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《野口哲哉》 作者別紹介

今日は2000年代後半から現在にかけて鎧武者をテーマにした作品で人気を博している野口哲哉 氏を取り上げます。野口哲哉 氏は鎧を着た武者の彫像や絵画作品を多く制作していますが、ただの武者像ではありません。無邪気な姿だったり 現代の人がよくやるような姿や、喜怒哀楽を顕にする姿など、茶目っ気と人間性を感じさせる独特の作風となっています。中には現代の品を持っていたりする者もいる反面、昔の西洋絵画を思わせるタッチで描きあげるなどユニークな世界観となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


野口哲哉 氏は1980年に香川県高松市で生まれ、2003年に広島市立大学芸術学部油絵科を卒業し2005年には同大の大学院を修了しています。2008年には早くも個展を開いていて、主に「鎧と人間」をモチーフに絵画や彫刻作品を手掛けています。その他にも作品集などの著書や、CHANELやAudi Japan等の企業とのコラボレーション、2015年の羽田空港国際線ターミナルでアートディレクションなど幅広く活躍されています。(ちょうどこの記事を書いている2021年5月にも山口県立美術館で個展を開催しています)

作品の制作年代が分からないものばかりなので、ここからは2018年にポーラミュージアム アネックスの個展で撮った写真の中から、当時の記事に載せなかった作品を中心に私の簡単なコメントと共にご紹介していこうと思います。
 参考記事:野口哲哉「~中世より愛をこめて~ From Medieval with Love」(ポーラミュージアム アネックス POLA MUSEUM ANNEX)

野口哲哉 「アクションマン・シリーズ」
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まずこちらを観れば、その独特の作風が分かるのではないかと思います。戦隊モノのポーズみたいなはっちゃけた侍達w 躍動感に溢れているけどちょっと間抜けな感じが面白い。こうした古い鎧を着ているけど中身は現代的でシュールな雰囲気が好きですw

野口哲哉 「STRIPE」
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こちらはめちゃくちゃ落ち込んでる侍。ここまで項垂れてると声を掛けない方が良さそうな…。侍=強いという固定観念がある為か、一層に喜怒哀楽が感じられるように思えます。

野口哲哉 「NIGHT HEAD」
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なぜこのタイトルにしたのか本人も記憶がないようですが、夜の精(コウモリとか悪魔とか)の姿を鎧兜に求めて作ったようです。ハンドシグナル送ってるような仕草に見えるかな。工事現場のおっちゃんみたいに見えるw

実際、鎧兜には奇抜なものがあったりするわけですが、野口哲哉 氏は「[サムライは私達と違うから奇妙な格好をしていた] のではなくて、[私達と同じ人間がなぜ奇妙な姿で戦っていたのだろう]と思うことが歴史や人間のみかたを大きく転換させてくれるキッカケになります。武人論に酔うのではなく、合理的に真実に迫ることで見えてくる人間の本当の強さや優しさがあるはずです。」と語っています。

野口哲哉 「IRON ARMOUR -雑賀風-」
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こちらは地方色の強い「雑賀風」という種類の甲冑をモチーフにしたもの。三重の伊勢あたりのもので、リベットを装飾的に使っているのが特徴的です。これは割と普通の武者像ぽいけど中の人はリアリティある顔つきですね。

野口哲哉 「OLD MAN」
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まるで昆虫の標本のようなサムライw 装備品が大きな昆虫のようなのが面白い。なんか妙にちょこんとしていて可愛いし。

野口哲哉 「ClEVER BIRD」
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こちらは野口哲哉 氏がドキュメンタリー映画で目にしたナショナル・ギャラリーの館長のニコラス・ペニー氏をモデルにしたサムライ。鋭い眼差しがフクロウなどの鳥を彷彿とさせますね。

野口哲哉 「小武人 肘掛様態像」
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こちらは都会のカフェで立ち飲みしているのをイメージした作品。じっと横目で観て何かを待ってるんでしょうか。たまにこういう方を見かけますよねw

野口哲哉 「ヒューマン・レース」
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こちらは腰に手を当ててじっと考え込んでいるような姿。昔のサムライもきっと我々と同じように苦悩したり困ったりしていたんでしょうね。野口哲哉 氏の作品を観ているとサムライたちへの親近感というか、彼らも我々と同じく人間として生きていたというのを当たり前ながら再認識させられます。

野口哲哉 「SMILE」
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こちらは鎧にスマイルマークの入った作品。組み合わせの妙に驚くけど質感には違和感がないw そう言えば野口哲哉 氏はシャネル侍って作品も作っていたのを思い出しました。

野口哲哉 氏は彫刻作品だけでなく絵画作品も手掛けています。
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こちらは西洋絵画と日本の歴史を同じ年代でリンクさせるように、各時代ごとの作風に似せた絵のシリーズとなっています。

野口哲哉 「AD1230 ~紫裾濃白妻取の鎧と雀~」
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こちらはジョットと同時代の鎌倉時代の元寇の頃を合わせた作品。まるで当時の作品のように画風だけでなく質感の再現も凄い。日欧双方のかなり詳細な知識を持っていないとできない芸当ですね。

野口哲哉 「AD1510 ~美食の寓意~」
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アイスクリームを手に持つ武者w アイスクリームは中世終盤にメディチ家の晩餐で供されたのが最古の記録とのことで、当時の寓意画っぽく描かれています。美女とかではなく武者ってのがミスマッチで面白い。

野口哲哉 「AD1530 ~鹿角の立物と水玉紋入りのカフタン~」
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やけに鮮やかなオレンジの服(カフタン)を着た武者の後ろ姿。カフタンはトルコの衣装ですが日本の陣羽織に似ていて、その影響があるのかも?? ちょっと背中に哀愁を感じる。

野口哲哉 「AD1555 ~三日月の兜と釣鐘草~」
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ハンス・ホルバインと毛利元就は同い年だそうで、1555年頃の画風と人物をかけ合わせています。手に摘んだ花が可憐で、むしろデューラーっぽく感じたかな。

野口哲哉 「AD1585 ~赤母衣と空~」
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こちらはなんともシュールな作品。AD1585は戦国末期の頃ですが、穏やかな雰囲気で爽やかにすら感じられます。

野口哲哉 「AD1637 ~大波の前立兜~」
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江戸時代初期の島原の乱が起きた時、オランダのレンブラントは31歳だったそうでレンブラント風の肖像となっています。まだ破産する前のイケイケの時期かな。日本とヨーロッパの同じ時代の出来事を比べると意外なことって結構ありますね。。。 

最後にこちらは横須賀美術館で行われた展覧会のイメージキャラクター
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絵柄はこれまでとだいぶ異なるゆるい感じだけど、弁慶みたいなスーツ姿の男性や旗を持った鎧の猫など野口哲哉 氏らしいアイディアが詰まってますね。


ということで、鎧や西洋絵画の深い理解を下敷きに、自由奔放な武者たちを作り上げています。以前にギャラリーが集まるアートフェアで販売していたのを観た(2010年のギャラリー玉英)のですが、かなりの人気ぶりでした。熱心なコレクターもいるようだし、個展も盛んに行われているのでますます人気が高まっていると思われます。今後も熱く注目したアーティストです。
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