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《楊福東(ヤン・フードン)》 作者別紹介

今日は作者別紹介で、1990年代から活躍している中国人アーティストの楊福東(ヤン・フードン)氏を取り上げます。楊福東(ヤン・フードン)氏は発展していく中国を目の当たりにした世代で、都市と田舎の価値観の違いや変容などを感じさせる映像を作ってきました。絵画の正規の教育を受けているため絵画的な表現を活かし、中国の伝統文化や故事を取り入れるのも特徴となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


楊福東(ヤン・フードン)氏は1971年の北京生まれで上海育ちの都会っ子で、発展していく中国に触れて育ちました。大学では油彩を勉強していましたが、現代アートに接してからは次第に絵画以上に自分の思いを表現できるメディアがあることを知り、特に映像・映画に魅了されていきました。前述の通り都会で育ったこともあり、急成長した社会の混沌とした気持ちや、中国の伝統も含めた映像作品が多いようです。

こちらが楊福東(ヤン・フードン)氏
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元々は絵画を目指していたので、映像にも絵画的なものを生かしていて、さらに映画監督のフェデリコ・フェリーニからの影響もあるようです。初期作品は観たことがないので、今日は2000年代以降の作品のご紹介となります。

やや馴染みの薄い中国の現代美術についてですが、1978年頃からの鄧小平が行った改革・開放路線によって、社会主義的リアリズムからの脱却が起こり1979年にはアイ・ウェイウェイ氏なども参加していた星星画会(せいせいがかい)が展覧会を開催し、個性を出していきました。この世代の中国のアーティストは、アイ・ウェイウェイ氏の他にも、北京五輪の花火を演出した蔡 國強(さいこっきょう)氏などもいて、絵画や彫刻だけではなく映像やインスタレーションなどで表現する人も多いようです。また、作品の方向性としてはシニカルリアリズムやポップなものが主流で、90年代までの作品は政治や経済について言及している作品が多く、中には過激な作品も含まれているます。今回ご紹介する楊福東(ヤン・フードン)氏はそれより若い次の世代となります。
 参考記事:《アイ・ウェイウェイ》  作者別紹介

楊福東(ヤン・フードン) 「将軍の微笑」
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こちらは2009年の作品。盲目の将軍の最後の誕生会を題材にした作品で、命の尊さをテーマにしています。普通の人と違って地位があり、信念を貫いてきた人間の象徴として将軍を取り上げていて、晩餐会のテーブルを真上から撮った映像なども流れます。また、将軍へのインタビューや、パーティの参加者?の若い女性や男性たちが戯れる映像や、若い女性たちと散歩する将軍の映像、まるで写真のように身動きしないでじっとしている女性の映像などが、展示会場のあちこちで流れていました。これらは年をとった将軍と対称的に、若さや女性といった生命を感じさせ 華やかというか、どこかバブルの頃のパーティみたいな感じもするかな。栄枯盛衰と言ったところでしょうか。

楊福東(ヤン・フードン)氏は映像作品の映写にマルチスクリーンを好んで用い、観る者をその世界に没入させる効果を生み出すのが特徴です。

楊福東(ヤン・フードン) 「The Coloured Sky: New Women II (彩色天空: 新女性 II)」
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こちらは2014年の作品で、複数のスクリーン映像の一部。馬と鹿の映像で背景がやけに鮮やかな色合です。これは中国の故事「鹿を指して馬と為す」を下敷きにしていて、権力で鹿を馬と言い張った故事なので虚実がごっちゃになった世界観に合ってるかも。

楊福東(ヤン・フードン)氏の作品には竹林の七賢人をテーマにしたシリーズなどもあり、中国の故事をふんだんにモチーフに取り入れています。そのため、現代アートではあるものの古典に通じるものを感じこともあるかな。

こちらも先程の作品の一部。謎のピラミッド。シュルレアリスムの世界に迷い込んだような光景です。
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この色合と共にブレードランナーの世界観を思い出しました。(効果音も何となく似てましたw) この作品が初のカラーフィルム作品ということもあって色へのこだわりも感じさせます。

こちらも同じ作品の一部で浜辺の美女の映像。
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背景はセットであるのが一目瞭然で逆にシュールさが際立ちます。無表情なのが怖い。

意図して人工的に作られた浜辺のセットを舞台にしていて、女性たちも時代を感じる水着を身に着けているなど独特の世界観です。この展示を観た時の解説によると「時代を超越したストーリーが、現代性と伝統の狭間に生きる世代が世界を問い、探る場となる、ノスタルジックな雰囲気に満ちた異世界へと観る者を引き込みます」とのことで、一種異様な雰囲気が未だに記憶に残っています。

こちらも同じ映像の一部の美女たち
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グラビアのようにも見えますが、マネキンのように精気がない雰囲気でこの女性たちがスローモーションで動くのも印象的です。こうしたところに絵画的なものを感じるかな。

こちらも同じ映像の一部で食べ物を映していますが、フランドル絵画の静物のようにも思えます。
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ナメクジ?がゆっくり這っていて、どこか死や老いをイメージさせました。西洋美術のメメント・モリも取り込んでいるのかも。


ということで、独特の映像作品で現代の中国を代表するアーティストとなっています。日本では2回ほど個展を観たことがあり、今後も活躍が期待される方だと思います。中国のアートは一層に盛り上がって来ているので、動向を知っておきたいところです。
 参考記事:
  ヤン フードン-将軍的微笑 (原美術館)
  YANG FUDONG THE COLOURED SKY:NEW WOMEN II (エスパス ルイ・ヴィトン東京)
  
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