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《ロバート・フランク》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、1950年代から現代にかけてアメリカで活躍したスイス出身の写真家ロバート・フランクを取り上げます。ロバート・フランクは1958年の『アメリカ人』でアメリカの貧困層などを撮った写真を発表し、戦後の繁栄で浮かれる中に一石を投じる作品として大きな衝撃を与えました。ヒッピー文化に影響を与えた詩人らと交友を持ち、カウンターカルチャーを取り上げた映画製作に取り組むようになり、1960年代には映画に没頭して写真からは遠ざかっています。しかしその後、写真集『私の手の詩』を機に写真へと軸足を戻し、晩年はカナダの風景などを撮影しました。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


ロバート・フランクは1924年にスイスのチューリッヒでユダヤ系の家に生まれました。23歳の1947年でアメリカに渡り『ハーパーズ・バザー』でアシスタントとして働きながら南米やヨーロッパ各地への撮影旅行を重ね、その後は『VOGUE』などの多くのファッション誌で働いていたようです。

ロバート・フランク 「これらの写真は1945年から46年にかけてスイスで撮影した。こんなふうに私は写真を撮りはじめた」
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恐らく1945年~46年の作品。まだスイスに居た頃で、撮り始めでも人々の生活に視点を当てている様子が伺えます。

1951年には雑誌『ライフ』の若手写真家コンテストで入賞したそうで、早くから才能を示し始めていました。

ロバート・フランク 「ニューヨーク1951」
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こちらは1951年の作品。背景のプラカードに宗教的なことが書いてあるので開いているのは聖書かな? 手しか映っていないのが逆に劇的な感じに見えます。凄いセンスの構図ですね。

戦後のアメリカは公民権運動が芽生えた頃だったようで、ロバート・フランクはそうした社会を捉えた作品が残されています。

ロバート・フランク 「メアリーとパブロ、1951年…そして4年後に」
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こちらは1951年と1955年の作品。奥さんと息子を撮ったもので、赤ちゃんだった息子が下の写真では少し大きくなっています。母と子の愛情や赤裸々な雰囲気が出てますね。猫たちも可愛いw

このパブロや娘のアンドレアはこの後にも出てきます。後の自伝的な写真集『私の手の詩』にはこうした家族や友人など身近な人々の写真が多く出てくるようで、幼い頃と成長した姿を上下に並べてレイアウトされ、向かい合うページには「そして何よりも、パブロとアンドレア、良き人生を送る道を探す二人に」という言葉が記されているのだとか。

ロバート・フランク 「ロンドン、1951」
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こちらは1951年の作品。犬が驚いて飛び跳ねていると思われ決定的な一瞬を捉えたような面白さがあります。それにしても周りはちょっとうら寂しい雰囲気すら感じられます。ロンドンらしいので旅行中かな。

1952年のロンドンを撮った作品もあるので、しばらく滞在していたのかもしれません。ちょっとこの辺の経緯は不明です。

ロバート・フランク 「ロンドン、1951」
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こちらも1951年の作品。二階建てバスがロンドンぽさを感じさせるけど、歩いている人の後ろ姿を撮ろうというのがちょっと変わってますねw これと同じようにシルクハットの男性の歩く後ろ姿を撮った作品があるので、そこに時代の空気を感じたのかも知れません。

ロバート・フランク 「スペイン、ヴァレンシア、1952」
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こちらは1952年の作品。スペインなので恐らく旅先だと思いますが、リアルなマネキンが立つ姿がシュールな感じに見えます。(ちょうどシュルレアリスムが隆盛していた頃だけど、関係があるのかは不明)

ロバート・フランク 「スペイン、ヴァレンシア、1952」
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こちらも1952年のスペインでの作品。こちらもコラージュ的な奇妙さを感じる光景かな。その土地の風土なども伝わってくるように思えます。

その後、写真家エドワード・スタイケンの知遇を得てグッケンハイム奨学金を受給することになり、1955年~56年にかけてアメリカ全土を旅しながらリアルな世相を撮っていき、それが後に大きな成果となっていきます。

ロバート・フランク 「アンドレアとパブロ、ロサンゼルスで、1955」
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こちらは1955年の作品。息子と娘を撮ったもので、あどけない顔をしていますね。娘さんはもうちょっと可愛い顔の時に撮ってあげれば良いのにw 生活感がにじみ出ていて面白い。

この娘のアンドレアは後に飛行機事故で亡くなったそうで、1995年にはその名を関する「アンドレア・フランク財団」を設立しています。これは若手芸術家やアート教育を支援する財団で、晩年には若手の育成にも力を入れました。

ロバート・フランク 「サウスカロライナ州エリザベスビル」
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こちらは1955年の作品。これは「ヒルビリー」と呼ばれるアパラチア山脈近くに住む貧しい白人の家族を撮ったもので、その呼称自体が軽蔑的な意味があって差別の対象となっていたようです。まさにこの時代のアメリカの暗部を鋭くえぐるような作品で、この視点が大きな評価へと繋がっていきます。身なりも貧しくちょっと疲れた感じがしますね。

こうした作品は反米的と考えられ好まれなかったようで、撮影当時には発表されなかったようです。

ロバート・フランク 「デトロイト」
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こちらは1955年の作品。今や荒廃した街となったデトロイトですが、1948年頃から白人の流出が始まっていたようなので過渡期と言ったところでしょうか。まだこの頃は整備されて割と裕福そうに見えます。

1958年にこうした全米旅行で撮った作品をフランスで写真集『Les Americains(アメリカ人)』として出版すると大きな衝撃を与えたようです。それは異邦人としてアメリカで感じた疎外感、不安、孤独が表れていた為で、激変するアメリカのリアルをえぐったことに反撥も大きかったようです。翌年にはアメリカ版も出し出版当時は反米的と酷評されたのが、時間を経て評価されるようになっていきました。

ロバート・フランク 「無題(『私の手の詩』より)」
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こちらは1955~56年の作品。かなり色々な場面があるけど、どれも貧しそうな人々を撮っているのが共通点かなw 先述の『アメリカ人』ではアメリカ各地で撮った写真を時系列や地理的な関係を解体し、並べ直して同時代の社会を描き出したのも特徴だったようで、写真をどう並べるかというイメージの連鎖が生む表現の可能性に強い関心を持っていたようです。この作品は後に作られた『私の手の詩』で編集されたものですが、その特徴が伺えるように思います。

ロバート・フランクはインタビューで、「私の母は『なぜ貧しい人の写真ばかり撮るの?』とよく尋ねてきました。それは事実ではありませんが、困難の中にいる人たちに共感を寄せていたのは確かです。そして、ルールをつくった人に対する疑念も」と語っていたのだとか。
 引用元:voage

ロバート・フランク 「アレン・ギンズバーグ、1959」
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こちらは1959年の作品。このモデルは詩人のアレン・ギンズバーグで、1950年代後半から60年代前半にかけて注目されたビートニク文学(ヒッピー文化の先駆的な存在)の中心人物です。メガネをかけて賢そうな眼差しで格好いいw  ロバート・フランクはアレン・ギンズバーグの盟友でありヒッピー文化のシンボルとなった『路上』の著者のジャック・ケルアックとも交友があったそうで、『アメリカ人』の序文を寄稿してもらったのだとか。シンパシーを感じるものがあったんでしょうね。

この頃からロバート・フランクは約10年ほど写真から離れて映画製作に没頭しています。アレン・ギンズバーグなどビートニクの旗手たちを撮った『プル・マイ・デイジー(わたしのヒナギクを摘め)』で監督デビューし、それ以降も映画を撮っていきました。

ロバート・フランク 「映画『ミュージカル 私について』より」
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こちらは1971年の映画作品の一部。これだけ観てもちょっと分かりませんが人の顔が大きく写った写真が多いのが特徴かな。 ミュージカルらしいけど前後関係が分かりませんw

映画を手掛けるようになったのは先程の作品のように映像をどう並べるかに関心があったので、それが深まった結果のようです。

ロバート・フランク 「マブウ」
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こちらは1977年の作品。だいぶ作風が変わって誰も居ない寂しいカナダの冬の景色を撮っています。飾られた写真は1953年の「ニューヨークに着く前のある日」という作品ですが、背景と無関係なものに見えてちょっとシュール。

ロバート・フランクは1969年にこのカナダのマブウという土地に家を建て、それ以来ニューヨークのアパートと行き来しながら暮らしていたようです。

ロバート・フランク 「ノヴァスコシア州マブウの冬」
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こちらは1981年の作品。波が押し寄せいかにも寒そうな光景となっています。人のリアルを撮ってきた人が自然の雄大さをテーマにしていて、ちょっと意外な感じ。現地の情感が伝わってくるのは流石ですね。

マブウは北海道の稚内よりも高緯度で非常に寒いところらしく、『赤毛のアン』で有名なプリンスエドワード島の西にあるのだとか。

ロバート・フランク 「マブウの夏」
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こちらは1981年の作品。夏なのに寂しい光景に見えるのは人がいないせいでしょうか。ミラー越しに風景が写っているという構図が洒落ています。

1987年にはローリング・ストーンズの北米ツアーを記録した映画『コックサッカー・ブルース』を制作するなど、カウンターカルチャーを撮る姿勢は健在だったようです。

ロバート・フランク 「マブウ、1997」
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こちらは1997年の作品。手と静物を並べるのがちょっとシュールで、初期の作品と似たものを感じるかな。何かの物語のいち場面のようにも思える…。

今回ご紹介した作品は出版社 邑元舎を主宰した写真編集者である元村和彦 氏が所蔵していたものとなります。元村氏は映像に没頭していたロバート・フランクに会って、写真集の制作を依頼し1972年の『私の手の詩』を出版した人物で、これによってロバート・フランクは再び写真へと軸足を移しました。

ロバート・フランク 「東京、イビスホテル684号室にて」
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こちらは製作年不詳の作品。東京に来た時の写真で、富士の絵がわかりやすいw 日本とも縁があったのが伺えますね。

ロバート・フランクは長生きして、2019年の9月に亡くなりました。フランクが行った個人の視点に基づく主観的な写真表現は後進に大きな影響を与え、戦後の重要な写真家の1人とされています。


ということで、孤独や世相のリアルを伝えた写真家となっています。日本でも度々展覧会が開かれていて、2019年に亡くなったこともあって最近メディアで取り上げられることが多かったように思います。またそういった機会もあると思いますので、知っておきたい写真家の1人です。

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