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《元田久治》 作者別紹介

今日は作者別紹介で現代の都市やランドマークを廃墟にした絵画で人気を博す元田久治(ひさはる)氏を取り上げます。元田久治 氏は写真と見紛うほどの精密な描写やリトグラフを用いて、誰もが知っているような建物や場所を廃墟化した様子を描いています。そのリアリティは圧倒的で、西洋絵画のピラネージやユベール・ロベールの廃墟趣味に近いものが感じられます。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。


元田久治 氏は1973年生まれの熊本県熊本市出身で、幼い頃から古びた神社などを好んで描いていたそうです。1999年に九州産業大学 芸術学部 美術学科 絵画専攻を卒業し、2001年には東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画(版画)専攻を修了しています。1999年には町田市立国際版画美術館の第24回全国大学版画展 買上賞・観客賞を受賞、さらに2001年には神奈川国際版画トリエンナーレ 2001で準大賞を取るなど若くして高い評価を得ていきました。都市のランドマークをモチーフに近未来の廃墟を描き、2004年頃から主にリトグラフによって一貫してこのテーマを追求するようになりました。

元田久治 「Revelation: Electric City」
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こちらは2005年の作品。秋葉原の電気街が廃墟になっています。このリアリティのある廃墟感が物悲しくもあり近未来的でもあるかな。古くはピラネージやユベール・ロベールなどが架空の廃墟を描いていましたが、その現代版とも言えそうです。2020~21年のコロナ禍で本当に秋葉原はシャッター街化した感があるので複雑な気分。。。

2002年にはハンガリーのジヨールで国際美術家シンポジウム Chief Prize、2003年には第11回プリンツ21グランプリ展 特選など国際的にも高い評価を受けています。

元田久治 「Indication : Tokyo Tower 3」
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こちらは2007年の作品。東京タワーを見上げる構図で廃墟になっています。リアルさがあるけど誰も観たことがない光景で、想像力の豊かさが伺えますね。

元田久治 氏は2009年から2010年にかけて文化庁芸術家在外研修員としてオーストラリアとアメリカに派遣されました。

元田久治 「Indication -Tokyo Station-」
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こちらは2007~2011年の作品。東京駅も廃墟になってしまったw 廃墟になっても堂々たる風格が漂って見えるのが面白い。

2009年には東京都美術館の日本版画協会展で準会員優秀賞 (FF賞) を受賞されました。私が元田久治 氏の作品を目にするようになったのも2008~2009年くらいだった記憶があります。

元田久治 「Indication : Tokyo Dome City」
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こちらは2012年の作品。東京ドームシティの辺りが壊滅したようになっています。こうして観ると大災害の後の光景にも思えてきてちょっと怖い位ですね。

この前年の2011年3月の東日本大震災と福島第一原発の事故によって「近未来の廃墟」があまりにもリアルになりすぎる現実に直面することになり、元田久治 氏はそれ以降「先の見えない未来に対し何を表現していけばいいのか、自問自答」しながら制作を続けていると語っています。

元田久治 「Indication : Statue of Liberty / Odaiba」
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こちらは2013年の作品。お台場の自由の女神像をモチーフにしているけど、女神像自体はそれほど壊れていなくて、背景のレインボーブリッジのほうが壊れているかな。超然とした印象を受けます。

この頃には数多くの個展が開催されていて、2007年の熊本市現代美術館ギャラリーIII、2010年のヴィクトリアン・カレッジ・オブ・アーツ、メルボルン大学(オーストラリア・メルボルン)、2011年の中京大学アートギャラリーC・スクエア、同じく2011年にベルリンのMurata & Friends、2012年には九州産業大学美術館などがあります。

元田久治 「Foresight : Marina Bay Sands, Singapore 」
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こちらは2013年の作品で、シンガポールのマリーナベイサンズが廃墟になったもの。日本だけでなく世界中の有名な建物も廃墟化されていますw 木が生い茂ってきている様子などが特に味わい深い。

元田久治 氏の作品には人間は描かれないし、その気配もありません。しかし最近では植物の繁茂も描かれるようになってきたようで、再生を象徴する兆候ではないかと言われています。

元田久治 「Foresight: Shibuya Center Town」のポスター
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こちらは2017年の作品で、渋谷の駅あたりが廃墟になった様子。滅んだら本当にこういう風になりそうな…。元田氏の作品は身近な場所ほどリアルに感じられます。

版画は油彩のようなやり直しが効かず、元田久治 氏の制作は最初の構想を緻密な描写によって淡々と実現していくそうです。まるで写真のような細かい絵をミスなく仕上げるのは相当の技術と根気が必要でしょうね。

元田久治 「Foresight : The Eiffel Tower, France II」
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こちらは2017年の作品。こちらは鉛筆・ペンと水彩で描かれたエッフェル塔で、周りはパリの街が消えて荒野と化しています。映画のシーンのようでもありシュールさすら感じられます。

2017年4月には武蔵野美術大学の油絵学科の教授にも着任されました。

元田久治 「Foresight : Burj Khalifa, UAE」
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こちらは2017年の鉛筆・ペン、水彩作品で世界一高いブルジュ・ハリファが廃墟になっています。天を貫くようでまるでバベルの塔のような迫力が感じられます。

こうした廃墟をテーマにしたのは、初めて上京したときに感じた違和感が根底にあるようです。アウトサイダーの視点を保ちつつ廃墟を通して都市が再生していく兆しを美しく表現したいと語っているのだとか。
 参考リンク:https://artfrontgallery.com/artists/Hisaharu_Motoda.html

元田久治 「Foresight : Tokyo Skytree」
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こちらは2017年の作品。スカイツリーも廃墟になりましたw これは今までと違って高い所から見下ろすような構図となっています。戦後の焼け野原を彷彿とさせてちょっと怖い。

各美術館も元田久治 氏の作品をコレクションするようになり、関東近郊では東京ステーションギャラリー、町田市立国際版画美術館、府中市美術館などが所蔵しています。

元田久治 「Foresight : Tokyo Tower」
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こちらは2017年の作品。再び東京タワーですが、薄っすらと黄色に染まっていて、時が流れて植物が生い茂ったような印象となっているかな。廃墟なのに温かみが感じられます。

元田久治 「Foresight : Shibuya Center Town」
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こちらも2017年の作品。渋谷を廃墟にしたものですが、2021年の光景と若干違っているように思えるかな。未来のような過去のような不思議な光景です。


ということで、廃墟化した都市やランドマークを描く方です。非常に人気が高く、あちこちの展示で目にする機会もあるので覚えておきたいアーティストだと思います。特に廃墟好きの方は是非w
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