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《地衣類》 テーマ別紹介

今日はテーマ別紹介で、地衣類を取り上げます。地衣類は藻類と共生する菌類で、菌類10万種のうちの2割ほどを占めています。「地衣体」と呼ばれる構造により極限状態のような場所でも生存することができるため世界中に多様な種がある上、地衣類に特有な化学物質も生成しています。中にはリトマス試験紙に使われるなど意外と身近なところで役に立つものもあります。今日はそんな知られざる地衣類について2018年の国立科学博物館 日本館の展示を振り返る形でご紹介しようと思います。
 参考記事:地衣類―藻類と共生した菌類たち― (国立科学博物館 日本館地下)

地衣類は○○コケという名前が多いのですが、実は苔ではありません。日本語ではコケを「小毛」または「木毛」とも書くので、それが由来になって紛らわしい感じです。 では地衣類は何かというと、藻類と菌類が共生して「地衣体」と呼ばれる構造になっているもので、要するに菌類の一種です。菌類は10万種ある中で地衣類は2万種程度を占め、日本では1800種程度の地衣類が存在するようです。藻類が光合成して作った糖を菌類が利用し、菌類は乾燥や紫外線から藻を守る共生となります。地衣化すると自給自足のように独立した栄養系を確立し、単独の菌類では作らないような化学物質を作ったりします。その為、単独では生きていけないような所でも生存できるようになり、極限状態のような場所にまで地衣類は存在しています。むしろ適合する藻が見つからないと枯死するみたいなので、単独では生きられない生態系のようです。

[針葉樹林帯の地衣類]
まずはモミの木やカラマツといった針葉樹林で観られる地衣類のコーナー。

こちらはナメラカブトゴケという地衣類。
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見た目は木の葉みたいであまり菌類といった印象を受けません。

こちらはナガサルオガセ
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先程とまったく異なる形態で、およそ同じ種類の生物とは思えません。何かモコモコしてるしw

こんな感じで、全く色も形も違う生態となっているようです。
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木の皮かと思うようなものもあるので、意外と目にしても気づいていないだけなのかも。

[高山の地衣類]
続いて高山の地衣類。高山では日本も世界と共通した地衣類が多く観られるそうで、地球が氷期だった頃に各地で分布を広げた種が暖かくなった後に高山に残ったと考えられるそうです。もしくは遠く離れた高山や極域圏の間で現在も地衣類が移動している可能性も示唆されているのだとか。

こちらはアオウロコゴケ
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確かに青い鱗のように見えます。きのこを作る担子菌の地衣類らしいので、苔よりきのこと似た生態なのかも。

こちらはアカウラヤイトゴケ
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これもよく見るとちょっと菌類っぽさが分かるような気がします。こういうのって葉っぱが腐ったのかと思ってましたが地衣類なんですね。

[熱帯~亜熱帯の地衣類]
続いては熱帯の地衣類。熱帯は湿度が高いので多様な地衣類が生育しているそうで、いまだに毎年多くの新種が見つかるなど研究も発展途上のようです。

こちらは葉っぱの上に多様な地衣類が混在しているもの。
DSC06639.jpg
「生葉上地衣類」と呼ばれるようで、熱帯地域ではこうした混在は珍しくないのだとか。こういう葉っぱの染みみたいなのは地衣類だったんですね。

[街なかの地衣類]
続いては我々の生活にも溶け込んでいる地衣類。街路樹や石垣などにも地衣類は存在するそうです。
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こんな白っぽいのが多いんじゃ、普通に生活してて気づかないのは当然と言えそうw

これは瓦屋根に張り付いたヤマキクバゴケ
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瓦は安定しているので格好の生育場所なのだとか。地衣類は光合成さえできれば土なんか無くても生きていけるんですね。

こちらは逆にエナガという鳥が地衣類を巣に使っている様子。
DSC06649.jpg
カモフラージュのためにこうした地衣類を巣に使うようです。自然の共存関係って奥深いですね。

[特殊環境の地衣類]
続いては極域や砂漠、重金属汚染地域など他の生物には生育が困難な場所で育つ地衣類。

こちらはテマリチイという地衣類
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オーストラリアやタスマニア、ニュージランドの乾燥地帯に分布するそうで、風に吹かれて転がっていくようです。観た感じかなり乾燥しているけど、水が少なくても生育できるのか気になります。

こちらはクジラの化石についた地衣類
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そういえばクジラには苔みたいなのがついてたりしますが、地衣類もくっついてるんですね。 地衣類は陸地だけではなかった… しかも南極w

こちらはイオウゴケ
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なんと硫黄の多い温泉地などでも生育する地衣類があるようです。たくましいにも程があるw
他にもきのこの上とか地衣類の上に生える地衣類とかもあり、恐るべし生命力を感じます。

[地衣類に含まれる化学物質]
続いては地衣類の中に含まれている化学物質についてのコーナー。
わかっているだけでも700種類以上におよぶ化学物質を作っているようで、そのうち650種類は地衣類に特有なもののようです。中には人間の役に立つものまであります。

こちらはリトマス試験紙に使われるリトマスゴケ
DSC06672.jpg
日本にはリトマスゴケは無いようですが、代わりにウメノキゴケで同様のものが簡単に作れるようです。ウメノキゴケをアンモニアを薄めた水と僅かなオキシドールを入れて1ヶ月ほど浸しているとリトマス原液になるのだとか。意外過ぎる用途で驚き。

こちらはウメノキゴケとマツゲゴケで染めたウール
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地衣類は最も有用で最も知られていない染料と言われているそうで、多くの地衣類は良質な染料となるそうです。この見本でも分かるように、元の色からは想像もつかないような鮮やかな色を作れるようで、これも驚きでした。

こちらは紫外線によって光る地衣類と光らない地衣類を組み合わせて作った一種のアート。小さな覗き窓から中を覗いて光を照らします。
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光を照らす前は全部同じに見えますw

こちらが光を照らした後。
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青白く光るのがタイワンサンゴゴケ、白っぽいのがトキワムシゴケ、黄色いのがゴンゲンゴケという地衣類だそうです。見事にニコニコマークとひまわりが浮かんできました。これもまた不思議な生態ですね。


[地衣類と人の暮らし]
最後は地衣類と人の暮らしについてです。

こちらはカラタチゴケの一種を食用としたもの。
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え、食べられるの!?と思いましたが、きのこと同じ菌類だしモノによるのかなw 中国で炒め物に使う他、結婚式の時も食べたりするそうです。

こちらはマンナチイという地衣類
DSC06691.jpg
出エジプト記のモーセの物語で、天からマンナが降ってきてそれを食べて飢えを凌いだとされるそうです。神話にまで出てくる地衣類! 何だか地衣類を知らなかったのが申し訳ないくらいですw

こちらは地衣類を使った香水
DSC06693.jpg
染料や食用を観た後なので、これくらいではもう驚きませんが本当に様々な所で使われているようです。


ということで、太古の昔や極地から身近なところまで様々な地衣類があり驚くべき生態となっています。知れば知るほど面白い世界です。
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