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《ジャン=ミシェル・バスキア》 作者別紹介

今日は1980年代に彗星のように現れた新表現主義の画家ジャン=ミシェル・バスキアを取り上げます。バスキアは1970年代なかばから友人と「SAMO」というユニットを組み、ダウンタウンの建物や塀に塗装スプレーを使ったグラフィティ・アートを描いていましたが、その名が一躍有名になったのは1980~81年頃で、MoMAの「ニューヨーク・ニューウェーブ展」が大きなきっかけとなっています。それ以前に詩、映画、音楽と様々な活動を行っていたこともあり、画中に文字を散らす手法がよく用いられ、絵は一見すると落書きのような即興性や勢いを感じさせるものとなっています。しかしバスキアは美術史やアートの知識に長けていて絵の中には社会批判や皮肉が込められ、鑑賞者は正確に読み解くのが難しいけど何となく言いたいことは分かる…という画風となっています。27歳で亡くなったので活動期間が短いものの、1980年代アメリカの最も重要なアーティストの1人とされています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


ジャン=ミシェル・バスキアは1960年にニューヨークのブルックリンに生まれました。父はハイチ系移民、母はプエルトリコ系移民という家庭でバスキアは子供の頃から絵が好きで、漫画家になりたかったそうです。そんなバスキアを母親は美術館に連れて行ったりして後押ししてくれたようで、7歳頃から芸術専門の私立学校に入学しています。また、7歳の時に交通事故で大怪我をし、その療養中に母親からヘンリー・グレイの『グレイの解剖学』という本を渡されると非常に関心を持ち、これが後のバスキアの大きなルーツとなっていきます。子供時代のバスキアは優秀だったようで、フランス語やスペイン語の本も読み、流暢に話せるほどだったようです。また、運動も得意なアスリートの側面もありました。しかし13歳の頃に母が精神病院に入院してしまうと、15歳の頃にバスキアは家出をし、それ以降 父親とも不仲で高校を中退したりホームレス同然の時期があったようです。やがて友人の家に居候しながら自作のTシャツやポストカードを売って生計を得るようになり、1976年からは友人のアル・ディアスとともに「SAMO」というユニットを組み、ダウンタウンの建物や塀に塗装スプレーを使ったグラフィティ・アートを数多く描くようになりました。ある時ユニーク・クロシングの社長がその様子を見つけ、その才能を見抜いて仕事を依頼するようになり、これによって新聞にも載ったりしたようですが、1978年にアル・ディアスとの関係が悪化しSAMOの活動は終了します。その後、1979年にバンド「Gray」を結成しクラリネット奏者としてナイトクラブで演奏したり、1980年には映画『ダウンタウン81』に出演するなどマルチな才能を見せます。そして1980年にはグループ展の「タイム・スクエア・ショー」で初の正式な作品発表をすると、多くの批評家の注目を集め転機を迎えました。

ジャン=ミシェル・バスキア 「無題」
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こちらは1982年の作品。前澤氏が購入したことで話題になった絵で、スプレーなどを使って人の顔を描いています。具象のような抽象のようなストリートの落書きのようでもあり、強烈な色彩と髑髏を思わせる顔で一度観たら忘れられないインパクトです。

バスキアはこうした髑髏をよくモチーフにしていますが、これは前述の『グレイの解剖学』からの影響のようです。バンドの名前も「Gray」(途中でこの名前に変えた)だし、その影響の大きさが伺えます。

ジャン=ミシェル・バスキア 「ナポレオン」
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こちらは1982年の作品。VERSUS PORK(対 豚肉?)、SHOE POLISH(靴磨き)の打ち消し、そして100万円…。どこがナポレオンなのかも含めて謎だらけですw しかしバスキアはこうした言葉を組み合わせて社会的な問題などを提起していたと考えられます。 意味を離れて色と文字のバランスだけ観るとリズムがあるようにも思えるかな。

1981年以前は詩を中心に活動していたようで、バスキアの絵の中にはよく詩のような言葉が描かれています。イメージや文字を散りばめるのは、サイ・トゥオンブリーやフランツ・クラインからの影響も指摘されています。

ジャン=ミシェル・バスキア 「フーイー」
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こちらは1982年の作品。タイトルを日本語訳するなら愚か者という意味ですが、左下の方にいる人がちょっとそれっぽいかなw 王冠のようなものがいくつかあって、王冠はバスキアのトレードマークとも言えるものです。まるでストリートの落書きみたいではありますねw

この前年の1981年にMoMAの「ニューヨーク・ニューウェーブ展」に参加し、美術雑誌で紹介されると一気にスターダムへとのし上がり、「新表現主義」のアーティストの1人として展示されるようになりました。ギャラリーとも契約しているので、1980~81年はバスキアにとって激動の時期となります。そして1982年には日本も訪れています。この頃の日本経済はバブルに向かって絶好調で、家電などのメイドインジャパンが旋風を巻き起こしていた時期で、日本をテーマにした作品も残されています。

ジャン=ミシェル・バスキア 「メイドインジャパン1」「メイドインジャパン2」
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こちらは1982年の作品。当時のメイドインジャパン旋風を題材にしたと思われ、電話らしきものを持って日本製品でしょうか。こちらも意図を探るのは難解な作品ですが、カリカチュア的な肖像で何か皮肉っぽいものを感じます。

この頃、バスキアはまだ無名だった歌手のマドンナと付き合っていて、ギャラリーにも連れてきたようです。また、正確な時期は分かりませんがバスキアが売れる前の18歳の時(1978年頃)、レストランでポップアートの巨匠のアンディ・ウォーホルと出会っていて、自作のポストカードを売ることに成功しました。バスキアが世に出てからはウォーホルと何度か共作を作っていて、2人展も開催しています。2人展のポスターは2枚あり、両方とも一見するとボクシングの試合のポスターみたいな感じで、1枚はウォーホルがバスキアの顔にパンチを入れていますw もう1枚は2人でファイティングポーズを取っているなどユーモアと仲の良さを感じさせるものでした。そのようにバスキアとウォーホルはお互いに才能を認め合い、その存在は大きくなっていきました。その敬愛の深さが逆に悲しい結果に繋がる訳ですが…。

ジャン=ミシェル・バスキア 「消防士」
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こちらは1983年の作品。右側は確かに消防士っぽい人物像かな。左側は何故か腹にパンチを入れてて「BOF」っと効果音までついているのがちょっと可笑しいw 塗り残しのような所があったりして、非常に大胆な構成に思えます。

時期は分かりませんが、バスキアは徐々にヘロインなどの薬物に溺れるようになり、妄想癖が出てくるようになりました。制作のプレッシャーや成功したことへの強迫観念から逃れようとした為に依存したようで、これがバスキアの孤独を深めていくことになります。

ジャン=ミシェル・バスキア 「オニオンガム」
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こちらは1983年の作品。「ONION GUM MAKES YOUR MOUHT TASTE LIKE ONIONS」(玉ねぎガムはあなたの口を玉ねぎ味にする)という言葉が3回繰り返し書かれ、舌を出して辛いものを食べたような顔をしています。右上にはメイドインジャパンの文字もあって、オニオンガムは日本製なのかな?w この頃アメリカにはメイドインジャパンの家電などが溢れていたので、行き渡り過ぎたことを皮肉っているのかも知れません。頭の上で操っているような人もいて日本製品の操り人形になっているイメージのようにも思えます。

日本に来た際には南青山のレストランCAYの壁に絵を残したり、各地で記念写真(大きな瓦屋根の写真など)なども撮っています。バスキアにとって日本は批判の対象でもありつつ親日家の側面もあったようです。また、当時の日本は金満だったこともあり、日本は世界的に見てバスキアの作品の所蔵数が多いのだとか

ジャン=ミシェル・バスキア 「プラスティックのサックス」
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こちらは1984年の作品。断片的に貼り付けたような画面で、いくつか人の顔があります。中央あたりの人が何か吹いているようにも見えるからそれがサックスなのかな? あちこちに日本語で「おりがみ」とあり、トーヨーの折り紙をトレースしたものと思われます。これも意図は分かりませんが、日本との関わりを感じさせますね。

前述の通りバスキア自身もミュージシャンとして活動していて、映像で観たことがあります。ラップ調の音楽で、「GRAY」の頃はノイズバンドと呼ばれていたようです。

ジャン=ミシェル・バスキア 「炭素/酸素」
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こちらは1984年の索引。都市や宇宙開発を想起させるモチーフが並んでいて、五重の塔らしきものもありますね。爆発音を示すKABOOMなど不穏な所もあるので、何らかの社会批判も含んでいるのかも。左のロケットの脇あたりに「炭素+酸素→一酸化炭素」といった化学式のようなものが描かれているのがタイトルの由来のようです。

生前、バスキアは黒人アーティストと呼ばれるのを非常に嫌っていたようです。一方で、当時は黒人の音楽とされたものや アフリカの歴史としてのエジプトを題材にするなど 黒人としてのアイデンティティを捨てる訳ではなく、その文脈のみで評価されるのを嫌っていたのではないかと思われます。

ジャン=ミシェル・バスキア 「自画像」
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こちらは1985年の作品。板のようなものに描かれていて、意地悪そうにニヤっと笑うシルエットが自画像となっていて、バスキアは実際にこういうドレッドヘアをしています。右側には恐らく拾ってきた王冠が無数に貼り付けられていて、アンディ・ウォーホルと仲が良かったのでポップアート的な表現にも思えます。

バスキアは子供の頃、アメリカのテレビ番組『リトル・ラスカルズ』に出てくるバックウィートという黒人の男の子の王冠のような髪型が大のお気に入りだったそうで、バスキア自身も似た髪型となっています。王冠のルーツはその髪型かもしれませんね。

ジャン=ミシェル・バスキア 「無題(ドローイング)」
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こちらは1986年の作品。かなり大きくて壁画のような感じです。これもかなり読み解くのは難しいけど、とにかくHEY!が目につくw その周りにも小さくHEY!HEY!HEY!HEY!と書いてあったり、たまにおかしくなってYEHになってるのがちょっと可笑しい。これは情報量が多いので色んな意図がありそうですね。

1986年以降、新しいスタイルに挑戦し ソ連のグラスノスチ(ゴルバチョフによる情報公開)を皮肉った作品ではかなりシンプルな色面と人物像を描いています。しかしその翌年の1987年にウォーホルが亡くなると、バスキアは孤独を深めてヘロインへの依存も進み、過剰摂取(オーバードース)で1988年に27歳の若さで亡くなりました。


ということで波乱万丈の人生となっています。名が売れてから亡くなるまで10年も無い短期間ですが、80年代アメリカの最も重要なアーティストの1人とされています。2019年に森アーツセンターギャラリーで大規模な展示があった他、たまに各地の美術館の所蔵品や展覧会で観ることがあります。人気もあるのでいずれまた大型展示が開かれるのでは?と密かに期待しています。
 参考記事:
  バスキア展 メイド・イン・ジャパン 感想前編(森アーツセンターギャラリー)
  バスキア展 メイド・イン・ジャパン 感想後編(森アーツセンターギャラリー)
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