《福田美蘭》 作者別紹介
今日は作者別紹介で、1990年頃から現在にかけて活躍されている福田美蘭 氏を取り上げます。福田美蘭 氏は世界的なグラフィック・デザイナーの福田繁雄 氏を父に持ち、父同様に機知に富む作品を多く手掛けています。過去の巨匠を模した作品に社会批判やパロディを組み込むことが多く、現代アートに疎い人にも面白いと思わせる作風です。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。
福田美蘭 氏は1963年に東京都世田谷区に生まれました。母方の祖父に童話画家の林義雄 氏、父に世界的なグラフィック・デザイナーの福田繁雄を持つという画家一家です。1981年に東京藝術大学に入学し、卒業制作展 及び 修了制作展を経て、現代日本美術展や日本国際美術展に出品するなど、上野や東京都美術館などを舞台にキャリアを積みました。1989年には史上最年少の安井賞(新人洋画家の登竜門)を受賞し、それ以降も現在に至るまで多彩で個性的な表現で活躍し続けています。福田美蘭 氏の主な作品は1990年以降となっていますが、写真を撮れる機会がほとんどありませんでしたので今回は2013年の東京都美術館で開催された福田美蘭展の出品作を中心にご紹介していこうと思います(2010年頃の作品のみとなります)
福田美蘭 「受胎告知」

こちらは2010年の作品。一見すると古い宗教画のように見えます。元になるオリジナルがあるのか分かりませんが、腕を上げるガブリエルや驚いて身をそらすマリアなど動きのある劇的な雰囲気です。モチーフや色の選び方もこの主題の典型となっていて、深く理解されていることが伺えます。作者本人によると「言葉に置き換えずに視覚だけで理解できる絵画とは、感覚的で抽象的なものだ。想像力と知性で表現されたために本人しか意図がわからない絵画は肯定できないので、基地の具体的な場面を主題にする必要があった。動きの軌跡を描くことで、激しい心の動きを感覚的、抽象的に表現できると考えた」とのことです。複数人いる訳ではなく、動きの軌跡なんですね。
福田美蘭 氏にはいくつかの作例があり、これは西洋絵画をモチーフにしたものとなります。まるでその時代に描かれたかのようなクオリティが流石ですね。
福田美蘭 「聖ゲオルギウス」

こちらも2010年の作品。竜退治で有名な聖人で、ここでは白馬の上から槍で竜を突き殺している様子が描かれています。こちらも聖ゲオルギウスと白馬は残像のようにいくつかの姿がダブっていて動きを感じさせます。画風は古い西洋絵画のようでありつつキュビスム的というか漫画的というか面白い表現です。
福田美蘭 氏は過去の巨匠の作風に似せて描くのもお手の物で、レオナルド・ダ・ヴィンチやレンブラント、モネ、セザンヌなど西洋の巨匠だけでなく日本画や宋元画などまで幅広く描くことができます。そこにパロディ要素があったり社会批判が込められたりと、ユーモアを感じさせる作風となっています。
福田美蘭 「アダムとイヴ」

こちらも2011年の作品。これも同じシリーズと思われ、アダムとイヴそれぞれの動きが軌跡となっています。若干、順序が分かりづらいけど知恵の実を差し出すところまであって、一連の物語を感じさせます。
福田美蘭 氏の作品の中には1つの絵の中に複数の画風があるものや、ダブルイメージを使ったもの、時代が異なるものの組み合わせ等、自由闊達な表現が観られます。本当にアイディア豊富な方です。
福田美蘭 「磔刑図」

こちらも2011年の作品。中央のキリストの磔刑の様子は古い西洋絵画を思わせる画風ですが、その周りの表現は現代的で血が滴り、嘆き悲しむマリアたちはコラージュされたような感じだったり歪んでいてこの場面の苦痛を象徴したような感じに思えます。作者本人によると「磔刑はキリストの生涯中最も劇的な場面で、動きのある構図や有機的な形によって感情や精神的なものを表現するにふさわしいモチーフだと思い、画面下にはいろいろな象徴的要素と多くの群衆で構成されていることを前提にそのイメージを具体的な対象物としないで描こうとした」とのことです。一見すると古い絵画のようだけど斬新なものを感じますね。
先述の通り福田美蘭 氏は上野の東京藝術大学で学び、その近くの東京都美術館などで作品発表していたこともあり上野の美術館にゆかりのある作品をモチーフにすることもよくあります。西洋絵画だけでなく東京国立博物館の収蔵品などもよくテーマになります。
福田美蘭 「紅白芙蓉図」

こちらは2012年の作品。東京国立博物館のコレクションの中に南宋画の李迪(りてき)による同名の作品があり、それに着想を得ていると思われます。画風は南宋画のようですが、背景には上野公園の噴水が描かれ、遠くには東京国立博物館の本館の様子も見えるなど現代の要素も含まれています。作者本人によると「大学に通う6年間、上野公園を横切ると、噴水の向こうに東京国立博物館が見え、季節ごとの風景の中で周囲の木々は少しづつ成長していった。時間の移ろいとともに刻々変化する趣を《紅白芙蓉図》で酔芙蓉が一日のうちに白から紅へと変化するさまに重ね合わせた。そこに蕾から深紅の花まで二幅の前後の"時"を加え、繰り返す時間の中でこの公園に来る新しい人達が《紅白芙蓉図》に出会うだろうという想いで、改装した噴水広場に種を落とした」と語っています。1つの絵の中に色々な思いを込めていてロマンチックな印象を受けます。
上野の思い出と同様に、芸大にまつわる人物もテーマにすることがあり黒田清輝や狩野芳崖の名作をモチーフにした作品も制作しています。
福田美蘭 「秋-悲母観音」

こちたは2012年の作品で、狩野芳崖の「悲母観音」に着想を得た作品。子供を抱きかかえる観音はオリジナル同様に慈愛に満ちていますが、注目は左下の背景で数多くの瓦礫が流されている様子が描かれています。これは制作の前年に起きた東日本大震災による津波被害と関連があるようで、作者本人によると「2012年、久しぶりに《悲母観音》を見た。人々の救済へ送り出される前に振り返る嬰児の姿は、震災の痛ましい状況から救済されたいという想いが連想され、母性への畏敬や子供への慈しみからは強い母子像が浮かぶ。狩野芳崖の独創性は仏画としての観音と童子を母と子に発想した点で、それをさらにストレートに表現するため、胸に抱き寄せる姿にした。背景は被災地の家、船、瓦礫が沖に流れていく光景」と語っています。痛ましい災害と慈愛の観音を結びつけて、祈りのようなものを感じますね。
今回はあまり写真がないのでご紹介できませんが、割と時事問題をテーマにした作品もあります。2001年の911をテーマにしたものや、東京のごみ問題をテーマにしたものなど、その範囲も広くなっています。
福田美蘭 「眠れる森の美女・オーロラ姫」

こちらは2012年の作品。ウィリアム・モリスのテキスタイルを使ったソファとクッションで、よく見るとクッションに顔が付いていますw これは豊田市美術館の展覧会「カルペ・ディエム花として今日を生きる」の出品作で、カルペ・ディエムとは枯れゆく先の姿を意識させる摘み花を人の命の短さや儚さの象徴とした格言です。福田美蘭 氏はモリスの緻密な意匠と風格にイギリス美術全般に通じる抑制の美を感じ、眠れる森の美女で呪いをかけられ幽閉される話はカルペ・ディエムに通じると想い、花のパターンにアニメのキャラクターが潜むソファーや自らの姿を写す鏡を制作したそうです。ちょっと目と口がついただけで急に可愛らしくなりますねw
福田美蘭 氏は画風やモチーフだけでなく、もっと根本的な部分で思いも寄らない手法を使うことがあります。折りたたむ感じで開閉する絵や、キャンバスの裏面に描かれたような作品、ステッカーの絵など 絵というものの固定観念を打ち破るような発想が魅力です。
福田美蘭 「アカンサス」

こちらは2013年の作品。ウィリアム・モリスのテキスタイルに東京藝術大学の微章であるアカンサスの葉のプリント生地を見つけたそうで、父親に撮ってもらった作者自身の写真を組み合わせています。手前の葉っぱと椅子は大学を去る時に持ち去ったものらしいので、大学の思い出が詰まった1枚ではないでしょうか。色もモノクロームで追憶の中のようなノスタルジックなものを感じます。
2013年の個展では、会場そのものをテーマにした作品もありました。
福田美蘭 「バルコニーに立つ前川國男」

こちらは2013年の作品で、東京都美術館のギャラリーA(地下)にある明かり取りのバルコニーに、設計者の前川國男氏のパネルを置いた作品です。意外と違和感がないかなw この場所ならではの作品で、前川國男氏が設計した建物への敬意が感じられます。
このバルコニーは柔らかい光を受けているので人が出てきたら楽しいなと思ったそうで、リニューアルされた空間を設計者本人に見てもらうという設定でこの作品を作ったようです。この洒落っ気が福田美蘭 氏の作品の根底で共通しているように思えます。
福田美蘭 「山水図」

こちらは2013年の作品。これは伝統的な北宋の山水画のような表現ですが、上空にジャンボジェット機が飛んでいますw 機体には787とあり、この頃にトラブル続きで世間を騒がせていたボーイング787を描いています。奇怪さと不気味さの魅力を持って描かれる北宋系山水画に飛行させることで、身近に存在する不安と狂気を描いているのだとか。一見すると違和感ないのが凄いw
福田美蘭 氏はこの翌年の2014年には第64回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されています。また、1991年の第7回インドトリエンナーレ金賞をはじめ、日本のみならず世界的に活躍されているアーティストです。
福田美蘭 「風神雷神図」

こちらは2013年の作品。俵屋宗達の同名の作品を元にしていて、ひと目でそれと分かるものの よく見ると抽象画というか分解したパズルのようにバラバラになっているのが分かります。これについて作者本人によると、「宗達の《風神雷神図屏風》は緊張感のある構図と動きを生み出すポーズ、おおらかな描線とユーモラスで親しみのある楽しさが生命感と躍動感を生んでいる。光琳作品に受け継がれなかった空間表現や感情といった絵画的要素を抽象的、感覚的にとらえようと思った。具体的なイメージを抽象で表現しようとする連作の1点」とのことです。確かに感覚的に観たほうが伝わってくるのが面白い。
福田美蘭 氏の作品はちょくちょく目にするもののしばらく個展は観ていなかったのですが、今年の10月には千葉市美術館で福田美蘭展が開催される予定らしく、江戸絵画コレクションをテーマにした内容となる模様です。
福田美蘭 「波上群仙図」

こちらの2017年のドラえもんをテーマにした展示での作品。拡大して観ると分かりますが、タイトルの通り仙人が数人集まっている様子がドラえもんに見えるというダブルイメージとなっています。鼻のあたりが芭蕉扇になっていたり発想が凄い。福田美蘭 氏は他にもレンブラントとドラえもんを掛け合わせた作品なども制作されています。
ということで、卓越したアイディア、様々な画風で描ける技術、美術史への深い理解、を駆使して ウィットに富んだ作品を作り続けているアーティストとなっています。まだまだ現役で活躍されていますので、今後も観ることが多いと思います。是非 動向をチェックしておきたい方です。
参考記事:福田美蘭展 (東京都美術館)
福田美蘭 氏は1963年に東京都世田谷区に生まれました。母方の祖父に童話画家の林義雄 氏、父に世界的なグラフィック・デザイナーの福田繁雄を持つという画家一家です。1981年に東京藝術大学に入学し、卒業制作展 及び 修了制作展を経て、現代日本美術展や日本国際美術展に出品するなど、上野や東京都美術館などを舞台にキャリアを積みました。1989年には史上最年少の安井賞(新人洋画家の登竜門)を受賞し、それ以降も現在に至るまで多彩で個性的な表現で活躍し続けています。福田美蘭 氏の主な作品は1990年以降となっていますが、写真を撮れる機会がほとんどありませんでしたので今回は2013年の東京都美術館で開催された福田美蘭展の出品作を中心にご紹介していこうと思います(2010年頃の作品のみとなります)
福田美蘭 「受胎告知」

こちらは2010年の作品。一見すると古い宗教画のように見えます。元になるオリジナルがあるのか分かりませんが、腕を上げるガブリエルや驚いて身をそらすマリアなど動きのある劇的な雰囲気です。モチーフや色の選び方もこの主題の典型となっていて、深く理解されていることが伺えます。作者本人によると「言葉に置き換えずに視覚だけで理解できる絵画とは、感覚的で抽象的なものだ。想像力と知性で表現されたために本人しか意図がわからない絵画は肯定できないので、基地の具体的な場面を主題にする必要があった。動きの軌跡を描くことで、激しい心の動きを感覚的、抽象的に表現できると考えた」とのことです。複数人いる訳ではなく、動きの軌跡なんですね。
福田美蘭 氏にはいくつかの作例があり、これは西洋絵画をモチーフにしたものとなります。まるでその時代に描かれたかのようなクオリティが流石ですね。
福田美蘭 「聖ゲオルギウス」

こちらも2010年の作品。竜退治で有名な聖人で、ここでは白馬の上から槍で竜を突き殺している様子が描かれています。こちらも聖ゲオルギウスと白馬は残像のようにいくつかの姿がダブっていて動きを感じさせます。画風は古い西洋絵画のようでありつつキュビスム的というか漫画的というか面白い表現です。
福田美蘭 氏は過去の巨匠の作風に似せて描くのもお手の物で、レオナルド・ダ・ヴィンチやレンブラント、モネ、セザンヌなど西洋の巨匠だけでなく日本画や宋元画などまで幅広く描くことができます。そこにパロディ要素があったり社会批判が込められたりと、ユーモアを感じさせる作風となっています。
福田美蘭 「アダムとイヴ」

こちらも2011年の作品。これも同じシリーズと思われ、アダムとイヴそれぞれの動きが軌跡となっています。若干、順序が分かりづらいけど知恵の実を差し出すところまであって、一連の物語を感じさせます。
福田美蘭 氏の作品の中には1つの絵の中に複数の画風があるものや、ダブルイメージを使ったもの、時代が異なるものの組み合わせ等、自由闊達な表現が観られます。本当にアイディア豊富な方です。
福田美蘭 「磔刑図」

こちらも2011年の作品。中央のキリストの磔刑の様子は古い西洋絵画を思わせる画風ですが、その周りの表現は現代的で血が滴り、嘆き悲しむマリアたちはコラージュされたような感じだったり歪んでいてこの場面の苦痛を象徴したような感じに思えます。作者本人によると「磔刑はキリストの生涯中最も劇的な場面で、動きのある構図や有機的な形によって感情や精神的なものを表現するにふさわしいモチーフだと思い、画面下にはいろいろな象徴的要素と多くの群衆で構成されていることを前提にそのイメージを具体的な対象物としないで描こうとした」とのことです。一見すると古い絵画のようだけど斬新なものを感じますね。
先述の通り福田美蘭 氏は上野の東京藝術大学で学び、その近くの東京都美術館などで作品発表していたこともあり上野の美術館にゆかりのある作品をモチーフにすることもよくあります。西洋絵画だけでなく東京国立博物館の収蔵品などもよくテーマになります。
福田美蘭 「紅白芙蓉図」

こちらは2012年の作品。東京国立博物館のコレクションの中に南宋画の李迪(りてき)による同名の作品があり、それに着想を得ていると思われます。画風は南宋画のようですが、背景には上野公園の噴水が描かれ、遠くには東京国立博物館の本館の様子も見えるなど現代の要素も含まれています。作者本人によると「大学に通う6年間、上野公園を横切ると、噴水の向こうに東京国立博物館が見え、季節ごとの風景の中で周囲の木々は少しづつ成長していった。時間の移ろいとともに刻々変化する趣を《紅白芙蓉図》で酔芙蓉が一日のうちに白から紅へと変化するさまに重ね合わせた。そこに蕾から深紅の花まで二幅の前後の"時"を加え、繰り返す時間の中でこの公園に来る新しい人達が《紅白芙蓉図》に出会うだろうという想いで、改装した噴水広場に種を落とした」と語っています。1つの絵の中に色々な思いを込めていてロマンチックな印象を受けます。
上野の思い出と同様に、芸大にまつわる人物もテーマにすることがあり黒田清輝や狩野芳崖の名作をモチーフにした作品も制作しています。
福田美蘭 「秋-悲母観音」

こちたは2012年の作品で、狩野芳崖の「悲母観音」に着想を得た作品。子供を抱きかかえる観音はオリジナル同様に慈愛に満ちていますが、注目は左下の背景で数多くの瓦礫が流されている様子が描かれています。これは制作の前年に起きた東日本大震災による津波被害と関連があるようで、作者本人によると「2012年、久しぶりに《悲母観音》を見た。人々の救済へ送り出される前に振り返る嬰児の姿は、震災の痛ましい状況から救済されたいという想いが連想され、母性への畏敬や子供への慈しみからは強い母子像が浮かぶ。狩野芳崖の独創性は仏画としての観音と童子を母と子に発想した点で、それをさらにストレートに表現するため、胸に抱き寄せる姿にした。背景は被災地の家、船、瓦礫が沖に流れていく光景」と語っています。痛ましい災害と慈愛の観音を結びつけて、祈りのようなものを感じますね。
今回はあまり写真がないのでご紹介できませんが、割と時事問題をテーマにした作品もあります。2001年の911をテーマにしたものや、東京のごみ問題をテーマにしたものなど、その範囲も広くなっています。
福田美蘭 「眠れる森の美女・オーロラ姫」

こちらは2012年の作品。ウィリアム・モリスのテキスタイルを使ったソファとクッションで、よく見るとクッションに顔が付いていますw これは豊田市美術館の展覧会「カルペ・ディエム花として今日を生きる」の出品作で、カルペ・ディエムとは枯れゆく先の姿を意識させる摘み花を人の命の短さや儚さの象徴とした格言です。福田美蘭 氏はモリスの緻密な意匠と風格にイギリス美術全般に通じる抑制の美を感じ、眠れる森の美女で呪いをかけられ幽閉される話はカルペ・ディエムに通じると想い、花のパターンにアニメのキャラクターが潜むソファーや自らの姿を写す鏡を制作したそうです。ちょっと目と口がついただけで急に可愛らしくなりますねw
福田美蘭 氏は画風やモチーフだけでなく、もっと根本的な部分で思いも寄らない手法を使うことがあります。折りたたむ感じで開閉する絵や、キャンバスの裏面に描かれたような作品、ステッカーの絵など 絵というものの固定観念を打ち破るような発想が魅力です。
福田美蘭 「アカンサス」

こちらは2013年の作品。ウィリアム・モリスのテキスタイルに東京藝術大学の微章であるアカンサスの葉のプリント生地を見つけたそうで、父親に撮ってもらった作者自身の写真を組み合わせています。手前の葉っぱと椅子は大学を去る時に持ち去ったものらしいので、大学の思い出が詰まった1枚ではないでしょうか。色もモノクロームで追憶の中のようなノスタルジックなものを感じます。
2013年の個展では、会場そのものをテーマにした作品もありました。
福田美蘭 「バルコニーに立つ前川國男」

こちらは2013年の作品で、東京都美術館のギャラリーA(地下)にある明かり取りのバルコニーに、設計者の前川國男氏のパネルを置いた作品です。意外と違和感がないかなw この場所ならではの作品で、前川國男氏が設計した建物への敬意が感じられます。
このバルコニーは柔らかい光を受けているので人が出てきたら楽しいなと思ったそうで、リニューアルされた空間を設計者本人に見てもらうという設定でこの作品を作ったようです。この洒落っ気が福田美蘭 氏の作品の根底で共通しているように思えます。
福田美蘭 「山水図」

こちらは2013年の作品。これは伝統的な北宋の山水画のような表現ですが、上空にジャンボジェット機が飛んでいますw 機体には787とあり、この頃にトラブル続きで世間を騒がせていたボーイング787を描いています。奇怪さと不気味さの魅力を持って描かれる北宋系山水画に飛行させることで、身近に存在する不安と狂気を描いているのだとか。一見すると違和感ないのが凄いw
福田美蘭 氏はこの翌年の2014年には第64回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞されています。また、1991年の第7回インドトリエンナーレ金賞をはじめ、日本のみならず世界的に活躍されているアーティストです。
福田美蘭 「風神雷神図」

こちらは2013年の作品。俵屋宗達の同名の作品を元にしていて、ひと目でそれと分かるものの よく見ると抽象画というか分解したパズルのようにバラバラになっているのが分かります。これについて作者本人によると、「宗達の《風神雷神図屏風》は緊張感のある構図と動きを生み出すポーズ、おおらかな描線とユーモラスで親しみのある楽しさが生命感と躍動感を生んでいる。光琳作品に受け継がれなかった空間表現や感情といった絵画的要素を抽象的、感覚的にとらえようと思った。具体的なイメージを抽象で表現しようとする連作の1点」とのことです。確かに感覚的に観たほうが伝わってくるのが面白い。
福田美蘭 氏の作品はちょくちょく目にするもののしばらく個展は観ていなかったのですが、今年の10月には千葉市美術館で福田美蘭展が開催される予定らしく、江戸絵画コレクションをテーマにした内容となる模様です。
福田美蘭 「波上群仙図」

こちらの2017年のドラえもんをテーマにした展示での作品。拡大して観ると分かりますが、タイトルの通り仙人が数人集まっている様子がドラえもんに見えるというダブルイメージとなっています。鼻のあたりが芭蕉扇になっていたり発想が凄い。福田美蘭 氏は他にもレンブラントとドラえもんを掛け合わせた作品なども制作されています。
ということで、卓越したアイディア、様々な画風で描ける技術、美術史への深い理解、を駆使して ウィットに富んだ作品を作り続けているアーティストとなっています。まだまだ現役で活躍されていますので、今後も観ることが多いと思います。是非 動向をチェックしておきたい方です。
参考記事:福田美蘭展 (東京都美術館)
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