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《セーヴル磁器》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、フランスの国立磁器工場であるセーヴル磁器を取り上げます。セーヴルは18世紀に中国磁器を模する為に作られた窯で、各時代の一流の芸術家が新しいフォルムや意匠を提案して今日まで独自の発展を遂げてきました。19世紀末にはジャポニスムを取り入れ、日本の芸術家を起用した作品を制作など日本とも浅からぬ関係となっています。今日も過去の展示で撮った写真とともにご紹介していこうと思います。

セーヴルの始まりは1740年にパリ東端のヴァンセンヌに軟質磁器製作所が作られたことで、少し前の16~17世紀にヨーロッパにもたらされた中国磁器が高価過ぎた為、ヨーロッパ各国が自国内で作り出そうと試み始めていたのが背景としてあります。最初はザクセン公国のマイセンを手本としていましたが、徐々にマイセン風を脱し、独自の発展を遂げていきました。そして1756年になるとルイ15世の庇護を受け、パリ西端のセーヴルへと移転し王立磁器製作所へと成長しました。また、1773年になると耐久性が高く硬い硬質磁器の商業化に成功し、1789年のフランス革命後も国有の製作所として存続できました。そして1800~1847年に所長を務めたアレクサンドル・ブロンニャールによってセーヴルを更なる黄金期へと導かれていきます。ブロンニャールは植物学、鳥類学、地形測量学などを取り込んだ新しいフォルムや装飾を生みだしただけでなく、画期的な製造技術を導入しステンドグラスや七宝など磁器以外にも挑戦しました。ブロンニャールから館長が変わった後もそうした新技術開発は続けられ、過去に考案されたフォルムや装飾を繰り返し組み合わせた装飾過剰なほどのスタイルに達しました。
20世紀に入ると万国博覧会が行われ日本・中国・欧州の陶器が一同に会し、お互いに刺激を受けてフランスではジャポニスムなどが盛り上がりました。1897年に芸術部長だったアレクサンドル・サンディエはアール・ヌーヴォー様式を取り入れパリ万博で成功を収め、その後 1904年には日本の彫刻家 沼田一雅を協力芸術家として初めて外国人に門戸を開くなど積極的に新しい取り組みを行いました。さらに1920年に所長になったジョルジュ・ルシュヴァリエ=シュヴィニャールは著名な芸術家、建築家、室内装飾家に協力を求めアール・デコ様式の製品を発表し、大きな成功を収め、その後日本の朝香宮邸(現在の東京都庭園美術館)の仕事などを受注していきました。

ここからは19世紀末以降の品々をご紹介して参ります。

壺 「アシェール」
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こちらは1897年の作品。やや徳利みたいな形に淡い色彩で植物が描かれ、アール・ヌーヴォー的なデザインかな。特に菊は可憐な印象。

「皿(輪花形のセルヴィスより)」
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こちらは1888年の作品で、翌年の万国博覧会で発表されて批評家から「完璧な傑作」と賞賛された作品。余白とモチーフのバランスの面白さには日本美術からの影響が伺えると指摘されています。

壺 「モンシャナンC」
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こちらは1898年の硬質磁器の作品。装飾はウジェーヌ・シマで、可憐な女性たちが描かれています。この繊細な絵付けも魅力の1つですね。

壺「秋」
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こちらは1900年頃の作品。紫陽花って秋なんだろうか?と思いますが、かなり日本からの影響が感じられる作品。

壺「ル・ブルジェB」
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こちらは1901年のアール・ヌーヴォーの作品。模様だけでなく形もかなり和風のように見えます。金と白のバランスが琳派っぽいかな。

アガトン・レオナール 「ダンサー」
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こちらは1899~1904年頃に作られたビスキュイ(無釉白磁)の彫像で、非常に動きがあります。これは当時流行っていたロイ・フラーの踊りから着想を得て、ギリシア彫刻風に作っています。ビスキュイはまるで大理石のような質感が特徴です。

ビスキュイはパーツをくっつけて作ったもので、パーツを繋げるだけでは細部は表現できないので手作業で仕上げます。非常に手間がかかりそうですがその分生き生きとした姿で、単なる磁器のレベルを超えた造形になっています。

沼田一雅 「お菊さん」
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こちらは初の外国人作家となった沼田一雅の1904年の作品。「お菊さん」は当時フランスでヒットしたちょっと誇張された日本観を書いた小説のタイトルでもあります。着物の皺や表情まで精密で生気が感じられますね」。

沼田一雅 「七面鳥」
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こちらは1906年の作品。沼田一雅は獅子や鶏といった日本の伝統的な図像に由来した動物の型を提供していましたが、こちらはフランスらしさを感じる七面鳥。これらの一部はラ・フォンテーヌの寓話やコメディー「七面鳥」などフランス文学から着想を得ているようです。まさに日仏の文化の融合ですね。

沼田一雅 「象とねずみ」
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こちらも1906年の作品。東洋的で象に乗っているので普賢菩薩のようにも思えます。足元には小さなネズミの姿があり、いずれも写実的でありながら気品が感じられます。

沼田一雅 「獅子」
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こちらは1921年の作品。沼田一雅の2度目の滞在中の作品で、ライオンではなく唐獅子っぽさを感じる姿かな。顔やヒゲには装飾的な文様がある一方、背骨や浮き上がる肋骨など骨格までも感じさせるリアリティがすごい。

沼田一雅 「孔雀」
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こちらも1921年の作品。鳳凰っぽさを感じる姿で、デフォルメされているものの威厳が感じられます。陶器ってことを忘れてしまいそうな滑らかさです。

沼田一雅の作った原型は今でもセーヴルで大切に保管されています。日本とセーヴルの交流を感じさせる逸品ですね。

壺 「パレゾー」
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こちらは1910年の作品。まるで日本の茶道具を思わせる渋い風合いとなっています。セーヴルと言えば肌の白い磁器を思い浮かべるのでこれは意外に思える。

「ラパンのブランケット灯 No.6」
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こちらは1921年の作品。ラパンとはアンリ・ラパンのことで、後の1933年頃に朝香宮邸の設計をした人物です。このシンプルでありながら豪華な印象を受けるデザインがアール・デコっぽさがありますね。

茶入れ 「ビュリー」
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こちらは1923年の作品。まるで中国か日本の品にしか見えない形と絵柄となっています。肌の色も美しい。

「煙草入れ」
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こちらは1925年のアール・デコ博のモニュメントを縮小して煙草入れにしたもの。アール・デコらしい美しさがあります。

「ダンサーNo.1」
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こちらも1925年の作品で、オートクチュールが流行った頃でした。服もアール・デコ風で非常に華美な印象を受ける逸品。

「ラパンの壺No.12」
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こちらは1925年の作品で先述の朝香宮邸に携わったアンリ・ラパンが器の形を手がけています。鹿は日本からの影響も感じられるかな。シンプルながらも優美な雰囲気が漂います。

旧朝香宮邸は現在は東京都庭園美術館となっています。

こちらは庭園美術館の姫宮居間にあったコーヒーセット
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年代は分かりませんがセーブル製陶所で作られた品です。幾何学的な模様と形になっていて、アールデコの館に相応しいデザイン。

セーヴルは現在でも数多くのアーティストとコラボするスタイルが続いています。

草間彌生 「ゴールデン・スピリット」
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こちらは現代日本を代表する草間彌生 氏によるビスキュイに鍍金した作品。キュクロプスを思わせる一つ目ですが、どこか可愛さがあるようなw 目が日の丸のようにも観えましたw


ということで、現在でも確固たる地位を築き世界的に有名な窯となっています。お高いですが購入することも可能ですので、お好きな方は一度チェックしてみるのも良いかもしれません。

 参考記事:
  外交とセーブル磁器展 (LOUVRE-DNP Museum Lab)
  フランス宮廷の磁器 セーヴル、創造の300年 (サントリー美術館)

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