール・ビュフェ 「Le buveur assis」

こちらも1948年の作品で、日本語にすると「着席した酒飲み」と言った感じでしょうか。何処かをじっと見つめる様子で、力なく虚ろな表情にも見えます。この独特の寂しさが日本の侘び寂びに似ているように思います。
この時代、芸術の世界では抽象絵画が全盛期を迎えていました。その中でビュフェは具象絵画を生涯貫いていた訳で、安易に時代に迎合しないストイックさを感じます。
ベルナール・ビュフェ 「Portrait du Docteur Girardin」

こちらは1949年の作品で、日本語では「ジラルダン医師の肖像」でしょうか。縦長の顔でパイプを咥える顔にダンディズムを感じます。ビュフェの数ある肖像の中でも特に好きな作品です。
ビュフェのこうした寂しげな画風は当時の若者でブームとなったサルトルの実存主義やカミュの不条理の思想と呼応していたようです。時代の空気を代弁するような作風だから当時から評価されたのでしょうね。
ベルナール・ビュフェ 「Nature morte au revolver」

こちらも1949年の作品で、日本語にすると「リボルバーのある静物」となります。ちょっと物騒なモチーフに驚きますが、静かに置かれ重厚さと冷たさが感じられるように思います。弾丸の置き方も水平・垂直になっているなど構成も面白い。
ここまで人物や静物が多いですがビュフェは戦争の悲惨さを描いた作品なども残しています。死んだ人物や廃墟など非常に暗く陰鬱な印象の作品を以前の展覧会で観たことがあり、当時目にしたであろう戦争の悲惨さを淡々と語っているようでした。
ベルナール・ビュフェ 「Nu debout」

こちらも1949年の作品で、日本語にすると「立っているヌード」となります。裸婦なのに生気が感じられないというか、老人のような雰囲気にすら思えるw 裸体にすると一層に手足の長さが際立ちますが、不思議と違和感がなく調和しているように思えます。
ビュフェは裸婦や女性もよく描きました。後に、避暑地でアナベルという女性と出会い 頻繁にモデルとなって描かれるようになります。やがてアナベルと結婚し生涯を共にしました。
ベルナール・ビュフェ 「Trois nus」

こちらも1949年の作品で、日本語にすると「3人のヌード」となります。3人共同じ女性なのではないか?ってくらい似てるので、もしかしたら別々のポーズを組み合わせたのかも?? 先程の女性とも見分けがつかない…w
この翌年の1950年に、南仏に住む小説家ジャン・ジオノや詩人ジャン・コクトーを訪ねて交流を深め、プロヴァンスの風景に魅了されました。その翌年にはプロヴァンスに移住し、4年ほど住んでいます。
ベルナール・ビュフェ 「Le boeuf écorché」

こちらは1950年の作品で、日本語にすると「皮付きの牛肉」となります。吊るされた牛の体は生き物というよりは物質的な感じに見えて一種のオブジェのように思えます。黒々して重厚な印象です。
この頃からよく交流したジャン・ジオノは『木を植えた男』などを手掛けた小説家で、その後に出版した『純粋の探求』ではビュフェが挿絵を21点手掛けています。
ベルナール・ビュフェ 「Portrait de l'artiste」

こちらも1950年の作品で、日本語にすると「芸術家の肖像」となります。注目は服の色で、ちょっと青っぽく色彩が出てきた感じがします。恐らく自画像だと思いますが、精悍な雰囲気ですね。
まだこの絵では僅かな色彩ですが、南仏の明るい太陽の光がビュフェの画風にも変化をもたらし、この後の1950年代中頃からは徐々に鮮やかな色調に変わって行きます。モノクロ時代のほうが評価が高いものの、色彩が増えてからは人間としての暖かみや情感が現れるようになっていきます。
ベルナール・ビュフェ 「Sainte Face」

こちらは1952年の作品で、日本語にすると「聖顔」となります。キリストがゴルゴダの丘を登る時に聖ベロニカに布を差し出され、顔を拭いたところ布に顔が浮かび上がったという話をテーマにしています。ビュフェはこうした宗教画(というかキリスト像)も手掛けていて、十字架からの降下を描いた作品では血だらけで惨たらしい雰囲気だったりします。この絵も茨が無数に刺さり歯をむき出しにしていて痛々しい描写に見えるかな。聖なる存在というよりは虐げられた人間的な要素が強いように思えます。
1952年からは画廊との契約でテーマを定めた個展が毎年恒例となったそうで、油彩作品は大型となり、新しく薄塗りのマティエールを試みるようになっていきました。1955~1960年頃はモチーフを描く前にキャンバスに白絵具を塗って、乾いてから黒絵具を油とワニスで薄く引き延ばして背景を作るという技法が用いられています。
ベルナール・ビュフェ 「海水浴場、ドーヴィル」

こちらは1959年の作品。一気に色が増えて空が青い!w そのせいか海水浴場ののんびりとした雰囲気が伝わってくるようで、戦後間もない頃の虚無的な感じは減ったように思えます。まあ それでも人がいないので静けさと寂しさは漂っていますがw
この前年の1958年にはパリの画廊で大規模な個展を行い10万人もの人が押し寄せたそうです。そして12月には歌手やモデルとして活躍していたアナベルと結婚し、これ以降もミューズとなり彼女をモデルに多くの作品を発表します。
ベルナール・ビュフェ 「Les oiseaux, le rapace」

こちらは1959年の作品で日本語にすると「鳥、猛禽」となります。横たわる裸婦はアナベルかな? 大きな鳥がお腹のあたりをじっと見つめて羽を広げています。これまでに比べると輪郭がやや太くなり 赤っぽい色彩が使われて力強い印象を受けます。どういう意図か分かりませんがややシュールな光景ですね。
この年を境に多彩なモチーフ、鮮やかな色彩、より力強く激しい輪郭線、絵具の厚塗りへの移行といった変化が起こったようです。また、1960年代に入ると、「自然誌博物館」、「皮を剥がれた人体」、「闘牛」、「狂女」等のシリーズを内から沸き起こる激情のまま描き出し、力強い描線によって表現主義的傾向を強めていきました。
ベルナール・ビュフェ 「Françoise Hardy」

こちらは1963年の作品で、タイトルはフランソワーズ・アルディというフランスの歌手・女優の名前となっています。背景が水色っぽいのが初期とは違う点で、顔にも個性が感じられます。この人の写真を検索して観ると、特徴を捉えているのが分かりビュフェらしさと上手く同居している肖像に思います。
この年には東京の国立近代美術館と国立近代美術館京都分館で「ビュフェ展、その芸術の全貌」が開催され、日本でも知名度が上がりました。
ベルナール・ビュフェ 「Les plages,le parasol」

こちらは1967年の作品で、日本語にすると「浜辺、傘」となります。足を大きく伸ばす女性と傘の円の構成が面白く、横長なので開放感もあるように思います。この頃になると作品全体から漂う雰囲気も戦後とは違って見えますね。
以前「仔牛の頭部2」という絵を描いているビュフェを撮った映像を観たことがあります。タバコを吸いながら結構なスピードでどんどん描いていたのが印象的で、途中で描き直したりもして制作工程が伺えました。出来上がると静かな絵なのが不思議w
ベルナール・ビュフェ 「Les folles, femmes au salon」

こちらは1970年の作品で、日本語にすると「居間の狂った女性たち」といったニュアンスです。ちょっと異様で戯画的にも思えるくらい倒錯しているかなw 一目でビュフェと分かる個性を保ちつつも色彩やモチーフなどに変化がありますね。
1972年頃から写実的な風景画の連作が始まり、外界との接触を避けてアトリエに閉じこもって制作し、これまでの表現とは全く異なるアカデミックな表現で批評家たちを驚かせたそうです。また、1973年には日本にベルナール・ビュフェ美術館が開館しました。これは世界で唯一で、美術館を建てた親友が日本人であったこともあり、親日家だったそうです。1980年には初来日を果たし、力士の大乃國や東京の高速道路を描いた作品なども残されています。生来物静かだったビュフェの気質も日本に合ったのではないかと言われています。
ベルナール・ビュフェ 「La mort 5」

こちらは最晩年の1999年の作品で、日本語にすると「死5」です。この2年前にパーキンソン病を発症し、体力が衰えて死を予測したビュフェは、翌年の個展に出品する「死」シリーズを5月に完成させました。これはその中の1枚と思われます。骸骨人間が花嫁のような格好をしてカラスが2羽舞っているのが不吉な感じですが、やはり戯画的な雰囲気があって奇妙な面白さがあるように思います。絶筆が近い人の作品とは思えないほど濃厚な仕上がりですね。
このシリーズを完成させた翌月の6月末には絵筆が執れなくなり、「絵画は私の命です。これを取り上げられてしまったら生きていけないでしょう」という自身の言葉を残し、10月4日に自ら命を絶ちました。
ということで、モノクロな作風から始まり徐々に色彩を増して行った画家となります。日本でも人気で静岡県にベルナール・ビュフェ美術館がある他、数年に1度くらいの割合で関東でも回顧展も開かれます。この記事を書いている2021年2月時点ではbunkamuraでも個展を開催しているので、是非知っておきたい画家だと思います。
参考記事:
ベルナール・ビュフェ展 (目黒区美術館)
ベルナール・ビュフェのまなざし フランスと日本 (ニューオータニ美術館)
ビュフェは1928年のパリ生まれで、第二次世界大戦中はドイツの占領下で絵を学びました。15歳で国立美術学校に合格する天才的な才能を持ち 美術学校時代から頭角を現していたそうで、この頃にはシャイム・スーティンやキュビスムの影響を受けました。しかし17歳で母を亡くすと学校を退学してしまいます。貧しい生活をしながら独学で絵を描き続け、戦後間もない1947年(18~19歳)にサロン・デ・ザンデパンダンに出品すると注目を集めます。さらに、個展を開催すると1点が国家買い上げとなるなど華々しいスタートとなりました。そして翌年の1948年には若手の登竜門となる批評家賞を受賞し一躍脚光を浴びる画家になっていきました。
ベルナール・ビュフェ 「Nature morte au poisson」

こちらは1948年の作品で、日本語にすると「魚のいる静物」となります。沈んだモノクロな色彩と直線や円の多い画風で、引っかき傷のような線も多く描かれているのがビュフェの特徴と言えると思います。もの哀しく静かな雰囲気となっています。
初期はこうした色調を抑えた画風で、最も評価が高く人気がある時期となっています。
ベルナール・ビュフェ 「Femme au filet」

こちらは1948年の作品で、日本語にすると「ネットを持つ女性」となります。これはどういう状況なんだろうか?w 直線が交差する幾何学的な構図だけど、リズムや動的な感じを受けないのは色彩のせいでしょうか。すべてが細く黒っぽくなっているのに個性を感じます。
ビュフェには油彩だけでなく版画作品などもあり、この年にはドライポイントでの制作も始めました。
ベルナール・ビュフェ 「Le peintre et son modèle」

こちらも1948年の作品で、日本語にすると「画家とモデル」となります。めっちゃガリガリの人物像で、モデルは後ろ姿となっていて虚無感すら感じます。
この頃は第二次世界大戦が終わったばかりで、冷戦が始まろうとするような時代でした。ビュフェの絵にはその時代の不安や虚無感が表れていると考えられ、「悲惨主義(ミゼラビリスム)」と呼ばれることもあります。
ベルナール・ビュフェ 「Le buveur assis」

こちらも1948年の作品で、日本語にすると「着席した酒飲み」と言った感じでしょうか。何処かをじっと見つめる様子で、力なく虚ろな表情にも見えます。この独特の寂しさが日本の侘び寂びに似ているように思います。
この時代、芸術の世界では抽象絵画が全盛期を迎えていました。その中でビュフェは具象絵画を生涯貫いていた訳で、安易に時代に迎合しないストイックさを感じます。
ベルナール・ビュフェ 「Portrait du Docteur Girardin」

こちらは1949年の作品で、日本語では「ジラルダン医師の肖像」でしょうか。縦長の顔でパイプを咥える顔にダンディズムを感じます。ビュフェの数ある肖像の中でも特に好きな作品です。
ビュフェのこうした寂しげな画風は当時の若者でブームとなったサルトルの実存主義やカミュの不条理の思想と呼応していたようです。時代の空気を代弁するような作風だから当時から評価されたのでしょうね。
ベルナール・ビュフェ 「Nature morte au revolver」

こちらも1949年の作品で、日本語にすると「リボルバーのある静物」となります。ちょっと物騒なモチーフに驚きますが、静かに置かれ重厚さと冷たさが感じられるように思います。弾丸の置き方も水平・垂直になっているなど構成も面白い。
ここまで人物や静物が多いですがビュフェは戦争の悲惨さを描いた作品なども残しています。死んだ人物や廃墟など非常に暗く陰鬱な印象の作品を以前の展覧会で観たことがあり、当時目にしたであろう戦争の悲惨さを淡々と語っているようでした。
ベルナール・ビュフェ 「Nu debout」

こちらも1949年の作品で、日本語にすると「立っているヌード」となります。裸婦なのに生気が感じられないというか、老人のような雰囲気にすら思えるw 裸体にすると一層に手足の長さが際立ちますが、不思議と違和感がなく調和しているように思えます。
ビュフェは裸婦や女性もよく描きました。後に、避暑地でアナベルという女性と出会い 頻繁にモデルとなって描かれるようになります。やがてアナベルと結婚し生涯を共にしました。
ベルナール・ビュフェ 「Trois nus」

こちらも1949年の作品で、日本語にすると「3人のヌード」となります。3人共同じ女性なのではないか?ってくらい似てるので、もしかしたら別々のポーズを組み合わせたのかも?? 先程の女性とも見分けがつかない…w
この翌年の1950年に、南仏に住む小説家ジャン・ジオノや詩人ジャン・コクトーを訪ねて交流を深め、プロヴァンスの風景に魅了されました。その翌年にはプロヴァンスに移住し、4年ほど住んでいます。
ベルナール・ビュフェ 「Le boeuf écorché」

こちらは1950年の作品で、日本語にすると「皮付きの牛肉」となります。吊るされた牛の体は生き物というよりは物質的な感じに見えて一種のオブジェのように思えます。黒々して重厚な印象です。
この頃からよく交流したジャン・ジオノは『木を植えた男』などを手掛けた小説家で、その後に出版した『純粋の探求』ではビュフェが挿絵を21点手掛けています。
ベルナール・ビュフェ 「Portrait de l'artiste」

こちらも1950年の作品で、日本語にすると「芸術家の肖像」となります。注目は服の色で、ちょっと青っぽく色彩が出てきた感じがします。恐らく自画像だと思いますが、精悍な雰囲気ですね。
まだこの絵では僅かな色彩ですが、南仏の明るい太陽の光がビュフェの画風にも変化をもたらし、この後の1950年代中頃からは徐々に鮮やかな色調に変わって行きます。モノクロ時代のほうが評価が高いものの、色彩が増えてからは人間としての暖かみや情感が現れるようになっていきます。
ベルナール・ビュフェ 「Sainte Face」

こちらは1952年の作品で、日本語にすると「聖顔」となります。キリストがゴルゴダの丘を登る時に聖ベロニカに布を差し出され、顔を拭いたところ布に顔が浮かび上がったという話をテーマにしています。ビュフェはこうした宗教画(というかキリスト像)も手掛けていて、十字架からの降下を描いた作品では血だらけで惨たらしい雰囲気だったりします。この絵も茨が無数に刺さり歯をむき出しにしていて痛々しい描写に見えるかな。聖なる存在というよりは虐げられた人間的な要素が強いように思えます。
1952年からは画廊との契約でテーマを定めた個展が毎年恒例となったそうで、油彩作品は大型となり、新しく薄塗りのマティエールを試みるようになっていきました。1955~1960年頃はモチーフを描く前にキャンバスに白絵具を塗って、乾いてから黒絵具を油とワニスで薄く引き延ばして背景を作るという技法が用いられています。
ベルナール・ビュフェ 「海水浴場、ドーヴィル」

こちらは1959年の作品。一気に色が増えて空が青い!w そのせいか海水浴場ののんびりとした雰囲気が伝わってくるようで、戦後間もない頃の虚無的な感じは減ったように思えます。まあ それでも人がいないので静けさと寂しさは漂っていますがw
この前年の1958年にはパリの画廊で大規模な個展を行い10万人もの人が押し寄せたそうです。そして12月には歌手やモデルとして活躍していたアナベルと結婚し、これ以降もミューズとなり彼女をモデルに多くの作品を発表します。
ベルナール・ビュフェ 「Les oiseaux, le rapace」

こちらは1959年の作品で日本語にすると「鳥、猛禽」となります。横たわる裸婦はアナベルかな? 大きな鳥がお腹のあたりをじっと見つめて羽を広げています。これまでに比べると輪郭がやや太くなり 赤っぽい色彩が使われて力強い印象を受けます。どういう意図か分かりませんがややシュールな光景ですね。
この年を境に多彩なモチーフ、鮮やかな色彩、より力強く激しい輪郭線、絵具の厚塗りへの移行といった変化が起こったようです。また、1960年代に入ると、「自然誌博物館」、「皮を剥がれた人体」、「闘牛」、「狂女」等のシリーズを内から沸き起こる激情のまま描き出し、力強い描線によって表現主義的傾向を強めていきました。
ベルナール・ビュフェ 「Françoise Hardy」

こちらは1963年の作品で、タイトルはフランソワーズ・アルディというフランスの歌手・女優の名前となっています。背景が水色っぽいのが初期とは違う点で、顔にも個性が感じられます。この人の写真を検索して観ると、特徴を捉えているのが分かりビュフェらしさと上手く同居している肖像に思います。
この年には東京の国立近代美術館と国立近代美術館京都分館で「ビュフェ展、その芸術の全貌」が開催され、日本でも知名度が上がりました。
ベルナール・ビュフェ 「Les plages,le parasol」

こちらは1967年の作品で、日本語にすると「浜辺、傘」となります。足を大きく伸ばす女性と傘の円の構成が面白く、横長なので開放感もあるように思います。この頃になると作品全体から漂う雰囲気も戦後とは違って見えますね。
以前「仔牛の頭部2」という絵を描いているビュフェを撮った映像を観たことがあります。タバコを吸いながら結構なスピードでどんどん描いていたのが印象的で、途中で描き直したりもして制作工程が伺えました。出来上がると静かな絵なのが不思議w
ベルナール・ビュフェ 「Les folles, femmes au salon」

こちらは1970年の作品で、日本語にすると「居間の狂った女性たち」といったニュアンスです。ちょっと異様で戯画的にも思えるくらい倒錯しているかなw 一目でビュフェと分かる個性を保ちつつも色彩やモチーフなどに変化がありますね。
1972年頃から写実的な風景画の連作が始まり、外界との接触を避けてアトリエに閉じこもって制作し、これまでの表現とは全く異なるアカデミックな表現で批評家たちを驚かせたそうです。また、1973年には日本にベルナール・ビュフェ美術館が開館しました。これは世界で唯一で、美術館を建てた親友が日本人であったこともあり、親日家だったそうです。1980年には初来日を果たし、力士の大乃國や東京の高速道路を描いた作品なども残されています。生来物静かだったビュフェの気質も日本に合ったのではないかと言われています。
ベルナール・ビュフェ 「La mort 5」

こちらは最晩年の1999年の作品で、日本語にすると「死5」です。この2年前にパーキンソン病を発症し、体力が衰えて死を予測したビュフェは、翌年の個展に出品する「死」シリーズを5月に完成させました。これはその中の1枚と思われます。骸骨人間が花嫁のような格好をしてカラスが2羽舞っているのが不吉な感じですが、やはり戯画的な雰囲気があって奇妙な面白さがあるように思います。絶筆が近い人の作品とは思えないほど濃厚な仕上がりですね。
このシリーズを完成させた翌月の6月末には絵筆が執れなくなり、「絵画は私の命です。これを取り上げられてしまったら生きていけないでしょう」という自身の言葉を残し、10月4日に自ら命を絶ちました。
ということで、モノクロな作風から始まり徐々に色彩を増して行った画家となります。日本でも人気で静岡県にベルナール・ビュフェ美術館がある他、数年に1度くらいの割合で関東でも回顧展も開かれます。この記事を書いている2021年2月時点ではbunkamuraでも個展を開催しているので、是非知っておきたい画家だと思います。
参考記事:
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川瀬巴水 旅と郷愁の風景 【SOMPO美術館】 (12/10)
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