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《アラブの現代美術》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、日本人には馴染みの薄いアラブ社会の現代美術を取り上げます。アラブは急速に変化を遂げ、生活習慣からアイデンティティに至るまで一括りには語れない文化の多様性を持っています。その中でアーティストたちは伝統・慣習に基づく美意識や社会問題を美術によって表現し、欧米で注目を集めるようになりました。また、UAEのアブダビには2017年にオープンしたルーヴル・アブダビやグッゲンハイム美術館(予定)といった名だたる美術館の分館が新たなアートの拠点として築かれつつあり、今後の動向が気になることろです。今日はそうしたアラブの現代美術について9年前の2012年の森美術館での展示を振り返る形で、写真とともにご紹介していこうと思います。

まずはアラブの日常を題材にした作品からご紹介。

作家:ハリーム・アル・カリーム (イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住) 「無題1(「キングズ・ハーレム」シリーズより)」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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こちらはピンぼけの写真じゃないかと思われたかもしれませんが、こういうぼやけた感じの絵です。いかにもアラブの女性が着ている服に見えますが、これは架空のものでこのような衣装は無いそうです。西洋中心に語られてきた歴史に懐疑を投げかける意味もあるそうで、確かに私はアラブは大体こういう服だろうという勝手なイメージを抱いていました。。。

アラブと言っても一括りに出来ないほど多様性に富んでいるそうで、宗教戒律、衣服の様式、言語方言などの文化・慣習は地域ごとに大きくことなるそうです。

作家:マハ・ムスタファ (イラク生まれ、カナダ/スウェーデン在住) 「ブラック・ファウンテン」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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これは噴水のように黒い液体が出てくる作品で、アラブで吹き上がる黒い液体と言えば原油を彷彿とします。実際、この作者は湾岸戦争の際にイラクでこれを浴びるという経験をしたそうで、原油は富と戦争をもたらす存在であり、絶え間なく原油に関する諸問題が沸き上がってくるのを暗示しているのではないかと解釈されます。

アラブ美術と言えば古い陶器などを思い起こしますが、現在のアラブ社会は急速に変化を遂げて文化も多様化し、アートの世界も成熟しつつあるそうです。

作家:ムハンマド・カーゼム (アラブ首長国連邦生まれ、在住) 「ウィンドウ」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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急激な経済成長をとげるドバイで、建設が進む高層ホテルを題材にした作品です。経済成長を支えているのは人口の7割もいる移民たちだそうで、弱い立場の移民からの搾取構造への批判がほのめかされているそうです。これ以外にも数枚の写真から成る作品で、ドバイの発展ぶりや外国人労働者の存在感を感じました。

続いてはアラブのイメージをテーマにした作品をご紹介。

作家:ミーラ・フレイズ (アラブ首長国連邦生まれ、在住) 左から「グラディエーター」「マドンナ」「ダンス・ウィズ・ウルブズ」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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これは映画や歌手の名前がついた作品ですが、モチーフはイスラム女性が身に付けるヴェールのようです。まるで仮面のようでちょっと可笑しい感じがします。作者はこの慣習に否定的なわけではないようですが、宗教的な事情に疎い私にはこんな作品を作っても良いのかと驚きでした。

偶像禁止のイスラム社会で美術をやって良いのだろうか?と疑問に思ったのですが、地域や宗派によって状況が違ったり、アメリカやヨーロッパなどで活動しているアーティストもいるなど事情もそれぞれ異なるようです。(各作家がムスリムかも分からないし)

作家:シャリーフ・ワーキド (ナザレ生まれ、イスラエル/パレスチナ在住) 「次回へ続く」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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これは映像作品で、何かを読み上げている様子が流れているのですが、言葉が分からず(字幕はある)テロリストの犯行声明のような雰囲気の映像に見えます。しかし、実際に読み上げているのは千夜一夜の物語です。偏見に近いイメージを持たれていることへの皮肉と批判が込められているようでした。

アラブといえば砂漠やイスラム教の風習、最近だとテロなどのイメージがあるのではないかと思いますが、そうしたイメージはステレオタイプなもののようです。(日本をフジヤマ、ゲイシャの国と思うのと同じようなものです) それに異を唱える者や、逆に作品に取り込んでそれを揶揄するような者など表現も様々です。

作家:オライブ・トゥーカーン (アメリカ生まれ、在住) 「(より)新しい中東」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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これは鑑賞者参加型の作品で、中東地域の国々をパズルのようにしたものを鑑賞者がピースを付け替えることができます。 一見ゲームのような面白い作品ですが、パレスチナは動かせないようで、国境をどうするべきかなど国際情勢を考えさせるような深い作品でした。

アラブの現代美術にも社会問題や情勢をテーマにした作品は数多くあります。911、イラク戦争、湾岸戦争といった出来事もよく取り上げられるように思います。

作家:アーデル・アービディーン (イラク生まれ、フィンランド在住) 「アイム・ソーリー」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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こちらは煌々と点滅するド派手なネオンです。作者はイラク戦争のあった2003年にアメリカを旅行した際、イラク人であると告げると「I'm sorry」(申し訳ない、お気の毒に)という言葉を何度もかけられたそうです。出兵を謝っているのかイラクの状況を同情しているのか分からない、その時の釈然としない感じが表されているようです。とりあえず、このネオンは謝っているようには思えない明るさで楽しそうに見えますw この展示の際、アイムソーリーの飴も配っていて、皮肉なのか分かりませんが面白い作品です。

続いては記憶と記録、歴史化ということを焦点にした作品をご紹介。

作家:アブドゥルナーセル・ガーレム (サウジアラビア生まれ、在住) 「道」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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これはアラビア文字で「道」とびっしりと書かれている橋です。この橋は1982年の洪水の際に避難してきた村人たちもろとも鉄砲水で流されるという悲劇があったそうで、長年放置されたままだったそうです。報道もされなかった惨事を作者が掘り起こし記録することで、犠牲者や我々にとっての正しい道とは何かを問いかけているとのことです。ちょっと怖い印象でしたが墓標のように思えてきます。


作家:ハリーム・アル・カリーム (イラク生まれ、アラブ首長国連邦/アメリカ在住) 「無題1(「都会の目撃者」シリーズより)」
この写真は「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止2.1日本」ライセンスでライセンスされています。
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口をふさがれた女性たちですが、目が訴えかけているように思えます。これは言論の弾圧とその抵抗を示しているようで、この作家はフセイン政権下で3年も洞窟に身を隠した経験があるのだとか。強い意志を感じます。


ということで、現代アートの表現も多彩となっています。同じアジアでも西洋のほうが身近な日本人にもステレオタイプな偏見があったのかも。。。と思い知らされる作品もあり一本取られたような面白さもあります。この展示から10年経って状況も変わっていると思いますが、グッゲンハイム・アブダビも2023年にオープンすると予想されるなどまだまだ熱い地域だと思います。
 参考記事:
  アラブ・エクスプレス展 アラブ美術の今を知る (森美術館) 
  
  
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