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《隈研吾》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、現代日本を代表する建築家の隈研吾 氏を取り上げます。隈研吾 氏は1990年に独立して以降、20か国を超す国々で建築を設計し、日本建築学会賞、国際木の建築賞(フィンランド)、国際石の建築賞(イタリア)など国内外で様々な賞を受ける世界的な建築家です。各地の環境・文化に溶け込む建築を目指し、ヒューマンスケールのやさしく、やわらかなデザインを提案し続けていて、日本においては木材や竹などをよく使い、サントリー美術館や根津美術館、近年では新国立競技場や高輪ゲートウェイ駅など重要な建物を手掛けています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


隈研吾 氏は1954年に横浜に生まれ、デザイン好きの父の影響で建築に興味を持つようになり1964年(9歳頃)の東京オリンピック時に見た丹下健三 氏の代々木屋内競技場に衝撃を受けて、建築家を目指すようになりました。東京大学工学部建築学科で学び、原広司 氏や内田祥哉 氏に師事し、大学院時代には、アフリカのサハラ砂漠を横断して集落の調査を行い、集落の美と力に目覚めたようです。その後、大手の日本設計に就職し、戸田建設やコロンビア大学客員研究員を経て、1990年に隈研吾建築都市設計事務所を設立し、建築家としての地位を高めて行きました。

手持ちに独立前の作品の写真はなかったので、今日は1990年以降の作品の模型などをご紹介して参ります。

隈研吾 「石の美術館」
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こちらは1996-2000年の「石の美術館」で使った芦野石の石組み。大正時代の石蔵を増改築した美術館で、石だけあって堅牢な印象を受けます。

実際の建物はこんな感じで、栃木県にあります。
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ここでは光を透かす大理石を厚さ6mmにして組み込んだりしているようです。同じ石でも特性によって使い分けるとは流石です。

隈研吾 氏はガウディの建築を観て石が好きになったそうで、石を塊として使おうと心がけるようになりました。そうすることで石には内部構造があり、方向性のある繊維も見えてきたようで、それに気づいて生物と生物以外との境界線も消滅するように感じたようです。

隈研吾 「Great (Bamboo) Wall」
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こちらは2000~2001年のコンクリートを流し込んだ竹を使った作品。スチールパイプにコンクリートを流し込む手法から着想を得て鎌倉の住宅で実験した後、万里の長城のすぐ脇に建つホテルの内外装で用いたようです。竹の寿命を伸ばすために炙ったり油を塗ったりしたのだとか。竹を使っているだけあってモダンなのにどこか古い家屋のような落ち着きが感じられます。

この他にも隈研吾 氏は竹を使う方法を研究していて、節を取ってコンクリートを流し込んだ「竹の家(2000)」や、南米のグアドゥアという肉厚で割れない竹を取り寄せて醤油蔵の再生に挑んだ「浜田醤油(2009)」といった作品があります。隈研吾 氏は幼い頃に家の近くに竹林があって竹に慣れ親しんで育ったそうです。竹は昔からル・コルビュジエの弟子の板倉準三や、数寄屋建築の巨匠吉田五十八、ドイツから来たブルーノ・タウトなども魅了されて使ってきた素材ですが、20世紀に竹を本格的に使った建築はありませんでした。それは乾燥すると割れる為、構造材として使いにくいのが理由で、隈研吾 氏を始めとした建築家たちはその限界に挑み続けています。

隈研吾 「織部の茶室」
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こちらは2005年の作品で、カットしたプラスティックダンボールを結束バンドで固定して作った茶室。歪んだ形が古田織部の茶碗に似ていることから敬意を表してこの名前にしたそうです。何かの繭のような温かみと近未来的なデザインが融合しているようにも思えます。現地で手に入る材料(ポリカーボネート樹脂)に変えて世界各国で再現されたようで、応用力や汎用性にも優れていそうでした。

樹脂は工業的なイメージがありますが、隈研吾 氏はその自由さを突き詰めれば木にも匹敵する優しさや暖かさを示すことができると考えたようです。この作品以外にもポリタンクみたいな素材を使ったブロックのようなもので、お互いを組合すことで自在に広がるという発想もされています。

隈研吾 「GCプロソミュージアム・リサーチセンター」
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こちらは2008~2010年頃の作品で、グリッド状の木組みが整然とした印象を受けます。こちらは釘も接着剤も使わずにくっつけているようです。この枠はそのまま展示ケースや家具にも使われ、実物は愛知県にあるそうですが実物はイメージしたほど大きくなさそう。

隈研吾 氏の設計ではよく木が使われるイメージがあります。かつて19世紀の建築理論家ゴットフリート・ゼンパーは建築は「地面の仕事」(基礎工事)、「火の仕事」(空調や電気設備等の設備工事)、「編む仕事」の3つの作業で作られると示しましたが、アジアやアフリカではまさに編むように家を造り、日本でも小径木を編んで造ります。木は最も編みやすい素材であり、日本では錆びやすい金属を使って固定することを避けてきた歴史があり、緩い木同士のジョイントによって自由に変化し形の変わる建築も作れるようです。隈研吾 氏はそうした歴史や土地に合う木の特性を活かした設計されています。

隈研吾 「新津 知・芸術館」
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こちらは2008~2011年の中国の道教の聖地に建つミュージアム。地元の野焼きで作られる粗くランダムな表情を持つ瓦をワイヤーに固定して使っています。瓦と言うと屋根のイメージですが、まさか側面に使うとはw

アジアでもヨーロッパでも家は木と瓦(タイル)との組み合わせで作られ、その土地の瓦はその家の建つ環境によって焼成温度や釉薬が決められるそうです。同じような素材でも土地に合わせたものを選ぶんですね。

隈研吾 「根津美術館」
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こちらは2009年の作品。和の殿堂とも言える美術館に相応しい佇まいで、落ち着いた印象を受けます。伝統を感じさせつつモダンなところが大好きな建物です。ここには写っていない正面入口の通路も竹が並んで美しい光景です

六本木のサントリー美術館も隈研吾 氏が設計されています。サントリーが酒造で使う樽材を使うなど、やはりその文化や歴史というのを大切にしつつ新しいものを作られています。

隈研吾 「浅草文化観光センター」
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こちらは2009~2010年の設計で、木造平屋建てを8層積層するというアイディアから生まれた作品です。家が斜めに乗っかっているようにも見えるw 格子が非常に洒落た雰囲気ですが、これは太陽光をカットする役目もあるようです。これはサントリー美術館にも似ているように思えます。

隈研吾 氏の建物は素材への挑戦も見どころで、中には紙を内装に使った建物などもあるようです。まあ、紙といっても塩化亜鉛によって強化された特殊な紙などだったりするわけですが、素材の持つ力を見極めて自由自在に使う発想に驚愕するばかりです。

隈研吾 「梼原木橋ミュージアム」
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こちらは2009~2010年頃の設計。山梨県の奇橋として有名な猿橋から着想を得た作品です。

幾重にも層を重ねて、短い木材だけで長い橋を造る構造となっています。
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この建築の特徴は何と言っても1本の柱で支えているところ! ヤジロベーみたいに絶妙なバランスで立っているようです。これは実物を観に行ってみたいけど高知なので関東からは遠いw

この「梼原木橋ミュージアム」は芸術選奨文部科学大臣賞(美術部門) にも選ばれています。先程の根津美術館は2010年に毎日芸術賞、2009年にはフランス芸術文化勲章も授与するなど2000年以降は特に様々な賞の受賞ラッシュとなっています。

隈研吾 「スターバックスコーヒー 太宰府天満宮表参道店」
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こちらは2011年の設計で何とスターバックスコーヒーの店舗。木が飛び出してくるような斜めの立体格子となっているようです。奥へ奥へと引き込むような流動性が狙いのようです。

こちらはスターバックスコーヒーの木組み
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直行のグリッドは3本の交わりですが、斜行グリッドは4本が交わるので欠き込みは複雑になるそうです。こうして一部分を観るだけでもかなり複雑な作りなのが分かります。

2018年には台湾のスターバックス花蓮湾ストアも手掛けています。そちらはリサイクルコンテナを使ったモバイル型カフェで、サステイナブル建築のプロトタイプとなっています。同じスタバでも土地が違えば全く異なる設計というのが流石ですね。

隈研吾 「ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム ダンディ」
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こちらは2010-2016年頃の設計。イギリスのスコットランドの建物で、横に無数にギザギザして見える部分は地層から着想を得たようです。水辺で形が逆の台形になっているので石舟のようにも見えるかな。陰影が見事なアクセントになっています。

隈研吾 氏は建築家としてだけでなく、東京大学教授(2020年からは特別教授・名誉教授)や東京藝術大学客員教授などの顔も持ちます。建物だけでなく家具や日用品のデザインも手掛けるようで、その仕事ぶりの幅広さと奥深さは驚異的です。

隈研吾 「木霊」
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こちらは2017年の設計で木片を組み合わせて釘を使わないで作られた作品。この木材の組み合わせ次第でどんな形にもできるのだとか。ジョイントが緩い方が木の伸び縮みや反りにも対応できるそうで、一種のパズルみたいですねw

ここまで観てきた仕事ぶりだけでも日本を代表する建築家に相応しいものですが、日本人なら誰もが知る建築家となったのはオリンピックのメイン会場として建てられた「新国立競技場」ではないでしょうか。

隈研吾 「新国立競技場整備事業」
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こちらは2019年竣工のスタジアム。色々な要件があったので冷房がないとか一抹の不安がありますが、スタジアムに風を取り入れる量をコントロールしようと試みているようです。ファサードが庇のようで日本らしさを感じる素晴らしいデザインなのは確かです。オリンピックをこのまま本当に開催するのか、まだ確実とは言えない状況ですが…

もう1つ、都民に馴染み深いのが2020年に開業した高輪ゲートウェイ駅ではないでしょうか。2019年の展示の時点ではまだ仮称となっていました。

隈研吾 「New Shinagawa Station 品川新駅(仮称)」
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こちらは2016-2020年の現在の高輪ゲートウェイ駅のデザイン。屋根が半透明の膜材となっているそうで、障子のような効果が得られるようです。駅の中でも天気が感じられるそうなので、天気がいい日は明るいのかも。って、ここが開業した時には既にコロナによるテレワーク時代に突入していたので、まだ行ったこと無いんです…w

横から観た構造。
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既に利用されている方にはもうお馴染みでしょうか。隈研吾 氏の作品はこうした身近なところにも及んでいます。


ということで、土地土地の文化や歴史を深く理解し設計し、素材への挑戦を続ける方です。美術好きでなくても名前を目にする存在となっていますので、是非詳しく知っておきたい建築家ではないかと思います。

 参考記事:
  くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 感想前編(東京ステーションギャラリー)
  くまのもの 隈研吾とささやく物質、かたる物質 感想後編(東京ステーションギャラリー)
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