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《アルバート・ワトソン》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、1970年代以降に雑誌など活躍し1990年代からはアーティストとしても評価の高まった写真家のアルバート・ワトソン氏を取り上げます。アルバート・ワトソン氏はグラフィックデザインや映像を学んでいたものの、小学校の教師の職につき当初は趣味として写真を撮り始めました。しかし数年で音楽のジャケット写真でグラミー賞を取るほどの存在となり、それ以降多くのファッション誌で表紙を飾っていきました。時代を象徴するような著名人を多く撮りつつ、芸術性の高いシリーズでアーティストとしても認知されていき、「最も影響を与えた写真家20人」の1人に選ばれ、母国イギリスでは大英帝国勲章をエリザベス女王から授与されています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


アルバート・ワトソン氏は1942年にイギリスのスコットランド エジンバラに生まれました。生まれつき片目(恐らく右目)が見えなかったようですが、ダンカン・オブ・ジョーダンストーン・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインでグラフィックデザインを、ロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートで映画とテレビを学びました。1970年に妻のエリザベスとともにアメリカに渡り、ロサンゼルスで小学校の教師として働きながら趣味として写真を撮り始めます。そしてその年の終わりに、アルバートはマックスファクターのアートディレクターと出会い、彼に最初のテストセッションを提供し、会社は2枚の写真を購入しました。アルバート・ワトソン氏の作風は、『マドモアゼル』、『GQ』、『ハーパース・バザー』などのアメリカやヨーロッパのファッション誌の目に留まり、ファッション誌を中心に著名人を撮っていくことになります。

アルバート・ワトソン 「アルフレッド・ヒッチコック-コンタクト」
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こちらは1973年の『ハーパース・バザー』の表紙の為の写真で、有名な映画監督のヒッチコックを撮ったものです。ヒッチコックが鳥を持ってるというのも面白いですが、実はヒッチコックは料理人でもありこのガチョウのレシピも掲載されていたのだとか。ジョークかと思ったら雑誌の内容にもリンクしているとは驚きw

この2年後の1975年には、メイソン・プロフィットのアルバム「Come and Gone」のジャケット写真でグラミー賞を受賞しています。アート関連の専門の教育を受けていたとは言え、趣味で始めてから5年でグラミー賞とは凄過ぎますね。1976年には『Vogue』誌から初めての仕事を得て、同年にニューヨークに移住したことで、キャリアは飛躍的に伸びていきました。

アルバート・ワトソン 「マイク・タイソン」
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こちらは1986年のマイク・タイソンを撮った写真。首が太すぎてくびれた部分が無い! パンチを喰らっても頑丈そうですね…。後ろ姿だけで強さが伺えます。

長年に渡って、アルバート・ワトソン氏の写真は世界中の『Vogue』の100以上の表紙を飾り、『Rolling Stone』、『Time』、『Harper's Bazaar』など、数え切れないほどの出版物に掲載されてきました。その中には、ファッションを象徴する写真や、ロックスター、ラッパー、俳優などのセレブリティを撮影した写真も多く含まれています。

アルバート・ワトソン 「B.B.キング」
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こちらは1989年に撮ったブルースのギタリストのB.B.キング。演奏中にこのしかめっ面みたいな表情になるのが特徴で、この写真でもそれがよく捉えられているように思います。魂を籠めて演奏している雰囲気が伝わってきますね。

アルバート・ワトソン氏はこうしたミュージシャンもかなり多く撮っていて、大御所や最も勢いがあった頃の様子が伺えて、洋楽好きとしてはちょっと懐かしい気分になります。

アルバート・ワトソン 「坂本龍一」
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こちらは1989年当時の坂本龍一氏のポートレート。アルバム「Beauty」で使うために依頼されたもので、どこか象徴主義を思わせるような精神性が感じられる作品に思えます。

アルバート・ワトソン氏によると、坂本龍一 氏は不思議な魅力を持った人で、天才的な人物だけどカメラの前では自然体だったようです。最小限のディレクションをしただけで、頭を後ろに戻らせたり、目を閉じたり、その他のポーズも本人によるものなのだとか。その為か、心地よく一緒に仕事ができる人だったと振り返っています。

アルバート・ワトソン 「ヨウジヤマモトを着るレスリー・ウィナー」
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こちらは1989年の作品で、イタリア版『VOGUE』の為にレスリー・ウィナーに山本耀司 氏の服を着用させたものです。ちょっと異様で妖怪みたいな…w シュールな感じで一際異彩を放っています。 この時、アルバート・ワトソン氏は雑誌用に少し変わった珍しいテーマに挑むべく、画としてインアクトのある面白い写真を撮るように努めていたそうで、たしかにその成果が伺えますw

この写真は母校のロイヤル・カレッジ・オブ・アートで撮影したそうで、彫刻家のヘンリー・ムーアなど偉大なアーティストが制作活動していた場所で撮影するという発想も気に入っていたようです。この顔を覆うベルベットは学生が忘れていったものを偶然に気が付き、ヨウジヤマモトを引き立ててくれると考えてモデルの後ろに配置してみたようです。しかししっくり来なかったので顔を覆ったところ神秘でシュールなイメージだと感じてこの作品が生まれたようです。

アルバート・ワトソン 「黄金のサンダル」
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こちらは1990年の作品、ツタンカーメン王の墓から出土した黄金のサンダルを撮ったもので、白を背景に真正面から撮っています。これは博物学的な印象を受けますが、金のグラデーションなどがその美しさや妖しさを引き立てているように思えます。

アルバート・ワトソン氏は人物の割合が高いのは確かですが、こうした静物や風景を撮った写真も多く存在します。題材は変われど、本質を引き出すような部分は共通しているんじゃないかな。

アルバート・ワトソン 「ミック・ジャガー」
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こちらは1992年の頃のミック・ジャガー。デジタル処理ではなく多重露光でヒョウとミック・ジャガーの顔を混ぜているようです。ダジャレみたいなテーマですが、これほど完成度の高い合成をカメラのみで出来たというのは本当に凄い。絵としても完璧な出来栄えですね。

アルバート・ワトソン氏は、プラダ、ギャップ、リーバイス、レブロン、シャネルなど、大手企業の何百もの広告キャンペーンの写真を制作してきました。また、「キル・ビル」や「SAYURI(Memoirs of a Geisha)」など、何十ものハリウッド映画のポスターを撮影し、100本以上のテレビコマーシャルを監督しています。写真だけでなく元々学んでいた分野でも活躍されているんですね。

アルバート・ワトソン 「仮面をかぶったサル-グラフィック」
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こちらは1992年の作品。何かサイバーパンク的な要素と原初的な要素があって言い知れぬ怖さがあります。サルに仮面をつけるという発想自体に驚きました。

アルバート・ワトソン氏は常に仕事中毒らしく、マンハッタンにあるスタジオのアーカイブには、何百万枚もの画像やネガが保管されており、そこから世界的に有名な雑誌や企業の情報が読み取れるようになっているそうです。個人的なギャラリーとしても使われていて、主にラスベガスで撮影された非常に大きなフォーマットの写真がたくさんあるのだとか。

アルバート・ワトソン 「銃を握るサル」
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こちらも1992年の作品。ちょっと危うさを感じさせ、一種の皮肉や批判が込められているのかも?? 

アルバート・ワトソン氏は数多くの賞を受けていて、ルーシー賞、グラミー賞、3つのアンディ賞、デル・スタイガー賞、ハッセルブラッド・マスターズ賞、センテナリー・メダル(英国王立写真協会の生涯功労賞)などが挙げられます。2015年6月には母国イギリスで写真芸術への生涯にわたる貢献を称え、大英帝国勲章をエリザベス女王から授与されています。英国王室の公式写真を手がけたこともあるのだとか。

アルバート・ワトソン 「ナイン・インチ・ネイルズ」
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こちらは1994年のウッドストックでのNIN。雨の中、泥だらけのファンの群れに飛び込んで彼らも泥まみれになっています。このバンド、当時は本当にカッコ良かったです…。泥まみれなのが一層にワイルドな雰囲気になってますねw

これはウッドストックの25周年記念の野外コンサートの写真集のために撮ったもので、その時にアルバート・ワトソン氏はメインステージの真横に持ち運べるスタジオを作って撮影していたようです。NINの他にメタリカ、グリーン・デイ、サンタナなど錚々たる面々を撮ったのだとか。

アルバート・ワトソン 「カール・ルイス-虎」
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こちらは1995年頃のカール・ルイスの写真。未だに語り継がれる陸上競技のレジェンドですが、咆哮するような表情に迫力があります。現役時代ではないと思うけど圧巻です。

この前年に出した写真集『サイクロップス』でアーティストとしての評価も高まり、2000年代頃には世界各地でグループ展や個展が頻繁に開催されるようになっていました。ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリー、ニューヨークのメトロポリタン美術館、モスクワのプーシキン美術館、ニューヨークの国際写真センター、ブルックリン美術館、デイヒトルハーレンなど、多くの著名な美術館で開催されています。

アルバート・ワトソン 「羽根を纏う女」
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こちらは1997年の「失われた日々」というシリーズの1枚。3万年前の地球を訪れるというファンタジーを題材にしていて、どこかの部族のような原初的な格好をしているけど、モードのようでもある雰囲気かな。カラフルで現代アート的な要素があり確かにファッション誌のような写真に思えます。

アルバート・ワトソン氏は個展が開かれるだけでなく、世界各地の美術館のコレクションにも入っています。ナショナル・ポートレート・ギャラリー、メトロポリタン美術館、スミソニアン、スコットランド議会、デイヒトルハーレン、マルチメディア美術館、ドイツ・エッセンのフォルクヴァング美術館などに永久保存されているようです。

アルバート・ワトソン 「椰子の木」
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これは2000年の「インク」シリーズの1枚。椰子の木の一部を拡大した写真で、それぞれ赤・黄・青といった色調となっていて本物以上に質感が豊かに表されているように思えます。白黒だけでなくカラーも独自の色彩感覚が面白い方です。

アルバート・ワトソン氏はフォト・ディストリクト・ニュースが選ぶ「最も影響を与えた写真家20人」の1人に選ばれました。日本では2019年に京都文化博物館で「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」での日本初回顧展「Wild」を開催し、日本での知名度も高まりました。

アルバート・ワトソン 「ケランダ」
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こちらは2013年のスコットランドの風景写真。こんな光景があるのかと驚くような絶景で、切り立った崖と厚い雲が神々しい。撮影に際してロード・オブ・ザ・リングを読んだそうで、確かにそのイメージに近い光景に思えます。


ということで、著名人の魅力を引き出したり、シュールな写真を撮ったりと卓越したセンスを持ったアーティストとなっています。写真以外の仕事も多いので、気づかないうちに彼の作品を目にしているかも?? 現役50年に近づいてなおも旺盛な活動をされている方なので、今後も一層に名前を観る機会も増えそうです。
 参考記事:アルバート・ワトソン写真展「Wild」 (FUJIFILM SQUARE フジフイルム スクエア)
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