《ゴードン・マッタ=クラーク》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、1970年代にニューヨークで活躍した先進的なアーティストであるゴードン・マッタ=クラークを取り上げます。ゴードン・マッタ=クラークは著名なシュルレアリストのロベルト・マッタの息子で、建築と文学を学び建築そのものを素材にするような作品を多く手掛けました。若くして亡くなったので製作期間は10年程度ですが、特に建物を切り取る「ビルディング・カット」と呼ばれる手法は大掛かりかつ大胆で特徴的な作風となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。
ゴードン・マッタ=クラークは1943年に双子の弟としてニューヨークで生まれました。父はシュルレアリスムの画家のロベルト・マッタ、母も画家のアン・クラークという芸術家一家でしたが、生後まもなく両親は別れて母と兄と共にニューヨークやチリ、ヨーロッパなど各地で幼少期を過ごしました。やがてニューヨーク州のコーネル大学やパリのソルボンヌ大学で学んでいるのでかなりのインテリだったと思われます。そして1969年にニューヨークに移り、インスタレーションやパフォーマンスの発表を始めました。
ゴードン・マッタ=クラーク 「木の素描」

こちらは1969年の作品。ニューヨークに帰ってきてから木の素描をよく描いたようで、こうした作品が多く残されています。ただ単に描写しただけでなく、変形した樹木を並べて描いた文字や暗号のような素描や、木を建築の原型とみなして枝を屋根や格子状に変形して描いたものもあるようです。葉の部分に回転するような動きが表され、内側に小さな形や記号が記入されたこうした素描は「エネルギーの樹」と呼ばれるのだとか。大学では建築や文学を学んでいただけに、素描にも様々な考えが投影されているようです。
マッタ=クラークは万物が土、水、火、空気の四大元素から構成されるという錬金術の考えに興味を持っていたそうで、世界を理解する際の比喩として捉えていたようです。マッタ=クラークの作品を読み解く上で手がかりになるかもしれませんね。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ミュージアム」

こちらは1970年の作品。マッタ=クラークは1969~71年にかけて自宅兼スタジオで継続的にゼラチン状の天草をベースにした液体に、様々な植物や瓦礫を混ぜたものを煮立たせたり発酵させていたそうで、これは個展で出されたそうした品と思われます。他にも様々な食品や金属などを材料にした品があったようで、鑑賞者はそれらが引き起こす変化を目の当たりにすることができたようです。何だかよく分からない得体の知れなさがすごいw
マッタ=クラークは初期はこうした作品や写真を揚げたりするなど、料理をテーマにした作品を発表していました。そして1971年には友人のダンサーのキャロル・グッデンらと共同でソーホー地区に「フード」というレストランを設立しています。この「フード」ではパフォーマンスを行ったりアーティストが不定期に働いて収入を得られるようにしたそうですが、どんなメニューだったんでしょうかねw 揚げた写真が出てこなきゃいいけどw
ゴードン・マッタ=クラーク 「無題(ベラル・アルテスの切断)」

こちらは1971年の作品。ゴードン・マッタ=クラークは1971年後半に友人のジェフリー・ルウと共にメキシコやペルーを経由してチリを訪れました。父のロベルト・マッタと会うのが目的だったようですが父はパリに戻って会えなかったようです。しかし2人は父が懇意にしていたチリ国立美術館の館長と面会して美術館で展示を行うことになり、ゴードン・マッタ=クラークが階段の屋根に小さな穴を開けて天窓を作りました。そこに実在の壁、穴、鏡、写真を多重に組み合わせ、視覚を幻惑させる空間となったようです。この建物を切り取るという発想はこの後も出てくるので特徴的な手法だと思います。
チリ国立美術館はゴードン・マッタ=クラークが切断の介入を行った現存する唯一の建物とされています。実際にどんな光景なのか観てみたいものです。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ツリーダンス」

こちらは1971年の作品。大学のギャラリーの展覧会に招待された際に作ったハンモックのような作品で、そこに数日間滞在しようとしたものの許可が得られず1日限りのパフォーマンスとなりました。実際にこの映像を観ると楽しげですが、割と悪戦苦闘しているような感じです。
マッタ=クラークはのちに近代建築を「問題の解決に失敗しただけでなく、家というレベルでも、制度というレベルでも、非人間化された状態を作りだした」と批判したようで、この作品のように 天と地の間で生じる水や土や火の関係によって空間を捉え直すという中で樹木に注目していたのだとか。錬金術の考えと建築を結びつけようとしていたんでしょうね。
ゴードン・マッタ=クラーク 「壁=紙」

こちらは1972年の作品の再現。低所得者層が住む公共団地などの取り壊し中の様子を撮った写真を新聞用紙に印刷したもので、印刷によって写真の細かい部分が省略可されて抽象化され、さらに色彩も施されています。1972年の個展でこの「壁=紙」を連ねて天井から床まで壁一面を覆ったそうで、反復するような感じかな。前衛絵画のような趣きで、ちょっとポップアートのような試みにも思えます。
この作品を展示した際、床に「壁=紙」が山積みにされて来場者が自由に持ち帰ることができたそうです。ちなみに2018年にこの写真を撮った展覧会でもそれを再現していました。 1973年にはこの「壁=紙」を書籍の形状でも発表しています。
ゴードン・マッタ=クラーク 「無題 [アナーキテクチャー]」

こちらは1972年の作品。秩序が崩壊したようなちょっとシュールな光景となっています。
マッタ=クラークは仲間のアーティストたちと都市に関するミーティングを行い、「アナーキー(無秩序)」と「アーキテクチャー(建築を)」組み合わせた造語「アナーキテクチャー」をこのグループの名前にしました。そして空虚、隙間、余った空間や放置されたまま活用されない空間 または もし機能があるとしてもあまりに馬鹿馬鹿しいので機能という考え方自体が馬鹿にされてしまっているような空間を見出そうとしたようです。その流れで、用途のない小さな土地を使った作品や、落書きの写真を使った作品なども制作されています。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ブロンクス・フロアーズ:四方の壁」

こちらは1973年の作品。1972年後半から1973年にかけてマンハッタンやブロンクス、ブルックリンの空き家に友人と侵入して制作したもので、のこぎりで床や壁の一部を四角く切り取って1つの空間からもう1つの空間への視界を生み出しています。先程のミュージアムの発想と似た作品で、ちょっと穴が増えるだけでそれまでと異なる光景になるのが面白い。
この頃のブロンクスは巨大団地や高速道路の建設によってそれまでの住宅地が破壊されていて、都市の開発と破壊を感じたマッタ=クラークはその中にある住環境に働きかけたようです。壊される空き家とはいえ勝手に切り取ったりして良いんだろうか?って気はしますがw
ゴードン・マッタ=クラーク 「スプリッティング」

こちらは1974年の代表作。ついに建物全体を切断してしまいましたw 空き家で壊される予定だった家を電動のこぎりやジャッキなどを使ってこのように真っ二つに割ったようです。大掛かりでちょっとユーモアを感じますねw
この年以降に欧米各地で多くの展覧会に出品し、ビルディング・カットやパフォーマンスも行ったようです。この後にも建物自体を使った作品が出てきます。
ゴードン・マッタ=クラーク 「52番埠頭:日の終わり」

こちらは1975年の作品。ハドソン川の埠頭にある倉庫に入り込んで建物を切断したもので、床は水路のようになり 屋根は太陽の差し込む方向を計算して切り込まれたようです。マッタ=クラークはこの倉庫を「壮大なキリスト教のバシリカ(長方形の採光窓などがある建築様式)のようだ」と語っていたそうです。無機的な空間に装飾が施されたような印象を受けるかな。
この作品を発表した当日に警官が到着して建物を立ち入り禁止にして、ニューヨーク氏は損壊に対して賠償請求を検討したのだとか。 勝手に建物を切り取るとかバンクシーよりヤバい奴ですねw
ゴードン・マッタ=クラーク 「ウィンドウ・ブロウアウト」

こちらは1976年の作品。この年に「モデルとしてのアイデア」展に招待され、サウス・ブロンクスの窓が割られた建物を撮影したこうした写真を展示会場の出窓に置きました。この地区はアフリカ系やヒスパニックが住んでいたのですが、住宅供給計画によって結果的に締め出されたようで、この計画には同じく出品者のリチャード・マイヤー(マッタ=クラークが建築を学んだコーネル大学とゆかりの深い建築家)も関わっていました。マッタ=クラークはオープン直前の真夜中にモデルガンで展示スペースの窓を割って展示を完成させたようですが、レセプションの前までには取り替えられてしまったのだとか。ゲリラ的というか、アナーキーな活動っぷりに驚かされますw
マッタ=クラークは「モデルとしてのアイデア」という展覧会そのものを素材に、建築と都市計画の制度の閉鎖性、都市生活を抑圧する進歩主義的な建築に問うたと考えられています。まあ元々の住民からしたら独善的な計画に観えたでしょうね。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ヤコブの梯子」

こちらは1977年の作品。聖書でヤコブが天にかかる梯子を天使が上り下りしているのを見たという話を題材にしていて、まさに空に向かって伸びる梯子のようになっています。水平方向の繋がりを基本とした地面の上での生活から抜け出し、空と大地の間に新たな居住空間を想像したとのことで、これも錬金術の思想に関係ありそうに思えます。
この前の年に双子の兄がスタジオの窓から転落して亡くなっています。自死か事故かは不明ですが精神の不調で入院し、退院したばかりだったようです。
ゴードン・マッタ=クラーク 「オフィス・バロック」

こちらは1977年の作品の模型。ベルギーのアントワープの建物を使った作品で、当初は外から建物の内部を見通せるようにしようと考えたようです。しかしこのプランはアントワープ市によって静止され、結局は建物内部のみを使用することになりました。タイトルはこのときにバロックの巨匠ルーベンスの生誕400年を祝っていたのと、この建物を本社にしていた海運会社の破産(broke)の言葉遊びとなっています。あちこちの床に穴があったり、唐突に壁にスリットがあったりして人が住める気はしませんが、建物自体が彫刻のようで光の入り方など様々なアイディアが伺えます。
この建物はマッタ=クラークの没後に保存が試みられ、多くの芸術家が作品を寄贈して協力したものの1980年に予告なく取り壊されてしまったのだとか。
ゴードン・マッタ=クラーク 「サーカスまたはカリビアン・オレンジ」

こちらは1978年の作品。こちらはシカゴ現代美術館が隣接する集合住宅を別館に改修する際に依頼したプロジェクトで、ビルディングカットの手法で円形の穴が無数に開けられています。タイトルのカリビアン・オレンジは、カリブではオレンジを縦ではなく横にカットすることに関係があるようで、この作品は人々のために組み上げられたステージを設置しているのでサーカスであるとも語っていました。普通の建物もこうしてカットを入れると一気に現代アートっぽくなりますねw まるで異空間のようになっていて面白い
この年の8月に膵臓ガンで35歳の若さで亡くなりました。ようやく美術館によって公式に残される作品が生まれたばかりだったのに惜しい限りです。
ということで、建築との関わりを持った様々な作風となっています。日本では馴染みがなかったのですが2018年に東京国立近代美術館で大規模な回顧展が行われて注目を集めました。先駆的な存在として覚えておきたいアーティストです。
参考記事:ゴードン・マッタ=クラーク展 (東京国立近代美術館)
ゴードン・マッタ=クラークは1943年に双子の弟としてニューヨークで生まれました。父はシュルレアリスムの画家のロベルト・マッタ、母も画家のアン・クラークという芸術家一家でしたが、生後まもなく両親は別れて母と兄と共にニューヨークやチリ、ヨーロッパなど各地で幼少期を過ごしました。やがてニューヨーク州のコーネル大学やパリのソルボンヌ大学で学んでいるのでかなりのインテリだったと思われます。そして1969年にニューヨークに移り、インスタレーションやパフォーマンスの発表を始めました。
ゴードン・マッタ=クラーク 「木の素描」

こちらは1969年の作品。ニューヨークに帰ってきてから木の素描をよく描いたようで、こうした作品が多く残されています。ただ単に描写しただけでなく、変形した樹木を並べて描いた文字や暗号のような素描や、木を建築の原型とみなして枝を屋根や格子状に変形して描いたものもあるようです。葉の部分に回転するような動きが表され、内側に小さな形や記号が記入されたこうした素描は「エネルギーの樹」と呼ばれるのだとか。大学では建築や文学を学んでいただけに、素描にも様々な考えが投影されているようです。
マッタ=クラークは万物が土、水、火、空気の四大元素から構成されるという錬金術の考えに興味を持っていたそうで、世界を理解する際の比喩として捉えていたようです。マッタ=クラークの作品を読み解く上で手がかりになるかもしれませんね。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ミュージアム」

こちらは1970年の作品。マッタ=クラークは1969~71年にかけて自宅兼スタジオで継続的にゼラチン状の天草をベースにした液体に、様々な植物や瓦礫を混ぜたものを煮立たせたり発酵させていたそうで、これは個展で出されたそうした品と思われます。他にも様々な食品や金属などを材料にした品があったようで、鑑賞者はそれらが引き起こす変化を目の当たりにすることができたようです。何だかよく分からない得体の知れなさがすごいw
マッタ=クラークは初期はこうした作品や写真を揚げたりするなど、料理をテーマにした作品を発表していました。そして1971年には友人のダンサーのキャロル・グッデンらと共同でソーホー地区に「フード」というレストランを設立しています。この「フード」ではパフォーマンスを行ったりアーティストが不定期に働いて収入を得られるようにしたそうですが、どんなメニューだったんでしょうかねw 揚げた写真が出てこなきゃいいけどw
ゴードン・マッタ=クラーク 「無題(ベラル・アルテスの切断)」

こちらは1971年の作品。ゴードン・マッタ=クラークは1971年後半に友人のジェフリー・ルウと共にメキシコやペルーを経由してチリを訪れました。父のロベルト・マッタと会うのが目的だったようですが父はパリに戻って会えなかったようです。しかし2人は父が懇意にしていたチリ国立美術館の館長と面会して美術館で展示を行うことになり、ゴードン・マッタ=クラークが階段の屋根に小さな穴を開けて天窓を作りました。そこに実在の壁、穴、鏡、写真を多重に組み合わせ、視覚を幻惑させる空間となったようです。この建物を切り取るという発想はこの後も出てくるので特徴的な手法だと思います。
チリ国立美術館はゴードン・マッタ=クラークが切断の介入を行った現存する唯一の建物とされています。実際にどんな光景なのか観てみたいものです。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ツリーダンス」

こちらは1971年の作品。大学のギャラリーの展覧会に招待された際に作ったハンモックのような作品で、そこに数日間滞在しようとしたものの許可が得られず1日限りのパフォーマンスとなりました。実際にこの映像を観ると楽しげですが、割と悪戦苦闘しているような感じです。
マッタ=クラークはのちに近代建築を「問題の解決に失敗しただけでなく、家というレベルでも、制度というレベルでも、非人間化された状態を作りだした」と批判したようで、この作品のように 天と地の間で生じる水や土や火の関係によって空間を捉え直すという中で樹木に注目していたのだとか。錬金術の考えと建築を結びつけようとしていたんでしょうね。
ゴードン・マッタ=クラーク 「壁=紙」

こちらは1972年の作品の再現。低所得者層が住む公共団地などの取り壊し中の様子を撮った写真を新聞用紙に印刷したもので、印刷によって写真の細かい部分が省略可されて抽象化され、さらに色彩も施されています。1972年の個展でこの「壁=紙」を連ねて天井から床まで壁一面を覆ったそうで、反復するような感じかな。前衛絵画のような趣きで、ちょっとポップアートのような試みにも思えます。
この作品を展示した際、床に「壁=紙」が山積みにされて来場者が自由に持ち帰ることができたそうです。ちなみに2018年にこの写真を撮った展覧会でもそれを再現していました。 1973年にはこの「壁=紙」を書籍の形状でも発表しています。
ゴードン・マッタ=クラーク 「無題 [アナーキテクチャー]」

こちらは1972年の作品。秩序が崩壊したようなちょっとシュールな光景となっています。
マッタ=クラークは仲間のアーティストたちと都市に関するミーティングを行い、「アナーキー(無秩序)」と「アーキテクチャー(建築を)」組み合わせた造語「アナーキテクチャー」をこのグループの名前にしました。そして空虚、隙間、余った空間や放置されたまま活用されない空間 または もし機能があるとしてもあまりに馬鹿馬鹿しいので機能という考え方自体が馬鹿にされてしまっているような空間を見出そうとしたようです。その流れで、用途のない小さな土地を使った作品や、落書きの写真を使った作品なども制作されています。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ブロンクス・フロアーズ:四方の壁」

こちらは1973年の作品。1972年後半から1973年にかけてマンハッタンやブロンクス、ブルックリンの空き家に友人と侵入して制作したもので、のこぎりで床や壁の一部を四角く切り取って1つの空間からもう1つの空間への視界を生み出しています。先程のミュージアムの発想と似た作品で、ちょっと穴が増えるだけでそれまでと異なる光景になるのが面白い。
この頃のブロンクスは巨大団地や高速道路の建設によってそれまでの住宅地が破壊されていて、都市の開発と破壊を感じたマッタ=クラークはその中にある住環境に働きかけたようです。壊される空き家とはいえ勝手に切り取ったりして良いんだろうか?って気はしますがw
ゴードン・マッタ=クラーク 「スプリッティング」

こちらは1974年の代表作。ついに建物全体を切断してしまいましたw 空き家で壊される予定だった家を電動のこぎりやジャッキなどを使ってこのように真っ二つに割ったようです。大掛かりでちょっとユーモアを感じますねw
この年以降に欧米各地で多くの展覧会に出品し、ビルディング・カットやパフォーマンスも行ったようです。この後にも建物自体を使った作品が出てきます。
ゴードン・マッタ=クラーク 「52番埠頭:日の終わり」

こちらは1975年の作品。ハドソン川の埠頭にある倉庫に入り込んで建物を切断したもので、床は水路のようになり 屋根は太陽の差し込む方向を計算して切り込まれたようです。マッタ=クラークはこの倉庫を「壮大なキリスト教のバシリカ(長方形の採光窓などがある建築様式)のようだ」と語っていたそうです。無機的な空間に装飾が施されたような印象を受けるかな。
この作品を発表した当日に警官が到着して建物を立ち入り禁止にして、ニューヨーク氏は損壊に対して賠償請求を検討したのだとか。 勝手に建物を切り取るとかバンクシーよりヤバい奴ですねw
ゴードン・マッタ=クラーク 「ウィンドウ・ブロウアウト」

こちらは1976年の作品。この年に「モデルとしてのアイデア」展に招待され、サウス・ブロンクスの窓が割られた建物を撮影したこうした写真を展示会場の出窓に置きました。この地区はアフリカ系やヒスパニックが住んでいたのですが、住宅供給計画によって結果的に締め出されたようで、この計画には同じく出品者のリチャード・マイヤー(マッタ=クラークが建築を学んだコーネル大学とゆかりの深い建築家)も関わっていました。マッタ=クラークはオープン直前の真夜中にモデルガンで展示スペースの窓を割って展示を完成させたようですが、レセプションの前までには取り替えられてしまったのだとか。ゲリラ的というか、アナーキーな活動っぷりに驚かされますw
マッタ=クラークは「モデルとしてのアイデア」という展覧会そのものを素材に、建築と都市計画の制度の閉鎖性、都市生活を抑圧する進歩主義的な建築に問うたと考えられています。まあ元々の住民からしたら独善的な計画に観えたでしょうね。
ゴードン・マッタ=クラーク 「ヤコブの梯子」

こちらは1977年の作品。聖書でヤコブが天にかかる梯子を天使が上り下りしているのを見たという話を題材にしていて、まさに空に向かって伸びる梯子のようになっています。水平方向の繋がりを基本とした地面の上での生活から抜け出し、空と大地の間に新たな居住空間を想像したとのことで、これも錬金術の思想に関係ありそうに思えます。
この前の年に双子の兄がスタジオの窓から転落して亡くなっています。自死か事故かは不明ですが精神の不調で入院し、退院したばかりだったようです。
ゴードン・マッタ=クラーク 「オフィス・バロック」

こちらは1977年の作品の模型。ベルギーのアントワープの建物を使った作品で、当初は外から建物の内部を見通せるようにしようと考えたようです。しかしこのプランはアントワープ市によって静止され、結局は建物内部のみを使用することになりました。タイトルはこのときにバロックの巨匠ルーベンスの生誕400年を祝っていたのと、この建物を本社にしていた海運会社の破産(broke)の言葉遊びとなっています。あちこちの床に穴があったり、唐突に壁にスリットがあったりして人が住める気はしませんが、建物自体が彫刻のようで光の入り方など様々なアイディアが伺えます。
この建物はマッタ=クラークの没後に保存が試みられ、多くの芸術家が作品を寄贈して協力したものの1980年に予告なく取り壊されてしまったのだとか。
ゴードン・マッタ=クラーク 「サーカスまたはカリビアン・オレンジ」

こちらは1978年の作品。こちらはシカゴ現代美術館が隣接する集合住宅を別館に改修する際に依頼したプロジェクトで、ビルディングカットの手法で円形の穴が無数に開けられています。タイトルのカリビアン・オレンジは、カリブではオレンジを縦ではなく横にカットすることに関係があるようで、この作品は人々のために組み上げられたステージを設置しているのでサーカスであるとも語っていました。普通の建物もこうしてカットを入れると一気に現代アートっぽくなりますねw まるで異空間のようになっていて面白い
この年の8月に膵臓ガンで35歳の若さで亡くなりました。ようやく美術館によって公式に残される作品が生まれたばかりだったのに惜しい限りです。
ということで、建築との関わりを持った様々な作風となっています。日本では馴染みがなかったのですが2018年に東京国立近代美術館で大規模な回顧展が行われて注目を集めました。先駆的な存在として覚えておきたいアーティストです。
参考記事:ゴードン・マッタ=クラーク展 (東京国立近代美術館)
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